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星河の覇皇

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第七部第四章 名将と老将その二


「そうしたらその生活が合っていまして。軍隊というものが私に合っていたのでしょう」
「それは何より」
 どうしても適性というものがある。軍というものは特にそれが大きい。彼が軍に合っていたというのはそれだけで幸運なことであった。
「気がついたら今ここにいるわけです。いやあ、運がよかった」
 彼は軍人としては有能であった。海賊退治で功を挙げこうして連合軍統合作戦本部長にまで昇り詰めたのであるから。もっとも彼をその職に就けたのは八条であるが。各国の軍人達を調べている時にモンゴル軍元帥である彼のことを聞きすぐに統合作戦本部長に決定したのだ。
「運ですか」
「ええ」
 彼は答えた。
「何事も運がないと。実力だけではどうにもならない時があります」
「それは確かにありますね」
 八条もそれはわかっていた。
「しかし運に頼るつもりはありません」
「ほう」
 バールの言葉に目の光を変えた。
「運はあくまでプラスアルファです。それ以外のものではありません」
「つまり重要なのは実力であると」
「そう、そこにその運が加わるのですよ。少なくとも私はそうしたものだと考えています」
「それはわかります」
「ですが長官の御考えは少し違うようですね」
「わかりますか」
「ええ」
 それはバールにもわかっていた。
「どの様な状況においても必ず勝てる、そして損害は最小限に。そうした戦いを望まれているようですな」
「はい」
 八条はそれを肯定した。
「その通りです」
「やはり」
 バールはそれを聞いて納得したように頷いた。
「軍の編成や後方支援、兵器等を見るとそうですね」
「確かに戦争において運は大きな要素ですが」
 八条は自説を述べはじめた。
「それは不運もあります。その不運がこちらに来ても勝てる状況にしておかなくてはなりません」
「それは私も同意です」
 だが二人は根本で何かが違うようである。それは何か。
「ただ、いざという時に運がないと大変なことになる場合もあります」
 これであった。バールはあくまで戦場を見ている。そして八条は政治のうえでの戦争を見ているのだ。これはバールが軍人であり、八条が政治家となっていたからである。軍人と文民では戦争に対する見方も違ってくるのである。
 その為バールは運を重要視する。戦場において欠かせないものであるから。
 八条はそうした要素があまりかからないような状況を目指す。それが政治家の考えであった。だが八条は元々は軍人でありそのこともわかっていた。それが他の政治家とは一味違っていた。
「それはわかります」
 ここで同意する言葉を述べた。
「その辺りは本部長にお任せします」
「はい」
 バールはそれを受けて微笑んで応えた。精悍な笑みであった。
「ステッラへの作戦ですがあの二人で大丈夫だと思います」
「運という点から見ても」
「そういうことです」
「わかりました。それでは安心して取り掛かるとしましょう」
「ただステッラの悪運もかなりのものでしょうからね」
「彼女自身も」
「だからこそ今まで生きてこられたのではないかと思います」
「ふむ」
「それについても用心しておくべきかと」
「わかりました。それでは」
「はい」
 こうして二人の話し合いは終わった。八条は本部長室を去り自らの執務室に戻った。そして彼はアラガル及びンガモに指示を出した。そして彼等はまた動くのであった。
「国防省の動きはかなり速いな」
 それはアッチャラーンにも伝えられていた。
「そのようですね」
 そこには金がいた。彼女はそれに頷いた。
「我々は彼等に協力するという形をとっておりますが。作戦等はドトール長官にかなり委任しております」
「長官にですか」
「はい、やはり専門家ですから。問題はないかと思いますが」
「それは私も同じですぞ」
 アッチャラーンはそれには反対しなかった。
「ただ連携が上手くいっているかどうか不安なのは確かです」
「それは御安心下さい」
 金はそんな彼に対して言った。
「長官は肩肘を貼る様な人ではありません。そしてスタッフもそうした者を選びましたから」
「ほう、それは」
 これはアッチャラーンも意外であった。
「そこまで考えておられたのですか」
「当然です」
 彼女は少しきつい声でそう答えた。
「今回の作戦は細心の注意を払わなければなりませんから。ステッラだけではありません」
「はい」
「エウロパが持つ連合内の諜報網を完全に破壊する。その為には用心し過ぎるということはないかと思いますが」
「それは私も同じ考えです」
「そうですか」
「ただ一つ気になることがあるのです」
 アッチャラーンはここで深刻な顔を作った。
「それは何でしょうか」
「彼等の侵入元です。それも何とかしないと話になりません」
「侵入ルートですか」
「左様です。おおまかに二つありますが」
「サハラやマウリアを経由するルート」
 まずは総督府に入り、そこからサハラに潜伏して潜入するのである。中にはサハラやマウリアの者に変装している場合もある。だがこちらは入国チェックを厳格化させて対処している。これによりこちらの侵入ルートはかなり押さえられている。しかしそれだけではないのである。
「そしてもう一つ」
 アッチャラーンはそれについて言及した。
「こちらの方がより問題ですな」
「はい」
 金もそれを受けて顔を険しくさせた。
「バチカンです」
 アッチャラーンの顔と声も金のそれと同じものになっていた。
「これを何とかしたいのですが」
「ですが今までは何もできませんでした」
 彼女のその声は暗ささえ帯びていた。
「流石に宗教に手を出すのは憚れますから」
「貴女もそう御考えですか」
「はい。人の心には容易に手をつけることはできません」
 そう答えた。
「これは信教の自由だけでなく思想の自由にも大きく関わりますから」
「そうです。彼等がテロ活動等をしていない限りは」
 この時代にもカルト教団というものは存在する。連合においては今まで多くのカルト教団が出現している。彼等の中には反社会的行動をとる者達も多い。そうした団体との戦いも今まで多くあった。宗教や思想がとりわけ問題なのではない。問題なのは彼等の行動である。如何に素晴らしい思想であろうがそれを実現する行動がテロであるならば彼等はテロリストとなる。これは他の市民団体等も同じである。
「そうです。ましてやバチカンとなると」
「テロなどする必要もありませんから」
「諜報員が紛れ込んでいるといってもそれは今の時点では憶測に過ぎません」
「バチカンには諜報員のことを伝えてるのですが」
 これはかなり前から行われている。連合にとっても由々しき事態であるからだ。
「効果がないでしょう」
「残念なことに」
 金は悔しそうな声でそう答えた。
「やはりバチカンは一筋縄ではいきません」
「伊達に長い歴史を歩んでいるわけではありませんからな」
「権謀術数の歴史という点では我々より上かもしれませんから」
 連合も各国の間で色々と綱引き、駆け引きがある。ちなみにアッチャラーンの祖国タイはそうしたことにかけてはベトナムと並んで連合屈指とされている。だがバチカンのそれは別格であった。 
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