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星河の覇皇

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第九部第二章 虚の兵士達その十九


「そうだな」
 マシュハドはそれを聞いて頷いた。彼にも今のエウロパ軍がどのような状況にあるかよくわかっているのである。
「それではケリをつけよう」
「はい」
 ワフラはその言葉に頷いた。
「ティアマト級巨大戦艦前に出よ」
「了解」
 それを受けて百隻のティアマト級巨大戦艦が一斉に前に出た。そしてエウロパ軍に狙いを定める。
「巨砲の一斉射撃に入る」
「了解、巨砲発射用意」
 指示が繰り返される。それを受けて巨砲の照準が定められる。
「撃て!」
 マシュハドの手が振り下ろされた。彼はここでアラビア語で叫んだ。それは彼等にとってごく自然な言葉であった。やはり彼等はサハラの者であるということであろうか。
 巨大なビームがエウロパ軍を襲う。そしてズタズタに切り裂いた。それによりエウロパ軍はその数をさらに減らした。
「クッ、まだだ!」
 しかしそれでもジェラールは怯まなかった。ダミヤーノもダメージを受けたがそれでも彼はまだ立っていた。
「後方の輸送艦隊はどうなっているか」
「ハッ」
 それを受けてシリアーニが報告した。
「既にその殆どが安全な場所まで撤退しました」
「そうか」
 ジェラールはその報告を受けて頷いた。
「そしてファブリチーニ司令はどうしたか」
「司令の乗っておられる輸送船も今しがた安全な場所まで退かれました。最早この星域に残っているエウロパ軍は我等だけです」
「そうか、わかった」
 彼はそれを聞いてまた頷いた。
「それでは我々もそろそろ潮時だな」
「はい」
「卿等も今まで御苦労だった」
 彼はここで周りの者、そして各艦の将兵達に対してこう言った。
「後は撤退だけだ。よいな」
「はい」
 彼等はそれに頷いた。そして前を見据えた。
「ですが今敵がすぐ側にまで来ております」
「わかっている」
 ジェラールはその言葉にも頷いた。
「ここが踏ん張り所だぞ、よいな」
「ええ」
 彼等は既に配置についていた。そのうえでジェラールの次の指示を待つ。 
 ジェラールは動いた。迫り来る連合軍を見据えながら命令を下した。
「全軍一斉射撃!」
「はい!」
 それを受けてエウロパ軍の艦艇の主砲、ビーム砲が一斉に火を噴いた。それにより連合軍の動きは止まった。だがそれは止まっただけであった。
「無駄なことだ!」
 マシュハドは得意気にそう言った。先頭に立つティアマト級巨大戦艦、そして連合軍の戦艦の厚い防御の前にはそれは殆ど効果がなかったのだ。特にティアマト級には全く効果がなく一隻も沈んではいなかった。
「この艦を沈めたくばコロニーレーザーでも持って来るがいい」
 彼はニヤリと笑ってそう語った。そしてそのまま進撃を再開するように命令した。
「この程度何ということはない、行くぞ!」
 彼自身の乗る艦を前に出させた。その後に黒い艦隊が続く。それはまるで死の翼のようであった。
 だが一瞬といてどもその動きを停止させたのはエウロパ軍にとって大きかった。彼等にとって何よりも貴重な時間ができたからだ。
「全軍撤退!」
 ジェラールはすぐに指示を下した。それを受けてエウロパ軍は一斉に反転し全速力で戦線を離脱しにかかった。最早攻撃などは考えていなかった。
「追え」
 マシュハドの今度の指示は短かった。そして静かなものであった。彼は最早戦いが最終段階に達していることがわかっていたのである。
 連合軍は追撃にかかった。だが速度はエウロパ軍の方が速かった。連合軍の艦艇はどれも火力と防御力に重点を置いている為速度はあまり速くはないのである。それはサハラ義勇軍のものも同じであった。彼等も連合軍の艦艇を使用しているのだ。
 元々エウロパ軍の艦艇は速度が速かった。彼等はここでその速度をフルに使ったのである。脇目も振らず戦場を離脱しにかかった。そしてそれが功を為した。
 エウロパ軍は無事戦場から離脱することができた。連合軍の追撃は間に合わず振り切られる形となった。それを見たマシュハドは全軍に指示を下した。
「この宙域を確保せよ」
「了解」
 それを受けて連合軍はニーベルング星系の宙域を掌握しにかかった。その際残っている敵を探すのも忘れてはいなかった。そこには大勢の負傷兵もいた。連合軍は彼等をまず保護した。
「どうしますか」
 参謀の一人がマシュハドに尋ねた。
「エウロパ軍の捕虜がかなり拘束されておりますが」
「保護せよ」
 彼は一言そう言った。
「連合軍の軍律にあるな。捕虜は武装を解除した後丁重に扱うようにと。決して非人道的な行為を加えてはならない、とな」
「はい」
「そういうことだ。まずは身柄を確保して傷の手当て等をしてやれ。そして頃合いを見て安全な場所にまで送るようにな」
「わかりました」
 その参謀は頷いた。これでエウロパ軍の捕虜の処遇は決定した。その時彼等の後ろに影が現われた。
「やっと来ましたな」
「ああ」
 サチフとマシュハドはモニターを見上げてそう話し合った。そこには友軍が映っていた。彼等は今ブラウベルグ回廊を出てこちらに向かっていたのである。銀河を埋め尽くさんばかりの大軍がそこにいた。
「戦いが終わった時に来るとはな。運のいい奴等だ」
「ですね。まあこの戦いにおける功績は全て我々のものとなりますからいいですが」
「彼等に伝えておけ。既にニーベルング星系は完全に掌握した、と。よいな」
「ハッ」
 サチフは敬礼してそれに応えた。それを受けて連合軍の本軍はニーベルング星系に入った。これも以ってニーベルング星系における戦いは集結した。連合軍とエウロパ軍のはじめての戦いは連合軍の勝利に終わった。だがそれはサハラの者の手によるといういささか複雑なものであった。
 参加兵力は連合軍百個艦隊、無人艦隊は三百個、人員にして一億五千万、その全てがサハラ義勇軍であった。対するエウロパ軍は百個艦隊、参加兵力は艦隊、惑星合わせて一億八千万であった。俗にニーベルング要塞群攻防戦と呼ばれるこの戦いはエウロパ軍の完全敗北であった。エウロパ軍は要塞群から撤退しただけでなく兵力の四割近くを失った。そして連合軍はエウロパ侵攻の足掛かりを手に入れたのであった。彼等はニーベルング要塞群に進駐するとその機能を修復させ、そこに物資を集結させた。そしてそこからエウロパの各方面への侵攻を開始したのであった。全ては予定通りであった。
 
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