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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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ララバイ編
  EP.11 黒き閃光

 
前書き
 それでは第それでは第11話です。
 よろしくお願いします。 

 
 
「……来たな」
 
――禍々しいのが一つ。魔導士が一人。移動速度から見て……魔動四輪か。
 
 日没の頃、ワタルは定例会会場の裏庭の木の中の一本の上で、息を殺しながら魔力を感知し、マカロフに合図を送った。
 しばらくすると一台の魔動四輪が現れ、会場の裏に止まって鉄の森(アイゼンヴァルト)の一員であると思われる男が現れた。
 
――ん? “死神”エリゴールじゃないな。てっきり奴かと思ったんだが……それにボロボロだし、顔色が悪い。……っ! エルザ達も来たな……よし……。
 
 男を観察していると、よく知った魔力を感知したため、ワタルは男がマカロフと接触した時を見計らって、気取られないように気配を殺して茂みの近くに移動した。
 少しすると、エルザと上半身裸のナツ、グレイ、ルーシィ、そしてハッピーが現れ、男に近寄ろうとした。
 
――しかし……随分フラフラだな、エルザの奴……って、危ねっ!
 
「マスター……クッ」
「エルザ!? ……って、ウワッ!?」
 
 魔力切れか、エルザが少し倒れ掛かったので……本来なら接触するつもりは無かったのだが、ワタルは思わず駆け寄って、エルザの腕を取り、支えた。
 ルーシィにはいきなりワタルが現れたように見えたため、驚いて思わず声を漏らしてしまった。
 
「よっ、と。……大丈夫か、エルザ?」
「ワ、ワタル? ……済まない、大丈夫だ。……それよりマスターを……!」
「落ち着け。マスターなら大丈夫だから、安静にしていろ」
「お前、いつのまに……」
「さっきだ、グレイ。ナツも……えーと、ルーシィ、でいいのか? お前も大人しくしていろ」
「え……あたしの事知ってるんですか?」
「ああ、ミラから手紙でね……」
 
 そう言いながら、ワタルはエルザの容体を調べていた。具体的には瞳孔を調べたり、脈を測ったりなのだが……。
 
「ちょ、ちょっと……ワタル。……近い……」
「我慢しろ……よし、体調に問題は無いな。ただの魔力切れだろう……そんなに魔法を使ったのか?」
「あ、ああ……」
 
 瞳孔を調べた時に近付けた顔や、脈を測った時に触れたひんやりとした手の感触に、エルザは顔を赤くした。
 17歳のルーシィが、これまで見たことないようなエルザの様子に、ははーん、と勘繰るには十分な反応だった。
 
「……エルザ、もしかして……」
「ッ! ワ、ワタル、ルーシィに自己紹介がまだだろう!? そうだろう!?」
「あ、ああ、そうだな。……妖精の尻尾の魔導士、ワタル・ヤツボシだ。よろしく、期待の新人さん」
 
 赤面して慌てた様子のエルザに圧され、ワタルはルーシィに、状況も状況なので、丁寧にだが軽く自己紹介をした。すると、ルーシィはひどく驚いた様子で声を挙げた。
 
「え……ええ!? あなたがワタルさん!? なんか想像と違う……」
「想像って何?」
「! いや、その……アハハハハ……」
「?」
 
 
 
 
 因みに、以下が、ルーシィが受けたワタルに関する説明である。
 
 ナツの場合
「強え奴だ、でもいつかゼッテー勝つ!! でも……」
 
 グレイの場合
「“ストッパー”って呼ばれてんだが……」
 
 ハッピーの場合
「ギルドの“良心”とも呼ばれてるよね。何度ナツやエルザの暴走を止めた事か……だけど……」
 
 エルザの場合
「ま、まあそうだな……強くて、頭もいいな。私の目標だ。しかし……」
 
 そして全員から
「「「「いいか、決して奴を怒らせるなよ……」」」」
 
 震えながらこう言われた日には、“ワタル=危険な男”とルーシィが想像するのも無理もない。
 ちなみにワタルが怒るとどうなるのかは……結局聞けずじまいだった。
 閑話休題。
 
