星河の覇皇
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第一部第三章 海賊征伐その二
「うわっ!」
たちまち艦を貫かれる。そして何隻かは光に包まれた。
「クソッ、読んでやがったのか!?」
衝撃で倒れた頭は起き上がりながら前を見て叫んだ。
「だが構うことはねえ。数はこっちの方がずっと上だ。一気にやっちまえ!」
だがその時だった。後ろからも激しい衝撃が襲った。
「今度は何だっ!」
彼は叫んだ。レーダー手がレーダーを見つつ青い顔で叫んだ。
「後ろからも来ました、光子魚雷を撃って来ました!」
「何っ!」
見れば駆逐艦部隊がいた。魚雷を放ち終えた彼等はそのまま突っ込んで来る。
「そろそろいい頃だな」
アッディーンは彼等が前後からの思わぬ攻撃でうろたえているのを見て言った。
「あれを出せ」
信号手に対して言った。
「わかりました」
彼は答えた。そして信号を出した。
「お頭、向こうから信号が来ました」
「何!?」
彼は頭から血を流しながらもその信号を見た。それは降伏勧告であった。
「・・・・・・どうします!?」
手下達は彼の顔色を窺いながら尋ねた。
「どうするって言われても・・・・・・」
見れば命は保証し自軍に編入するとある。悪い条件ではない。
「食いっぱぐれねえみてえだしここは大人しく従ったほうがいいだろ」
こうして彼等は降伏した。そしてカッサラ星系に連行されそこで正式にオムダーマンの軍隊に編入された。
海賊達は次々とオムダーマン軍に加えられていった。彼等の艦艇は旧式なものや民間のものを改造したものばかりであったので全てオムダーマンのものに替えられた。そしてその艦艇に適応する為の訓練が施された。
「飲み込みが早いみたいだな」
アッディーンは彼等の訓練を見て言った。
「元々船に乗っていましたからね。もっともそれを見込んで編入しているのですが」
隣にいるガルシャースプが答えた。
「とりあえずこの辺りの海賊達はこうして編入していったほうがいいな」
「はい。かなりの戦力になりますよ」
アッディーンの海賊討伐は続いた。やがて戦う前に帰参する者も現われやがてカッサラ星系のほぼ全ての海賊達がオムダーマンの軍門に降った。
「討伐は完了しました」
アッディーンは司令室にいるアジュラーンに敬礼して報告した。
「早いな」
彼はそれを聞くと微笑んで言った。
「はい。後半は自ら帰参してくる者ばかりでしたので」
アッディーンは無表情で答えた。
「こちらの損害も殆どないしな。まさかこれ程うまくいくとは思わなかった」
「いえ、私はこうなると予想しておりました」
「ほう、何故だ」
アジュラーンは問うた。
「海賊といっても装備は粗末なものばかりです。そして彼等はそれぞれ分散しておりました。地形に気をつければどうということはありません」
彼はやはり表情を変えなかった。
「大した自信だな。それを実践するとはより凄いが」
アジュラーンはそれを聞いて言った。
「だが貴官のおかげでこの星系の治安はかなり良くなった。そして軍も強化された。これは私からも礼を言おう」
「有り難うございます」
アッディーンは敬礼して答えた。
「その功により貴官は准将になった。今日首都から連絡があった」
「私が准将ですか」
彼はそれを聞いて思わず口にした。
「どうした?嫌なのか」
アジュラーンはそれを聞いて悪戯っぽく口に笑みを浮かべた。
「いえ」
アッディーンはそれを否定した。
「私も上級大将になった。ここに駐留する艦隊の規模も大きくなったしな」
「おめでとうございます」
「うん。そしてアッディーン准将、君は戦艦アリーの艦長の任を解くことにした。そして分艦隊の指揮官になってもらう」
「分艦隊のですか」
「そうだ。高速機動部隊を率いてもらう。戦いにおいては先鋒を務めてもらう。どうだ、やってくれるか」
「喜んで」
彼は答えた。こうしてアッディーンは准将に昇格し分艦隊の指揮官に就任した。艦隊はアジュラーンの言葉通り高速戦艦及び高速巡洋艦から編成される部隊でありその数約千隻。小規模ながら精鋭揃いの艦隊であった。
「旗艦はアリーのままですね」
新たにアリーの艦長となったソホラープ=ムラーフ大佐がアリーの艦橋においてアッディーンに問うた。歳は三十代後半といったところか。黒い髪に濃い顎鬚を持っている。
「ああ。この艦の速度はかなり速いしな」
アッディーンはそれに対し答えた。
「それに電子設備もこの艦が一番いい。特に問題はないだろう」
「はい」
ムラーフはそれを聞き答えた。
「それでは早速訓練を開始するとしよう。敵は待ってはくれないからな」
「了解」
そしてアリーは港を後にした。その後ろを彼が率いる千隻の艦隊が従っていた。
サハラ西部は多くの勢力が入り乱れている。大小合わせて七つ程だがその中でも大きい勢力は三つ程である。
一つはサラーフ王国。西方の約半分を占めるこの地域最大の勢力である。その国力は高くサハラにおいてもかなり強大な勢力である。
そしてアッディーンがいるオムダーマン共和国。第三勢力であったがカッサラ星系を手に入れたことによりその勢力はかなり強くなっている。今や第二勢力とさえなりつつある。
