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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第五十六話 勇士バラン=ドバン

             第五十六話 勇士バラン=ドバン
「それは本当のことかい?」
「はい」
ロゼがマーグに対して答えている。
「間違いありません」
「そうか」
マーグはそこまで聞いてまずは感情を込めずに頷くのだった。
「わかった」
「宜しいのですね」
「私が言ってもどうこうもできない」
これがマーグの言葉だった。
「私風情がな」
「十二支族ギシン家の方が」
「あの方はまた別だ」
マーグはこうも言う。
「あの方だけはな。だから」
「我々としてもですか」
「それにだ」
マーグの言葉がここで少し変わった。
「悪い方ではない。違うか」
「それは確かに」
ロゼもその言葉には素直に頷いた。
「その通りです」
「だからだ。あの方が来られてもな」
「ハザル司令の様な心配はありませんか」
「そうだ。それどころかグラドス軍の牽制にもなる」
マーグはグラドスの名を出して顔を顰めさせた。
「彼等は今どうしているか」
「ロンドンでの戦いでかなりの戦力を失い」
「司令も失ったのだな」
「その通りです。立派な最期と聞いていますが」
「そういうことにしておこう」
マーグもグラドス軍に対しては冷淡だった。
「せめて死ぬ時はな。その様にな」
「わかりました」
「それでだ。グラドス軍は地球にはもういないのだね」
「はい」
今度もマーグの問いにも答える。
「その通りです」
「ならいい」
「ゴステロは瀕死の重傷を負い」
「生きていたのか、あの男」
ゴステロが生きていたと聞きことの他顔を顰めさせるマーグだった。
「はい。他の死鬼隊のメンバーもそうですが」
「ル=カインもだね」
「残念ですが」
答えるロゼの言葉も顔も次第に曇ってきていた。
「彼もまた」
「グラドス軍は問題があるなんてものじゃない」
マーグはまた顔を曇らせた。
「彼等はバルマーの恥だ」
「恥ですか」
「そうじゃないかい?武器を持たない者に攻撃を加えて何が誇りなんだ」
それをロゼに対して問う。
「ある星ではかつての住民の三割を殺戮したそうだね」
「確か」
「それがグラドス人なんだ」
また忌々しげに語る。
「自分達を偉いと妄信しそれにより他者を認めずに攻撃する」
「お嫌いなのですね、彼等が」
「正直に言うとそうさ」
それを隠しもしなかった。
「陛下も宰相も。止めて下さればいいのだが」
「司令、それ以上は」
ロゼはマーグが霊帝についても言及したところですぐに言葉を制止した。
「そうだったね、御免」
「はい。御気をつけ下さい」
「わかったよ。それでグラドス軍だけれど」
「はい」
話がグラドス軍のそれに戻った。
「ゲイル達も無事なのかな」
「負傷しているようですが無事です」
こう答える。
「そうか。彼が無事なのはいいことだ」
「彼はいいのですね」
「グラドスの中では真っ当な人材さ」
こう述べて評価するのだった。
「あの彼等の中ではね」
「わかりました」
「それでは我々は」
「どうされますか?」
「暫く様子を見ておこう」
これがマーグの考えだった。
「まだね」
「わかりました。それでは」
「ただ。あの方の援護はする」
それは決定していた。
「それはいいね」
「はい、それでは。ただ」
「ただ。何だい?」
「どうも外銀河方面軍もまた出撃しています」
「あの方に合わせてかい」
「そうです。どうされますか?」
それをマーグに対して問うのだった。
「様子を見られますか。それでも」
「いや」
マーグは左手を顎に当てて考える顔になっていた。その顔で答えるのだった。
「どうやら。そうも言っていられないみたいだな」
「といいますとやはり」
「うん。予定を変更だ」
マーグは言う。
「やはり我々も軍を出そう。あのハザル司令のことだ」
またハザルという名を出してきた。
「隙を見せれば我々が今いるホワイトスターにも攻撃を仕掛けかねない」
「そうですね」
ロゼもその言葉を否定できなかった。
「あの方は味方であっても隙を見せれば」
「だからだよ。やはり我々も兵を出そう」
敵より本来は味方である者を見ての指示だった。
「それでいいね」
「はい、それでは」
ロゼもそれに応えて頷く。
「その様に」
「それじゃあロゼ」
あらためてロゼに声をかける。優しい声であった。
「何でしょうか」
「少し時間はあるかな」
「時間ですか」
「うん。時間があれば」
マーグはさらに言葉を続ける。
「お茶をどうかなと思ってね」
「お茶といいますと」
「一緒にどうかな。いいお茶を差し入れに貰ったんだ」
「あの、といいますと」
