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星河の覇皇

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第六部第三章 奸物その三


 連合では解放軍征伐に向けて国防省が動き続けていた。その一方で商務省もまた仕事に追われていた。
「遂に彼等が来るのか」
 連合商務相はシギット=フンプスという。インドネシア出身である。金色というよりは黄色に近い髪に灰色の瞳を持つ五十代の男である。インドネシアの富豪の家に生まれ大学を卒業後父の企業の重役を務めた後中央政府の議会に立候補した。そしてキロモトの政党で貿易において力量を発揮し商務長官に任命された。ちなみに彼が家の総帥とならなかったのは彼が次男であったからである。今家は兄が継いでいる。ちなみに母はユダヤ系であり髪と瞳は彼女から受け継いで
いる。そして肌の色は父から受け継いでいる。褐色の肌に不思議と黄色い髪が合っていた。
「何かえらく深刻そうですね」
 側に控える秘書官がそれを見て怪訝そうに尋ねた。
「彼等を知っているだろう」
「ええ」
 上司の問いに答えた。
「しかしいつものことですし。特にそう警戒することはないでしょう」
「それは普通の企業家が相手だった場合だ」
 彼は言った。
「彼等は普通の経営者ではないのだ。言うならば巨人だ」
「しかし閣下のご実家もそうなのでしょう?」
「それはそうだが」
 彼の家のことはもう誰でも知っている話であった。
「だが規模が違い過ぎる。それに」
「それに?」
「彼等の人としての器だ。とても私なぞの及ぶところではないのだ」
「またえらく弱気ですね。閣下らしくもない」
「君にもすぐにわかる」
 彼は憮然としてそう言った。
「この連合の真の企業家達というものがどの様なものかをな」
「真の企業家ですか」
「そうだ。案外少ないがな」
「はあ」
 そういった話をしているうちに三台の車がやって来た。
「来ました」
 官僚の一人がフンプスに伝えに来た。
「そうか」
 彼は頷いた後でその官僚に対して指示を下した。
「応接室に案内するように」
「わかりました。ただ」
「ただ?」
 フンプスはその言葉に問いを入れた。
「思ったよりずっと質素な車でした。アメリカのノース=ウエスト社の高級車にでも乗って来るかと思ったのですが」
「普通の企業家ならな」
 フンプスは彼に言った。
「だが彼等は普通の企業家ではない。さっき君にも言ったな」
「はい」
 傍らに控える秘書官が答えた。
「彼等は真の企業家だ。あれは自身の会社の車なのだ」
「そうだったのですか」
「それも標準モデルの車だ。彼等はいつもそれに乗っている。時には自分で運転することもある」
「それはまた」
「そうでないと何処が良くて何処が悪いかわからないだろう。彼等はそこまで見ているのだ」
「何と」
 これには秘書官も官僚も驚いた。
「さて」
 ここでフンプスは立ち上がった。
「行くか。彼等より先に部屋に入っておきたい」
「わかりました」
 二人はそれに従った。そして執務室を出た。
「君達もかなり多くの企業を見てきただろう」
 フンプスは歩きながら後ろについて来る二人に対して話し掛けていた。
「はい」
 二人はそれに答えた。
「だがまだ若い。時にはその中に巨人もいる」
「巨人ですか」
「そうだ。一度それを見ておくといい。アナハイムのベニョーコフ社長も凄いがまだ若い」
「ベニョーコフ社長ですらですか」
「そうだ。かって二十世紀のアメリカにはロックフェラーという大企業家がいた」
「ええ、それは知っています」
 一代でアメリカ最大のグループを築いた男である。慈善家としても知られその存在は生前から伝説的存在となっていた。
「そして日本の松下幸之助」
「彼も有名ですね」
「うむ」
 丁稚奉公から身を起こし、やはり一代で日本を代表するグループを築き上げた。『経営の神様』と呼ばれ奇跡とまで言われた第二次世界大戦後の日本の復興の象徴の一人であった。
「そうした伝説的存在に匹敵すると言ってもいいな。そう、あのリー=チャクラーンに近いかもな」
「チャクラーンにですか」
