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星河の覇皇

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第二部第四章 二つの戦いその一


                二つの戦い
 ブーシルは緊迫した状況にあった。今この星系に戦乱が起ころうとしていたのだ。
 まずはブーシルに向けて進撃してきているサラーフの艦隊である。三個艦隊である。
 そしてこの地に潜伏しているハルドゥーン達と彼等に協力するサラーフの特殊部隊、いずれも厄介な相手であった。
「レジスタンスと特殊部隊は彼に任せるしかないな」
 アッディーンは司令室で提督達と話していた。
「はい、こうしたことは正規の部隊ではなかなかできませんから」
 そうなのであった。特殊部隊に対抗できるのは特殊部隊だけなのであった。
「我々は敵艦隊のことに専念すべきでしょうな」
 バヤズィトが言った。
「そうだな、今ここであれこれ言ってもはじまらない」
 アッディーンは彼の言葉に頷いた。
「とりあえず今はサラーフの艦隊を打ち破ることを考えよう」
「ハッ」
 こうして彼等は軍議をはじめた。

 その頃ハルヴィシーは下水道の中を進んでいた。 
 彼は漆黒のスーツに身を包んでいる。共にいる部下達も同じだ。
「そちらはどうだ」
 彼は隣の通路からやって来た部下達に対して問うた。
「いませんでした」
 彼等は首を横に振った。
「そうか、そちらにもいなかったか」
 彼はそれを聞き考え込む顔をした。
「こちらにもいなかったしな」
「上手く隠れているようですね」
 ウルドゥーンが言った。
「そうだな、ここは彼等の庭のようなものだしな」
「地の利は向こうにあります」
「そうだ、おそらくは我々が探し疲れるのを待っているのだろう」
 ハルヴィシーの言葉は彼等が今最も恐れていることであった。
「そしてそこで彼等は姿をあらわす。我々を消す為に」
「レジスタンスやゲリラの常套手段ですね」
「そうだ、そして隙を見せてもいけない」
 語るハルヴィシーの顔は普段のそれとは全く違っていた。
「隙を見せたら襲い掛かって来る。彼等は今も牙を研いでいる。この闇の中でな」
「・・・・・・・・・」
 皆その言葉に表情を張り詰めさせた。
「それを防ぐには彼等を倒すしかない。見つけ出してな」
「ですね。しかし何処にいるのやら」
「それだが」
 ハルヴィシーの目が光った。
「この下水道にいるのは間違いない。だがこの下水道は果たしてここだけにあるかということだ」
「といいますと!?」
 部下達は問うた。
「この街は古い歴史を持っているようだ。一度地震で崩壊しその上に新たに都市を建設している」
「この下水道の下にもう一つ街があるのですか」
「そういうことになる。彼等はそこに潜んでいる可能性がある」
 ハルヴィシーはそう言うと下を見た。
「その為にはそこに行く道を探し出す必要がある」
「ですね。しかし」
 彼等はそこで顔を顰めさせた。
「問題はその道が一体何処にあるかです」
「それだな」
 ハルヴィシーは再び考える顔をした。
「彼等がそこから出入りしているとするならば必ずあるのだが」
「流石に容易には見つからないでしょうね」
「うむ」
 彼等は捜索の対象をその出入り口に変更した。だが数日経っても見つけることはできず次第に消耗していった。
「どうだ?」
「駄目です、何処にも」
 部下の一人が首を横に振った。
「上手く隠れているな、感心する」
 ハルヴィシーはそう言ったが目は笑ってはいなかった。
「こうなったら一芝居打つとしよう」
「何をするつもりですか?」
「うん、危険だがやってみる価値はあるぞ。協力してくれるか」
「はい」
 やがてハルヴィシーは数人の部下達と共に下水道の隅にへたれ込んだ。やがてそこに何者かが襲い掛かって来た。
「来たな」
 彼はそれを認めてすぐに立ち上がった。それはレジスタンスの者達だった。
「クッ、はかったな!」
「こういうのは化かしあいだからな!」
 ハルヴィシーは言い返すと同時に彼等を撃った。
「殺すな、出来る限り捕らえよ!」
「はい!」
 部下達はレジスタンスの手や脚を狙った。素晴らしい銃の腕前であった。彼等は次々に手足を打ち抜かれていった。
 逃げようとする。だがそこに前からも新手が出て来た。
「降伏せよ、そうすれば命まではとらん」
「・・・・・・わかった」
 彼等はこうしてハルヴィシー達に捕らえられた。そして歩ける者達は道案内をさせられることになった。
「嘘ではないな」
 彼等はそのうちの一人に銃を突き付けながら問うた。
「今更嘘なんかつくらよ」
 レジスタンスはふてくされた顔でそう言った。
「ならいいがな。だが」
