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星河の覇皇

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第五部第三章 巨大戦艦その九


「まずは空母です」
 チャムが自信に満ちた様な声で述べた。それが姿を現わすと歓声が起こった。
「おお!」
 それはこれまでの空母とは違っていた。あまりにも独特の姿をしていた。
 長方形をしている。空母だけあって他の艦よりも大きい。だが違いは他のところにあった。
 何と飛行甲板が四つあるのだ。上中下と縦に四段並んでいる。
 艦橋は右側にある。武装は左右にミサイルランチャーと対空砲座が少しある程度である。どうやら武装よりも艦載機の搭載に主眼を置いているようだ。
「まさか多段の甲板を持つとは」
 これには八条もいささか驚いていた。
「ちょっと趣向を変えてみまして」
 レイミーが答えた。
「今までは空母は着艦と発艦を同じ甲板でしておりましたね」
「ああ」
「それを増やしてみました。これですと一度に多くの艦載機の発進と帰還が可能です」
「だが大変そうですね」
「いえ、そうでもありません」
 レイミーは笑顔で答えた。
「甲板はそれぞれ着艦、若しくは発艦に専念できますから。今までの様に片方をやりながらもう片方、とやる必要はなくなったのです」
「そうですか」
 八条はその言葉にハッとした。
「それなら艦載機の運用がかなり楽になりますね」
「はい」
 今まで艦載機の離着陸はかなり面倒なものであった。艦隊同士が接近した時に艦載機は活躍するがその離着陸はかなり危険が伴うものであった。
 その瞬間には多くの神経を使う。そしてその時は艦は無防備になり易い。それを護るのも大変であった。
 従って接近戦は一瞬の油断が命取りであった。艦載機を使おうとしてその隙を衝かれ敗北した例も多い。
 ましてや着艦と発艦を同じ甲板でやるのは恐ろしく危険な仕事であった。一歩間違えばそこで衝突し事故を引き起こす。そうなれば死者が出るだけでなく甲板も使用不能になる。その間その空母は行動が全くとれなくなる。そして艦載機は下手をすればエネルギー切れで宇宙空間を漂う羽目になる。
 このことを連合の技術班は深刻に受け止めていた。そしてそれを解消するのがこの四段空母であった。
「これなら一度に多くの作業がこなせますよ」
 レイミーはまた言った。
「着艦は二つ、離艦は二つで。今までとは比較にならない程効率は上がっています」
「それに安全性も。飛行甲板の間もそれを考慮に入れて設計しました」
 チャムも言った。
「奇抜な外見だけではないのですね」
「当然ですよ」
 二人は笑顔で答えた。
「どの艦もあくまで機能を追及した結果です。それでこうした外見になったのです」
「そうなのですか、それにしてはまた変わっているな」
「まあ確かに」
 苦笑した。それは二人も認めざるを得なかった。
「けれどこれから出て来る艦はデザインはこの空母程ではありませんよ」
「そうなのですか」
「はい、まあそれもゆっくりと御覧下さい」
 観衆の歓声がさらに大きくなった。最も人気の高い戦艦が来たのだ。
 戦艦は二種類ある。通常の戦艦と高速戦艦だ。まずは高速戦艦が来た。
 高速戦艦はエンジンの強化により速度を通常の戦艦より更に速めたものである。その分装甲等はやや弱いが火力は変わらない。機動戦に使用する。
 先端は流線型になっている。その先にはやはりビーム砲がある。重巡のそれよりも大きい。だが砲艦のそれ程ではない。そして艦首にはそれと並んで魚雷発射口が左右に六門ずつ並んでいる。主砲はやはり重巡のそれよりもさらに大きい。砲塔も四連になっている。
 それが前に四っつ、後ろに三つある。下にも三つ存在する。
 対空砲座やミサイルランチャーもあるが思ったより少ない。重巡と同じ位である。
「やはり機動力を意識してか」
「はい。防衛よりも急襲を念頭に置いた艦ですから」
 チャムが答えた。高速戦艦は普通の戦艦とは運用が違う。正面から戦うことは少ないのである。
 それよりも迅速な行動による機動戦の方が主であった。敵の後方や側方に回り込み攻撃を仕掛けるのだ。普通の艦隊の運用とは少し離れる場合が多い。
「それを考えますと対空砲座等はそれ程要らないものかと思いまして。防御も軽巡のそれよりもやや上の程度で抑えました」
「その分を機動力に回したのですね」
「その通りです。それによりかなりのスピードが出ました。それは保障します」
「よし」
 高速戦艦は汎用性はやや落ちる。軽巡が通常の艦隊においても空母の護衛や主戦力の補助に使われるのとは異なるのだ。従ってその数もあまり多くはない。だが必要不可欠な艦であることに変わりはない。
「いよいよだな」
 場は一旦静かになった。
「ああ、遂に出て来るぞ」
 マニア達はカメラを構えた。そしてその艦がやって来るのを待った。
「来たな」
 そしてその威容が遂に明らかとなった。
 戦艦が姿を現わした。言うまでもなく艦隊の主幹戦力である。
「おお!」
 誰もがその姿を見て思わず声をあげた。その姿は巨大であり、そして美しさすらあった。
 艦首の下方に巨大な砲が横に二門備えられていた。先の高速戦艦のそれと同じものであった。
「横に二門かよ」
「ありゃかなりの破壊力があるぞ」
