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星河の覇皇

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第六部第二章 害虫その三


 連合軍の役職はまずトップとして統合作戦本部長がある。制服組のトップだけではなく連合軍の最高司令官である大統領、そしてその代理を務めることもある首相や実質的な権限者である国防長官を補佐する。
 連合の特色としては文民統制であることである。各艦隊や軍管区、そして統合作戦本部にもかなりの権限が与えられてはいるが最終的な決断は彼等が下す。軍人はそれから動くのである。
 統合作戦本部長は当然ながら元帥が務める。連合における元帥はあくまで軍の階級の最高位のものであり特権等はない。エウロパの様に元帥府を開き幕僚達を集めることは出来ないのである。
 統合作戦本部次長も存在する。これは本部長を補佐し、非常時には本部長代理を務める。やはり階級は元帥である。
 そして参謀総長、宇宙艦隊司令長官が存在する。彼等は幕僚、実戦部隊の総指揮にあたる。彼等の階級も元帥である。
 他に元帥が就任する役職は各軍管区の総監である。全部で十の軍管区に分けられその下に三百の艦隊が存在する。彼等はその軍管区の艦隊及びその他の部隊を統括する。その他にその三百の艦隊をそれぞれ指揮する司令もいるがこれも元帥である。
 そして後方支持部長、教育総監、情報部長、技術部長等後方を司る役職にも置かれている。他の国ではそれ程重要視されていないこれ等の役職だが連合においては元帥が置かれる程重要視されている。これが連合軍の特色であった。
 最後に陸戦部隊、航空部隊の総監がいる。連合軍の最高幹部は三十人の元帥で構成されているのだ。
 軍の巨大さを考えるとそれ程多くはない。むしろかなり少ない。これは連合軍の特色であった。
 エウロパは連合軍より遙かに多い。これはエウロパの国家元首である総統の権限が大きく、各国の王室との関係、そして貴族達の存在から元帥が多くなるのだ。元帥府があるのも貴族制の故であるが流石に軍閥化を防ぐ為文民統制、移動はある。
 連合とエウロパはその国家システムの違いから軍の編成までまるで異なっていた。これは彼等が互いを蔑視する原因の一つともなっていた。こんなところまで彼等は互いを批判する材料になっていた。
 連合はエウロパを貴族主義の弊害の集大成だと言う。それに対してエウロパは連合こそ大統領や国防長官ばかりが権限を握る硬直化した軍だと言う。両方共そういった見方ができるのも事実であるし否定することもできない。それもまた事実であった。
「結局我々は単にエウロパを批判したいだけなのだ」
 軍の幹部の一人がこう言ったこともある。
「我々にだって問題はある。それは否定できない」
 彼は続けてこうも言った。
「しかしな」
 だがここで何故か不敵に笑った。そしてこう言った。
「エウロパを批判することは止められないな。我々にとって彼等は批判する材料なのだから。常に存在する反面教師だ」
 それが結論であった。連合とエウロパは互いを批判しながらも学び合い、そこから何もかもを作っているのだ。彼等はまさしく双子であった。そういう意味からは。
「我々と彼等は案外似ているのかもな」
 八条もそう考える時がある。彼は連合においては非常に珍しい貴族的な雰囲気を持つ人物とされていた。連合においては多くの王国、そして所謂帝国が存在するが貴族的な感じを残しているのは日本位である。
 ロシアもそうした雰囲気を残せたのだが二十世紀の共産革命で妙な方向に流れた。今ロシアは力自慢の国とみなされている。ロシアのそうした一面が異様にクローズアップされる状況となってそのまま定着してしまった。アメリカや中国にはその様なものはない。他の国にでもある。元々欧州から独立した国や苦しめられた国が殆どである。彼等にとって貴族とはそうした意味でも忌まわしいものであった。