 一介の商店街の店長から身を起こし瞬く間に連合最大の財閥を築いた男である。やはり伝説的な経営手腕で知られ今でもその築き上げた財閥は連合の財界において大きな力を持つ。彼の祖国タイにおいては英雄視されている程である。経営者もまた英雄なのが連合である。まさに立志伝中の人物であった。
「それだけの人物達だ。本当に見ておくといい」
「わかりました」
 二人は答えた。そしてフンプスに従い応接室に入った。南方調の暖かそうな配色の部屋である。
 やがて三人の老人達が入って来た。彼等は皆スーツに身を包んでいた。
 一人は面長で一重瞼と厚い唇を持つ男であった。姿勢はよく、威風堂々としていた。彼の名はフェリペ=カレーラス。フィリピン出身で船舶会社を中心にホテル、旅行、レジャー各産業で知られるバイソングループの総帥である。一度低迷していたこのグループを連合屈指のグループに戻した中興の祖として知られている。
 次に入って来たのは豊かな白髪を持つ黒人の老人であった。大柄で筋骨隆々とした身体を持っている。彼はチバチ=マウムという。カメルーンにおいて偉人とすら讃えられる人物である。やはり彼も船舶会社を中心にしているが演劇や百貨店で有名である。彼の持つグループはファランクスグループという。彼は演劇の世界で特に知られその世界でも讃えられている。
 そして最後に来たのは眼鏡をかけた小柄な男であった。彼は白人であったが少し顔立ちが違う。肌も少し黒い。彼はパプワニューギニア出身であり父がニュージーランド人なのだ。マオリ=ポートという。姓は父のものである。彼の企業はイーグルグループといいやはり船舶会社中心だ。だが彼はレジャーに力を入れている。やはりその世界で大いに名を知られている。
「ようこそ」
 フンプスは笑顔で彼等を迎えた。彼等はそれに対して笑顔で返した。
「いやいや」
 彼等もそれに対して笑顔で返した。そして手を差し出してきた。
 フンプスは彼等の手をそれぞれ握った。どれも歳の割に温かく、力強い手であった。
 握手を終えると彼等は席に着いた。見れば椅子に座るその姿も堂々としていた。
「ところで」
 フンプスは雑談から入ることにした。まずは雰囲気をほぐしておきたかったからだ。
「カレーラスさんのところの野球チームは昨年は凄かったですね」
「ははは」
 カレーラスはそれを聞くと上機嫌に笑った。
「いや、これが。マウムさんのところと最後までもつれましたからな、前期は」
「そして後期はポートさんところと」
「はい」
 実は彼等はそれぞれ野球チームも持っているのだ。しかも同じリーグでグループで、である。
「両方共実に強いですからな。けれど何とか勝つことができました」
 連合におけるスポーツで人気がある球技は野球、サッカー、バスケットボール、アメフト、バレーボール、ソフトボール、ポロ、ホッケーと極めて多彩だ。他にも色々ある。どれもプロリーグがありそれぞれのリーグ、グループに分かれている。これはあまりにも競技人口、そして地域が広い為とても一つに出来ないからだ。おおむね半年かそれ前後の期間でペナントを行い、そしてそこの優勝チームが地球に集まりそこで総当り戦をする。そしてそこで上位のチームがさらに争いようやく連合一のチームが決まるのである。もっともそれも複数の系列があるのでそこからまた戦いがある。連合はスポーツにおいても極めて競争が激しいのである。そして実は企業といえどそのチームを簡単に手放すことはできない。合併は許されていない。それぞれの地域にチームがなければならないとの考えからだ。最悪でも身売りしなければならない。間違ってもオーナー達の都合で縮小なぞ許されないのだ。若し企んだ場合は死ぬ。これは冗談ではない。以前とあるマスコミの大企業の総帥がそれを企んだところ忽ち義憤に燃える民衆により会社ごと虐殺された。これ以降マスコミがスポーツ経営に関わることは連合中央政府及び各国政府の法律で厳禁とされた。マスコミの腐敗し易さと自浄能力のなさを考えるとこれは極めて当然であった。
 ちなみにコミッショナーと言われる存在も一つのスポーツで一人ではない。複数の系列があり、そこにそれぞれいるのである。一人の筈がなかった。
 流石に三兆もの人口がいるとそれだけの競技人口が存在する。だからこそかなりの規模になるのだ。
 大体一リーグの一グループで八チームである。彼等はその中の一つに存在しているのである。
 
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