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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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原作開始前
  EP.3 ギルド加入、しかし……

 
前書き
 それでは第三話です。
 よろしくお願いします。 

 
 
 
 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルド内はまるで酒屋だった。
 騒がしくて、楽しそうなギルドの雰囲気は、ワタルにとって未知の物であったため、入り口から少し入ったところで気圧されてしまった。
 
「これは……すごいところだな、エルザ……」
「ここが……ロブおじいちゃんのいたギルド……」
「……エルザ?」
 
 ワタルの言葉がまるで耳に入っていないようにエルザは呟き、ワタルは肩を叩きながらもう一度声を掛けた。
 
「……な、なんだ?」
「大丈夫か? ぼおっとして……」
「大丈夫だ。まずはギルドマスターに会わないとな」
 
 エルザはそう言うと、ワタルの手を引いてカウンターの方へ歩いて行き、ワタルは慌てた。
 
「お、おい……俺はまだ入るとは……」
「入らないのか……?」
「う……」
 
 エルザの悲しげな声にワタルは声を詰まらせた。
 それに合わせるように、周りで見ていた男たちも……
 
「坊主、女の子泣かせるなんて男として失格だぞ~」「そうだそうだ、男ならガツンと行け!」
 
 ……などと野次を飛ばして……結局ワタルが折れた。
 
「……分かったよ。マスターの許可が下りたら入るよ……」
「本当だな……?」
「ああ」
「よし!」
 
 エルザはワタルの返事に満足したのか、歩くのを再開した。
 野次や口笛がまた飛んだが……ワタルはもう気にしないことにした。
 
――それにしても……随分懐かれたもんだな……
 
 エルザが妖精の尻尾のマスター、マカロフと話している間、ワタルはそう思ったが、その胸中はあまり穏やかではなかった。
 
――俺の正体が知られればこのギルドには……いや、マグノリア(この街)にすらいられないだろう……。エルザとも……
 
 別れることになる、ワタルはそう胸中で呟いた。少し胸が痛むのが何故かは分からなかったが……1ヶ月も一緒にいたからだろう、と思うことにした。
 
 
 
 
「そうか、ロブの知り合いか……。ロブは……どうしておる?」
「……その……ロブおじいちゃんは……私を庇って……」
「……そうか……悪いことを聞いたな、エルザ。じゃが、もう大丈夫じゃ。妖精の尻尾はお前さんを受け入れよう。今日からここが君の家であり、ギルドの仲間は君の……家族じゃ」
 
 マカロフはエルザの答えに一瞬悲しそうな顔を浮かべたが、温かい言葉をエルザに掛けた。
 それに同調するように、ギルドの者たちもエルザを歓迎して騒いだ。
 話の区切りがついたのを察して、ワタルもエルザに近づいた。
 
「話は終わったのか、エルザ?」
「ああ。……マスター、こいつもここのギルドに入れたいんだが……」
「おお、今日は二人も新人が増えるのか。お前さん、名は何という?」
「……ワタル。ワタル・ヤツボシです」
 
 マカロフは嬉しそうにワタルに尋ね、ワタルも名乗ったのだが……ギルド内は水を打ったように静まり返った。その次の瞬間……ギルド内はハチの巣を突いたような騒ぎになった。
 
「ヤツボシ、だって!?」「じゃあ、あいつは……」「どうするんだよ?」「俺が知るか」……

 先ほどまでの宴ムードから一転、ギルド内は大人の話声で一杯になった。
 ある者は驚愕し、ある者は困惑し、ある者は慌て、ある者は……ワタルを睨んでいた。
 
「え……皆、一体どうしたんだ?」
 
 その中で一人、エルザは困惑してギルドの面々と無表情のワタル、そして……何故か険しい顔をしているマカロフを見比べた。
 
「エルザとやら……少しワタルを借りるが……良いか?」
「え……ワタルを、ですか?」
「……俺なら大丈夫だ、エルザ。心配するな」
 
 エルザはワタルを心配そうに見たが……彼が少しだけ笑ったので、マカロフの頼みを了承した。
 
「……分かりました」
「すまんな……ちょっと来てくれるか?」
「了解です」
 
 そう言ってワタルはマカロフの後について、ギルドの奥に消えていった。
 あとに残されたのは心配そうな顔をしたエルザと、固唾を飲んで見守る大人たちと、彼らの後ろに隠れた子供たちだった。
 
 
 
 
 ワタルがマカロフに連れてこられたのは個室だった。
 
「……ここなら誰にも聞かれないし、見られない。安心しなさい」
「……ありがとうございます」
「……さてと、単刀直入に聞くぞ……。お前さん……本当に“星の一族”の者か?」
「……」
 
