星河の覇皇
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第六部第四章 ゲリラその四
すぐに中にいる制服の男達が席を立ち彼に敬礼する。彼はそれを受けて返礼すると彼等を席を着けさせた。
それから自分の席に着く。そして言った。
「今回の会議ですが」
「はい」
元帥達が彼に顔を向ける。
「新たに発見された解放軍の秘密の道です」
ここで彼は三次元モニターのところにいる士官に合図を送る。すると彼はモニターのスイッチを入れた。
そこに解放軍の勢力圏のアステロイド帯の地図が映し出される。そこには新たにマウリア側から続く一つの道が書き込まれていた。
「この道が新たに発見されたことは大きな意味を持つと言っていいでしょう」
「そうですね。やはりまず山口達を押さえたことは大きいと思います」
マナドが言った。
「そうでなければその道を発見することはできなかったでしょうから」
「はい。これには連合警察との共同作戦が功を奏しました」
「ドトール長官ですね」
「ええ。あの方の独自の捜査から発見されました」
「流石ですね」
ドトールの捜査能力は有名である。
「流石は敏腕刑事で鳴らしたことはある」
バールが称賛の言葉を述べた。
「確かかっては名刑事だったそうですね」
「そうらしいですね」
八条がそれに応えた。ドトールは刑事として名を馳せそこからキューバ警察長官となり、連合中央警察長官に抜擢されたのである。あくまで刑事であったのだ。
「おそらくその能力を生かされたのでしょう。しかしそのおかげでこうしてこの道を見つけることができました」
「はい」
元帥達は頷いた。だが内心では別のことを考えていた。
(内相との話し合いでは相当苦労されただろうな)
(よく話がまとまったものだ、あの鉄の女と)
彼等も自分達の長官と内務省の女教皇の仲は知っていた。金はそのあまりもの潔癖さと厳格さから『内務省の女教皇』とまで呼ばれていた。タロットカードからとられているが実際のカードの意味とは全く違っている。ちなみに八条は若き皇帝とされている。こちらは例によって若い娘達によって名付けられている。
「さて、問題はこの道をどう使うかです」
八条は彼等の心の中はおおよそわかっていたがとりあえずはそれを置いておいた。そして話を続けた。
「今までの作戦計画に倣うと封鎖するのが妥当ですが」
既に連合軍はマウリア軍と協同して解放軍の包囲に取り掛かっていた。この道はマウリア側にその入口がある。
「それについては皆さんはどう思われますか」
「はい」
まずはモハマド元帥が手を挙げた。
「それについて考えがあります」
「はい」
八条は彼が手を挙げたのを見て内心やはり、と思わずにはいられなかった。
「地の利は彼等にあります。それを考えるとこの道を封鎖し長期に渡って兵糧攻めにするべきであると思います」
「つまり現状の作戦通りにするべきだと」
「はい、私はそう考えます」
彼はそれを受けて頷いた。
「時間こそかかりますがこれが最も確実な方法ではないでしょうか」
「ふむ」
八条はそれを受けて考える顔をした。
「わかりました。ではまずはこの意見を第一案と致します」
彼は元帥達を見回してそう伝えた。
「他に意見はありますか」
「はい」
ここでクラウスが手を挙げた。
「私はモハマド司令とは別の考えです」
「といいますと」
「はい。発言して宜しいでしょうか」
「どうぞ」
他の者の発言を禁じるような八条ではない。当然それを認めた。
「では」
クラウスはそれを受けて席を立った。そして口を開いた。
「まずは兵を増やして頂きたい」
「現在の百個艦隊よりもですか」
「はい。倍は欲しいです。それをまずお願いしたいのですが」
「ふむ」
八条はそれを聞いて口に手を当てた。
「まずはその理由をお聞かせ下さい。それ次第です」
「はい」
クラウスはそれを受けて話をはじめた。
「攻め込む為です。まずは今回発見された道に主力を向けます」
「はい」
「そして他の道からも軍を向けます。道を確保しながら少しずつ兵を進めていきます」
「当初の侵攻計画と同じですね」
「はい。ですが主力をマウリア側からの道に向けていると事情がかなり違ってくると思います」
「といいますと」
