星河の覇皇
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プロローグ二
これは成功した。欧州は環太平洋諸国に対抗し得る勢力を確立することが出来たのである。ブラウベルクは『欧州の新たな父』とまで呼ばれるようになった。
後に欧州の人々はその進出を絞ることになる。そして独自の勢力を築き続けるのである。
何はともあれ宇宙の進出は続く。アラブやアフリカ諸国もそれに続く。
それから数百年が経った。環太平洋諸国はその名を『星間国家連合』と変えた。人類の過半数以上を擁する彼等はそのまま進出を続けていた。彼等はゆるやかな連合体の続いていたのである。
当然その間に大きな衝突も度々あった。だがそれでも各国の調停等により戦争までには至らずここまできたのである。地球をその首都に置き参加国百以上、領有する星系は数万に達し、人口は三兆という人類最大の勢力であった。
だが相変わらずまとまりには欠けていた。参加国同士の意見対立は多くしかも広い領土の開拓、治安に追われていた。連合議会と中央政府、星間裁判所があるが統制は弱かった。それぞれの国家の発言力が強く中世の欧州の領邦国家的な一面が強かった。
議会はそれぞれの国の権利を強く主張し重要な法案は各国の利害が絡み合い容易には決定しなかった。裁判所も統制が弱く各国の法律の方が強かった。
しかも各国の星系がモザイク状に入り乱れている場所もあったりする為一旦他の星系に逃げてしまえば犯罪者を拘束出来なかった。その為宇宙海賊が跳梁跋扈した。これは開拓地が多くそこに犯罪者が逃げ込むことも多かったことが影響している。
中央政府も断固たる政策を実行できなかった。あくまで中央政府であり各国の存在を無視出来なかった。とりわけ日米中露といった大国の存在は大きく彼等の意向がしばしば連合の意志となった。救いはそのうちの一つ日本が連合政府に対して忠実なことが大抵でありその際に小国の大部分国がそれに賛同することが多かったことだった。
中央軍も中央警察もなかった。各国がそれぞれ軍や警察を持っている為治安維持等も複雑であった。その為管轄地域についても入り乱れ宇宙海賊を満足に取り締まれないようになっていたのである。しかもその取り締まりをやり過ぎだ、と批判するNGO団体の存在も無視出来なかった。おまけに彼等の中には海賊との関係を噂される連中もおり全体的な治安は中々よくはならなかった。こうした状況が数百年以上も続いた。
しかし連合は発展し続けた。確かに海賊もおり各国の思惑が複雑に絡み合ってはいるが彼等には豊富な資源と果てしない土地、そして技術があった。
「ここが駄目なら別の星に行け」
こういう言葉も出来た。彼等は自分達の手で成功を掴む、そうした精神に満ち溢れていた。開拓地があればそこに移り住み農地を開墾し鉱山を掘る。そして産業を興す。こうして彼等はその勢力圏を大きく拡げていったのである。
彼等にとって幸運だったのは心配された異星人の存在もなかったことである。その為開拓は容易に進んだ。
医学や宇宙航行の技術の発展も大きかった。人口は増大し流通は進歩した。そして瞬く間に人口は三兆を越えたのである。
確かに治安は悪く各国の勢力は複雑な状況にあった。だがそれがかえって各国の武力衝突も抑えていたのだ。
戦争よりも海賊の掃討、それこそが重要課題であった。各国は海賊の取り締まりに追われ戦争どころではなかった。流通や宇宙航行の発達が海賊の動きをより速めていった。それに対処する必要があったのだ。
種々雑多な寄り合い所帯、それが星間国家連合であった。宿敵欧州との対立もあったが彼等は自分達だけで独自の世界を形成していた。
彼等の進出はまだ続いていた。開拓は辺境に及びその先にあると言われている未知の星系の存在についても調査されていた。彼等の進出はまだまだ続いていたのである。
さて彼等と同盟関係にあるインドであったが彼等はその独特の文明体系をそのまま維持していた。進出した地は連合とは別の地域であった。
連合と不可侵条約を結んでいたが彼等はそれをあまり信用していなかった。信用するにはあまりにも危険な国が多かったからである。
彼等は出来るかぎり連合から離れた場所への進出を考えた。幸いその地はあった。
長大なアステロイド帯の向こうに多くの星系があったのである。そこに彼等は進出した。そして一方的に領有宣言を行なった。
これに対して連合も欧州も沈黙した。連合は彼等の星系の開発に忙しかったのである。欧州も同様であった。
インドはそこにある多く星系に入った。そして最初に足を踏み入れたその星を『ブラフマー』と名付けた。彼等の神話の創造神から名をとったのである。
そしてそこに地球からインド本土を持って来た。彼等はそこに完全に移り住むつもりだったのである。
これには連合も驚いたが反対はしなかった。彼等にしても自分達の勢力圏から彼等が立ち去ることは好都合であったのだ。
彼等は慎重に開発を進めた。そして一定のところで止まった。南方にはまだ開発可能な星系が多くあると言われていたがそこで一旦止まった。そして連合との境の防衛を固め海賊を締め出した。そして各星系の開発をさらに進めていった。人口は二千億程度で抑制をはじめ連合に比べ活気には乏しいが一つの勢力圏を築いていた。
