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サロメ

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第二幕その一


第二幕その一

          第二幕  恍惚
 二人共整っているが品性が感じられない顔をしている。二人共冠を被っていることから王と王妃であることがわかる。王はヘロデ、好色で貪欲な王である。王妃はヘロデア、やはり好色で節度のない女であった。彼等はローマの贅沢を楽しみ民のことも神のことも考えない。そうした者達であった。
「よく戻ってきた」
 ヘロデはサロメの姿を認めて顔を綻ばせてきた。彼女のと王の前に道は開いておりその左右に着飾りながらも腐敗した者達が惚けた顔で蹲っていた。
「何処に行っておった?」
「月の下に」
 サロメはそうヘロデ王に告げた。
「涼みに」
「左様か。それでは今度は宴を楽しむのじゃ」
 そうサロメに告げる。
「よいな。これ」
 左右の者に声をかける。
「サロメに酒を。そして馳走を」
「畏まりました」
「それでは」
 側に控える者達がそれに応える。すぐに酒と馳走を持って来た。
「ささ、サロメよ」
 王はまた彼女に声をかけた。
「そんな離れた場所におらずにな。もっと」
「陛下」
 ここで彼の横にいる王妃がきっとした顔で声をかけてきた。
「何じゃ?」
「あまり見られぬように」
 彼女はそう王に言ってきた。
「宜しいですね」
「別に見てはおらぬが」
 そう述べて誤魔化しながら周りを見回す。窓の外の月に気付いた。
「見よ」
 月を指差す。
「何かを探しているようじゃ」
「月がですか」
「そうじゃ。そうは見えぬか?」
「いえ」
 王妃は王のその言葉を否定してきた。
「見えはしません」
「何故じゃ」
「月は月です」
 冷たくそう述べた。
「違いますか?」
「風情がないのう。月が恋人を探して彷徨っているようだというのに」
「詩的ではあります。しかしそれだけです」
 王妃はまた述べた。
「それ以外の何でもありません」
「ローマでは詩が愛されておるぞ」
「それはよいことです」
 しかしまだ王はまだ未練を残している。目を泳がせながらサロメを見るのであった。
「サロメよ」
「はい」
 サロメは王に応える。その好色そうな目には気付いてはいるがあえて言いはしない。受け流すだけであった。
「座るがよい。ナラボート殿」
 客人扱いなので殿と呼んでいる。
「サロメに席を」
「わかりました」
 ナラボートはそれに応える。応えながらサロメに顔を向けてきた。
「さあ、こちらへ」
「わかったわ」
 サロメはそれに従い席につく。王はその彼女にまだ熱いねっとりとした目を向けながらまた王妃にとってはいささか面白くないことを述べるのであった。
「大きな音が聞こえるな」
「幻聴ではないですか?」
「いや、違う」
 しかし王は王妃に対して言う。
「風の音、いや違うな」
 言いながら何処か不吉なものも感じないではない。その中で述べる。
「羽ばたきかのう。天使・・・・・・それも厳しい天使じゃ」
 ヘブライの天使達は厳格であり容赦ない。自ら剣を手にして人を殺め世界を破壊していくのである。それはまるで破壊の化身である。
「聞こえぬか」
「聞こえませぬ」
 王妃の言葉はやはり素っ気無い。
「それよりもサロメ」
 今度は実の娘に声をかけた。
「疲れたであろう?」
 彼女にあえて優しい言葉をかける。顔も穏やかなものにさせていた。
「だから。下がって休むがいい」
「待て」
 だが王はそれを止める。
「まだ早い。疲れてはおらぬのではないのか?」
「いえ」
 しかし王妃はそんな彼に平然と言い返す。彼に対しては澄ました顔になる。
「それは違います」
「違っているのはそなただ」
 王も負けじと述べる。
「見よ。サロメは」
「御覧になられてはなりません」
「何故そう言う」
「陛下の御為です」
 冷たい声で述べる。高山の氷のように冷たい声で。
「それだけです」
「疲れていればそれはそれですべきことがある」
 そう言うと側の者に声をかけてきた。
 
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