 ワタルはマカロフの問いに対して、黙って左袖を肩口まで捲ることによって答えた。
 
「事実、か……」
「そういう事です」
「……何をしに来た?」
「……別に何も。……旅の途中で、このギルドに入りたいっていう女の子と会ったからここに来ただけです」
「旅?」
「そうです。……俺をどうするかは、あなたに任せます。……でもあの子の、エルザの目だけは治してやってください。……俺からは以上です」
 
 ワタルの言葉を聞いたマカロフは、ワタルの目をじっと見た後、微かに笑ってこう言った。
 
「……そうじゃな……なら、このギルドに入りなさい」
「っ、本気ですか? 俺を……“最後の星屑”をギルドに入れる意味、マスターのあなたなら分かるはずです。……なのに、何故……?」
 
 ワタルは、まるで理解できない、といった風にマカロフに理由を聞いた。
 
「ギルドは……身寄りの無いガキにとっては家みたいなものじゃ。このギルドにも何人かそういう奴がおる。そして……妖精の尻尾はそれが例え悪人でも受け入れる。……その者がギルドに仇なし、ギルドの仲間……家族を傷つけない限りはな……」
 
 それに、と言ってマカロフはにやりと笑って言った。
 
「あのエルザという少女は随分とお前さんを慕っていたようじゃが?」
「……一目で分かる物なんですか、そういうの?」
「伊達に歳は喰ってないわい」
 
 マカロフはそう言うと、さらに笑みを深くした。
 
――はあ、参ったなあ。まったく……
 
「……分かりました。このギルドのお世話になります」
 
 ワタルは内心で溜息を吐くと、妖精の尻尾に入ることを決めた。
 
「ほう、良いじゃろう。……ところで……」
「……ところで?」
 
 何を言われるか、と思って心の準備をしたワタルだったが……
 
「エルザとは……どこまでいった?」
「ブッ!! 子供にそんなこと聞くんですか、あなたは!?」
 
 予想外の質問に吹き出した。
 
「ええじゃないか、そんなことは。……で、どうなんじゃ?」
「それこそどうでもいいじゃないですか……。それよりも、ギルドに入ったらやる事があるでしょう?」
 
 ワタルは何とかマカロフの質問攻撃を躱し、話を変えた。
 
「おお、そうじゃな。ギルドの者にお前さんたちを紹介せねばな」
 
 そう言うと、ワタルとマカロフは部屋を出た。
 
 
 
 
 ワタルはギルドに入ることを決めたが……それでも心配だった。
 
――マスターやエルザは受け入れてくれた……。でも、他の人は……
 
 思い出されるのは、ワタルを見る大人たちの目だった。
 妖精の尻尾の大人たちの目ではなく、これまでの旅で過ごしてきた街の大人たちの……ワタルを恐れ、否定する目だった。
 きっと妖精の尻尾でもそうなんじゃないか……。ワタルはそう思っていた。
 
「心配するな。妖精の尻尾はお前さんを受け入れる。必ずな」
「……ホント、何でもお見通しですね」
「言ったじゃろ? 伊達に歳は喰ってない、とな……」
 
 ワタルの悩みを見透かしているように、マカロフは優しく笑い、ワタルも少しは前向きに考えることにした。
 
――そうだな……信用はそう簡単に得られるものじゃない。なら……自分で掴み取るさ……。
 
「ワタル! 大丈夫だったか?」
 
 気が付くと、元の大広間に戻っており、エルザが心配そうに見ているのに気付いた。
 
「ああ、大丈夫だ」
「それで……」
「慌てるな。マスターの発表を待て」
「……分かった」
 
 何を聞かれるかは予想できたし、色々な意味であまり聞かれたくない事だったので、ワタルはエルザの言葉を制した。エルザも不満そうだったがそれに従った。
 
「……ゴホン。さて、この妖精の尻尾に新たな仲間が増えた。エルザ・スカーレットとワタル・ヤツボシじゃ」
「お、お願いします」
「お世話になります」
 
 マカロフの紹介に、エルザとワタルは礼と共に軽く自己紹介した。
 ギルドの者はエルザには大きな拍手で歓迎したが、ワタルに送られたのは疎らな反応とひそひそ声だった。
 
「貴様等、何じゃその反応は! もっとしっかり歓迎せんか!」
「マスター、気にしないでください。信用はこれから勝ち取りますよ」
「そうか……。すまんな」
「いえ」
 
 ワタルはマカロフを宥めると、ギルドを出て行こうとした。
 
「お、おい、ワタ……」
 
 エルザが慌ててワタルに声を掛けようとしたが……
 
「待てよ、新入り」
 
 それを遮るように、半裸の少年が声を掛けた。
 
「……何だ?」
「俺はグレイ、グレイ・フルバスターだ。俺と勝負しろ、新入り!」
「……ことわ……」
「人の邪魔をするな、この変態が!!」
「ガッ!?」
 
 いきなり勝負を仕掛けてきたグレイと名乗る少年に、ワタルは応えようとしたが……その前に怒ったエルザに蹴られて倒れた。
 
「……お、おい、エルザ……」
「痛てて……何すんだ、お前!」
「何はこちらの台詞だ! せめて服を着てから話し掛けろ! ここは変態のギルドか!?」
「服って……あー! いつの間に!?」
「無自覚か、貴様!?」
「落ち着けエルザ。……グレイ、と言ったか? 悪いな、長旅で疲れてるんだ。勝負は受けるが……明日でもいいか?」
 
