星河の覇皇
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第十二部第一章 それぞれの歴史その五
それから二百年経った。連合中央政府の権限はさらに拡大し、中央政府軍も設立された。エウロパはサハラから撤退し、連合とエウロパは戦闘状態に入った。その戦いは今でも続いていた。
「ようやくここまで来ましたか」
八条は壁にかけられているエウロパの地図を見て一言そう呟いた。地図では連合軍はホズにおいて合流し、エウロパの首都オリンポスにまであと僅かの距離にまで迫っていた。
「あともう少しと言いたいところですが」
「そうは上手くはいかないでしょう」
バールがそれに応えた。
「でしょうね」
そして八条はそれに頷いた。
「彼等とて必死です。何とかしようと」
「ホズからは撤退しましたがね」
「はい」
「ですがそれだけでは。まだまだ戦う力は残っています」
「それをどうすべきか、ですね」
彼は言った。
「おそらく最後の戦いになると思いますが」
「しかも彼等の戦意は全く衰えてはいない」
「はい」
「最後の戦いはかなり激しいものになるでしょうね」
「しかしここまできたらあと僅かです。現場の者に任せたいのですが」
「現場の、ですか」
「細かく言うとマクレーン宇宙艦隊司令長官と劉参謀総長にですね。彼等は今まで本当によくやってくれています」
「そうですね」
それは八条もバールも認めるところであった。
「彼等に任せておけば大丈夫でしょうね」
「前線のことは」
バールは前線に話を限った。
「しかし銃後はまた違います」
「ええ」
八条はそれを聞いてまた頷いた。
「それはわかっています」
「これは我々の仕事になりますね。物資の補給のことですが」
「はい」
どうやらバールが八条のところに来たのはそれについて話すつもりだったかららしい。
「後方支持部長のコアトル元帥と話をしたのですが」
「後方支持部長は何と」
「今はニーベルング要塞群をエウロパ領内における最大の補給基地としていますがそれを移動させてはどうかという考えです」
「場所は」
「アルテミスです」
バールはそう答えた。
「アルテミスですか」
「長官はどう思われますか」
バールは場所を答えたうえで問うてきた。
「私ですか」
「はい」
バールは答えた。
「私はそれでいいと思いますが」
決定権者である八条に問うてきたのだ。その青い目が彼を見ていた。
「そうですね」
八条は一呼吸置いたうえでそれに答えた。
「私もそれでいいと思います。アルテミスは軍事基地としても、地理的にも最適でしょう」
「はい」
バールはそれを聞いて会心の笑みを浮かべた。それこそが彼の待っていた言葉であったのだ。
「ではそれでいきますか」
「はい」
八条はそれをよしとした。
「それではすぐにそれに取り掛かるように指示を出しましょう。ここ暫くニーベルングから距離があり過ぎると思っていましたので」
「それで補給には齟齬は出ていましたか」
「そこまではいっていませんでしたが」
「事前に、ということですね」
「はい」
バールはまた答えた。
「そうなる以前に手を打っておくべきだと思いましたので」
「わかりました。それでは後方支持部長にもそう伝えておいて下さい」
「了解」
「二千個近い艦隊の運営を維持していかなくてはなりませんからね。確かなものとしておかないと」
「ええ」
「それではそういうことで。アルテミスに物資、施設を集結させましょう」
「ハッ」
こうしてかってエウロパ軍の最大の防衛拠点であったアルテミスは今度は連合軍の補給基地、そして首都攻略への足掛かりとなった。彼等はすぐにアルテミスの基地の建設に取り掛かることになった。しかしこれについては連合中央議会において論争の的となった。
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