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蝮の槍

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第二章

 道三はその深芳野のことも考える様になった。それでだ。
 密かに腹心の者達、彼がここまでなるまでに色々と助けてくれた者達に対してこう相談したのだった。その彼等にだ。
「殿の側室の方じゃが」
「深芳野殿ですな」
「あの背の高い方ですな」
「ただ顔や髪がよいだけではない」
 それに留まらないというのだ。
「いや、あの背の高さじゃ」
「普通のおなごよりも遥かにですな」
「相当な高さですか」
「男でもあそこまで高い者はおらぬ」 
 この時代でもそうだった。とにかく深芳野は高かった。その背の高さも道三にとっては惚れる部分だった。それでだった。
 彼は腹心達にこう言ったのである。決めた顔で。
「欲しいのう」
「殿がですか」
「そう決められたのですか」
「わしの側室に欲しい」
 是非共にという口調だった。
「まことにな」
「しかしそれはです」
「難しいですぞ」
 この時代主君が家臣に自分の側室を下げ渡すことはよくあった。正室ならいざ知らず側室はそうしてもよかったのだ。江戸時代でもこれはあった。褒美の一つでもあったのだ。
 それで頼芸から深芳野を貰うこと自体は問題ではなかった。しかしだった。
「深芳野殿は頼芸様の一番のお気に入り」
「そうおいそれとは頂けませぬぞ」
「あの方だけはどうも」
「幾ら殿が頼芸様のお気に入りといっても」
「そうじゃな。ここは余程の手柄を立てるか」
 道三自身もわかっていた。幾ら自分が頼芸のお気に入りであり深く信頼されていても深芳野だけは容易くは貰えない。切れ者の彼がわからない筈のないことだった。
 それで腹心の者達にも今密かにこう話したのだ。それでだった。
 彼はここでこうも言ったのだった。
「相当な芸を見せるか」
「芸ですか」
「殿の」
「それこそ油を銭に通して銭が奇麗なままでおる様にな」
 他ならぬ彼が油売りの時に見せた芸だ。
「それをするか」
「しかしそれはもうしておられますし」
「それでは無理かと」
「わかっておる。そうじゃな」
 ここでまた言う道三だった。
「頼芸様にとびきりの芸をお見せするか」
「してその芸は」
「一体どういうものですか」
「槍を使う」
 道三は言った槍は彼の得意とする芸の一つだ。
「それを使ってじゃ」
「そうしてですか」
「そのうえで」
「うむ、深芳野殿を貰うとしよう」 
 こう腹心達に述べた。
「それしかないわ」
「槍を使って何を為されるか」
「それが問題ですな」
「少し考えてみる」
 槍といっても使い方は様々だ。今回はというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「ここは殿にお任せします」
「その様に」
「若しあのおなごを手に入れられれば」
 道三は見事それが成った場合について話す。あえて楽観的に考えての言葉だった。
「後貰えるのは」
「まだありますか」
「それは」
「国しかない、いやこれは言わぬでおこう」
 己の野心は密かにした言葉だった。にやりと笑ってのことだ。 
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