その言葉を聞いてロゼの顔が一気に赤くなった。
「それはその、つまり」
「そうだよ。私と一緒にね」
またロゼに話す。
「駄目かな。それは」
「い、いえ。それは」
急に口ごもり焦りだすロゼだった。
「私の様な者が司令の様な方と」
「いいじゃないか、副司令なんだし」
「ですが」
「それともあれなのかい?」
ロゼに対してまた問うた。
「私と一緒に飲むのが」
「滅相もありません」
何故か言葉が変になっていた。
「そのようなことは」
「じゃあいいんだね」
ロゼの気持ちには全く気付いていない。
「私と一緒に飲むのは」
「・・・・・・本当に私で宜しいのですか?」
不安げな顔でマーグに問い返すのだった。
「私が。司令と御一緒とは」
「たまには破目を外すというか息抜きも必要だよ」
そんなロゼへの言葉は気付いていないからこそだった。
「だから。いいよね」
「・・・・・・わかりました」
遂にマーグの言葉を受け入れたのだった。
「それでは。是非」
「お菓子もあるんだよ」
「左様ですか」
「アルマナ様から頂いたものがね」
「アルマナ様から」
その名を聞いたロゼの表情が少し変わった。
「それはまことですか!?」
「うん、そうだけれど」
「それは何よりです」
次にはこう述べて微笑んできた。
「まさかあの様な方とは頂けるとは」
「そうだね。巫女になられる方に」
「はい。では喜んで頂きます」
「そういえばロゼはアルマナ様とは」
「よくして頂きました」
そうなのだった。交流があるのだ。
「また御会いしたいと思っています」
「そうだね。機械があれば」
「はい。是非共」
こう話をするのだった。それから二人はお茶を楽しむ。今は穏やかな時を過ごしていた。
ロンド=ベルはウィーン郊外にいた。そこでまずはまた休止だった。
「しかしまあ何だな」
トウマがウィーンの街で言う。
「色々と世界飛び回ってるよな、俺達って」
「そうね」
それにミナキが頷く。彼女も一緒にいるのだ。
「このウィーンには一度来たいと思っていたのよ」
「昔はここでも戦っていたわよね」
「そうだったな」
ファの言葉にカミーユが頷く。
「まさかあの時戦ったジェリド達がロンド=ベルに入るとは思わなかったが」
「そういえばカテジナさんはどうなったのかな」
オデロはふとカテジナのことを思い出した。
「生きてはいるんだろ?確か」
「ああ、故郷に帰ったよ」
トマーシュがこう説明する。
「今は静かにしているってさ」
「そうか。それが本来のカテジナさんだけれどな」
「そうだね」
それにウッソが頷く。
「あの時のことは忘れて。穏やかにしていて欲しいな」
「あの時のカテジナさんは凄かったよなあ」
オデロはその時のカテジナの狂気じみた様子を思い出していた。
「正直どうなるかと思ったぜ」
「戦いがあの人をそうさせたんだ」
ウッソはこう考えていた。
「けれど。それから離れれば」
「随分違うか」
「そう思うよ。それに」
「それに?」
「僕達が戦えばいいし」
こうも言うのだった。
「カテジナさんじゃなくてね。僕達が」
「それはいいとしてだ」
カミーユはそれはいいとした。
「しかし」
「しかし。何でしょうか」
「最近バルマーが思ったより大人しいのが気になる」
カミーユが気になるのはそれだった。
「グラドス軍以外はこれといった動きはない。今までの敵との戦いのダメージか?」
「どうでしょうか」
ウッソはそれには答えられなかった。
「確かに火星や他での戦いがバルマーにとっては痛手ですけれど」
「しかしその痛手はバルマーにとっては大したことじゃないじゃないのか?」
彼はこう考えていた。
「それで動かないのは」
「バルマーは敵も多いんじゃないのか?」
オリファーはこう考えた。
「だとしたらそれも」
「わかるっていうの?」
「そっちに兵が向けられている」
マーベットにもこう述べる。
「そうは考えられないのか」
「確かにバルマーには敵も多いわ」
ヴィレッタが答える。
「ゼントラーデいやメルトランディにしろそうだったわ」
「あっ、そうか」
それに気付いたのはトウマだった。
「幾らバルマーでも兵がいるからな」
「そう」
それだと言う。
「それがつまり」だ。地球に向けられている戦力を」
「向けられなくなった」
「違うか?」
オリファーはあらためて言う。
「いえ、そういえば」
ウッソはそのことを言われて気付いた。
「その可能性もありますね」
「そういうことだ」
オルファーが言うのはそこだった。
「それはどうだ」
「言われてみればそうですね」
カミーユもそれに頷く。
「可能性としてはあります」
「だが確かなものではない」
しかしオリファーはこうも言うのだった。
「それに関しては。けれど」
「けれど?」
「他にも考えられるケースがある」
「そうですか」
