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星河の覇皇

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第七部第一章 流浪の民その四


「難民達の志願状況はどうなっていますか」
 八条は統合作戦本部長室に行き本部長であるバール元帥と話していた。
「順調に進んでおります」
 バールはその問いに対して快く答えた。
「このままいけば目標である百個艦隊は楽に到達できるかと思われます」
「それは何より」
 八条はその答えに満足した声を出した。
「最初話を聞いた時はどうかと思ったのですが」
「どういうことですか」
「いえ。所謂外人部隊というのはどうかと思いまして」
 彼はここでその整った顔をやや曇らせた。
「そうした部隊は軍の差別化を招くのではないかと思ったのですよ」
「確かにそれはありますな」
 バールはそこでこう言った。
「実際に彼等にはかなり過酷な任務が向けられるでしょうし」
「やはり」
 それは充分予想されたことであった。これは八条の好むと好まざるによらず。
「元々そうした任務を請け負う部隊を欲しての募集でしたから」
「そうそう奇麗事ばかりではいかないということですか」
「長官には申し訳ありませんが」
 バールはやや表情に影をささせた。
「ですが軍とはこうした一面もあることはご承知だと思います」
「それは確かに」
 八条もかっては軍人であった。だからそうしたこともよくわかる。だからこそ頷かざるを得なかった。
「具体的には有事の際の先遣隊や後詰ですが」
「戦いの際にはなくてはならないものですね」
「そうですね。だからこそ彼等の訓練もかなり過酷なものとなるでしょう」
「それは教育総監のお仕事ですね」
「はい」
 そこでソファに座っていた黒い肌に東南アジア系の顔をした男が声をあげた。連合軍教育総監ハイメ=ラビルヘン元帥である。コスタリカ軍の士官学校の校長を務めていた人物である。祖国では教育者として有名である。むしろそちらの方で名が知られている程だ。
「彼等の教育メニューは普通の将兵達とは異なるものになるでしょう」
「具体的にどういったものですか」
「まずは戦闘向けの訓練が多くなります」
 八条の問いに答えた。
「そしてその内容もかなりハードなものに。彼等は常時戦闘態勢に置かれますからね」
「常時ですか」
「はい。何かあった場合はすぐに彼等が向かいます。今までの宇宙海賊達への対処もかなり楽になるかと思われます」
「そしてテロリストに対してもですね」
「はい」
 ラビルヘンはまた頷いた。
「そうした対テロリストへの訓練も行っていかなくてはならないでしょう。既にそうした訓練メニューもスタッフに考えさせています」
「そして装備や補給はどうなりますか」
「補給は他の正規軍と同じでよいでしょう」
 ラビルヘンと同じくソファーに座っていたコアトルが答えた。
「ただその装備は考えていなかくてはなりませんね」
「はい」
 八条にもそれはよくわかっていた。
「やはり戦闘に強い装備でいかなくてはなりませんね、普通の軍と比べても」
「はい」
 三人の元帥はそれに頷いた。
「通常の艦艇をさらに強化させたものにしていくべきですね」
 ここでバールが提案した。
「とりわけ機動力を強化させたものに」
「機動力ですか」
「はい、彼等は常に他の軍と比べて迅速な動きを要求されます。それを考えますと機動力かと」
「ふむ」
 八条はそれを聞いてまた考え込んだ。
「攻撃力や防御力も必要なのではないですか」
「それも当然考慮されなければなりません」
 バールは答えた。
「今使っている艦艇のそうした部分を改造した強化タイプを使用していけばいいと思います」
「わかりました、ではチョム総監に伝えておきましょう」
「お願いします」
 チョムは技術総監に就任していた。その階級も元帥に昇進している。
「各艦隊の旗艦はティアマト級でよろしいですね」
「それしかないでしょう」
 これは既に決まっていることであった。
「やはりあの艦の存在は大きいです。それに能力も相応しい」
「火力も防御力も隔絶しています。何よりも通信能力が違います」
「それが一番大きいですね」
 コアトルが答えた。
「あの艦の通信能力や内臓されているコンピューター等電子関係は他の艦のそれとは比較になりません。あの艦だけで一個艦隊に匹敵する力があります」
「それは少し言い過ぎでは」
 八条はその言葉には少し苦笑した。
「いえ、必ずしもそうとは言えませんよ」
 バールがそこで言った。
「この前の解放軍との戦いでも絶大な力を示しましたし。あの艦は我が軍の象徴ともなりつつあります」
「そこまでですか」
「ええ。少なくとも将兵にはそう認識されつつあります。もっともそれは最初からの狙いでしたが」
「確かに」
 彼はそれに頷いた。
「これからもあの艦が主軸になっていきますか」
「それは間違いないでしょうね。難民達で構成される部隊にも配属させるべきです」
「当然ですね」
 これは八条も最初から考えていた。
「では百隻新たに用意しますか」
「はい」
「彼等には何かあれば働いてもらわなければなりません。その装備も充実したものでなければ」
 コアトルは考えながらそう言った。
「また悩みが増えますな」
「しかし戦力は整ってきています」
 ラビルヘンがそこでこう答えた。
「既に艦艇は全て配属し終えました。ティアマト級も三千隻の建造を終えましたし」
「遂にですか」
 八条はそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「観艦式からようやくといった感じですね」
「軍備は一朝一夕にはできませんからな」
 バールが答えた。
「ええ。だからこそ難しい。しかし整えておかなければならない」
「はい」
 それは彼等自身が最もよくわかっていることであった。
「では彼等の部隊の整備の計画も進めていきましょう。そして同時に部隊の配属も」
「はい」
 八条はここでふと気付いた。
「そうだ、部隊名を考えておかなくてはなりませんね」
「何にしますか」
「そうですね」 
 彼は三人の元帥に問われて考え込んだ。
「そうだ」
 ここでふと思いついた。
「義勇軍にしましょう。サハラ義勇軍。これならいいでしょう」
「いいですね」
「悪くないかと」
 三人はそれに対しておおむね賛成であった。
「では決まりですね。早速計画を進めていきましょう」
「はい」
 三人はそれに頷いた。
 こうして新たな動きが進みはじめた。連合はまた新たな力を加えていくことにしたのであった。 
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