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星河の覇皇

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第八部第四章 総動員令その三


「それをこちらに向けたら何が起こるか予想がつきませんよ」
「そうだな。彼等は一千年の間それで互いに争ってきたのだからな」
「武器を手に取らない戦争もあるということですね」
「それは我々も行ってきたことだが」
「はい」
 諜報戦であった。戦争というものは武器だけで行うものではないのだ。産業自体もそうであろう。戦争は政治の延長であり政治自体が戦争であるとも言えるのだ。これは産業にも言える。
「八条長官はあまりそうしたことは使わない正統派と見るが」
「他の人物はわかりません。とりわけ連合の情報部長は」
「ディカプリオ元帥か」
 ここで二人の脳裏に資料で見た二色の目を持つ男の顔が浮かんだ。それは何故か猫を連想させた。二色の目を持つ不思議な猫であった。
「はい。彼はどうやらかなりの策士のようですが」
「あの若さで元帥となったのだ。それはあるな」
「はい。ましてやカナダは連合においては地味な存在です。その国の出身で元帥になっただけでもかなりのものだと思われますし」
 カナダは連合においてはその国力はかなり高い方である。しかしこれといった個性もない為に目立たない印象が強い。人口も少なく地位は高いが発言力も小さいのである。カナダが地球にあった頃から残念なことに変わらないことであった。なおこの国はアメリカ建国当初にはアメリカのある政治家や学者達に併合しようとも狙われていた。これはアメリカという国の建国当初からの並々ならぬ野心や侵略性を表すエピソードの一つとなっている。この時代においてもアメリカは連合において最大勢力の国の一つであると共に最も横暴で独善的な国として知られている。宇宙においてもそうした国としての性格は変わらなかったのである。
「連合の元帥は大国出身が多いからな。小国出身の者もいるが」
「カナダは大国の部類ですがそれでも発言力等は弱いです」
 彼等は連合各国のことはかなり細かく知っていた。これも諜報の故である。
「そこまで考えると彼には警戒すべきと思われます」
「よし。ではそうした工作にも注意を払おう。よいな」
「ハッ」
 モンサルヴァートはその言葉に対し敬礼した。
「それには情報部及び憲兵隊に厳命するべきであると考えます」
「よし。ではそれはそれで決まりだ」
「はい」
「そしてだ。あとはニーベルング要塞群だが」
「はい」
 話がまた移った。
「あの要塞群の防衛はどうなっているか」
「整備は終了しました。そして艦隊の駐留も進めております」
「どれ程だ」
「五十個艦隊程です」
「それでは足りないと思うが」
「はい、もう五十個艦隊を派遣する予定であります」
「百個艦隊か。それで第一防衛ラインを築く必要があるな」
「はい。まずはあそこで敵にかなりの出血を強いましょう」
「防げたらそこで、防げなかった場合は徐々に内地へ誘い込むか」
「市民を避難させながら。そして敵を少しずつ減らしながらオリンポスの前で決戦を挑みましょう」
「勝たねばならん。それはわかっていると思う」
「無論です」
 彼は頷いた。
「その為に今ここにいるのですから」
「よし」
 シュヴァルツブルグもそれを聴いて頷いた。
「勝つぞ。それだけは頼む」
「はい」
 こうして二人の会談も終わった。それからも彼等の激務は続いた。そしてエウロパにおいて遂に総動員令が発動された。これによりエウロパは本格的に戦時体制に入ったのであった。

「そうか、エウロパがか」
 それはすぐに連合にも伝わった。キロモトはそれを昼食の場において聞いた。
「近いうちにくると思ったが」
「左様ですか」
 話を伝えた大統領府のスタッフは意外といった顔でそれに応えた。
「うむ。彼等も必死だ。ましてや我々とは国力差がある」
「はい」
「それを考えると充分考えられる話だ。まあ我々がそれを行う必要はないが」
「我々は総動員令を発する必要はないと」
「私はそう考える」
 彼はそう答えてフォークを置いた。見ればシーフードとトマトソースのスパゲティを食べている。パスタは連合においても比較的よく食べられるポピュラーな料理である。スパゲティだけでなくマカロニやフェットチーネ、ラザニア等もよく食べられる。そのソースは国によって違いかなりのレパートリーがある。
「これは彼等を侮っているのではない。国力を考えるとだ。市民は今まで通り普通の生活を送れることを約束する」
「はい」
「そして将兵達には無事に故郷に帰られることも約束しておこうか」
「わかりました」
 これは戦争が既に決まっていることを意味していた。だがこれは非公式の場でありキロモトとスタッフの他には誰もいないので知られることはなかった。
「少なくともスパゲティを普通に食べることはできる」
 ここでフォークを再び手にした。
「はい」
「ただ軍は第一種警戒態勢を続けるように。よいな」
「わかりました」
 これは至極当然のことであった。戦争に突入する寸前であるからだ。
「それ以外はこれといって戦争のことを気にかけることはないと思う。産業においてはな」
「はい」
「我々は戦争だけをしているわけではない。それはわかっていると思う」
「無論です」
「それならばだ。産業活動はこれまで通りでよい。軍需産業が動いて活性化しているようだしな」
 今連合では好景気となっている。軍需産業が動き他の産業にまで影響しているのだ。産業は生物であり互いにリンクしているからこそであった。
「あとは兵士達の安全だけだな」
「そうですね。それは八条長官が考えておられます」
「それについて彼と話がしたいが」
 ここでスパゲティを食べ終えた。そしてサラダが出される。アメリカ風のダイナミックなサラダだ。キロモトはフォークを手にしてそれを食べる。なおフォークは持ち替えている。
「後で時間をとれるか」
「はい。国防省と話をしてみます」
「頼むよ」
 彼はそれに答えてサラダを口にした。
「エウロパでは生野菜は食べるのかな」
 ふとそう質問をした。
「生野菜をですか」
「そうだ。エウロパと我々では食べるものがかなり違うようだからな。そこはどうなのか」
「食べると思いますよ」
 スタッフはそう答えた。
「元々サラダはあちらの料理ですし」
「おお、そうだったな。忘れていた」
 今食べているのはアメリカ風のサラダである。連合においてはサラダはアメリカの料理と考えられているのである。
 
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