星河の覇皇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一部第二章 銀河の群星その九
「それにしても彼等を経済面で牽制して欲しい、か。難しいことを言ってくれるわ」
彼女は微笑みながら言った。
「けれどやるわね。軍事以外のところから攻めようと考えられるなんて。流石は私の愛弟子」 そう言うと再び電話を手に取った。
「もしもし、私だけれど」
彼女は部下に電話をかけた。
「すぐに経済産業省と財務省、そして通産省、あと内閣調査局長官を呼んで。至急に話したいことがあるの」
こうして首相官邸に三人の大臣が入った。
それから暫く後米中露等を中心に金権スキャンダルが起こった。連合議会に対する不正献金疑惑だ。疑惑は疑惑であり確固たる証拠は遂に見当たらなかったがこれにより軍に対して悪い意味で何かと干渉しようとしていた中央議会の議員達は大人しくなった。
「一歩間違えたら軍部の横暴と言われかねないところよ」
伊藤は日本に会談にやって来た八条に対して言った。
「それは私も危惧していましたよ」
彼は微笑んで言った。このような話をする時でも気品を漂わせる笑みだ。
「しかし我が軍の最高司令官は紛れもなく大統領にありますから。それに対し侵害を計るような連中こそ問題でしょう」
「確かにね。もう連合軍は彼等の軍じゃないのだから」
伊藤はそれを聞いて言った。
「軍の指揮権は確立されておかねばなりませんから。まあだからといって統制されなくてよいというものではありません」
「それは正論ね。文民統制、かなり昔からある言葉だけれど」
「私もこうやって軍服は着ていますが身分上は紛れもなく文民ですからね。しかしそれに付け込んで軍を自分達の意のままにしようとするのは見逃せません」
「けれど連中はそう簡単には諦めないわよ」
「でしょうね。議会は相変わらず大国の利害の衝突の場という一面がありますから」
これはなかなかなおりそうにもなかった。議員がそれぞれの国から選ばれる以上仕方ないところもあった。
「政党よりも地域、というところがあるわね。我が国から出ている議員達もそうだけれど」
伊藤は渋い顔をして言った。
「我々の弱点ですね。それがよいところでもあるのですが」
長所が短所、というわけである。連合の多様性は時としてまとまりの悪さとなるのである。
「キロモト大統領も苦労しておられますよ。自分の政党の者達を説得するのが最も大変だと」
政党にいる政治家達も各国ごとに入り乱れている。政党よりもその国の有力な議員の主張に賛同する傾向があるのだ。
「こういったところはアメリカや中国が羨ましいですよ。緩やかな連邦制なのに政党政治はとりあえずまともに機能しているのですから」
「それを言ったら我が国や台湾の方が普通の政党政治になってる気がするけれどね」
アメリカや中国はそれぞれの星系の主張が強く選ばれる政治家もその星系の代表であるという意識が強い。政党は選挙の時だけ集まるといった形式である。
「それでも中央議会よりはましかと。とにかく機能しないのですから。その癖自分達の国の主張は無理矢理にでも通そうとしますし」
「それはもう強力な指導者がそれぞれの政党に出て来るしかないかもね」
伊藤は八条の顔を見上げて言った。
「しかし一千年以上出てきませんでしたからね。今都合良く出て来るとは」
「あら、それはわからないわよ」
彼女は微笑んで言った。
「人材は時代が必要とされる時に出て来るから。今までは別に国同士で喧々囂々やってても問題はなかったでしょ」
「それは異星人もエウロパやマウリア以外はこれといった対外勢力もありませんでしたから」
「けれどこれからは異星人がいるかも知れない。まあもう暫くは大丈夫でしょうけど」
連合の辺境と異星人がいると推測される星系からは今数十万光年離れていると言われている。当分は安心だ。
「それに今は中央の力が強まり連合もまとまりを持とうとしている時だもの。ひょっとしたら出て来るかも知れないわよ」
「そんないうまくいきますかね」
「そんなことを言ったら連合軍だってこんなにすぐ出来なかったでしょ」
「それはそうですが」
伊藤の話は後に見事に的中することになる。だが今はそれを誰も知らない。
「今君は連合軍の骨格を作ることを考えなさい。そして連合軍を本当の意味での私達を守る軍隊にしてね」
「わかりました」
「よろしい」
伊藤は八条の返答に対し微笑みで返した。そして二人は別れ休息をとった。だが時間には休息はない。時代は刻一刻と動き続けていた。
ページ上へ戻る