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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール

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外伝 私の大切な家族について


外伝 私の大切な家族について

                    カーテローゼ・フォン・クロイツェル


 学校で自分の家族のことで作文を書こう、という宿題が出たので、私の保護者のフロル・リシャール中佐に、作文について聞いてみました。作文とは自分の思ったこと、感じたことを自由に書き表すこと、とフロルさんは言っていたので、私も自由に書いていきたいと思います。だけど、戦争がこんなに長く続いているせいで、家族を亡くした人とか、いろんな理由があって家族がいなくなった人もいるのに、家族について作文を書こう、というのは私はどうかと思います。 フロルさんも、無神経だ、って言っていました。

 戦争と言えば、この前のハイネセンの大停電は、戦争のせいだとフロルさんが言っていました。戦争で働き盛りの大人が戦場に行ってしまって、普通の生活をするのに必要な人が足りないんだそうです。だから、戦争は早くやめないといけないんだよ、とフロルさんは教えてくれました。フロルさんは軍人ですが、戦争が大嫌いな人です。だけど大切な人を守るために、軍人になったそうです。大切な人って誰なのか聞いたら、私のことだと言っていました。だけど、フロルさんが軍人になったのは、私と出会う前だったので、それはおかしいなと思います。だけど、そう言ってもらえるのは嫌じゃありません。

 ちなみにフロルさん、というのはトラバース法で私の保護者になった人です。もしかしたら他の人は「それは家族じゃないよ」というかもしれませんが、私はフロルさんのことを家族と思っているし、フロルさんも私を家族だと言ってくれるので、大丈夫だと思っています。フロルさんは「家族とはお互いを誰よりも大切に思う人のこと」と言っていました。血がつながっていることよりも、これはもっと大切なことだと思います。フロルさんのお父様とお母様に私はお会いしたことがあります。フロルさんと私は、髪の毛の色がそっくりだったり、顔立ちが似ている部分があったりして、フロルさんのご両親は私を初めて見たとき、フロルさんの娘だと思ったそうです。だからその時、二人はとても慌てていましたが、私はそれを見ていてちょっと笑ってしまいました。事情を知って落ち着いた二人ですが、彼らを自分の祖父祖母のように思って欲しい、と言われたことが本当に嬉しかったです。だから、私はこの作文で、フロルさんのことを書きたいと思います。


 フロルさんに作文のコツを聞きましたが、人とは違うことを書くといいかもしれない、と言われました。そこで私はそれを意識して書きたいと思います。

 そこで私はフロル・リシャールという人の欠点を挙げていきたいと思います。それというのも、私の身の回りの人は、家族の良い所を書いているようなので、私は逆を書いた方が面白いと思ったのです。


 フロル・リシャールさんは、今、同盟軍中佐です。27歳で中佐なのですから、とても出世が早いと思いますが、士官学校を出ている人にしてみれば、そこまで凄いということではないそうです。私の実の母も昔は同盟軍の士官でしたが、今はもう死んでしまっています。とても大好きな母だったので、母が死んだ時は本当に悲しかったですが、今はそこまで悲しくありません。なんで私は悲しくなくなったのか、私にはわかりません。私は昔も今も同じくらい母を愛しています。フロルさんになぜか聞いてみたら、それは私が強くなったからだそうです。私も母が亡くなった時から、少しは打たれ強くなったのだと思います。じゃないと、フロルさんと暮らしていくのは難しいからです。


 まず一つ目の欠点です。フロルさんはとても朝が弱いです。朝の早起きは得意なのに、朝が弱い、というのはなんだが不思議な話ですが、フロルさんは朝起きても全然意識がはっきりしてないのです。フロルさんはまず目を覚ますとコーヒーを一杯飲みます。このコーヒーが飲み終わるまで、私はフロルさんに話しかけないことにしてます。飲む前に話しかけても、ぜんぜん答えがまともに返ってこないからです。パソコンで言うと、 OSが立ち上がっている最中みたいに、フロルさんの頭がキュルキュルなっているみたいです。それにフロルさんは、朝のテンションがとても低いです。どうやら低血糖、というものらしいのですが、そんなフロルさんと一緒にいると間がもたないので、とても苦労します。私ほど保護者に気を使っている子供は少ないと思います。でもここだけの話、寝惚け眼でぼうっとしているフロルさんは、見ていると少し面白いと思います。まるで子供みたいで、少し笑ってしまいます。