 
 
 
「そうだ、おいワタル! じっちゃん助けなくていいのか!?」
「ああ、大丈夫だ。これ、マスターの策だしな。それに……」
 
 ナツの慌てた声に、ワタルが苦笑しながら答え……
 
「ワタルちゃんの言う通りよ。……それにしても、アンタたち可愛いわね、超タイプ~。ねぇ、ウチに来ない?」
「「いえ、結構です!!」」
「あら、残念ね」
「……まあ見てろよ、今面白ェトコなんだからよ」
 
 ワタルの言葉に、青い天馬(ブルーペガサス)のマスターボブと、四つ首の番犬(クワトロケルベロス)のマスターゴールドマインが続いた。
 
「あの、ワタルさん……この人たちは?」
「ワタルでいいよ、ルーシィ。……青い天馬と四つ首の番犬のマスターだ。……っと、そろそろだな」
「この人たちが……そろそろって、何が?」
「まぁ、見てろって……」
 
 
 
 
「どうした? 吹かんのか?」
 
 ボロボロの男、鉄の森の魔導士・カゲヤマは魔笛・呪歌(ララバイ)を手に、口を付けようとしていたが……二の足を踏んでいた。
 頭をよぎるのは、仲間の正規ギルドの魔導士を罵る声と、指導者の復讐を扇動する声。闇ギルドと化し、マスターが逮捕され、寂れてしまった哀れなギルドの姿。
 そして……
 
『そんな事しても、権利は戻ってこないのよ!!』『もっと前見ろよ、お前ら』『お前の力が必要なんだ!!』『同じギルドの仲間じゃねぇのか!!』
 
 今日、しかも敵として会ったばかりの、魔導士達の声だった。
 
――吹けば……ちょっと吹くだけでいいんだ。それで全部変わる……!
 
 そう思おうとしても、カゲヤマの唇は震え、その心は大きく揺れていた。
 
――……変わる? 何がどう変わるっていうんだ? そもそも変われる保証があるのか? それに……。
 
「変わらんよ」
「!!」
 
 まるで自分の心の葛藤を見透かされているようなマカロフの言葉は、カゲヤマの心をさらに大きく揺らした。
 
「人間全てが強くなれる訳じゃない。弱い奴は弱いままじゃ。だが……弱さは罪にはならない。元々人間なんて、それ単体では生きていけないほど弱い生き物なんじゃからな」
 
 ドクン、ドクン、とカゲヤマの心臓が煩い程に大きく鼓動を刻む。
 この鼓動はまぎれもなく自分が生きている証。それは自分一人の力か? ……否だ。
 
「一人では不安じゃ。それはワシも例外ではない。だから、ワシらは仲間を集め、ギルドを作る。互いに強くなるために、心の弱さ、“恐怖”に負けないために……」
 
 この言葉を聞いているのはカゲヤマだけではない。ワタルたちも、静かにマカロフの言葉に聞き入っていた。
 88年間生きてきて、48年間マスターとしてギルドを支え続けてきたマカロフの言葉は、不思議な説得力を持っていた。
 
「不器用な者は多くの壁にぶつかるじゃろうし、遠回りもするじゃろう。じゃが……それが“悪”だと、いけない事だと誰が決めた? 例え、どんな人間にも――悪人でさえも――明日は訪れる。その明日を信じて、一歩でいいから踏み出してみろ。笑って“今”を生きていくだけの力がきっと湧いてくる……そんな(もの)に頼らなくても、な」
 
