星河の覇皇
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第五部第三章 巨大戦艦その六
まずは歩兵部隊の行進である。迷彩服に特殊プラスチックによるヘルメットを着用している。このヘルメットは軽量ながら極めて硬質であり、ビームコーティングまで施されている。これと同じプラスチックで作られた宇宙や真空状態での戦闘の為の戦闘服もあるが今回はそれは着用していない。
連合軍の行進は大なしめであることで知られている。エウロパの様に手足を大きくあげいかにもキビキビとした動作の行進とは違う。かってのアメリカ軍の行進に近い。
迷彩服であるがこれは特殊な塗装が施されている。周囲に隠れ、体温を消す。姿を消すことに長けている。また赤外線や紫外線に対する耐性も強い。
そのビームライフルは連射と射程に優れている。連合軍らしく集団戦を想定して考えられている。
続いて狙撃兵部隊だ。服装は歩兵と同じであるがライフルが違う。狙撃用に開発された命中と射程をより重要視された銃である。
ミサイル兵、ロケット兵も来た。その装備は他の国々よりも遥かに秀でていた。
「歩兵達だけでこれか」
「では主力兵器はどうなるのだ」
こうした声が漏れてきた。来賓席にいる各国の首脳達も驚きを隠せなかった。
装甲車が来た。六輪で主砲は一門だ。左右にそれぞれ四門ずつミサイルポッドを装着している。空陸両用のミサイルだ。
この装甲車は底辺に防水処理が施されている。またタイヤも特別仕様だ。実は水陸両用なのである。
その主砲も違っていた。まるで戦車の主砲の様であった。ビームガンである。
対空砲、自走砲、ミサイル車、兵員輸送車等が来た。どれも大型で重装備であった。見たところ装甲もかなり厚いようである。
「どうやら火力と生存能力にかなりの重点を置いているみたいだな」
「ああ、それも今までになくな。あんなのははじめて見た」
特別にチケットを手に入れて観戦に来ていたマニア達も噂していた。彼等にとっては一生に一度あるかないかという程の大イベントであるからこれも当然であった。
大砲部隊も来た。軽砲、中砲、重砲、どれをとっても他の国々のそれよりも遥かに重口径であった。まるで怪物の様な大きさであった、それ等は軍用トラックに引かれやって来た。
そしていよいよ陸上部隊の主力戦車である。キャタピラの音を立て巨象の群れがやって来た。
「何だあれは」
皆その異様な姿を見て絶句した。
巨大なだけではなかった。主砲は何と二門あったのだ。それだけではない。副砲として車体の左右に一門ずつ備えられていた。
「おい、あの主砲って」
観衆達がそれを見てヒソヒソと話をした。
「ああ、間違いない。さっきの装甲車の主砲だ」
何と装甲車の主砲を副砲にしているのである。
見れば前方と砲塔の上にはビームマシンガン、砲塔の左右にはミサイルポッド、まるで要塞の様な装備であった。二十世紀後半の戦車を思わせる角張ったデザインにその武装はよく合っていた。違うのはその頃の戦車よりも二倍以上の大きさを持っているということであろう。
そして指揮用の移動要塞が来た。巨大な砲と無数のミサイルランチャー、機銃で装備したとてつもなく巨大な戦車であった。いや、戦車の様なものであった。
全高は優に二十メートルはあった。重砲の二倍はあろうかという巨大な主砲を二門砲塔に搭載している。砲塔の四角にはそれぞれ対空砲座が設けられている。
そして車体の左右は三段になっている。一番上には対空砲座と対空ミサイルランチャー、二段目にはビーム砲座、三段目には戦車のものと思われる砲塔がそれぞれ四つずつ備えられていた。対空砲座とミサイルランチャーは二つずつ交互であった。何とも言えぬ威圧的な姿であった。
「あれが指揮用の兵器か」
「ネットで噂には出ていたがあれ程とはな」
マニア達は必死に写真を撮っていた。それを中央政府の高官達は満足そうに眺めていた。
「やはりこうしたことに興味のある人達の反応は素直だな」
「そうですね、こうした反応が一番わかりやすくていいです」
キロモトとアッチャラーンはにこやかに笑っていた。
「ただ財政的にはかなり悩まされましたけれどね」
財務大臣であるケマル=トラブゾンが苦笑しながら言った。彼はトルコ出身であるが珍しく髭を生やしてはいない。トルコでは昔から口髭を生やす風習であったが最近それが変わってきているのだ。
「髭なんてもう古い」
「これからは古いしきたりにとらわれてはいけない」
こうした意見からだ。こうした事は過去何度もあった。人々はその度に髭を剃り、時が経てばまた生やす。要するに流行という一面が非常に強いのである。
このトラブゾンもそれは同じである、かというとそうではない。彼は当初この運動にどちらかというと否定的であった。
「髭がないと寒くて仕方ない。私は寒いのは嫌いだ」
と言うのである。実は彼は温かい星系の出身であった。
だがある日急に髭がなくなっていた。彼は真相を話そうとしなかった。
「気分が変わっただけだ」
憮然としてそう言うだけであった。それ以上は話そうともしない。
話そうとしないと噂になる。人々は色々と話をした。
「煙草で焦がしたのじゃないか」
「髭を剃る時に間違ってザックリといっちまったか」
だが真相はわからず終いであった。結局彼の髭はなくなった。それは今でもそうである。
「疑惑の髭」
こう笑い話にされていたが彼は財務相としては有能であった。無駄な出費を省き、効果的な運用をすることで知られていた。
「髭と私の能力に関係はないだろう」
マスコミのインタビューに対しては苦笑いしてこう答えるのが常であった。
「ですが急に髭がなくなったので」
「一体何故でしょうか」
こうした質問に対しても言葉を濁した。結局真相本人以外にはわからなかった。
「しかし八条君やレイミー中将とよく話し合ったのだろう」
「はい、それでも色々と苦労しましたよ」
キロモトの言葉にも苦笑して答えた。彼はよく苦笑することでも有名である。
「まあ財務省と国防省は何処でも仲が悪いものですが」
この言葉はいささかシニカルであるがその通りであった。財務省は出費を嫌う。国防省は出費しかしない。これで仲が良くなる筈がないのだ。
ちなみに彼と八条は特に仲が悪いわけでもない。個々のスタッフもそうである。友人としての付き合いを持っている者も多い。だが職務上よく意見が対立するのである。
「まあそれでこれだけの兵器が開発されたのならよしとしよう。財政的な制約も色々とクリアーしたのだろう?」
「はい。まあ細かいお話はここでは出来ませんが」
やはり周囲の目や耳が気になった。何処にそれ等があるかわかったものではない。
「とりあえずそういった幾度かの激論がこれ等の兵器の開発に至ったということだけはおわかり下さい」
「うん。いずれその話を聞くことを楽しみにしているよ」
キロモトは笑ってそう応えた。次は飛行機である。
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