 ハルヴィシーの目が剣呑な光を発した。
「もしもの時は・・・・・・。わかるな」
「あ、ああ」
 その目は本気であった。それを見たレジスタンス達は背筋に寒いものを感じた。
(何て冷たい目だ)
 彼等は今までそんな目をした者を見たことがなかった。もし偽りを教えたならばどうなるか・・・・・・。彼等は本能的にそれを悟った。
 やがてとある曲がり角に来た。そこでレジスタンス達は壁を横に引いた。
「そうか、隠し扉か」
「そうだ」
 そこから奥に続いているようだ。
「悪いが俺達はここで勘弁してくれないか」
「仲間達に見つかったら只じゃすまねえからな」
「ああ、わかった」
 ハルヴィシーは部下を数人連れ彼等を送り返させた。そしてトランシーバーで暗号を送った。
「これでよし、上に残っている部隊も援軍に来るぞ」
「それは有り難いですね」
「ああ、我々はその前に中に入り橋頭堡を築くぞ」
「ハッ!」
 こうしてハルヴィシー率いる部隊は中に入って行った。
 暗い道は下に向けて続いていた。かなり降りただろう。出るとそこは何か廃墟のようであった。
「隊長の予想は当たったようですね」
 隊員の一人が言った。
「ああ、下水道の下にこのようなものがあるのはいささか不思議だがな」
 ハルヴィシーはその廃墟を見回しながら言った。地震はかなり大規模なものだったのであろう。建物は全て破壊され瓦礫の山がそこかしこに散乱している。
「まずはここに陣地を築くぞ」
「はい」
 彼等はすぐに陣地を構築した。やがてレジスタンスとサラーフの特殊部隊がやって来た。
「早速来たな」
 彼等はその陣地を潰そうとする。だがそれは適わなかった。ハルヴィシーの構築した陣地は堅固であり彼等を寄せ付けなかったのだ。
 一日経った。上で下水道の出入り口を押さえていた部隊が到着した。
「よし、少しずつ進撃していくぞ」
 ハルヴィシーは部下達を率いて前に出た。そして廃墟を一つずつ潰し攻略していった。
「焦る必要はないからな」
 彼は部下達に対して言った。
「敵は既に我等の手中にある」
 彼の言うとおりであった。出口は既に押さえている。レジスタンスもサラーフの特殊部隊も袋の鼠であったのだ。
 彼は敵を炙り出し少しずつ倒していった。そして徐々に包囲していった。
「ハルドゥーンは何処だ」
 そして捕虜にしたレジスタンスに対し問うた。
「それは・・・・・・」
 だが彼は口を割ろうとしない。
「中尉」
 そこでハルヴィシーはウルドゥーンに声をかけた。
「わかりました」
 ウルドゥーンは頷くと一本の注射針を取り出した。
 そしてそれをその捕虜の腕に刺した。ハルヴィシーは暫く時間を空けてから問うた。
「ハルドゥーンは何処にいる」
「寺院の廃墟の地下に」
「そうか」
 それは自白剤であった。拷問による尋問は最早過去のものとなっていた。今は後遺症のない自白剤が発明されておりそれを使うのだ。もっとも使っているのは秘密警察や憲兵といった特殊な組織だけであるが。
「寺院は」
 ハルヴィシーは周りを見渡した。
「あそこか」
 彼はその寺院の廃墟を確認した。
「行くぞ、これでここでの作戦は終わりだ」
「ハッ」
 彼等は寺院を包囲した。だがそこにいあるレジスタンス及び特殊部隊の抵抗は流石に強力だった。
「流石に本丸は容易に陥とせないな」
「ええ、けれどあと一息ですよ」
 ウルドゥーンはビームライフルを放ちながら言った。前にいた特殊部隊の兵士の額が撃ち抜かれた。
「何と言っても数が違いますからね」
「そうだな。それに彼等に残された場所ももうあの寺院しかない。最早逃げられん」
 彼は総攻撃を命じた。バズーカや無反動砲が寺院を撃った。
 これでレジスタンス達は怯んだ。それを見た彼は一斉射撃の後突入を命じた。
「今だ、一気に占領するぞ!」
「ハッ!」
 これを押し留める力は最早レジスタンス達にはなかった。彼等は為す術もなく蹴散らされた。
 寺院は遂に占領された。そしてハルヴィシーは地下への階段を捜し出し数人の部下と共に降りていった。
「・・・・・・自身の手で決したか」
 そこにあったのはハルドゥーンの亡骸だった。口から大量の血を吐き床にうつ伏せに倒れ込んでいる。服毒自殺のようだ。
「もう少し大人しくしていればこのようなことにはならなかっただろうにな」
 ハルヴィシーは彼を冷たい目で見下ろしながらそう言った。
「だがそれは出来ないか。権力の為にはな」
「人間の悲しい性ですね」
 ウルドゥーンが相槌をうった。
「そうだな」
 こうしてレジスタンス達との戦いはハルヴィシーの勝利に終わった。オムダーマンはこれでブーシルの内憂を取り除くことに成功したのであった。
 
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