――……流石、だな……すべてお見通しだったって訳か……。……スイマセン、エリゴールさん、俺は……。
 
 カゲヤマは、逮捕されたマスターに代わって自分たちを先導し、扇動した男に対し、胸中で謝罪をした後……
 
「……参りました……」
 
――前に、歩き出したくなってみました……。
 
 魔笛を落として、にやりと笑ったマカロフに対して土下座をした。
 鉄の森の野望が潰えた瞬間だった。
 
「じっちゃん!」
「じーさん!」
「おぉ、来たか、馬鹿共め……」
 
 その瞬間、ナツとグレイはマカロフの元に走り寄り、エルザはワタルの肩を借りてルーシィと共に歩いた。
 
「スゲェな、じっちゃん!」
「あい! 流石マスターです!」
「……そう思うなら叩かんでくれぃ……」
「まぁ、一件落着、だな」
 
 さっきの威厳はどこに行ったのか、ナツにペシペシと頭を叩かれているマカロフと安堵の溜息を吐くグレイと、
 
「ほら、大丈夫か、エルザ……?」
「ああ……いや、もう少し肩を貸してくれ……」
「あ、ああ……」
「エルザにこーんな一面があったとはねぇ……」
「ル、ルーシィ……貴様、覚えてろよ……」
「ヒィッ! あ、アンタも早く病院行くわよっ!」
「よく分からないけど、アンタも可愛いわぁ~」
 
 ワタルに肩を貸してもらって少し嬉しそうなエルザをルーシィがからかい、その怒りに触れて誤魔化すようにカゲヤマに話し掛けたりなどと、平和な光景があったのだが……。
 
――っ!? 何だ、この嫌な感じは……!?
 
「……エルザ、少し離れてろ……」
「え?」
 
 近くから、言いようのない不快感のある魔力を感じたワタルがエルザに警告しエルザがそれに聞き返したのと同時に……
 
 
『まったく……どいつもこいつも、根性のねぇ魔導士どもだ……もう我慢できん! ワシ自らが貴様らの魂を喰らってやろう……!!』
 
 
 地の底から響くような声が辺りに響いた。
 
「な……ふ、笛が……」
「怪物に……!!」
 
 正確には、笛から出た煙が呪歌に姿になったのだが……それはこの際重要ではない。
 
――定例会の会場より大きいな……。それにこの禍々しさ……笛がこんなに大きくなるとは……いや、逆か。
 
「どうやらこっちが呪歌(ララバイ)の正体みたいだな……なぁ、鉄の森の」
「な、なんだよ……?」
「呪歌ってさ……“ゼレフ”が係わってたりする?」
「あ、ああ。呪殺の道具を“ゼレフ”が昇華させたものだ、ってエリゴールさんが……」
「じゃ、決定じゃねぇか……ゼレフ書の悪魔だな、あれは」
 
 カゲヤマと話したワタルは、面倒なことになったな、と頭を掻いた。
 
「ちょっと待った! “ゼレフ”って、大昔のあの“ゼレフ”か!?」
「そうだ、グレイ。400年程前に実在していた、魔法界の歴史上最も凶悪だった魔導士。通称“黒魔導士ゼレフ”。あれはその負の遺産の一つだ……ッ!! ヤバい、伏せろ!!!」
 
『引っ込め、雑魚共ォ!!』
 
 グレイの質問に答えると、ワタルは大きな魔力を感知したため、全員に大声で警告した。
 その一瞬後、いきなり光ったかと思うと……山が一つ消えていた。
 
「え……な、何? 何が起こったの!?」
「……呪歌が高出力の魔力砲で近くの軍に対して威嚇射撃、その結果山が一つ消えましたとさ」
「え……ええー!? ちょ、ちょっと大丈夫なの、軍の人たち!?」
「ああ、早々に退却してったよ。そのおかげで……」
 
