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星河の覇皇

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第八部第一章 軍人と騎士その一


                               軍人と騎士
 エウロパがバチカンを利用して諜報部員を連合内に送り込んでいた事件が明るみになって以降双方の関係はさらに悪化していた。それは最早開戦前夜であった。
 そうした中で双方は互いに準備を整えていた。それは幾つかあった。
 まずは戦争の回避である。これは双方共無駄な被害を嫌ったからである。ハサンを通じてその交渉は密かに行われていた。だがそれは期待薄であった。
 そして情報収集。これは連合が顕著であった。彼等は戦争の準備を整えながらエウロパの情報収集を行っていたのである。
 だがそれは容易ではなかった。元々エウロパに潜伏している連合の諜報部員の数は少なかった。これは人種が関係していた。混血が進んでいる連合においてはエウロパの様に比較的純粋な白人は非常に少なかったのである。整形や変装により潜伏することもあったが、それにも限界があった。結局そうした理由でエウロパに潜伏している連合の諜報部員はごく僅かであった。逆はあってもそれはなかったのである。
 こうしたことから連合に入るエウロパの情報は少なかった。地形はおおよそのことがわかっているだけであり、各惑星や軍事基地等についての知識は絶望的な程であった。これは深刻なことであった。
 それを打開する為に彼等はサハラ各国に情報の提供を依頼していた。ハサン、そしてティムールがその対象であった。
「連合がか」
 ハサン国王ハルジャ五世にもそのことは耳に入っていた。それを息子であるクシードから聞いていた。
「はい」
 クシードは答えた。彼は人柄はよいが国王としては凡庸と評される父の補佐役としてこの国においては絶大な権限を持っているのである。
「既に使者が来ておりますが」
「そうか」
 父王はそれを受けて頷いた。
「どうするべきだと思う」
 彼は息子に相談してきた。
「連合に我等が持っている情報を渡すべきかどうか」
「それは決まっております」
 クシードは即答した。
「連合と我等の関係を考えますと」
 連合とハサンは密接な交易を結んでいる。それによってこの国は莫大な利益を得ているのだ。それだけではない。連合と国境を接している。何かあれば連合の脅威をまともに受ける状況なのだ。そうした状況では答えも決まっていた。
「喜んで提供するべきです」
「そうか」
 彼等は今王の寝室にいる。ここには誰も入ることができない。実質的に密室での会談であった。
「ただし条件を提示するべきです」
「条件」
 それを聞いた父王の目が動いた。
「それは一体何だ」
「貿易で優遇処置をとってもらうなり技術提供なり。連合には優れたものが多くあります故」
「ふむ」
 父王はそれを聞いて考え込んだ。彼は今ベッドの側の椅子に座っている。クシードはその横に立っている。
「交渉は私が行いますが」
「頼めるか」
「はい」
 彼はそれに頷いた。
「お任せ下さい」
「では頼むぞ」
 それで決まりであった。王は彼の提案をよしとした。これはいつも通りであった。彼は息子にその権限のかなりを委ねていた。ただ祭務だけは違っていたが。
 クシードは父王に挨拶を済ませた後その場を退いた。そして王太子宮に入った。ここは今やハサンの実質的な最高意思決定機関であった。
「お帰りなさいませ」
 従官達が彼を出迎えた。彼は愛想のよい笑顔でそれに応えた。
「うむ」
 彼の笑顔には定評がある。ハサン一の笑顔とさえ言われる程である。その笑顔が今こぼれた。それだけで従官達は心を癒された。
「殿下」
 そのうえで彼に声をかけた。
「どうした」
「実は」
 従官達の中の一人がそっと彼に耳打ちをした。
「連合の使者が来ております」
「そうか」
 彼はそれを受けて頷いた。
「何処だ」
「宮殿の奥です」
 彼は答えた。
「どうぞこちらに」
 そしてクシードを案内した。やがて彼は王太子宮の奥にある応接室の一つにやって来た。そこには連合の軍服を着た男が一人いた。
「どうも」
 左右の瞳の色が異なる美男子である。彼は立ってクシードを迎えた。敬礼をする。
 
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