 だが日本は違う。欧州の勢力の支配下にあったことはない。そして皇室の存在があり、独特の文化があった。その為貴族的な文化も僅かながら継承されたのである。
 二十世紀後半から二十一世紀初頭には絶滅寸前であったがそれが見直されたのだ。それが今の日本の文化風俗に影響したのだ。
 それが日本をして連合内でも一種独特な雰囲気を持つ国にしていた。その為時には『連合の中のエウロパ』と呼ばれたり『連合の異端児』と揶揄されることもあった。当然爵位などというものは存在しないがそうした雰囲気だけでも連合においては異様なものなのである。
 その象徴が皇室である。だがあまりにも一言で語るには複雑なのでこれについて言及する者はあまりいない。八条は今では日本のそうした一面の代表者の様に言われていた。
「そんな貴族的かな」
 八条はそうしたことを聞くと時々そう思ってしまう。
「私はそうは思っていないのだけれど」
 だが他の者、特に異性からはそう認識されているのだ。これも難しい問題であった。
 しかしそれが彼の評判に影響しているかというとそうではなかった。連合内でもエウロパの貴族的なものを真似てみたりそのゆるやかな生活に何処か憧れを持つ者もいた。その底ではやはり連合市民であっても。人は時としてそうした異質なものに憧れるものなのである。
 そう、異質であった。日本も八条もそうした意味で何処か異質であった。だが連合においては異質な存在は実に多い。個性を重要視するこの勢力においてはそうでないと目立つことはできないし自己主張もままならないのだ。その視点から考えると八条の貴族的な外見は有利であり、日本の異質さもいいことであった。話はそうそう単純なものではないのである。
「さて」
 彼は考えを止め席を立った。時間が来たのだ。
「行って来るよ。連絡があったらよろしく」
「わかりました」
 木口は答えた。そして彼は会議室に向かった。
「ようこそ」
 会議室に入ると既に他の者は皆来ていた。統合作戦本部長並びに今回の作戦に関係のある軍の最高幹部達である。
「長官、お待ちしておりました」
 青い目に蜂蜜色の髪をした中背ながらがっしりとした筋肉質の男が彼に声をかけた。連合軍統合作戦本部長であるスブタイ=バール元帥である。モンゴル出身である。
 本来遊牧民であるモンゴル人は姓だけで名はなかった。だが宇宙に進出し、他の国々の文化を知るにあたって姓を持つべきであるという考えが定着した。そしてモンゴル人達も姓を持ったのである。
 スブタイが名でバールが姓である。アジア系だが名前の付け方は西洋風となった。これはロシアの影響もあった。
 彼はモンゴルにおいて海賊との戦いで功をあげた実戦派である。連合軍設立にあたって八条が彼を統合作戦本部長に任命したのだ。アメリカや中国、そしてロシアとの意見調整が大変であったが彼はあくまで自分の考えを押し通した。ここで退いてはこれからのことにも影響があるのは明白であったからだ。
 彼はあくまで能力や適正を考えて人事を行った。そうでなくては本当に意味で強い軍隊になれず、今後も何かと各国の介入を受けるからだ。
 そして彼の人選は正解であった。バールは統合作戦本部長として実に有能であった。
 鷹揚で人に驕らず、決断力も状況判断力も戦略眼も備えていた。彼にとって優秀な補佐役でもあった。
 そして参謀総長。これは劉が就いた。宇宙艦隊司令長官はマクレーンであった。これも適正を考慮してのことである。彼等も連合軍元帥に昇進していた。
 彼等もこの席にいた。そして統合作戦本部次長、後方支持部長も出席していた。
 後方支持部長はコアトルが就任していた。彼は補給関係の専門家でもあるからだ。
 そして次長であるが黒い日に焼けた肌に小柄な身体の男である。彼の名はスワラム=マナドという。インドネシア出身である。彼もまた八条が選んだ。
 そして最後に情報部長であるスティーブン=ディカプリオである。この会議の出席者の中では八条を除けば最も若い。まだ三十代後半である。
 
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