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星河の覇皇

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第十二部第五章 憂いの雨その九


「何か」
「ミネハタ大将はこの件についてどう御考えですか」
「私ですか」
「はい。参謀として御聞きしたいのですが」
「私は今前線にいないのでよくわかりませんが」
 彼女はまずそう前置きしてから言った。
「前線のことは前線の者が最もよく知っているのではないでしょうか」
「そうですか」
「はい。ですから出来る限り前線の意見を尊重すべきだと思います」
「現場主義というわけですね」
「そうです。これについてはどう思われるでしょうか」
「それでいいと思います」
 八条はそれを肯定した。
「確かに現場のことは現場の者が最もよく知っています」
「はい」
「しかしそれが為に視野が狭くなっているケースもあります。マクレーン司令と劉総長はそのような方ではないにしろ」
「艦隊司令クラスではそうなっている危険性もありますね」
「戦闘に近いだけに」
「そうです」
 バールの問いに応えた。
「そのうえで後方から警告を与えておくのも重要だと思います」
「それによりバランスがとれれだいいですね」
「バランスですか」
「はい」
 今度はミネハタの問いに頷いた。
「前線だけでも後方だけでも戦争というものは円滑にはいきませんから」
 二十世紀前半における日中戦争において問題となったのは極端な現場主義であった。現地で戦闘を行っている軍の行動があまりにも早く、かつ政府の統制が利かなくなっていた。その結果として無闇に戦域が拡大し、そして政府はその後追いしかできなかった。こうしてこの戦争は泥沼になってしまった。
 同じく二十世紀後半のベトナム戦争においては全くの逆であった。アメリカは後方にいる政治家達が現場を知らない戦略を立て、そして兵装を考えていた為様々な不都合が生じた。彼等は戦場や兵士が欲しているものに関して想像がいかなかったのだ。具体的には戦闘機から機関砲を外し、ミサイルのみとしたりである。これは騎士に例えるならば槍のみで戦い、剣は持たないというものであった。やはりこの戦争も泥沼となった。結局アメリカは敗れた。なおこの二つの戦争は前者は統制の利かない軍の、後者は行き過ぎた統制の事例としてこの時代においても知られている。
「そこのバランスも重要なのですよ」
「わかりました」
「そのうえで前線に報告をお願いします。宜しいでしょうか」
「了解」
 ミネハタは敬礼した。だが話はまだ続いていた。
「そして」
「はい」
 今度は何でしょうか、と文官ならば問うところであった。だがミネハタは女とはいえ軍人である。その様な問いは決してしなかった。
「サハラはどうなっていますか」
「サハラですか」
「ええ。ミネハタ大将は本来はサハラの諜報がその任務でしたね」
「ええ」
「それならば状況をある程度把握していると思われますが。どうなのでしょうか」
「今のところ表立った動きはありません」
「はい」
 だがこれは八条もわかっていることであった。取り立てて知るべき話ではない。
「ですが裏では違うようです」
「裏では」
「ティムールが諜報活動を活発化させております。工作員も多数潜入しているようです」
「ハサンとオムダーマンに」
「そしてマウリアにもです」
「マウリアにもですか」
「また大掛かりですね」
 バールもそれを聞いて顔を顰めさせた。
「そしてこの連合にも」
「我々にもですか」
「はい。数自体はそれ程多くはないようですが。それでも潜入しているようです」
「ふむ」
「詳しいことは現在情報部が調査中ですが」
「そうですか」
「厄介ですね。シャイターン主席は何を考えているのかわからないところがあります」
「おそらく我々に対してはこれといった工作は仕掛けては来ないでしょうけれどね」
 八条はそれはないと予想していた。
「今のところは情報収集だけでしょう」
 奇しくもクリシュナータと同じ予想であった。
「何故そう思われるのですか」
「情勢からです」
「情勢」
「そうです。今我々はエウロパと交戦中です。そしてティムールは北方の占領と統治に取り掛かっております」
「はい」
「関係も良好です。条約も結んでおりますし」
 彼は言葉を続けた。
 
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