 心配げなルーシィの問いに、ワタルは淡々と答えたが……
 
『さーて、どいつの魂からいただこうか……』
「……呪歌がこっちに来たんだがな」
「ひーーーー!!」
 
 溜息交じりのワタルの説明に、ルーシィは悲鳴を上げた。
 
「なにーー!? ……なぁ、魂ってうめぇのか!?」
「知るかっ!!」
 
 ギルドでするものと同じノリでの会話に、ワタルは少し苦笑すると、言った。
 
「さーて、と……ナツ、グレイ! ……お前たちは手を出すな」
「「はぁ!?」」
 
 ナツとグレイはそろって聞き返し、ルーシィは戦慄したように言った。
 
「え……それほど危険ってこと!?」
「いや、違う。今回、俺通信での指示と見張りぐらいしかやってないからな……正直暴れ足りないんだよ。……あの程度の悪魔に、援軍も要らないしな」
「でも一人じゃ……」
 
 準備運動をしながら軽く言うワタルに、心配そうなルーシィだったが……
 
「……分かったよ、お前が言うなら大丈夫だろ」
「ちょ、グレイ!?」
「サンキューな、グレイ……ナツはどうする?」
 
 グレイはワタルの頼みを了承した。
 ナツも初めは嫌そうな顔をしていたが、何か閃いたのか、好戦的な笑みを浮かべながら言った。
 
「……分かったよ。でも代わりに……帰ったらオレと勝負しろ! エルザの後で、だ!!」
「ああ、いいぞ。帰ったら真剣勝負な」
「軽ッ!? ……じゃなくて! いいの、あんな怪物相手に一人で!?」
 
 ルーシィは信じられない様子で、他の人にワタルを止めるように言ったのだが……
 
「あい、それがワタルですから」
「そうだな、ワタルだしな」
「ああ、ワタルだからな」
「ええー!? あたし!? あたしがおかしいの!?」
 
 ハッピー、ナツ、グレイの言葉に叫ぶルーシィだったが、エルザに声を掛けられた。
 
「ワタルなら大丈夫だ。それに……よく見ておけ、彼の戦いを……といっても、見ようとして見られる物でも無いがな……」
「え? それってどういう……?」
 
 ルーシィはその意味をエルザに聞こうとしたのだが……呪歌が動き始め……急によろけた。
 
『決めたぞ! 全員一緒にまとめて……ガッ!?』
「遅い……悠長なもんだな、この俺を前にして。……気に入らないな」
『こ、このガキがあぁっ!!』
「え……えっ!? いつの間にあんなところに!?」
 
 さっきまで目の前で準備運動をしていたワタルは、ちょっと目を放したら、攻撃を放とうとしていた呪歌の顎の下で、左の掌を振り抜いていた。
 怯んだ呪歌はワタルの挑発に激昂し、ルーシィはワタルの速さに驚いた。
 
「ワタルの右手に忍者刀があるでしょ? あれはワタル自身の身体能力を高める効果があるんだ」
「じゃ、じゃあよろけさせたのは? 何か攻撃をしたようには見えなかったけど……」
「あい、“魂威”だね。ワタルは、体から純粋な魔力を放出させることができるんだ。だから、触れるだけでダメージが与えられるし、その副作用で魔力に関しては敏感なほどに感覚が鋭くなってるんだって」
「……ああ、だからさっきも攻撃の前に『伏せろ』って言えたのね」
 
 ハッピーの説明にルーシィは納得した。
 
「それでね……」
「そう、それがワタルの真骨頂だ。魔力の探知による先読みで、常に相手の二手三手先を行き、優れた戦術眼で相手の出鼻を挫く。時には死角から姿を見せる事無く、時にはそのスピードで翻弄しながら敵を撃つ。対峙した者が目にするのは、黒髪が残す残像と、“魂威”による一瞬の光のみ。だからワタルは “黒き閃光(ブラック・グリント)”の異名を取っているんだ」
「エルザ、説明(それ)オイラの役目だよ~!」
「“黒き閃光(ブラック・グリント)”……。確かにあたしには見えないし……やっぱり凄いんだなぁ……」
 