「内乱が起こった」
これも話に出す。
「どうだ」
「その可能性はないわ」
ヴィレッタはそれは否定した。
「ただ」
「ただ?」
「一つ気になることがあるわ」
「気になること」
「十二支族がここには集まり過ぎているのよ」
ヴィレッタが指摘するのはそこだった。
「若しかしたら今も」
「今も」
「誰かが来ているのかも知れないわ」
こう予想するのだった。
「ひょっとしたら」
「だとしたら誰でしょうか」
ファはそれを考える。
「来ているのは」
「それがわかれば苦労はしないよな」
トウマはこう述べた。
「正直なところ」
「そうね。確かに」
ミナキもそれに頷く。
「それまでは」
彼等にはわからないことがあまりにも多かった。しかもそれへの答えも見出せない。しかしそれまではわからない。わからないまま時は進む。
ウィーンを経つ時になって。レーダーに反応があった。
「敵!?」
「はい、これは」
ミサトにシゲルが答える。
「バルマーです」
「バルマー!?じゃあ」
「ですが少し変ですね」
マヤがここで首を傾げさせる。
「変って?」
「一機だけです」
こう言うのだ。
「一機だけ!?」
「はい、一機だけです」
また答える。
「間違いありません」
「何なのかしら」
「雷鳳が出ていますが」
シゲルはミサトにこう報告する。
「トウマ君と連絡を取りますか?」
「ええ。トウマ君」
「はい」
すぐにトウマが通信に出た。
「今から他のマシンも出撃させるけれど暫くは警戒態勢に当たって」
「わかりました。敵は」
「一機よ」
「一機!?」
一機と聞いてトウマも驚きの声をあげた。
「本当に一機ですか!?」
「ええ、間違いないわ」
ミサトはまた答えた。
「レーダーの反応は」
「ミノフスキー粒子は」
「ないわ」
つまり間違いないということだった。
「全くね」
「わかりました。じゃあ間違いないんですね」
「ええ、間違いないわ」
また答える。
「暫くの間御願いね」
「わかりました。それじゃあ」
「その間に」
ミサトは少し考える。
「他のマシンの出撃準備を進めておいて」
「わかりました」
「あのバルマーだからね」
彼女ももうバルマーのことはよくわかっていた。
「このまま何もなしとは考えられないわ」
「そうですね。確かに」
これはマヤもわかっていることだった。
「このまま一機だけなんてことは」
「アストラナガンみたいなマシンならともかく」
かつてバルマー戦役で彼等を苦しめたあのイングラムのマシンだった。
「こんな時には出ないでしょうし」
「わかりました。各艦に伝えます」
「御願い。それでどれ位かかるかしら」
「三分です」
シゲルが答える。
「三分あれば全機出撃可能です」
「長いのか短いのかわからないわね。トウマ君」
あらためてトウマに声をかける。
「はい」
「聞いたわね。三分よ」
「わかりました。三分ですね」
「ええ。その間頑張ってね」
こう告げる。
「三分でいいから」
「わかりました。一機なら」
それに応えて身構える。
「やってみせますよ」
「御願いね」
「トウマ」
ミナキがトウマに声をかける。
「その間御願いね」
「ああ、やってみるさ」
気合を入れて構える。その時だった。目の前に武骨なマシンが姿を現わした。
鉄球を持っておりまた随分と武張った外見である。それに乗る男も白髪で頬髯と口髭がつながった随分といかつい外見の男だった。彼は地球に来てまずはこう言った。
「ふむ。中々よい場所だ」
「おいあんた」
トウマはまず彼に声をかけた。
「何者なんだ、バルマーの人間か?」
「如何にも」
彼はトウマに顔を向けて答えた。
「我が名はバラン=ドバン」
「バラン=ドバン!?」
「左様、十二支族ドバン家当主にして近衛軍司令官」
「バラン=ドバンだと」
それを聞いたヴィレッタの顔が一変した。
「どうしたんですか、ヴィレッタさん」
「あのバラン=ドバンはただの男ではない」
こうアラドに言葉を返す。
「ただの男ではない!?」
「そうだ。宰相シヴァー=ゴッツォに次ぐ地位にある」
「宰相の次ってことは」
「それってバルマーの」
「そうだ。貴族としても頂点にある」
ゼオラにも答える。
「軍の重鎮だ」
「そんな人がどうしてこんなところに」
「そこまでは私にもわからない。だが」
それでもヴィレッタは言う。
「まさか。こんなところで」
「バルマーの軍人かよ」
「如何にも」
バランは対峙するトウマに対して応えていた。
「このバラン=ドバン逃げも隠れもせんぞ」
「へえ、正々堂々とか」
「そうよ、小童!」
トウマを小童と呼んだ。
「わしの鉄球を受けてみるか!」
「俺は小童じゃねえ!」
トウマはそのバランに言い返す。
「トウマ=カノウって名前があるんだよ!」
「ふん、貴様なぞ小童で充分!」
「まだ言うのかよ!」