 彼等は口々にそう言った。そして武器はそれだけではなかった。
 主砲はやあhり四連であった。装備の構造は高速戦艦のそれと変わらない。やはり戦艦だけあってそれなり以上の装備が求められる。魚雷発射口も同じ数であった。
 だが対空砲座やミサイルランチャーの数は違っていた。重巡や高速戦艦のそれよりも五割程多かった。そしてその分姿も大きくなっていた。
「また凄い数だな」
「主戦力ですからね」
 チャムは微笑んで答えた。
「やはり戦艦は装備が充実しておりませんと。話になりません」
「それはそうですが」
 だがその姿はそれまでの艦の常識を覆すものであった。
 あまりにも大きかった。これまでの戦艦の倍はあるのではないか、と思える程である。
 そして装備もだ。主砲だけでなく艦の左右には副砲まであった。これは前後に向けて一つずつ、計四つあった。それは軽巡の砲塔であった。
「まるで一隻で星を破壊しそうな装備ですね」
「ははは、それは言い過ぎですよ」
 チャムはそれには声を出して笑った。
「いや、本当にかなり凄い装備です。これは画期的ですよ」
「そうですかね」
 彼は少しとぼけてみせた。
「防御はどうなっていますか」
「それもご安心下さい。かなりの堅固さを持っていますから」
「そうですか」
 八条はそれを聞きさらに機嫌をよくさせた。
「かってドレッドノートや大和という画期的な戦艦がありましたが」
 ドレッドノートは日本海海戦を見てイギリス海軍が建造した戦艦である。それまでの戦艦のあり方を根本から変えた革命的な艦であった。大和は日本海軍が第二次世界大戦直前に建造した巨艦である。大戦中の日本海軍の象徴とも言える艦であった。最後の戦艦と言ってもよい程であった。
 チャムは今それ等の艦に匹敵するとまで言っているのである。その自信の程が伺い知れた。
「まあこれからわかることですよ。それに」
「それに」
 八条はそこに突っ込んだ。
「これからもっと凄い艦が姿を現わすのですから」
「そうでしたね」
 これには彼も不敵に笑った。二人だけでなくレイミーもそれに加わっていた。
「凄い艦だな」
「ああ、全くだ」
 マニア達は感激すら覚えていた。彼等もこれだけの艦を見たことは今までなかったのだ。
 その後は揚陸艦や輸送艦、補給艦、工作艦等の補助艦艇が続く。掃海艇もある。
「また滅茶苦茶大きいな」
 ここで注目を集めたのが輸送艦であった。以前八条がアナハイム社に直接発注したものだ。
「アナハイム社製らしいな、あれは」
 情報に詳しいマニアの一人が言った。
「だからか。あんなに大きいのは」
 アナハイム社の艦の大きさはよく知られていた。彼等はそれに大いに納得した。
 その艦は戦艦よりもまだ遥かに大きかった。各部にタンクを搭載し艦橋は後方に四角く巨大なものがある。どうやら輸送力に極端に比重を置いたらしい。
「フフフ、どうやら皆わしの社の船に驚いているようだな」
 ベニョーコフもそこにいた。そしてどの者も驚いているのを見て満足そうに笑っている。
「苦労したからな、ここまでのものを開発するのに」
「その苦労の分だけはありましたね」
 隣には息子もいた。
「ああ、だがいい仕事になる」
「はい、最終チェックが通り次第すぐに量産に入りましょう」
 二人はこれからの仕事について話し合った。その間にも艦はやって来ていた。
 掃海艇は四角い構造をしていた。どうやらこれは防御の比重を置いているらしい。
「機雷の撤去だからな」
 機雷は極めて有効な兵器である。コストも安く足止めにもなる。そしてその撤去は危険で手間暇もかかるのだ。
 連合もそれには悩まされてきた。海賊達が機雷を撒くのだ。従って各国では掃海作業は極めて重要な任務の一つであった。
「これも戦争です」
 レイミーが言った。
「機雷も満足に処理できずに何が軍ですか。そう思い開発しました」
「そうですか」
 八条もそれはよくわかった。彼も軍にいた頃は機雷に悩まされたからだ。
「防御とコーティングに重点を置きました。そして作業用のロボットをこれまでの倍搭載しました」
「念入りですね、また」
「はい。その為大きさはやはり大きくなってしまいましたが。あと母艦もあります」
「あれですね」
「はい」
 そこに先の輸送艦に匹敵する巨大な艦が姿を現わした。形は輸送艦に似ていなくもないがタンク等はない。
「あの母艦を中心に十隻単位でチームを作って行動します」
「そうか」
 掃海作業の基本は守っている。彼はそれを聞いて大いに納得した。
「これで海賊の機雷への対処は飛躍的に上昇しますよ」
「よし、これで宙域の安全は更に上がりますね」
「はい」 
 病院船もあった。やはりこれも大型であった。
「こうして見ると戦闘以外の艦艇が多いな」
「はい、それは当初から念頭に入れました」
「当初からですか」
「そうです、戦闘は後方で決まるものですから」
「確かに」
 これは連合各国に共通した考えであった。海賊やテロリストとの戦いにおいては実戦部隊は少ない。それよりも情報や補給、通信がどれだけ充実しているかが勝負の分かれ目であった。
「私もそれを考え開発を命じましたが」
「それ程までとは思わなかった、ですね」
「はい」
 チャムに自身の言葉を言われ少し苦笑した。
 
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