連合程ではないが緩やかな連邦制であり大統領制をとっている。今は国名を『マウリア』というかつての王朝の名にしている。平和を愛する穏健な勢力である。
連合の宿敵欧州であるが彼等はその正式名称を『エウロパ』に変えていた。ギリシアの美しき少女、欧州の語源になった名であるがこの名を国名にしたのである。
彼等もまた連合とは離れた場所に進出することにした。インドと同じく長大なアステロイド帯の向こうにその場所を見出していた。丁度人類の勢力圏を東西に分ける帯であった。
その帯の北側、そこが彼等の勢力圏であった。彼等はその中の中央にある星系に首都を置いた。その名は『オリンポス』。ギリシアの神々が住んでいた山の名である。
彼等の勢力圏は小さかった。しかしそれぞれの星はどれも豊かであった。そして人口では劣りながらも連合に次ぐ勢力を形成した。これは彼等の結束が比較的強かったことも幸いした。
彼等は連合やマウリアよりも強い中央政府のある国家であった。各国の主権は国家元首位でありその他は全て中央政府にあった。そのリーダーシップにより開発を進めていった。
欧州本土はオリンポスに移された。連合の市民達は宿敵が一人残らず去り大いに喜んだという。
「今に見ておれ」
そう言ったのは当時の欧州総統ヘンリー=スチュアートであった。彼は何時しかエウロパが連合を凌ぐ勢力になるとその死の間際まで言っていた。
しかしそれは実現しなかった。あまりにも星系が少なく勢力圏が狭かった。
これは誤算であった。エウロパの北と西には星系は何十万光年もなく太陽系の果てであったのだ。
しかも東には連合がいる。彼等とはアステロイド帯を挟んでいるが唯一つの通り道があった。
ブラウベルク回廊。欧州再興の父の名を冠したのはこの先に希望が広がっていると言われたからであった。
だが今この回廊は人類の勢力圏の中でも最も緊張した地域の一つとなっていた。よりによってその向こう側は連合の中でも特に欧州の勢力を嫌う国の勢力圏であったのだ。
彼等は各国の援助を得て回廊の出口、連合から見れば入口に要塞群を建設した。そしてそこから一歩も通さないつもりであった。
エウロパにとってもそれは同じであった。回廊の入口にこちらも要塞群を築いた。そして睨み合いを続けたのである。
彼等の進む方向は南しかなかった。だがそれは困難であった。
南方はアステロイド帯だけでなくブラックホールや磁気嵐、超新星、彗星等がひしめく異様な地形であった。容易には進出出来なかった。連合やマウリア、当然エウロパの勢力圏にもこれ等はあったが質量共にその比ではなかった。
しかしそこに進出した人々も既にいたのである。それでもエウロパはそこに進出せずにはいられなかった。最早どの星系も人口は限界にあった。一千億だというのに養える数は限界に達しようとしていた。スペースコロニーを築くのにも限度がある。しかも不経済であった。
結果的に侵略になる。連合はそれを冷笑し批判した。だがそれでもやるしかなかった。
だがここで一つの問題が生じる。以前よりここに住んでいた人々はどうなるのか。
当然武力衝突となる。だが状況はエウロパにとって有利であった。
何故か。彼等は一つの勢力ではなかったからである。
一つのまとまった勢力を築くことが出来なかったアラブや北アフリカ各国はそれぞれ独自に進出した。連合やマウリアに入る者も多かったし事実北アフリカ各国以外のアフリカ諸国はそうであった。彼等は全て連合に入った。だがそれでも彼等は進出した。
だが進出する先はあまり残ってはいなかった。他の勢力に入ることを潔しとしなかった彼等はこの複雑に入り組んだ地域に入ったのである。
彼らは宇宙でも統一した勢力を築かなかった。各国がいがみ合い抗争が続いた。そして戦っていた。
そうした状況が何時までも続いた。この地域では多くの国が興亡したが栄枯盛衰を繰り返しそして血が流れた。それでも戦いは終わらなかった。
そしてそこにエウロパが侵攻してきたのである。彼等は少しずつその勢力圏を拡げていった。
「これは我等の危機である。一刻も早く統一した勢力を!」
こう主張する者もいた。だがそれは逆効果であった。
有力な国が我が、我がと名乗りをあげ再び争いを激化させたのである。そしてエウロパを退けるどころではなくなった。
「これは神々が我々に与えた僥倖だな」
エウロパの司令官の一人がこう言ったという。その通りであり彼等はいがみ合いに明け暮れ外に目を向けようとはしなかった。
こうした彼等かってのアラブ諸国の末裔達にとっては再び嫌な時代が続いた。エウロパの侵略は続き連合も辺境の開発の他に彼等の勢力圏に眠るとされる多くの資源に関心を持ちはじめていた。
「奴等には有り余る程あるだろうが」
しかしそれとこれとは別であった。人間の欲望には際限がないのだから。
まさに危機的な状況であった。誰もが何とかしたいが何も出来ない状況であった。
「このまま他の奴等に食い散らかされてしまうのか」
その中央にある星ムハンマドに移されたメッカを見て嘆く者もいた。彼等は最早他国と内部の戦乱に弄ばれる哀れな存在であった。
しかしその惨状も幕を降ろす時が来た。人々が望むものは出て来るものなのである。
英雄、指導者。彼等が欲していたのはそれであった。彼等を統べ護り戦う者。それが今出て来ようとしていたのである。
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