「小童と言われたくなければ見せるがいい!」
あえてトウマに対して言う。
「このわしに対してな!」
「言ってくれんじゃねえか!なら!」
それに応えるかのようにバランに対して向かう。
「雷鳳の力見せてやるぜ!」
「ふむ。筋はいい」
まずはトウマの動きを見て言う。
「だが」
「だが。何だってんだよ」
「まだ若い。やはり小童よ!」
「まだ言うのかよ、おっさん!」
「おっさんではない!」
彼も言い返す。いささか子供じみておる。
「わしはバラン=ドバン!ドバン家の主ぞ!」
「俺を小童って言う奴なんかおっさんで充分だ!」
トウマも実に大人げない。
「おっさん、喰らえ!」
「隙がある。それを見せてやろう」
バランは己のマシンを動かした。その鉄球を振り回す。
「受けてみよ、このペミドバンの鉄球!」
「ペミドバン!?」
「ドバン家の専用マシンだ」
ヴィレッタがまた説明する。
「かなり旧式だが。そのパワーはかなりのものだ」
「そんなにですか?」
「特にその鉄球は」
それをラトゥーニに答える。
「かなりの力だ」
「だとしたらトウマさんは」
「いけない」
ミナキがここでモニターとコンピューターに出て来るデータを見つつ顔を曇らせた。
「この鉄球のパワーは。トウマ!」
「何だ、ミナキ」
「よけて、その鉄球は!」
「何だって!?」
「それを受けたら雷鳳も貴方も」
「うっ!?」
「さあ、小童!」
またトウマを小童と呼ぶ。
「この鉄球を受けて立っていられるか!」
「う・・・・・・うわあっ!」
「トウマ!」
トウマとミナキの絶叫が響く。今雷鳳にペミドバンの鉄球が炸裂する。
雷鳳は吹き飛ばされた。右にその鉄球を受け左に大きくはじけ飛ぶ。そのまま床に叩き付けられる。そのまま動かなかった。
「トウマ!」
「おい、やばいぞ今のは!」
それを見たイルムが叫ぶ。
「早く出撃させろ!ゲシュペンストだ!」
「いや、待て」
しかしここでリンがそのイルムを呼び止める。
「何だよリン」
「グルンガストを用意しておいた。それに乗れ」
「あ、ああ」
まずはリンの言葉に頷く。
「あの青いグルンガストだな」
「そうだ」
見ればグルンガストは二機ある。赤と青だ。イルムはそのうちの青いグルンガストを選んだのだ。そして残る赤いグルンガストは。
「そちらは私だ」
「御前かよ」
「そうだ、私が乗る」
リンのマシンだった。
「それに乗る。わかったな」
「ああ。じゃあグルンガストでお揃いか」
「お揃いではない」
しかしリンはこう言葉を返す。
「別々に出る。いいな」
「ちぇっ、相変わらずつれないな」
「それよりもだ」
リンはイルムの言葉を意に介さずさらに言う。
「何だ?」
「トウマだ」
そのトウマのことを言うのだった。
「そうだよ、トウマは」
「まだ大丈夫だ」
こうイルムに告げる。
「大丈夫!?あれでかよ」
「生きている」
また告げる。
「何とかな」
「生きていたのかよ」
「そうだ。とりあえずはな」
生きているというのだ。
「だが。それでも」
「やばいのかよ」
「そうだ」
見ればトウマはまだ生きていた。雷鳳も何とか立っている。
「うう・・・・・・」
「トウマ、大丈夫なの?」
「ああ、何とかな」
ミナキの問いにも答えることはできた。しかし。
「やってやる」
「ほう、まだ立っているのか」
鉄球を放ち終えたバランは立ち上がるトウマを見て呟いた。
「わしの鉄球を受けて立っているとはな。まずは褒めておこう」
「こんな鉄球で」
トウマはバランを見据えながら言う。
「俺が倒れるわけねえだろ」
「その意気やよし。まずは見事と褒めておこう」
「まだだ・・・・・・!」
やはりバランを見据えている。
「俺は負けない!絶対に!」
「しかし心だけでは勝てぬぞ」
こう言うとまた鉄球をその手に持つのだった。
「それがわからぬうちは貴様もその程度よ!受けよ!」
「うっ!」
「トウマ!」
また鉄球が来た。ミナキが叫ぶ。
「よけて・・・・・・駄目!」
「くっ、雷鳳!」
雷鳳が動かないのだ。そしてトウマも。
「駄目か・・・・・・このまま」
「覚悟!」
さらに鉄球が迫る。もう終わりだ、そう思われた時だった。
雷鳳の前に何かが立ちはだかりその鉄球を巨大な剣で受け止めた。それは。
「あれは・・・・・・」
「ゼンガーさん!」
「むっ、御主は」
「我が名はゼンガー=ゾンボルト!」
今高らかにその名を告げる。
「悪を断つ剣なり!」
「悪を断つ剣とな」
「そうだ!若き勇士を倒させるわけにはいかん!」
その為にここに姿を現わしたのだった。
「バラン=ドバンだったな」
「如何にも」
ゼンガーに対しても答える。
「そしてゼンガー=ゾンボルトか」
「そうだ」
互いの名を確かめ合う。
「その名、覚えておこうぞ」
「こちらもだ。では参る!」
「来い、ゼンガー!」
