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スコール

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第一章

                      スコール
 古田勝大は背は一七四程だ。薄い眉にまだあどけなさが感じられる奥二重の目とやや大きめの薄めの唇に細く適度な高さの鼻を持っている。
 肌は白く身体つきは細いが決して痩せてはおらずしなやかな感じだ。細い黒髪を女の子で言うショートヘアの感じにしている。
 その彼が今恋人の吉田有紗と待ち合わせていた。だが。
 彼は今苦しんでいた、それが顔に出ていた。
 今彼は丁度駅前のベンチの傍に立っている、座ることはできなかった。
 炎天下だ、そこに座ってはかえって暑くなる、それで座ることもできなかったのだ。
 駅前を行き交う誰もが暑さに参ってこんなことを言っていた。
「暑いな、今日」
「四十度あるってよ」
「アスファルトはこんな時辛いよな」
「こんな時こそゲリラ豪雨だろ」
「最近夕立もないしな」
「これも温暖化の影響か?」
 どこぞのキャスターの言葉も出る。
「全く暑いにも程があるな」
「どれだけ暑いんだよ」
「夏は暑いにしてもな」
「さっさと家に帰ってシャワーでも浴びたいな」
「ああ、本当にな」
「ちょっとな」
 こうした言葉が聞こえてきていた。そしてそうした言葉が勝大を余計に暑さを感じさせていた。そしてだった。
 携帯を出して相手に尋ねた。そうせずにはいられなかった。
「ねえ有紗ちゃん」
 待っている相手に何時来るかメールで尋ねたのだ。
「今何処かな」
「電車の中よ」
 メールで返ってきた。
「今隣の駅出たところだから」
「あっ、そうなんだ」
「そう、だからもうすぐだけれど」
 だがそれでもだと。メールで言ってくるのだった。
「暑いのよ、今」
「そんなに?」
「そう、クーラー壊れてて」
 車両のそれがだというのだ。夏の電車でそうなると蒸し風呂になる、窓を開けないといていられるものではない。
「今大変なのよ」
「窓開けてるよね」
「開けてるけれどね。それでも」
 暑いというのだ。そうしたことをメールで告げてだった。
 相手は最後にこう勝大にメールで言ってきた。
「もうすぐだから待っててね」
「うん、それじゃあね」
 勝大も返信する、そうしてだった。
 彼は今は何とか待っていた、うだる様な暑い炎天下の中で駅の向こう側をじっと見ていた、そしてすぐにだった。
 赤い電車が停まり暫くして黒く長い髪を後ろで一つに束ねた少女が来た。素朴な感じの童顔で鼻は少し丸い。二重の瞳はアーモンド型でやはりあどけない感じだ。眉は薄い。 
 背は一六四程ですらりとした感じだ、上はラフな白いタンクトップで下はクリーム色の半ズボンだ、かなり涼しい格好である。
 だがこの少女有紗もうんざりとした顔でこう言うのだった。
「暑いわね」
「電車の中窓開けてたよね」
「それでも暑かったのよ」 
 そうだったというのだ。
「だって風もなかったし」
「確かに今もないね」
「今何度なの?」
「四十度位じゃない?」
 勝大は顔の汗をタオルで拭きながら有紗に答えた。
「これだけ暑いと」
「それだけあるの」
「あるんじゃない?やっぱり」
「嫌になるわね。けれどね」 
 有紗は今の暑さにうんざりとしながらも希望を以て勝大に言った。
「それもね」
「うん、映画館に行けばね」
「映画館の中はクーラーがあるから」
 有紗はそれに希望を以持っているのだ。
「だから中で涼みましょう」
「そうだね。じゃあとりあえずは」
「何か冷たいもの飲む?」
「アイスティーとかどうかな」
 勝大は微笑んで有紗にこれを薦めた。 
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