星河の覇皇
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第五部第二章 狩りその二
「ですが今の常温核融合よりも更に効率のいいものといいますと」
常温核融合は人類を救ったとまで言われている。これにより銀河の進出が飛躍的に伸び、そしてエネルギー問題もかなり解決されたのだ。今では改良に改良を重ね平均して初期のそれの三十倍のエネルギーを誇るまでになっている。それ以上のものとなると少し創造がつかなかった。
「それはわからない」
クリシュナータは言った。
「私でもそこまでは読めない。だが」
「だが!?」
「それが出るとしたら何処で出るかだ。連合の中で出るのなら問題はない。おそらく中央政府が直轄して話は済むだろう」
「そうでしょうな。下手に各国に預けたならば内戦につながります」
「問題はそれが他の勢力で発見された場合だ。おそらく彼等はその国力を背景にそれを渡すよう要求してくる」
「それは容易に想像がつきますな」
連合がどれだけ資源を持っていようともだ。より多くのものを欲するのも人間の性であった。
「当然その勢力もそれは断る。そうすれば連合は武力に訴えるだろう」
今までの人類の歴史でよくあったことである。
「それが問題なのだ。もしこのマウリアに出たならば我々は彼等に膝を屈するか干戈を交えるしかない」
「主席はそれについてどうお考えですか」
ラーンチはここであえて尋ねた。
「私か」
クリシュナータはその言葉に対し顔を向けた。
「はい」
ラーンチは頷いた。
「決まっている」
クリシュナータはそこで表情を硬いものにさせた。
「例え長年の盟友であっても渡せないものもある」
「そうですな。国家の誇りにも関わります」
ラーンチはそれを聞いて安心した様に頷いた。
「国民を巻き込むことだけは避けなければならないが」
「彼等の支持があれば、ということもありますね」
「ああ」
マウリアも民主制である。内部にマハラジャや多くの半ば独立したような勢力を持っていてもマウリアもまた民主国家なのである。民主制においては国民の意思が非常に大きな役割を果すのは言うまでもない。
「その場合彼等がどう判断するかだ」
「それによって大きく変わりますね」
「だが連合については今からある程度考えておいた方がよいな」
「はい」
丁度そこで休憩時間が終わった。クリシュナータは席を立った。
「そろそろ行くか。充分休憩にはなった」
「はい。では午後は丁度国防問題について話し合う予定となっておりますし」
「それについても話し合おうか。いい機会だしな」
「それが宜しいかと」
「よし」
こうして二人は部屋を出た。そして閣議室に向かった。
閣議室では既に他の閣僚達が待っていた。彼等はクリシュナータとラーンチが入室すると席を立った。
「うん」
彼はそれに手で応えた。そして座らせると自身の席に着いた。ラーンチもである。
「この閣議で話したいことだが」
彼は閣僚達を見回しながら言った。
「連合の観艦式についてだが」
一同はそれを聞きやはり、という顔をした。彼等もそれについて考えていたのだ。
「諸君はこれについてどう思うか。これで連合はおそらく彼等の力をこの銀河に誇示するであろうが」
「それだけではないでしょう」
クリシュナータの側に座る男が言った。見れば頭にターバンを巻いた老人である。マウリア首相クベーラ=ムルワーラである。
「おそらく彼等は今後その力を背景に対外政策を積極的に行っていくものと思われます」
「何故そう思う?」
クリシュナータはあえて彼に尋ねた。
「彼等の国力を考えますと。やはり連合の力は強大です。伊達に人類の約八割を擁しているわけではありません。それで以って一気に銀河を制圧することも考えられます」
「それはどうでしょうか」
だがここで異を唱える者が現われた。
「ん!?」
妙齢の女性である。マウリアの服に身を包んでいる。その容姿は艶やかでありまるで古代の女神の彫刻の様である。マウリア外相ヴァティ=エルールである。
「連合は今頃銀河を統一しようと考えているとは思えませんが」