 今のルーシィに見えているのは……その異名通り、黒い残像と光のみだった。呪歌の体に小さな傷が幾つもできていることから、呪歌の近くにいるのだろうが……姿は見えないのだ。
 因みに、エルザに割り込まれたハッピーは涙目になって抗議をしていた。
 
「……ところで、エルザ……」
「何だ、ハッピー?」
 
「ワタルの事になるとエルザって饒舌だよね、それってやっぱモガガガガ……!」
「……ん? ルーシィ、お前も何か聞きたいのか? うん?」
「いえ、なんでもありません!!」
 
 ハッピーの出歯亀精神を圧し折ったのは、エルザの容赦ないアイアンクローだった。
 もちろん、それを目の当たりにしたルーシィには、それ以上踏み込む度胸は無く、ただ従った。
 
 
 まあ、それはそれとして……ワタルの方も、戦況が動こうとしていた。
 
『ええい、ちょこまかと……!』
 
――……決定力不足だな……切っても、片手の“魂威”でも……この巨体だ、ダメージは少ない。
 
 張り付けば大きな攻撃は喰らわないものの、こちらも小ぶりな攻撃しか出せない。そのため、幾つか呪歌の体に穴をあけてはいるが、倒れる様子は無かった。
 
「だったら……これでどうだ!?」
 
 忍者刀から鎖鎌へ換装。スピードは遅くなったものの、五感の強化によって攻撃を躱していき……隙を見つけた。
 
「ッ、そこだ!」
『!? 上ってきた!?』
 
 肩に上って、鎌を呪歌の口に引っ掛けると、全力で呪歌の後方へジャンプして、鎖を引っ張る。
 そうすれば当然……
 
「うおらああぁぁあ!!」
『グッ、後ろに……ウオッ!?』
「あの巨体が……倒れた!?」
 
 呪歌の巨体は後ろに倒れた。いわゆるアオテンだ。
 そしてそれは……又とない程の攻撃チャンスだった。
 
「今だ! “魂威・爆”!!」
 
 カッ……ドゴオオォォォン!!!
 
『ゴォアッ!?』
 
 “魂威”による光が一瞬光った後、呪歌の胴体で爆音が響いた。
 
 “魂威”とは、魔力を放出、もしくは直接流し込む技である。そして“魂威・爆”とは、流し込んだ魔力を、体内で爆発させる、という殺傷能力の高い危険な技なのだ。
 “魂糸縫合”と同じ、とまではいかないが、それなりに集中力と繊細なコントロールを必要とする技なので、隙を作る必要があった。何せ、失敗すれば自分の体内の魔力を爆発させる事になるのだから。
 
「ハッ、風通しが良くなったじゃねぇか」
 
 呪歌の右脇腹を大きく抉り取り、ワタルは挑発をしながらも、感じた手応えが確かなものである事を確認した。
 
『グゥ……オノレエエエエェェェ!!!』
「ッ! させるか!!」
 
 呪歌は口から光弾を発射、狙いは……エルザ達だ。
 
「“魂威・防壁”!! ……オイコラ! 余所見とは……随分余裕があるな、あん!?」
 
 “魂威・防壁”は、鎖鎌装備時の専用技だ。通常の“魂威”は、攻撃はもちろん、防御にも使えるが……所詮掌だけの点の防御だ、範囲は狭い。
 “魂威・防壁”は、鎖鎌の鎖で円や多角形などの図形を描き、そこに鎌から伝えた魔力を膜のように張って、面の防御を可能にする防御専用の技である。
 
 一対一(サシ)だ、と思っていたら、他の場所を攻撃された。この事は、ワタルに自分の事を蔑ろにされたような気分にさせ、ちょっとした怒りを抱かせた。
 鎖鎌から手裏剣へ換装、そして投擲。狙いは左足の切断。
 右脇を大きく抉られて、バランスを保てていない呪歌はあっさりとそれを許し、左側に倒れようとしたが……。
 