その第二勢力がミドハド連合である。それぞれの星系の政府から成る連邦国家でありカッサラ星系から見て東にある。領土はそれ程広くはないが星系はそれぞれ豊かであり人口も多い。とりわけ資源が豊富なことで知られている。
彼等もまたカッサラ星系を巡って争ってきた。そしてサラーフやオムダーマンと血みどろの戦いを繰り広げてきたのだ。彼等の艦艇はそれ程優秀ではないが数が多くそれによる物量戦と空母を使った戦いを得意としている。
だがそれはオムダーマンには通用してもサラーフには通用しない。何故なら数は向こうの方が多いからだ。そして今その国力をオムダーマンに抜かれようとしていた。
「やはりカッサラ星系が連中の手にあるのが大きいな」
ミドハド連合主席であるイマーム=ハルドゥーンは補佐官が持って来た資料を見て顔を顰めながら言った。
六十を越えたばかりの白髪の老人である。ミドハドで二番目に大きな惑星に生まれ官僚になった。そして政治家に転身し国の要職を歴任した後選挙に立候補し主席に選ばれた。温和な外見とは裏腹に中々の策士と言われている。
「はい。しかもオムダーマンはあの星系に軍事基地を建設しようとしております」
補佐官は彼に対して言った。
「その基地の建設は今どの位進んでいる?」
ハルドゥーンは問うた。
「情報部の話ですと六、七分位とか」
補佐官は答えた。
「そうか。破壊するのなら今だな」
彼はそれを聞いて言った。
「といいますとやりますか」
補佐官は再び問うた。
「当然だ。今手を打たないと厄介なことになる。すぐに艦隊を出動させよ」
彼は席を立って補佐官に対して言った。
「わかりました。すぐに第一艦隊及び第二艦隊を出撃させます」
「よし。数では負けてはいない。すぐにカッサラをこの手に収めるぞ」
「はい」
こうしてミドハド連合はカッサラ星系に兵を進めた。それはすぐにオムダーマンにも伝わった。
「やはり来たな」
アジュラーンは司令室でその情報を聞いて呟いた。
「すぐに迎撃に向かいましょう」
側にいた参謀はすぐにそう進言した。
「よし。動ける艦艇は全て出撃する。すぐに全軍に知らせよ」
「了解」
参謀はそう言って敬礼した。
「数は向こうの方が多い。気をつけねばな」
「はい。敵は二個艦隊でこちらに向かっているようです」
「そうか。そして何処から来るのだ」
「ミドハド領からまっすぐにこちらに向かって来ております」
「数を頼んでそのまま来るか。あそこにもアステロイド帯があったな」
アジュラーンは壁にかけてる星系の地図を見ながら言った。
「はい。ここでも特に複雑な場所です。しかも磁気嵐が出ております」
「そうか。ならばアステロイド帯と磁気嵐の間に布陣するとしよう」
彼はニヤリと笑いながら言った。
「あとアステロイド帯には機雷を撒いておけ。あそこから突破されると面倒だ」
「ハッ」
「司令、よろしいのですか?」
別の参謀がアジュラーンに対して問うた。
「何がだ!?」
アジュラーンは彼に顔を向けて問うた。
「その布陣ですと正面からぶつかることになりますが」
敵はまっすぐにこちらにやって来ている。その正面に布陣する形となっているのだ。
「それか」
彼はそれを聞いて再び笑った。
「我が軍は一万隻、兵士数にして約百万。敵は二万隻、約二百万です。正面からぶつかるには不利かと」
「そうだな。正面から挑んではならん相手だ」
アジュラーンはまるで他人事のように言った。
「だがそれは普通にやった場合だ」
彼は不敵に笑って言った。
こうしてカッサラ星系を巡るオムダーマンとミドハドの戦いが開始された。オムダーマンはアジュラーンの考え通り磁気嵐とアステロイド帯の間に布陣しミドハド軍を待ち構えた。
「アッディーン准将の方の準備は整っているか」
アジュラーンは旗艦の艦橋において参謀に対し問うた。
「ハッ、既に布陣を終えているとの報告がありました」
参謀の一人が敬礼して言った。
「そうか。ならば良い」
アジュラーンはそれを聞いて微笑んだ。
「この戦いは彼にかかっているからな」
やがて前方にミドハド軍が姿を現わした。
「来ました。数は約二万です」
「予想通りだな」
アジュラーンはオペレーターの言葉を聞いて言った。
「正面から突っ込んで来ますね」
参謀はモニターに映る敵陣のコンピューターグラフィックを見ながら言った。
「うむ。しかも巡洋艦や駆逐艦に護衛された空母が主力だ。これも予想通りだな」
ミドハド軍の得意戦法である航宙機を使った戦術で来るようだ。
「良いか、こちらは守りを固める。対航宙機防衛に重点を置け。まずは徹底して防御する」
「ハッ」
参謀達はそれを聞いて敬礼した。
「充分に引き付けろ。そうすればおのずと勝機が見える。我等が動くのはそれからだ」
敵軍が戦艦の射程内に入った。こうして戦いが開始された。
まずは両軍の一斉射撃で始まった。個々の艦の火力に勝るオムダーマン軍は二倍以上の兵力を向こうに回しながらも敵軍に少なからずダメージを与えた。
「だがそれは計算通りだ」
ミドハド軍第一艦隊司令官であるスールフ大将は不敵に笑ってそう言った。
「数ではこちらの方が上だ。気にせずどんどん進め」
彼は部下達に対して言った。艦隊はその言葉を受けて前へと突き進む。
やはり数がものをいった。オムダーマン軍の攻撃をものともせずミドハド軍は接近して来る。
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