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星河の覇皇

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第十二部第五章 憂いの雨その十二


「何の技術もない者を艦に入れても仕方ありません」
「はい」
「言葉を変えると技術者は全て軍に動員されているということです」
「後が大変でしょうね」
 ミネハタはここでこう呟いた。
「彼等の多くが戦死することを思うと」
「それが戦争ですからね」
 劉はいささか無機質な声で応えた。
「それに敵のことまで考える義理もないでしょう」
「ましてや今後のことは」
「まあそうなのですが」
 それにミネハタも賛同した。
「負けた後は彼等で何とかするしかないです」
「そんなことは我々にとって知ったことではない」
「むしろ敵の人材が減って好都合というものです」
 シビアな言葉であるがその通りであった。結局他国の優秀な人材というものはこちら側にとって有害にしかならないのである。こちら側にやって来ない限りは。
「まあ敵の人材の話はこれ位でいいでしょう」
 マクレーンはきりのいいところで話を戻しはじめた。
「敵の集結しているクロノス星系のことですが」
「はい、クロノスですね」
「我々も偵察を行っていますがそれによるとかなりの防衛ラインを敷いているそうです」
「そうなのですか」 
 ミネハタはそれを聞いて考える目をした。
「やはり」
「コロニーレーザーに人工の防衛用惑星、そして修理基地」
「かなりの設備が揃っているそうです」
「最後の防衛ラインになりますからね、首都までの」
 モンサルヴァートが整えたものであった。彼の防衛計画はエウロパ全土を対象にしたものであった。それによりこのクロノスの防衛も整えられたのである。無論オリンポス周辺は全てそうである。
「今までのものよりも強固なもののようです」
「ニーベルングよりも上でしょうか」
「そうですね」
 ミネハタの問いに劉が答えた。
「流石にあそこまではないですがそれに比肩し得るものではあります」
「そうですか」
「かなり堅固な防衛ラインです」
「敵はそこに立て篭もっているのですね」
「一言で言うとそうなります」
「そうですか」
 ミネハタはそれを聞いてあらためて考えた。
「それを打ち破る策は。ニーベルングでは無人艦艇を使われましたね」
「発案は義勇軍でしたが」
「今度はどうなさるおつもりでしょうか。敵将であるシュヴァルツブルグ元帥もモンサルヴァート元帥も冷静な人物であり挑発に乗るとも思えませんが」
「よく御存知ですね」
「元々諜報畑にいましたので」
 ミネハタはここでうっすらと微笑んだ。
「おかげで主人が浮気の虫を起こしても事前に防ぐことができております」
「おやおや」
「ミネハタ大将の御主人はまた気の毒ですな」
「アイヌの女は手強いですよ」 
 そう言ってまた笑った。ミネハタの夫は有名な作曲家であり音楽家である。クラシックだけでなくロックも好きで音楽においては多芸多才な人物として知られている。長身で黒々としたアジア系の髪をたなびかせた黒人である。名前をペーター=アンタイヤという。タンザニア出身である。
「主人もそうぼやいていました」
「クラシック界の英雄がですか」
「ロックの大御所が」
 このアンタイヤという人物は両方の世界で定評があるのである。なおジャズや胡笛もすればバラードも得意である。アンチには節操がないとまで言われている。
「私は音楽はポップス専門ですのでそうしたことはよくわかりませんが」
「そうなのか」
「ですが主人の動きは手の中にありますので」
「流石というか何というか」
「どうやら大将を敵に回すと大変なようですな」
「元々はディカプリオ部長からの情報でした」
「情報部長から」
「はい。他にもエウロパ軍高官のデータが揃っておりますが」
「そんなものまであるのですか」
 前線ではよくわからないことである。二人はそれを聞いて内心かなり驚いていた。
「送らせて頂きましょうか」
「是非共」
 これは当然であった。敵を知ることは兵法の基本である。
「これで作戦を立てるのにかなり有利になります」
「はい」
「今まで何度か戦ってきているのでおおよそはわかっているつもりですが。それでも実際にデータがあるのとないのとでは全然違いますからな」
「それでは後でメールで送らせて頂きます」
「お願いします」
 こうしてメールで資料が送られることになった。だが話はまだ終わりではなかった。
「今物資の方はどうなっているでしょうか」
「不足はなしです」
 劉が答えた。
「補給は万全の状況です」
「それは何よりです」
「やはりアルテミスに基地を置いたのが正解だったようです。今まで置いていたニーベルングではやはり距離があり過ぎますから」
「距離が」
「そうです。実際にかなりの距離がありまして」
 マクレーンも語りはじめた。
 
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