「外相がそう考えられる根拠は何ですかな」
ムルワーラは問うた。
「若しそうならば今までにそうした動きがあってもおかしくはありませんでした。一千年もの時間があったのですから」
「それまで連合は内部でのまとまりに欠けましたからな」
ムルワーラはそれに対して答えた。
「ですからしなかったのです。言い換えるならば出来なかった」
「それは軍事においてですね。少なくとも経済や政治においては違いました」
「それはそうですが」
ムルワーラは反論されてやや顔を曇らせた。
「その証拠に我々は今もこうして独自の勢力を持っております」
「文化や風習の違いも大きかったな。それに考え方も」
ここでクリシュナータが言った。
「はい。ですがそれだけではないでしょう。実際に連合は今まで我々に対して自由貿易協定も連合への参加も呼び掛けたことはありません。連合内での会談にも一度も呼ばれたことはありません」
「サハラの会合には何度か出席していたがな」
「はい」
クリシュナータに答えた。
「それよりも彼等の関心は国内でのことでした。そしてそれは基本的に今後も変わらないでしょう」
「外相はそう見ているか」
「はい。ですが例外もあります」
「例外!?」
そこにいた全ての閣僚が彼女の言葉に目を向けさせた。
「はい。まずはエウロパに対してです。彼等の間には長年に渡る敵対関係があります」
それが為に人類はこの銀河で多くの勢力に分裂したようなものであった。連合とエウロパの対立は国連を瓦解させ、そして今の人類の勢力地図を作ることになったのだ。そして武力衝突こそないもののその対立は今も続いている。彼等の間には交易なぞ全く無く、あるのは対峙と批判の応酬だけであった。
「まずはエウロパに対して大規模な武力侵攻に出ることが予想されます。そしてそこでかなりの成果を狙うでしょう」
「エウロパの滅亡をか」
「そこまではわかりません」
エルールはそれに対しては首を横に振った。
「ですがエウロパに対してそれなりのことはすると思われます」
それなりのこととは何か、それまでは言おうとしなかった。だがそれだけで閣僚達は顔を引き締めさせた。それ程重要な話であった。
「そうか、まずはエウロパか」
ムルワーラはそれを聞き腕を組んで考えた。
「その時の連合の政権の政策にもよりますが」
「ふむ」
エルールの前置きにも彼等は顔を暗くさせたままであった。
「そしてもう一つは」
閣僚達はさらに尋ねた。
「連合はまだ何かする可能性があるのですね」
「はい」
彼女はそれに対し頷いた。
「今度は資源の問題です」
クリシュナータとラーンチはそれを聞きやはり、という顔をした。
「仮定の話ですが若し他の勢力において何かしらのレア=メタルが多量に発見された場合です」
「レア=メタルですか」
「そうです。それの用途によっては連合はそれを手に入れる為に動くでしょう」
クリシュナータはそれを黙って聞いていた。そして自分と同じ考えなのに驚愕していた。
(まさか私と同じ考えとはな)
だがそれは顔には出さない。ただ話を聞いている。
エルールは話を続ける。真摯なものであった。
「それによっては我々も連合と戦わなくてはなりません。その準備はしておくべきであると思います」
彼女はそう言うと他の閣僚達を見回した。
「皆さんはどう思われるでしょうか」
彼等は何も語らない。連合と対峙するにはそれなり以上の覚悟が必要だからだ。クリシュナータはそれを見ながら憮然としていた。
(ここで誰か言って欲しいが)
彼自身が言うのには抵抗があった。ここは他の者を立てたいからだ。
(いないか)
それが残念だった。彼はそれを見て意を決した。
(やはり私が言おう)
だがここで一人の男が口を開いた。
「外相」
それはラーンチであった。
「国防相、何かお考えが」
「はい」
彼は微笑んで答えた。クリシュナータはそれを見て内心会心の笑みを浮かべていた。
(よくぞ言ってくれた)
ラーンチはそれを知ってか知らずか言葉を続ける。
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