「解放軍の目がそちらに向かわざるを得ないからです。そして彼等はその道に多くの伏兵を配するでしょう」
「そうでしょうね」
これは当然予想される事態であった。ここにいる全ての者が容易にそれを予想できた。
「そこで他の道からも兵を向けるのです。ですがそれは今までの百個艦隊では不十分であると考えます」
「それは何故でしょうか」
八条はそこでまた問うた。
「地の利は彼等にあります。おそらく後方の撹乱に出て来るでしょうから。その為に兵はより多く欲しいのです」
「成程」
これは奇しくも今南方でアッディーンが採っている戦略と同じであった。だが彼等はそれは知らない。
「そしてジワリジワリと進んで行きます。そして彼等を包囲の中に包み込むのです」
「心理的にも圧迫を加えていくのですね」
「はい、それも考えています。そうすれば内部分裂も誘うことができましょう」
「そうなれば討伐はより容易になりますね」
「そうですね。そしてこちらに向けられる兵も減ります」
「ふむ」
八条はその整った眉を微かに動かした。
「長官はどう思われるでしょうか」
クラウスはその眉の動きを見て彼に問うた。八条はそれに答えた。
「悪くはないと思います。ですが中には狭い道も多い。ティアマト級戦艦が通過出来ないような道もありますね」
「はい、そこは他の艦艇で押さえていかなければなりません。また後方の航路確保にはパトロール艦も有効であると考えます」
「元々そうした任務の為の艦ですからね」
「後は個々のアステロイドに配備されている砲座やミサイルに注意して進めていけばよろしいかと。そして彼等の本拠地を目指すのです。それでどうでしょうか」
「私としてはそれで反論はありませんね」
八条は落ち着いた声で答えた。
「他の方はどうでしょうか」
ここで彼は列席者見回した。見たところ反論する者はいない。
「モハマド元帥もそれでよろしいでしょうか」
「はい」
ここで一同は反論が出るものと思っていたがその予想は外れた。意外にも彼はそれに同意したのだ。
「私もクラウス元帥の考えに賛成致します」
「そうですか」
八条はそれを聞いて頷いた。
「では裁決をとります」
彼は立ち上がって一同に言った。
「今回の解放軍討伐はクラウス元帥の案に基づいて進めていくことにします。それで宜しいでしょうか」
「ハッ!」
皆一斉に席を発った。そして八条に向けて敬礼をする。これは反論んし、ということであった。
「わかりました」
彼はそれを受けて頷いた。
「ではそれで進めていくことにします。作戦の総司令官はクラウス元帥」
「ハッ」
彼はそれを受けて敬礼した。
「スタッフは南西地区の者よりクラウス元帥が選ぶものとします。参加兵力は二百個艦隊、四億」
これだけでマウリアの全兵力に匹敵する。連合軍の巨大さがわかるものであった。
「攻撃目標は解放軍及びその本拠地、目的は海賊掃討」
あくまで正規戦ではないと規定した。これには政治的意味合いもあった。
海賊を正規軍と認めるわけにはいかないのだ。そこにまたゲリラ等とみなしてもいない。あくまで犯罪者として取り扱う必要があるのである。これはそこに付け込もうとする怪しげな団体の介入を排除する為でもあった。現に彼等は山口率いるニアー=オリエント社と結託していたのであるから当然であった。
「では作戦発動は三ヵ月後とします」
「はい」
時刻も決定された。いよいよ全てが整ってきた。
「ではこれで会議を終わります。勝利を我等が手に」
「ハッ!」
元帥達が最後に再び一斉に敬礼した。こうして会議は終わった。
会議が終わった後モハマドとクラウスは二人で食事を採っていた。場所は国防省の食堂である。
連合軍においては食堂は一つになっている。将校も下士官も兵士も関係ない。皆一つの場所で同じような食事を採っている。時には八条もここで食事を採る。
これも連合軍の特徴の一つであった。連合軍には階級は確かに存在するがその居住や食事には区別はなされてはいないのだ。
ここには一つの事情がある。やはり待遇であった。
「連合軍では一兵士も昔の将校と同じ待遇が得られる」
そう宣伝しているからにはこうしたことになるのも当然であった。またここには断絶しがちな将校と兵士の関係を結び付けるという意味もあった。
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