今度は二人が闘いをはじめた。
「この鉄球受けてみよ!」
「斬艦刀に斬れぬものなし!」
二人が激闘をはじめる。しかしトウマはその後ろでかろうじて立っているだけだ。だがそれでも。
「まだだ・・・・・・!」
闘志は失ってはいなかった。まだバランを見ている。
「この程度で俺は!」
「駄目よトウマ!」
「ミナキ!」
しかしその彼をミナキが止めるのだった。
「もう雷鳳は大破しているわ。これ以上戦ったら」
「だが俺はあいつを!」
「駄目よ!」
今度のミナキの言葉は強いものだった。
「うっ・・・・・・」
「これ以上は駄目なのよ。わかったわね」
「あ、ああ」
ミナキのその強い言葉にトウマも頷くことしかできなかった。
「わかったよ。じゃあよ」
「我慢して。御願いだから」
「くっ、バラン=ドバン」
ゼンガーと死闘を行っているバランを苦渋に満ちた顔で見据える。
「覚えていろ。今度こそ!」
「全機出撃準備完了です!」
マヤが報告する。
「わかったわ。じゃあ」
「はい。全機出撃!」
ミサトに応えて指示を伝える。それと共にロンド=ベルのマシンが一斉に姿を現わす。すると待っていたかのようにバルマー軍も姿を現わしたのだった。
「バラン様、お助けに参りました」
「ロゼか」
バランはゼーロンを見てロゼがいることに気付いた。
「はい、マーグ司令の御命令で」
「ふむ、あの坊主がか」
ここでマーグを坊主と呼ぶ。
「相変わらず優しいの。わしのことを気遣ってか」
「この様な場所に単身で来られるなぞ」
「御主のその口やかましさも相変わらずだな」
今度はロゼに対して言った。
「おなごはもう少し慎みをだな」
「あの、司令」
少しムッとしながらもまだ言う。
「お助けに参ったのですが」
「うむ、そうであったな」
「ここはお下がり下さい」
今度はこう言うロゼだった。
「我々が引き受けますので」
「いや、わしも戦うぞ」
「ですが」
「何を言うか、武人は戦うのが務め」
正論だった。
「ならばわしも戦わなくてはならん。マーグにも伝えておけ」
「マーグ様にも」
「左様だ」
意図せずにマーグの名を出したがこれが効果があった。
「よいな」
「は、はい」
それまでの態度を変えてバランの言葉に頷くロゼだった。
「それでは。その様に」
「うむ。では行くぞ」
「はい」
こうしてバランが指揮を執り本格的な戦いに入るのだった。両軍は正面からぶつかる。バランはそのままゼンガーと闘うのだった。
「むんっ!」
「チェストーーーーーーーッ!」
両者の攻撃が交差する。剣と鉄球がぶつかり合う。
両者がせめぎ合う。その中でバランはゼンガーの顔を見据えて笑う。
「地球に御主の様な者がいたとはな」
「それがどうかしたのか」
「楽しいのう」
笑っての言葉だった。
「これだけの攻撃を見せてくれるとはな」
「それは貴様も同じこと」
ゼンガーもまたバランを認めていた。
「バルマーに貴様の様な漢がいたとはな」
「最近はまるで減ってしまった」
声が少し残念なものになっていた。
「最早わししかおらぬわ」
「ならば貴様がそれを伝えるのだ」
「何っ!?」
「武人の心をな。戦いで!」
またここで剣を構えてきた。
「またもや参る!」
「来い!」
両者の戦いが続く。その周りでは両軍の激突が続く。ロゼが指揮を執りロンド=ベルと戦っている。正攻法で正面から攻めるものだった。
「ロゼ!」
タケルがロゼに対して叫ぶ。
「兄さんを出せ!」
「黙れ!」
しかしロゼはそれを退ける。
「貴様の様な者が司令に対して兄などと呼ぶか!」
「兄さんは兄さんだ!」
タケルもまた言い返す。
「俺は誓っているんだ。兄さんを必ず救い出すって」
「それを黙れと言っている!」
ロゼは次第に感情的になってきていた。
「司令は私が御護りする!何があろうとも!」
「何っ!?」
「貴様なぞに司令は渡さんということだ」
これがロゼの本音だった。
「わかったならば。ここで死ね」
「誰が!」
「死にたくないと言っても私は容赦はしない!」
ロゼが攻撃を浴びせるがゴッドマーズはその巨体に似合わぬ素早い動きでそれをかわす。両者もまた戦っている。その中でコウタとショウコもまた戦っていた。
「何て敵の数だ!」
「これがロンド=ベルの戦いなの」
「周りに気をつけるんだ」
二人に万丈が声をかける。
「バルマーはいつも数で攻めて来るからね」
「それは聞いていますけれど」
「予想以上だっただろ」
笑って二人に問う。
「まさかこれ程だっととはって感じかな」
「あ、ああ」
「その通りです」
二人も万丈のその言葉に頷く。
「こんなに数があってしかも」
「次から次に来るなんて」
「けれど。数に押されたら駄目なんだ」
万丈はこうも言うのだった。
「それはいいね」
「それじゃあ数に脅えずに」
「逃げないことですね」
『そうだ』