 フロルさんの欠点二つ目は、お洗濯やお掃除をしたがらないことです。私が文句を言ったり、あまりに酷いことになるとフロルさんは仕方なくお掃除をするのですが、そうでない限りぜんぜん片付けようとしません。だから私はいつもフロルさんにそのことで文句を言っています。最近では文句を言う前に、自分でお掃除やお洗濯をするようになりました。下着とかは自分で洗ってもらっていますが、それ以外はアイロンとかも私が全部一人でやっています。フロルさんは少し大人としてどうかと思うこともありますが、これは役割分担だとフロルさんは言いはります。実はフロルさんには凄い特技があって、それは実はお菓子作りなのです。フロルさんの作るお菓子はお店で売っているものと同じくらい、いや、それ以上に美味しいです。もし、フロルさんに美味しいお菓子作りの才能がなかったら、私はもっと怒っていると思います。でも、あんなに美味しいお菓子を食べさせてもらうと、ついついそれも許してあげてもいいかと、思ってしまうのです。お菓子の魔力は凄いです。


 欠点3つ目はジョークのセンスがないことです。フロルさんはたまにですがジョークを言いますが、それが全然面白くありません。一緒にテレビを見ていても、私が笑うところでフロルさんは全然笑わなかったり、フロルさんが笑っている所で私は笑えなかったり。だからといって、心底困ることは少ないんですが、それでもそれは寂しいと思うことがあるのです。だから私はフロルさんがジョークを言うと、黙ってそれを流すことにしています。フロルさんにはそれが一番堪えるらしいからです。


 欠点の4つ目は、自分のことを大切にしないことです。フロルさんはとても優しくて、いつも人のためを思って行動できる人です。だけどなぜか自分を犠牲にしたり、乱暴にしたりしていまいます。フロルさんはそんな性格なので、いろんな人がフロルさんのことを気に入ってくれていますが、私はフロルさんのことが心配でなりません。だからフロルさんにはもっと自分のことを大切にして欲しいと、いつも思っています。今、私はフロルさんと二人だけで住んでいます。つまり、私の家族もフロルさんだけです。だから勝手かもしれないけれど、私のために、フロルさんには居なくなって欲しくないと思うのです。2か月前、フロルさんは戦闘で凄い傷を負って、死にかけたということがありました。フロルさんが重態になったと聞いてから、フロルさんが無事元気になったと聞くまで、私は生きた心地がしませんでした。本当に元気になってよかったです。だけど、そんな無茶はして欲しくない、と思うのです。


 5つ目の欠点は、女性の気持ちに疎いことです。フロルさんは今、イヴリンさんという彼女がいます。私はイヴリンさんがとても好きで、フロルさんの家に遊びに来るイヴリンさんとも、よく話したりします。ですがフロルさんは、イヴリンさんが3年前からフロルさんのことを好きだったのに、それに気付かないで彼女を放っておいたというのです。私はこの話を聞いたとき、とても怒りたい気持ちなりました。フロルさんはそれなりに格好いいのに、イヴリンさんが人生で初めての彼女、というのも納得しました。フロルさんはきっと、今までにも女性に好かれたことがあっても、それに気付かないでデリカシーのないことを言っていたんだと思います。それはとても酷いことです。ですが、そんなフロルさんが美人で性格もいいイヴリルさんを彼女にできたのは、とても幸運だったと思います。二人はまだお付き合いをしている段階だと言っていますが、早く結婚して欲しいな、と思います。私の母は、父と結婚しないで私を産みました。私はそのことを悲しいと思ったことはありませんが、母がそれで苦労していたことは知っています。男の人と女の人が付き合うというのはとても大変なことかもしれませんが、私はあの二人ならばきっと上手くいくと思います。そしてイヴリンさんがフロルさんの家に住むようになったら、もっと楽しいと思うのです。


 フロルさんは数え切れないほど、いいところがあります。だから私は、わざわざ欠点をこんなに書き連ねました。
 私を決して叱らないこと、私を一人の人間として対等に扱ってくれること、いつも大切に私のことを想ってくれること。私が辛い時はいつでも助けに来てくれること、傍に居てくれること。私のために美味しいケーキを作ってくれること。誕生日に欲しかった仔犬をプレゼントしてくれたこと。雷の夜はそっと私を抱きしめてくれること。いいことがあったら頭を撫でてくれること。嫌なことがあったら、一緒に怒ったり悲しんだりしてくれること。もっともっと素敵な所があって、それを言葉に表すことがとても難しいです。
 でも、一つだけわかっていることがあります。それはフロルさんと出逢えた私が、何よりも最高に幸運だったということです。今でも、フロルさんと初めて会った日のことを思い出します。その日から、私はほとんど幸せです。だから、今書いた欠点がなくなれば、もっと幸せだと思うのです。

























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「フロルさん、作文書いたんだけど?」
「どれどれ」
〜中略〜
「……これ、提出するの?」
「はい」
「うーん……ま、いいか」
 そしてフロルは、カリンの頭を強めに撫でた。髪の毛がぐちゃぐちゃになったけど、二人は楽しそうに笑っていたのである。

 
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