 ワタルはエルザを宥めてからそう言うと、グレイはそういう事なら、と言って引き下がった。
 
「分かったよ……でも、逃げるなよ!」
「誰が逃げるか、この変態が!」
「変態言うな!」
「なんでお前が言うんだ、エルザ……グレイ、逃げないから心配するな」
 
 ワタルはグレイにそう言うと、エルザを再び宥めながら、ギルドから出て行った。
 
    =  =  =
 
「大丈夫なのか、マスター? あいつは……」
「そうだよ、あいつは“星の一族”の末裔だろ?」
 
 ワタルとエルザが紋章を刻んで、出て行ってから、ギルドの大人を代表としてマカオとワカバがマスターに話しかけた。
 
「心配するな。あやつは大丈夫じゃ」
「けどよ……(ゴンッ!)イテッ!」
「心配するなと言っておろうが、このバカタレめ!」
 
 尚も言い寄るワカバに、マカロフは杖で頭を打った。そして、他の大人たちを黙らせると、静かに語り始めた。
 
「……ワタルの目を見た。……あやつは穏やかで、優しい目をしていた。だが同時に……“恐怖”を知っている目じゃった。受け入れられない事を恐れていたのじゃよ、あやつは……」
 
 だから、こちらが裏切らない限り心配ない、と言い切ったマカロフに、周りの大人は、マスターがそう言うなら……、と納得して下がった。
 
――星の一族……か。存外、噂など当てにならないものじゃな……。
 
 マカロフはそう胸中で呟くと、クックッ……と笑った。
 
 
 
 
「なあ、マスターと何を話したんだ?」
「お前が気にすることじゃないさ」
 
 一方、ギルドを出たワタルたちは、マグノリアで暮らすための借家を探していた。
 
 
 因みに、エルザはワタルと一緒に住むつもりだったのだが、ワタルの必死の説得によって、不承不承ながらも女子寮に入ることになった。
 以下の会話がこれである。
 
「エルザ、お前は女子寮に入れ」
「何故だ? 別にお前と一緒でもいいだろう?」
「良くない! お前は女の子だろうが。男と一緒に住む、なんて軽々しく口にするんじゃない!」
「私は気にしないぞ」
「俺が気にするんだよ」
「ワタルは……私の事嫌いか?」
「うぐっ、……だがそれとこれとは話が別だ」
 
 エルザの上目使いに陥落しそうになったワタルだったが、何とか持ち直した。1ヶ月近い二人旅の経験の成果であった。
 
「……チッ」
「舌打ちするな、まったく……いいな?」
「……分かったよ。なら、家探しは私も一緒にするからな」
「……まあ、それぐらいならいいだろ……」
 
 閑話休題。
 
 
「……左腕の事か?」
「ッ!」
 
 エルザの言葉に、ワタルは、ばれたか、と焦った。
 彼女が怪しい、と思ったのは、先ほどの紋章の件だ。
 エルザが先に左の二の腕に青いギルドの紋章を刻み、ワタルにも同じところに刻むように言った。
 だが、ワタルは左腕を押さえてエルザの言葉を断り、右の二の腕に黒い紋章を刻んだ。その事に違和感を持ったのだ。
 
「……私だって別に鈍くはないつもりだ。ワタルが左腕を隠していることぐらい気づいていたさ」
「……そうか……」
「……なあ、私は頼りないか?」
「そんなことないさ……」
 
 ワタルは、エルザの問いを否定したが、エルザの気は晴れなかった。秘密にされていることがある、という事が悲しかったのだ。
 それを知ってか知らずか、ワタルは言葉をつづけた。
 
「……腕の事は、時が来たら話すよ。だから待って欲しい」
「……本当、だな?」
「ああ」
「……なら、このことに関してはワタルが話してくれるまで、私は待つよ」
「悪いな……」
「気にするな……フフフ」
 
 エルザはワタルの真似をして、可笑しくなったのか笑い始めた。
 
――そうだな、エルザにはいつか絶対に話そう。この腕と……俺の一族の事を……
 
 ワタルは、一緒に笑いながらも思い、足を進めた。
 
 
 余談だが、ワタルが暮らすことになった家は家賃9万Jの家で、その日の夜、ワタルはその家の鍵が一つ盗まれていることに気が付かなかった。
 おかげで、この後何日か、朝にエルザの襲撃を受けることになった。
 
 
 

 
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