『その通りよ』
ロアとエミィがそれに頷く。
『逃げるな、御前ならやれる』
『安心して、正面からよ』
こうコウタとショウコに言うのだった。
『いいな。わかったら』
『背中を見せないで。それだけでいいから』
「よし」
最初に応えたのはコウタだった。
「なら・・・・・・やってやる!」
「兄さん、行くわよ!」
ショウコもそれに続く。
「戦いに!」
「ああ!」
二人もこのまま突き進む。万丈がその彼等をフォローする。そうして戦いの中に進み敵を次々と倒していく。これがそのままロンド=ベルの勢いになっている。
ロンド=ベルは一旦敵を突破しそこから反転しまた攻撃を仕掛ける。バルマー軍はその攻撃の時には数を大きく減らし壊滅寸前になっていた。
「バラン様、このままでは」
「わかっておる」
バランはロゼの言葉に頷いた。
「退くぞ」
「はい、それでは後詰は」
「ならん」
しかしバランは今のロゼの言葉を退ける。
「えっ」
「それはならんと言っておるのだ」
「ですが誰かが残らなければ」
「わしが残ると言っているのだ」
バランはこう言ってきた。
「よいな、それは」
「それはですか」
「そうだ。後詰は武人の誇り」
楽しげな笑みさえ浮かべている。
「ならばわしに任せるのだ。よいな」
「・・・・・・わかりました」
ロゼも彼の言葉を受けることにした。こくりと頷く。
「では御願いします」
「うむ。さあロンド=ベルの者達よ!」
軍が退く中でロンド=ベルの面々を大音声に呼ぶ。
「このバラン=ドバンの鉄球を受けたいのならかかって来い!」
「おう、聞いたぜ!」
それを聞いたタスクが応える。
「おっさん!」
「バランだ小僧!」
「俺は小僧じゃねえ!」
「ではバンダナと呼ぼうぞ!」
「バルマーにもバンダナがあったのかよ」
これには少し驚くタスクだった。
「あることはある。わしは身に着けぬがな」
「だから鎧なのかよ」
「こんな人はじめて見たわよ」
カーラが少し呆れていた。
「今まで色々な人見てきたけれど」
「戦の場に鎧で出るのは当然であろう」
「軍服じゃなくて?」
生真面目なレオナもこれには首を傾げる。
「パイロットスーツも着ていないし」
「構わんのだ」
そんなことにこだわるバランではなかった。
「その様なことはな」
「そうなんですか?」
「違うと思うわ」
リョウトとリオもこれには首を捻る。
「黙れ黙れ!まだわからんか!」
「いや、わからないぞ」
「その通りだ」
今度はタスクとユウキが言った。
「動きにくくないのかよ、おっさん」
「おっさんではないと言ってるであおる、バンダナよ」
「何かバンダナって言われても別にどうとも思わねえな」
実際のところそうだった。
「これがアスカに言われたら別だけれどな」
「別なの!?」
「大体御前それどころじゃねえだろ」
「むっ」
こう言われてむっとした顔になるアスカだった。
「御前この前ギャンブルモンキーとか言ってくれたよな」
「そのままじゃない」
本当にこう言うのがアスカなのだ。
「賭け事なんてね。破滅への近道だから」
「いいだろ、俺は強いんだからよ」
「そのうちすってんてんになってライン川に浮かべられるから」
「ライン川かよ」
「宇宙空間でいい」
「いいわけねえだろ」
タスクもタスクで言い返す。
「御前はそもそもよ」
「何!?」
「こら、そこのおなご!」
バランは今度はアスカを叱ってきた。
「何よおじさん!」
「おじさんではない!バラン=ドバンだ!」
「何か騙し絵みたいな顔してるわね」
「騙し絵だと。このわしが!」
「アスカ、幾ら何でもそれは」
シンジがアスカに言う。
「あんまりじゃないかな」
「けれど実際にそうじゃない」
それで止めるアスカではなかった。
「何かひっくり返しても同じ顔になるわよ」
「ええい、黙れ!」
いい加減バランも切れてきた。
「おなごは慎ましやかに!勘弁ならんぞ!」
「じゃあどうするっていうのよ!」
「そこになおれ!」
殆ど子供の喧嘩になっていた。
「成敗してくれる!その性根を叩きなおしてやる!」
「是非やってくれ!」
「ちょっとあんた!」
イザークが言うのだった。
「俺もこいつには銀河童と言われて頭にきてるんだ!」
「じゃあマザコンでいい!?」
「俺がこの手で殺す!」
「ちょっとイザーク!」
「幾ら何でも戦闘中に味方は撃つなよ!」
ニコルとディアッカがイザークを止める。バランだけではなくなってきていた。
「・・・・・・御主、あまり口が悪いと今後苦労するぞ」
「もう随分言われてるわよ」
バランも落ち着いて話してきた。
「なおすべきだと思うが」
「あたしはこれでいいのよ」
開き直るアスカだった。
「これでね」
「左様か」
「とにかくね」
強引に話を戻しにかかってきた。
「もう残ってるのはあんた一人だけれど」
「むっ」
