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星河の覇皇

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第一部第三章 海賊征伐その三


「よし、今だ!」
 ミドハド軍は航宙機を発進させた。
「来たな」
 それはオムダーマン側も予想していた。こちらも航宙機を出す。
「良いか、砲座との連携を忘れるな」
「了解」
 航宙機は次々と飛び立つ。そして星の海の中で格闘戦を開始する。
「やはり数が多いな」
 オムダーマン軍のパイロットの一人が敵の航宙機の部隊を見て言った。
「良いか、決してこちらの砲座の射程からは出るなよ。あくまで連携して敵を倒せ」
 そこに部隊指揮官から通信が入った。
「了解」
 彼等は散った。そして敵に向かって行く。
 戦いは五分と五分だった。数の劣勢を航宙機と砲座の連携で補うオムダーマンに対しミドハドは数とパイロットの個々の能力で戦う。
「やはり航宙機の扱いは向こうの方が上か」
 アジュラーンは戦局を見詰めながら言った。
「はい。やはり彼等に一日の長がありますな」
 参謀の一人が答えた。
「こちらの損害は次第に増えております。このままいくと敵に押し切られるかと」
 その通りであった。やはり数の差が大きくものを言っていた。
「そうだな。ここままいくとだな」
 アジュラーンはモニターを見て呟く様に言った。
「だがこれも計算通りだ」 
 そう言うと不敵に笑った。
「そろそろ頃合いですね」
 アステロイド帯の機雷が撒かれていない場所に彼等はいた。
「ああ。どうやら敵さんはこちらの存在には全く気付いていないようだな」
 アッディーンはガルシャースプに対して答えた。
「よし、それでは全軍動くぞ」
 彼は部下達に対して令を下した。一千隻の艦隊がそれに従いアステロイド帯から姿を現わした。
「今から敵の後方に回り込む。そして一斉攻撃を仕掛けるぞ」
 艦隊はアッディーンの言葉に従い全速力で動く。
 敵軍はまだ気付いてはいなかった。彼等はその真後ろに達した。
「よし、今だ。全艦突撃!」
 アッディーンの右腕が振り下ろされた。艦隊は矢の様な速さで突撃を開始した。
「後方に敵軍発見!」
 ミドハド軍のオペレーターの声は悲鳴そのものであった。
「何っ、まだいたのか!」
 後方で指揮を執っていたミドハド軍第一艦隊司令官はそれを聞いて思わず声をあげた。
「こちらにまっすぐに突っ込んで来ます。その数一千隻!」
 それは彼のいるところに突撃してきている。彼はそれを見て蒼白となった。
「いかん、何としても食い止めろ!」
 彼は絶叫した。
「駄目です、間に合いません!」
 そこに一斉射撃が襲い掛かった。司令の乗る旗艦は七条の光の帯を浴び爆発四散した。
 これで第一艦隊の指揮系統は混乱状態に陥った。アッディーンが率いる一千隻の艦隊はそのまま敵軍の中に踊り込んだ。
「よし、周りは敵しかいない。撃って撃って撃ちまくれ!」
 彼の指示が下る。艦隊は周りを手当たり次第に撃つ。そして光の爆発が辺りを包む。
 敵軍は混乱状態に陥った。今まで戦いを有利に進めていたのが嘘の様であった。
 それは前線においてもそうであった。自らの後方が混乱状態にあるのを知り彼等は浮き足立った。
「アッディーン准将、上手くやりましたな」
 参謀の一人が混乱する敵艦隊を見て言った。
「ああ。またやってくれたな」
 アジュラーンはそれに対して答えた。
「よし、今こそ勝機だ。一気に攻勢に転ずるぞ!」
 彼は全軍に対して指示を出した。
「全軍総攻撃だ!」
 オムダーマン軍は一気の攻勢に転じた。まずは浮き足立っていたミドハド軍の航宙機部隊が餌食になった。
「さっきまでよくもやってくれたな!」
 彼等はオムダーマン軍の航宙機と砲座の集中攻撃により次々と撃ち落とされていった。そして次はその母艦である空母、そしてやがて敵中央にまで進んでいく。
 それと呼応してアッディーンの艦隊も行動を速めた。一度敵艦隊を突き抜け再び後方に出る。
 今度は敵第二艦隊司令部に襲い掛かった。下からミサイルを浴びせる。
「いかん、かわせ!」
 第二艦隊の司令官は必死に命令する。だが間に合わなかった。彼は乗艦と運命を共にした。
 戦いは何時しか一方的なものとなっていた。ミドハド軍の艦艇は次々に沈められオムダーマン軍は敵軍を所々で寸断し各個撃破していった。
 やがてミドハド軍は壊走を開始した。皆それぞれ散り散りとなり戦場を離脱する。
「追いますか」
 それを見た参謀の一人がアジュラーンに対して問うた。
「当然だ。この際徹底的に叩いておく」
 彼は答えた。そしてそれがミドハド軍に止めを刺した。
 ミドハド軍は尚も攻撃を受け続けた。そして戦場に残るのはオムダーマン軍だけとなった。
