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星河の覇皇

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第一部第二章 銀河の群星その七


「年齢は関係ありません。貴方にはそれだけの能力があります。私はそう見ていますよ」
「そんな筈は・・・・・・」
「おっと、謙遜は止めて下さいよ。私は謙遜はあまり好きではないのです」
 彼は言った。
「日本人というのは昔から謙遜したがりますね。ですがそれは自信が無いようにしか見えないのです」
「そう捉えて頂いても構いませんが」
「貴方は日本の政治家になられてから多くの軍事関係の政策を立案されました。そしてその全てが議会を通って施行される、またはされようとしております」
「運がいいだけです。私の政策を党の同志達も国民も受け入れてくれただけで」
「その誰もが受け入れざるを得ないような優れた政策を立てられる、その能力を買いたいのです。私から見ても貴方の政策は非常に優れたものです」
「有り難うございます」
 八条は礼を言った。
「その能力を今度は新しく設立される軍で使ってみたくはありませんか?貴方ならばこの軍を正しく導く指導者になれる筈です」
「・・・・・・・・・」
「よく考えて下さい。強制はしません。しかし私は貴方の能力を高く買っておりますよ」
「はい」
 八条は答えた。実際に彼の頭の中はかなり混乱していた。
「すぐに総理ともお話させて頂きます。それまでによく考えておいて下さい」
「わかりました」
 八条は官邸を後にした。そしてホテルに帰った。
 一ヵ月後日本の総理伊藤佐知子とキロモトの会談の場が設けられた。彼女は四十を越えたばかりの美人であり政治学者出身である。学者出身とは思えぬ程実務に優れた人物でその判断力の高さでも知られている。
 この会談には八条も同席していた。彼女はこの若者を何かとよく立てていた。彼女は結婚しているが彼との関係が何かとからかわれていた。中にはこの美貌の若者を総理の燕とまで揶揄する者もいた。
 だがこれは彼女が彼の能力を高く買っていただけである。彼女は男女関係にはかなり潔癖な考えの持ち主で異性問題をことのほか嫌う人物であった。
「八条君」
 会談を終えた伊藤は後ろにいる八条に対して声をかけた。
「はい、総理何でしょうか」
 彼は答えた。伊藤は小柄なことで知られているが長身の八条と一緒にいるとそれがさらに際立つ。
「大統領からお話は聞いたわ。いいお考えだと思うわ」
 彼女は中央軍設立の話について言っている。
「私は支持したいわ。そして日本軍が最初に参加する」
「そうですか」
 彼女は賛成する、彼はそう読んでいた。だから驚かなかった。
「そして君のことだけれど」
 どことなく姉が弟に語りかけるような口調である。彼女は上に兄や姉ばかりいた。だから八条の様な存在が以前より欲しかったようなのだ。振り向いた時黒いストレートのロンヘアーが波打った。
「折角の愛弟子を手放すのは私としても非常に残念だけれども」
 彼女は八条に微笑んで言った。
「行ってらっしゃい。健闘を期待するわ」
 彼女もまた彼の本心がどうであるかをを知っていた。
「わかりました。ご期待に沿えましょう」
 彼は答えた。それで彼の一生は決まった。
 それから数ヵ月後キロモト大統領は連合中央軍の設立構想を発表した。日本は最初にその発表に支持を表明し参加を希望した。そして早速それの是非を問う選挙が行なわれ圧倒的支持を得た。日本人の連合中心主義によく合ったものであったからだ。
 無論反対もあった。だがその旗振りをしている政党の党首及び幹部があまりにも稚拙な人物であった為支持はごく一部であった。しかもこれからどうするべきか、日本人は彼等が思うよりも遥かによくわかっていたのだ。
 その党首は落選後宇宙海賊との黒い関係を暴露された。マスコミの一部は彼を擁護したがこのマスコミも以前より海賊の人権を擁護しておりその関係もネット等で知られていた。そのマスコミは結果倒産し党首共々裁判にかけられ実刑判決を受けた。彼等は最後まで己が罪を認めずこともあろうに裁判の場やテレビの前で互いに責任を擦り付け合った。世の人々はそれをおおいに嘲笑したという。
 日本の参加は大きかった。日本に同調する国家が次々と中央軍に参加を申し出てきた。三ヶ月もした頃には中央軍に参加していないのは日本以外の主導的な大国達とそれに近い国々だけとなっていた。
「その国々においても区内世論が高まっております。いずれは参加することになるでしょう」
 キロモトは笑顔で八条に対し言った。
「はい、ですが問題もあります」
 八条は顔を引き締めて言った。
「それは?」
「各国それぞれの機関です。例えば士官学校や技術班等はどうしましょう」
「士官学校はそのまま置きます。教育機関は減らさないほうがいいでしょう」
「ですね。ただし教育内容は統一させたほうがよろしいかと」
「それは当然です。学校ごとに違う教育が行なわれていたら軍の編成や統制にも支障をきたします」
 この言葉は意外だった。キロモトはそこまで考えることが出来たのだ。
(悪く言えば大雑把というイメージの強い方だったが)
 八条は彼の顔を見ながら思った。
(これは案外細かいところまで見ていてくれているな)
 そう思うとこちらもやる気が出た。 
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