「覚悟はいい?」
「そうか。既に撤退を終えたか」
バランは周囲を見回してそれを確認した。そのうえでの言葉だった。
「ではわしもこれでな」
「撤退するっていうの?」
「左様。小娘、一言言っておく」
「何よ」
「結婚したいのならおしとやかにな」
「あんたと結婚しないから別にいいでしょ!」
「何!わしはもう結婚しておるわ!」
何故かここでまたムキになるバランであった。
「やはり御主は許せん!」
「五月蝿い騙し絵!」
「まだ言うか!」
「何度でも言うわよ!」
「おい、おっさん」
呆れながらもシンがバランに声をかけてきた。
「何だウルトラマン」
「それ言ったら駄目だろうが」
思わずこう突っ込むがそれでもシンは一応言葉を返す。
「とにかく。撤退するんだよな」
「左様」
シンのその問いには自信満々で頷く。
「それがどうかしたか」
「じゃあさっさと撤退したらどうだ?」
「むっ!?」
「皆に囲まれないうちにな」
「むっ、確かに」
言われてやっと気付く有様だった。
「そうであった、わしとしたことがな」
「待ちなさいよ!」
「待てと言われてはいそうですかというわけにはいかぬ」
また随分と勝手な返答だ。
「ではな、小娘よ」
「待ちなさい騙し絵!」
「だからそれを言うな!」
「何百回でも言ってやるわよ!」
こんなことを言い合いながらも戦場を離脱するのだった。かくしてウィーンでの戦いは終わった。しかしロンド=ベルの面々の表情は暗い。
「じゃあトウマは無事なんだ」
「ええ、何とかね」
トールにミリアリアが答えている。
「これといった怪我もないし」
「そう、よかった」
「いや、そうともばかり言えないんだ」
しかしサイがこう二人に告げる。
「何かあったのかい、サイ」
「どうもトウマの様子がおかしいんだ」
カズイにも答える。
「様子がおかしいって」
「かなり感情的になっているんだ。いきり立って」
「トウマがいきり立つって」
ミリアリアはそれを聞いていぶかしむ顔を皆に見せた。
「あまりないことなのに」
「闘志を燃やすことはあってもね」
「そうなんだ。だからおかしいんだ」
今度はトールに答える。
「どうしてなのかわからないけれど」
「雷鳳に取り込まれているとかじゃないよね」
キラが心配そうにサイに問う。
「あのシステムに」
「ミナキさんの言葉だとそうじゃないらしい」
サイはキラにも答える。
「とにかく。今は何かおかしいらしいんだ」
「あのおじさんに負けたせいね」
フレイはこう予想を立ててきた。
「それじゃあ」
「わかるの、フレイ」
「何となくだけれどね」
ジュリの言葉に答える。
「そうじゃないの?それで」
「そう」
「けれどそれもトウマにしては珍しいんじゃない?」
「そうよね、やっぱり」
アサギとマユラはそれを聞いて言い合う。
「トウマが個人に怒りを燃やすなんて」
「やっぱり何かおかしいわよね」
「そうなんだ。あまりにも変だからミナキさんも心配しているんだ」
「それでミナキさんは?」
キラが次にサイに問うたのはミナキのことだった。
「どうしてるの?」
「ずっとトウマと一緒だよ」
サイはこう答える。
「心配みたいだね、やっぱり」
「そうなんだ」
「あの時とキラとはまた全然違うわね」
フレイは今度はキラに話を振ってきた。
「あの時って?」
「ほら、あの変態仮面をシンと二人でやっつけた時とか」
「変態仮面!?誰だそれは」
「ラウのことだ」
レイがカガリに答える。
「ああ、あいつか。そういえばそうだな」
「納得したか」
「確かにあいつは変態だった」
カガリはレイを前にしてはっきりと言う。
「何処かの偽者宇宙人にも似ていたしな」
「確かにそうだが」
ラウは微妙な顔になっている。
「御前には悪いがな」
「そう言ってもらえると助かる」
「あとグラドス軍と戦ってる時よ」
フレイはその時のキラについても指摘する。
「あんたコクピット狙って撃ってるわよね、いつも」
「うん」
当のキラもそれを認める。
「あれだけ人を殺したくないって言っていたのに」
「やっぱりね。戦争だから」
まずはこう答えた。
「それに」
「それに?」
「彼等を倒さないとそれだけ余計に彼等に殺される人が出るから」
次に述べた言葉はこうであった。
「だから僕も」
「皆を護る為に相手を倒すのね」
「特にグラドス軍はね」
何時になくはっきりと答える。
「だからあえて狙っているんだ」
「成程ね。私もそうだけれどね」
「フレイも」
「グラドスは許しちゃいけないから」
語るフレイの整った顔が険しくなる。
「だからよ」
「そうなんだ」
「とにかくその時のキラとはまた違うのね」
「うん」
サイは今度はフレイの問いに頷く。
「何か。強烈な対抗心っていうか」
「キラとはじめて会った時のシンみたいな感じかしら」
「俺か」
