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チェネレントラ

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第四幕その五


第四幕その五

「恐ろしいですかな、今の状況が」
「ええ」
「正直に申し上げますと」
 三人はそれぞれ答えた。
「私達は縛り首でしょうか」
「それで済むかしら」
「八つ裂きかも知れんのう」
「八つ裂き・・・・・・」
 娘達はそれを聞いて顔をさらに青くさせた。恐怖に心が支配されてしまっていた。
「そんな・・・・・・」
「よくて車輪刑」
 車輪で両手両脚を砕く処刑である。欧州では比較的ポピュラーな刑罰であった。
「いや、逆さ鋸引きかも」
「止めてよ・・・・・・」
「そんなの聞いていられないわ」
「しかしわし等の運命はもう・・・・・・」
 マニフィコもそれは同じであった。やはり彼等は死の恐怖に怯えていたのだ。
「大丈夫ですよ」
 しかしアリドーロはここでそう言って三人を安心させようとした。だが彼等はそれでも暗い顔のままであった。
「貴方は何も知らないのです」
 マニフィコはそう語った。
「私達と彼女のことを」
「知っておりますよ」
 だが彼はあえてそう答えた。
「知っているからこそ今ここにいるのです」
「そうですか」
「御気遣いは有り難いですけれど」
「暗くはならないように」
 彼はそう言って三人を嗜めた。
「暗い気持ちだと何事も駄目になってしまいますぞ」
「もう駄目になっております」
「はい」
「私達を待っているのは絶望だけですから」
「ふむ、確かにそうですな」
 アリドーロはその言葉に頷いた。
「今のままでは貴方達を待っているのは絶望だけです」
「はい」
「しかしそれを変えることも可能なのですぞ、希望に」
「またそのような」
「私達も分別はあるつもりです。大人しく裁きは受けるつもりです」
「落ちぶれたとはいえ貴族ですし」
「全てはお妃様次第だとしても」
「えっ」
 三人はそれを聞いて顔を上げた。そしてアリドーロに顔を向けた。
「あの娘次第ということは」
「そのままです」
 アリドーロはにこりと笑って答えた。
「全てはお妃様の御心次第です」
「では駄目ではありませんか」
「それは私達にもわかりますわ」
「そうでしょうか、果たして」
 アリドーロは思わせぶりにそう言った。
「本当にそう思われますか」
「何を今更」
 マニフィコはそう答えて首を横に振った。
「どうせ私達は」
「あの娘、いえお妃様のことは私達が最もよく知っておりますわ。だからこそ」
「私達のこともわかります」
「深刻に考えておられますな」
「どうして深刻でいらずにおれましょう」
 三人はそう返した。
「これから処刑が待っているというのに」
「私はそうは思いません」
「またそう仰るが」
「お妃様は」
 彼は話しはじめた。
「心優しい方です。それは私が保証します」
「先生が」
「はい」
 彼はまたもやにこりと笑ってそれに応えた。
「私が最初に貴方達の屋敷にお邪魔した時のことは覚えておられますね」
「ええ」
「勿論です」
 ティズベとクロリンデがそれに頷いた。
「あの時はどうも」
「はい」
 二人はここでアリドーロのやんわりとした嫌味を甘んじて受けることにした。後悔していた故であった。
「あの時貴女方は私には何も下さいませんでしたね」
「申し訳ありません」
「本当にものがなかったもので」
 二人はそう言って頭を下げた。
「それはわかっておりました」
「では何故」
「お妃様はそんな中で私に恵んで下さったのです、パンとコーヒーを」
「何処にそんなものが」
「ご自身のお食事から。ささやかなものでしたが」
「そうだったの」
「あの娘だってろくに食べていないのに」
「そう、その中から私に恵んで下さったのです。何と心の優しい方でしょうか」
「けれど私達は優しくはなかった」
 ティズベはそう答えた。
「そんな者に恵みは与えられないわ」
「それは違います」
 だがアリドーロはまたそう答えて二人を宥めた。
「よろしいですか」
「はい」
「貴方達がとられるべき道は二つあります」
「二つですか」
「そうです。このまま縛り首の恐怖に怯えるか、若しくはあの方に慈悲を乞うか、です。どちらに致しますか」
「そう言われても」
 三人はそう言って口篭もった。
「私達は許されはしないでしょうし」
「彼女も許すつもりなぞないでしょう」
「そう思われているのですね」
「はい」
 三人は項垂れてそう答えた。
「そうとしか思われません」
「縛り首になっても宜しいのですかな」
「それは・・・・・・」
 力なく首を横に振った。
「そうでしょう。そうだと思いました。それでは駄目元でやってみてはどうですかな」
「許しを乞うのですか」
「はい」
 アリドーロはそう答えて頷いた。
「それしかありませんぞ」
「わかりました」
 マニフィコはそれに応えた。
「それではやってみます」
「御父様」
「よいか」
 彼は娘達に対して語りはじめた。
「よしんばわしが縛り首になるとしてもだ」
「はい」
「御前達の命だけは救ってみせるからな。あの娘が一番憎んでいるのはおそらくわしじゃから」
「いえ、私かも」
「そんな、私よ」
「どうやらどうしようもない連中ではなかったらしいな」
 アリドーロはそれを見て呟いた。
「ならばよし。それでは最後の舞台に向かおう」
 彼はその場を後にした。三人だけが残っていた。彼等はまだ色々と話をしていた。
「それではよいな」
 最後にマニフィコがそう念を押した。
「ええ」
「それしかないわね、やっぱり」
 娘達が頷く。それを受けてマニフィコも決意の色を固めた。
「では決まりだ」
「はい」
 そして三人もその場を後にした。こうして最後の舞台への準備は全て整ったのであった。
 
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