 こうして戦いは終わった。劣勢にあったオムダーマン軍の知略による大勝利であった。
 参加戦力はオムダーマン軍百万、艦艇一万隻、ミドハド軍二百万、艦艇二万隻であった。損害はオムダーマン軍が一割強であったのに対してミドハド軍のそれは三割を越えていた。しかも両艦隊の司令まで戦死するという致命的なものであった。
 すぐに両国の間で停戦交渉が開始された。これによりオムダーマンは二つの星系の割譲とミドハドからの多額の賠償金を手に入れた。そしてそれにより小勢力二ヶ国がオムダーマンに帰順を申し出て来たのだ。これによりオムダーマンは西方で第二の勢力となった。
「とりあえずはいいことづくめだな。やはり勝利というのは気持ちがいい」
 アッディーンはムラーフと共に司令室に向かいながら上機嫌で話している。
「ですね。これで我々は西方で第二の勢力となりましたし」
 ムラーフも機嫌がいい。
「そうだな。あとは今回の勝利と得たものをどう生かすかだ」
「それですね。二つの星系を手に入れたのはやはり大きいです」
 カッサラ星系に隣接する二つの星系は豊かなことでも知られているのだ。
「そうだな。これから暫くの我が国の動きが西方の運命を決定するかもな」
 アッディーンは考える顔をして言った。
 司令室に来た。あくまで実務を重視した簡素な部屋にアジュラーンだけがいた。
「おお、よく来てくれたな」
 彼はアッディーンの顔を見て微笑んだ。
「閣下のお招きに応じ参りました」
 アッディーンは彼に対し敬礼して言った。
「うむ。今度の戦いのことでだが」
 彼はアッディーンを見詰めながら言う。
「君は少将となった。そして新たに新説される艦隊の司令官となった」
「私が艦隊司令ですか?」 
 アッディーンは思わず問うた。
「そうだ。艦隊といっても新設されたばかりでその規模は他の艦隊の半分程度だが」
 オムダーマンでは艦隊司令になるのは本来では中将以上とされているのである。
「そうですか。しかし艦隊司令に任命されたのは嬉しいですね」
「そうだろうな。最もやりがいのある仕事と言われているからな」
 アジュラーンは笑って言った。艦隊司令はオムダーマン軍の中では特に人気のあるポストなのである。
「さて、早速だが君に任務がある」
「何でしょうか」
 彼は問うた。
「君はカジュール公国についてどう考える」
 カジュール公国とはカッサラ星系にある小国である。西方では最も勢力が小さいがミドハドと友好関係にありそれにより国を保っている。いわば属国である。
「カジュールですか」
 彼はその名を聞いて思案した。
「これは私の仮定ですが」
 彼はそう前置きして話しはじめた。
「今後ミドハドとことを構える場合何かと邪魔な存在になると思います。それにあの地を押さえればミドハドに侵攻する際に二方向から攻めることが出来るようになり我等にとって好都合かと思います」
「ふむ、君はそう思うか」
 カジュールの兵はあまり多くはない。規模にしてオムダーマンの一個艦隊程度である。だがその後ろにはミドハドがいる。
「実はカジュールに侵攻しようという考えが軍の上層部から出ているのだ」
「よいお考えかと。ミドハドの兵が引き揚げている今は絶好の機会です」
「だが我々も余分な兵はない。サラーフの存在もあるしな」
 サラーフは今先の敗戦の借りを返そうと画策している。特にこのカッサラ星系を虎視眈々と狙っていた。
「だが君の艦隊だけは別だ。新設されたばかりだしな」
「はい」
 彼は答えた。そしてアジュラーンが何を言わんとしているか察した。
「今回のカジュール侵攻には君の艦隊にやってもらおうという話になっているのだ」
「失礼ですが閣下」
 彼はアジュラーンに対して口を開いた。
「カジュールは確かに小国です。しかしその軍の規模はわが軍の一個艦隊程度はあります。流石に半個艦隊では相手をするのは難しいかと」
「それはわかっている」
 アジュラーンは彼を見て言った。
「それにかの国にはその地形を利用した多くの軍事基地があります。攻略は容易ではありません」
「そうだな」
 彼は何かを待っているような態度である。
「それだけに攻略には時間がかかります。そして時間がかかればミドハドがやって来るでしょう」
「その通りだ。だが君にも何か考えがあるだろう?」
 アジュラーンは彼の顔を微笑みながら見て言った。
「そうでなければこの計画を支持したりはしない」
「はい、あります」
 アッディーンは答えた。
「では聞かせてもらおうか。その案を」
「はい、まずは・・・・・・」
 アッディーンはアジュラーンに対して自分の考えを話しはじめた。そして一時間後彼は司令室を後にした。
 二日後新設されたばかりのアッディーンの艦隊は出撃した。そしてカジュール公国に向かって進軍を開始した。 
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