「何かそういう感じなの?」
ルナマリアの言葉だった。
「それだと」
「近いかも」
そしてサイはそれを認めて頷いてみせた。
「そうした感じで」
「それはまずいわね」
メイリンはそう聞いて顔を曇らせた。
「あの時のシンみたいな感じで雷鳳に乗ったら」
「そうね」
ルナマリアも妹の言葉に頷く。
「洒落にならないことになるわよ、下手したら」
「俺はあれでSEEDが発動したんだがな」
「あの時は正直かなり危なかったようだ」
だがここでアスランがシンに告げる。
「アスラン」
「御前も激情で暴走する寸前だったらしい」
「そうだったのか」
「そうだ。だから今のトウマさんも」
「危ないってわけか」
「何もなければいいが」
アスランはこう言ってトウマを気遣う。
「どうなるかな」
「けれど今は何もできません」
フィリスが残念そうに述べる。
「私達には」
「そうなんだよな、結局」
ジャックもフィリスのその言葉に頷くしかなかった。
「俺達じゃあの雷鳳をどうすることもできないし」
「じゃあ今は見ているだけ」
エルフィはそれが残念でならなかった。
「そんなことだと」
「まあトウマの旦那が暴走したら身体張って止めるだけさ」
ディアッカはこう割り切っていた。
「俺達でな」
「また随分と簡単に言うな」
「けれどそれしかないだろ」
ディアッカはこうイザークに言葉を返した。
「暴走したその時はな」
「確かにな」
「それでです」
今度はニコルが口を開く。
「雷鳳はどうなったのですか?」
「大破したが修理可能らしい」
サイが彼に答える。
「もうすぐにでもなおせるそうだ」
「そうですか」
「戦力的には問題なしですか」
シホはそこまで聞いて静かに頷く。
「じゃあトウマさんは」
「言われなくても出ると思う」
サイの言葉だ。
「あの様子じゃ」
「その時はまだいいのよ」
フレイが暗い顔で言う。
「その時はね。問題は」
「あのバラン=ドバンが出て来た時か」
「ええ」
シンに対して答える。
「その時よ。どうなるのかね」
「そうか。その時か」
「まず言うけれど私はディアッカの話に賛成よ」
「身体張って止めるってか」
「撃墜してでも何でも」
あえてかなりの極論を述べてみせる。
「トウマさんを止めないとね」
「撃墜したら死ぬだろ」
「安心して。ヘマはしないわ」
シンに答える。本気だった。
「そんなことはね」
「大破させるってわけか」
「できれば。さて」
ここで一息ついてからまた言う。
「その時にどうなるかね。本当に」
「そうね」
「そうだな」
皆それに頷く。暗雲が立ち込めている。しかしそれは彼等の上だけではなかった。
ネビーイームで。マーグは司令室においてバランを迎えていた。そのうえで彼の話を聞いていた。
「そうですか。遂に」
「驚かんのか?」
バランは冷静な顔のマーグに対して問い掛けた。
「これを聞いても」
「ある程度予想はしていました」
だがマーグは冷静なままであった。その冷静な顔で答えるのだった。
「そのことも」
「左様か」
「はい、それで」
マーグはあらためて言う。
「彼等もこの地球に来ているのですね」
「左様だ。備えはしておるな」
「既に」
また答える。
「兵も用意しております」
「うむ、ならばよい」
バランはそれを聞いてまずは満足した。そのうえでまた言う。
「しかしだ」
「まだ何か」
「御主はそれでよい。問題はだ」
「問題は」
「ハザル坊だ」
「ハザル殿ですか」
「あの坊はな。わかっておらぬだろう」
困ったような顔で述べる。
「他の者を侮る悪い癖があるからな」
「左様ですか。それでは」
「今あの者達でここに来ているのはグラドス軍だけか」
「おそらくは」
「左様か。では来た時でよいか」
バランはこう考えることにした。
「今はな。さて」
「これからどうされますか?」
「飲まぬか?」
ニヤリと笑ってマーグに言ってきた。
「酒でも。どうだ」
「宜しいですか?私の様な者がハザル様と」
「何、構うものか」
だがハザルは顔を大きく崩してマーグに言うのだった。
「御主とわしの付き合いではないか。遠慮することはないぞ」
「はあ」
「何ならロゼも呼べ」
「ロゼもですか」
「あの者はどうも生真面目過ぎる」
そう言ってぼやく。
「御主もそうだがな。それもよいがやはり息抜きも必要なのだ」
「それでですか」
「つまみも用意しておる。ささ、遠慮せずにやるぞ」
「わかりました。それでは」
「とにかく飲むのだ」
また言う。
「皆でな。よいな」
「わかりました。それでは」
今はマーグと宴を楽しむ。ハザル=ゴッツォ、運命の出会いをしたことには今は気付いてはいなかった。

第五十六話完

2008・4・24 
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