| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

マクベス

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一幕その六


第一幕その六

「だが。わしの手は」
 その手は汚れていた。血で。他ならぬ王の血である。
「この血は流れ落ちはしない。決してな」
「あなた」
 そこに夫人が戻って来た。
「衛兵の一人に持たせました。これで終わりです」
 右手を掲げて言う。その手は。
「その手は」
「これがどうかしたのですか?」
 夫人はその手を見ても平然としていた。少なくともそう見えた。闇の火の中で。
「血で濡れただけではないですか」
「血だぞ」
 マクベスは怯える声で妻に言った。
「罪の血で濡れているのだぞ。それでどうして」
「洗い流せばいいだけです」
 やはりその態度も声も平然としていた。
「それだけではないですか」
「そうか」
「そうです」
 落ち着いて述べるのだった。
「では今は何事もなかったように」
「休むか」
「ただあの衛兵達は」
 ここで罪をなすりつけた衛兵達のことを言う。
「どうするのだ?」
「殺してしまいなさい」
 目に赤い恐ろしい光を帯びての言葉であった。闇の中で禍々しく光っていた。凶星の輝きそのままの光をそこに見せて輝いていたのだ。
「証拠を消す為に」
「消すのか」
「そう、貴方の手で」
 後ろから夫に囁く。その耳元で。
「宜しいですね」
「わかった」
 虚ろな声でそれに頷いた。
「ではそのようにしよう」
「はい。それでは」
「休むか」
「次に休む時はここではありません」
 夫人はまたしても夫に囁くのだった。囁き続ける。
「次に休むのは」
「何処だ?」
「玉座です」
 それが夫人の答えであった。
「宜しいですね」
「わかった。では二人で玉座にだな」
「その通りです。では」
「うむ」
 二人は灯りを消して部屋を後にした。窓にある月が赤く不気味な光を放っていた。その赤い月だけが二人のことを知っているのであった。
 翌朝。早速異変が起こった。最初に言ったのはバンクォーであった。
「大変だぞ!」
「どうした!?」
 青い服とマントの端整な男が出て来た。黒い髪を整え髭はない。スコットランドの一人マクダフである。
「そんなに動揺されて」
「どうしたもこうしたもあるか」
 バンクォーはまだ落ち着きを取り戻さないままマクダフに述べた。
「大変なことになっているのだ」
「大変なこと!?」
「そうだ、陛下が」
 彼は言う。
「恐ろしいことになっているのだ」
「まさかそれは」
「そのまさかだ」
 彼はマクダフに告げた。
「とんでもないことになったぞ」
「殿下はどうされておられる。マルコム様とドヌルベイン様は」
「御呼びしよう」
「一体どうされました?」
 そこにマクベスが夜着のまま来た。夫人も一緒である。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