「……まだ倒れるのは早いぞ!」
『グゥ……この、化け物があぁぁ!!』
 
 再び鎖鎌を構え、左側の鎌を投げた。魔力による操作で呪歌の右腕を絡め取り、その体が水平になるように固定。右手の鎌を足元の地面に刺して固定すると、鎖を足場に高く跳んだ。
 
「化け物は……」
『な、なにぃっ!? 動けん!!』
「お前だろうが!! “二掌魂威・双槍”!!!」
『ガッ……バ、バカ、な……』
 
 落下の勢いで、両手を使った“魂威”を決めると、呪歌は倒れこみ……そのまま消えた。
 
「お前ならこれぐらいは当然だな」
「ひっでぇな、ちょっとは心配してもいいんじゃないの?」
「必要ないさ。お前が強いことぐらい知っているしな」
「……フッ、そうか」
 
 エルザが腕組みをしながら言うと、ワタルは苦笑しながら返した。少し前に、自分がミラに言った言葉と、同じ事をエルザが言い、それがなんだか嬉しかったのだ。
 
「ゼレフの悪魔を……あっさりと、それも一人で……!」
「驚いた……これが音に聞こえた妖精の尻尾の“黒き閃光”か……!」
「いきさつは分からんが……妖精の尻尾には借りができちまったみたいだなァ」
「なんのなんのー! ふひゃひゃひゃひゃ……ひゃ、ひゃ……は……!!」
 
 マカロフは、ギルドマスターたちの言葉に気を良くして高笑いをしたが……ある事に気付いて、固まり、そーっと逃げ出そうとした。
 
「ん……? って!!」
「なんじゃ? ……これは!?」
 
 ギルドマスターたちがこれを不審に思って、マカロフの視線の先を見てみると……
 
「定例会の会場が……粉々になっとるー!!?」
「ははっ! これまた見事にぶっ壊したなぁ、ワタル!」
「笑い事じゃないぞ、ナツ。しかし……やり過ぎたな、これは……」
 
 最後に倒れた呪歌が会場を押し潰して辺りを瓦礫の山と化し、山も幾つか消えていた。
 マスターたちは唖然として言葉もない様子だったが、ナツは快活に笑い、ワタルはアチャー、と頭を抱えた。
 
「妖精の尻尾の魔導士を捕まえろー!!」
「よーし、任せろ!」
「お前も捕まる側だぞ、ナツ……って、言ってる場合じゃない、逃げるぞ!!」
「やり過ぎだぞ、ワタル! ……申し訳ありません、マスター」
「いーのいーの、どうせもう呼ばれないじゃろ?」
 
 そう言うと、妖精の尻尾の魔導士たちは、ギルドマスターたちから逃げ出した。
 
 
「……どうだい、期待の新人。妖精の尻尾……楽しめそうか?」
「……やり過ぎなところは否めないけど……」
 
 ワタルの走りながらの問いに、ルーシィは少し複雑そうな顔をしたが……すぐに笑って答えた。
 
「……うまくやっていけそうです!!」
「そりゃよかった……何だよ、エルザ?」
「……フン、何でもない!」
「えー……」
「あははは!」
「ハァ……」
 
 ワタルも安心して笑って返すと、エルザが不機嫌そうに睨んできた。
 聞いてもそっぽを向いたエルザに対し、ワタルは首を捻り、ルーシィは可笑しそうに、ナツは何の事か分からないようだが笑って、他の者はやれやれ、とでも言う風に首を振った。
 
「ったく、なんだってんだよ……」
 
 平和なやり取りに、さっきまで悪魔と戦っていたんだがなぁ……、と軽く悪態をついたワタルだったが……その顔は笑っていた。
 
 
 

 
後書き
 ララバイ編終了です。たった二話だけど。
 感想、意見等ありましたらよろしくお願いします。 
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