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チェネレントラ

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第二幕その四


第二幕その四

「ねえ王子様」
「はい」
「どちらになさいますか」
「どちらと言われましても」
 やはりここでも戸惑う演技をしていた。
「お一人としか結婚できませんし」
「それはわかっております」
「そして残られた方は」
「はい」
 二人はそれを聞いてゴクリ、と息を飲んだ。緊張が二人の間だけに走った。
「私の従者と結婚されては如何でしょうか」
「どうも」
 ラミーロは紹介されて恭しく頭を垂れてみせた。
「彼も丁度妻となる女性を探している頃でして」
「えっ・・・・・・」
 二人はそれを聞いて言葉を失った。
「彼も貴族ですよ」
 ダンディーニは微笑んでラミーロをそう紹介した。
「由緒正しい。ゆくゆくは私の片腕をなるかも知れません」
「けど・・・・・・」
 二人はここで顔を向け合った。そしてヒソヒソと話をはじめた。
「どう思う、クロリンデ」
「どうって言われても」
「確かにハンサムよね。育ちも良さそうだし」
「それはそうね。けれど王子様じゃないわよ」
「よくて伯爵位かしら」
「そんなところじゃないの」
「私達から見ればそりゃ玉の輿だけれど」
「王子様と比べたらねえ」
「そうよねえ」
 相も変わらず取らぬ狸の皮算用であった。ラミーロとダンディーニはヒソヒソ話をする二人を横目で見ながら自分達も話をはじめた。
「面白いことを言ったな」
「有難うございます」
 ダンディーニはラミーロにそう答えてにこりと笑った。
「また面白いことを考えているようだな、あの二人は」
「ええ。見ていて飽きません」
「全くだ。これは後々まで話の種になる」
「そうですね。しかし話は何時か終わりがあるものですからこの喜劇も終わることでしょう」
「問題はどういう終わり方をするかだな」
「ええ。面白い結末といきたいものです」
「うむ」
「殿下」
 ここで一人の従者が部屋に入って来た。彼はラミーロに向かおうとしたが気付いてダンディーニに向かった。
「どうした」
 ダンディーニはそれを見て鷹揚に応える。
「アリドーロ先生が戻られました」
「そうか」
 彼はそれを受けてラミーロに顔を向けた。
「先生が戻られましたな」
「うむ」
 彼は頷いた。そしてダンディーニにまた何か囁いた。
「わかりました」
 彼は答えると従者に顔を向けた。そして言った。
「すぐにこちらにお連れしてくれ」
「はい」
 従者は頭を下げてそれに従った。そして彼はアリドーロを呼びに向かった。ティズベとクロリンデはそれを見て話を止めてダンディーニに顔を戻した。
「殿下」
「はい」
「そのアリドーロという方はどなたなのでしょうか」
「私の師です」
 彼はそう答えた。
「師」
「そうです。先生です。幼い頃より私を教え導いて下さった方でして」
「はあ」
「私の第一の助言者です。あの方なくして私はないでしょう」
「それ程までに素晴らしい方なのですか」
「その通り。さあ、来られましたぞ」
 そしてアリドーロが部屋に入って来た。貴族の服を着ている。彼はダンディーニの前に来ると恭しく頭を垂れた。それから申し出た。
「殿下」
「うむ」
 ダンディーニは鷹揚に頷く。
「大広間に来られませんか。素晴らしい方が来られまして」
「素晴らしい方が」
「はい」
 アリドーロはここでにこりと笑った。
「さる貴婦人が来られたのです。顔をヴェールで覆われて」
「貴婦人!?」
 それを聞いてティズベとクロリンデが思わず声をあげた。
「ほう」
 ラミーロとダンディーニはそれを横目で見て笑った。
「どうやら気になるようだな」
「ライバル出現とでも思っているのでしょう」
「だろうな」
「そして」
 ティズベとクロリンデは二人のそんな目にも気付くことなくアリドーロに聞いた。
「その貴婦人はどなたですの!?」
「それは言えません」
 彼は素っ気無くそう答えた。
「残念ながら」
「そうなのですか」
「一体誰なのでしょう」
「それはすぐにわかることです」
 彼はそう答えた。
「それでは皆様行かれますか」
「殿下、どうなされます」
「そうだな」
 ラミーロに問われ考える演技をした。それから言った。
「よし、行こう。大広間だな」
「はい」
「それでは行こう。さて」
 彼はここでティズベとクロリンデに顔を向けた。
「貴女方はどうされますか」
「私達ですか?」
「はい。何でしたらこの部屋で休んでおられてもよいのですが」
「いえ」
 だが二人は彼の申し出に首を横に振った。
「私達も御一緒させて下さい」
「よいのですか?」
「構いませんわ」
「そうですわ、どれだけ素晴らしい方なのか是非共御会いしたいですし」
「無理をしているな」
 ラミーロとダンディーニはそれを聞きながらほくそ笑んだ。
 
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