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マクベス

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第一幕その三


第一幕その三

「謀反の罪です」
 二人はそう王に告げた。
「それにより刑に服しました」
「処刑か」
「左様です」
 そうマクベスに答える。
「ですから貴方様がコーダーの領主になられるのです」
「無論グラーミスの領主のままで」
 こうも言い伝えられた。
「どうかお受け取りを」
「わかった。では」
 こうしてマクベスはコーダーの領主ともなった。だがそれと共にまたしても暗い顔になった。まるで闇の中に落ちてしまったかのように。
「グラーミスの領主、コーダーの領主」
 魔女達の予言を反芻する。
「二つの予言が当たった。後は王冠だが」
 それが問題であった。なぜかここで髪の毛が逆立つような悪寒を感じそれと共に不自然なまでに血生臭い予感がするのであった。
「何だこの予感は」
 彼自身もそれに気付く。
「何故こんな予感がするのだ。わしは王位には興味がないというのに」
「おかしいな」
 バンクォーも彼を見て呟く。
「何故彼は暗い顔をするのだ。王にまでなれると言われているのに」
 しかし彼もまた不吉なものを感じていた。口には出さないが。二人は共に魔女の予言に不吉なものを感じていた。晴れ渡っていた筈の空は忽ちのうちに暗雲に覆われてしまっていた。
 城の一室。暗灰色の石の壁と粗末な木の家具と麻のカーテンだけがある部屋に彼女はいた。浅黒い肌の長身の女で彫が深く鼻が高い。口は大きくそれが禍々しい赤であった。
 黒い髪は長いがそこには美しさよりも不気味さが漂っていた。凄みのある顔と合わせて得体の知れぬ邪悪さも感じられる雰囲気の女であった。赤い服と羽織っているマントはまるで血の色であった。赤と黒の中にいる女であった。
「そう。コーダーの領主になったのね」
 彼女は手紙を読んでいた。それは夫からのものであった。
「そして王になると。魔女が予言した」
 彼女はマクベスの妻だ。名門の出身であるがその家は代々権謀により何かを得てきた家として知られていた。彼女はその家の直系の娘であるのだ。
「我が夫マクベス、貴方は王になれる方」
 それは彼女も知っていた。夫よりも。
「王になるには手を血で濡らすことも必要。そう、そうまでしても手に入れなければならないもの」
 キャンドルの光に影が映し出される。手を動かすその影は朧な光によりユラユラと揺れていた。まるで幽鬼の様に。
「それを拒むなら私は指し示しましょう。野望という美酒の味を。そして」
 手を前にかざして言う。
「予言のままに。貴方を王とする為に」
「御后様」
 そこに召使が一人来た。夫人は姿勢を正し彼女に対した。
「何かしら」
「今宵のことですが」
「旦那様が戻って来られるのね」
「いえ、それだけではありません」
「それだけではない?」
「はい」
 召使は畏まって答えた。彼の影は揺れてはいないが何故か夫人の影は揺れている。まるで生き物の様に。キャンドルの光がそうさせていた。
「王も来られます」
「王も」
 夫人は王と聞いてはっとした。スコットランド王ダンカンのことである。言うまでもなくマクベスやバンクォーの親族でもあるのだ。
「はい、左様です」
「では陛下に相応しいおもてなしをしなければなりませんね」
 夫人は表面上はごく普通の様子であり続けた。
「すぐに準備をしなさい。いいですね」
「はい、わかりました」
 召使はその言葉に頷く。そうしてすぐに部屋を後にするのだった。
 夫人はまた部屋に一人になった。そこでキャンドルの光に照らされたまま一人呟くのであった。やはりその影は不気味に揺れていた。
「ダンカン王がここに来る。これはまさに予言通り」
 彼女もまた魔女の予言を反芻した。しかしそれは夫のそれとは全く違っていた。凄みのある笑みがそれをはっきりと映し出していた。
「さあ目を覚ましなさい地獄の精霊達。いざ私を悪の道へ。そして」
 さらに言う。
「私のその野望を闇で覆うのです。誰にもわからないように」
 そうしてマクベスを出迎えに行く。二人は部屋に戻り話に入るのだった。
 
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