星河の覇皇
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第一部第二章 銀河の群星その五
(それ程重要な話か)
彼は意を決して部屋に入った。キロモトは妻とは大統領就任前に死に別れている。子供もいなく孤独な男やもめだ。姉の子を一人養子にしている。彼は今祖国で畑を耕しているという。
(それがあの人らしいな。あくまで素朴に飾らずに、か)
そう思いながら部屋に入った。そこにはその当人がいた。
「ようこそ、夜分遅くに呼び出して申し訳ありません」
キロモトは八条に対して言った。彼は背広のままである。
「いえ。それよりも重要なお話とは何でしょうか」
八条は単刀直入に尋ねた。
「はい。実は私は今考えていることがあるのです」
彼は八条を見据えて言った。その声は重く慎重なものである。36
「考えていること」
八条はその言葉を自分でも言ってみて尋ねた。
「はい、今連合はこの中央政府の権限を強化する方向に動いています」
「そしてそれはかなりの成果を挙げていますね」
八条は言った。
「そうです、中央議会及び裁判所の権限を拡大し中央警察を設立しました」
「そしてそれにより宇宙海賊と彼等と結託する者達を次々と捕らえました。これにより我が連合の治安はかなりよくなりました」
「その通りです。しかしそれだけではまだ足りません」
「と、いいますと」
八条はそこで尋ねた。
「もう一つ、この連合をまとめるのに必要なものがあるのです」
「それは?」
「閣下も軍におられたからおわかりでしょう。連合中央政府直属の軍です」
「え・・・・・・」
キロモトのその言葉にさしもの八条も驚いた。連合では軍はそれぞれの国が独自で持つものだからだ。
「各国の軍を統合しこの中央政府の下に置くのです。そうすれば我々のまとまりもかなり良くなるでしょう」
「それはそうですが・・・・・・」
確かに理想としては素晴らしい。この連合が長い間人類の中で最大の勢力を誇りつつもエウロパの存在を許しサハラに何も出来なかったのはひとえにこのまとまりの悪さからであった。まず動くには各国の利害を調整せねばならずそこをエウロパに付け込まれたことが度々あった。これはブラウベルの頃から何も変わってはいない。その為外部に勢力を向けることも出来ず開拓に専念するしかなかったのだ。またその開拓も各国の利害が複雑に絡み合い思うように進まなかった。
連合設立の時より欧州の様な強力な統率力を持つ中央政府の設立が叫ばれていたがそれは叶わぬことであった。大国の力が強く多くの国からからなりその個性がどれも極めて強い状況ではどうしても緩やかな組織になるしかなかった。またその方が大国には都合が良かったしそうした緩やかな組織に親しみを持つ者も多かった。結果今に至るのでありそして今の連合の中央への権限集中も実は批判が多い。
「確かにそれは素晴らしいことですが・・・・・・」
八条は口篭もりつつ言った。
「我が連合のまとまりはもう充分ではないでしょうか。設立と同時に経済及び貿易は自由化され関税や市場の統合も為されています。しかも共通の通貨までありますし」
これは既に連合の設立の頃に為されている。連合の通貨は『テラ』という。地球からとったものだ。
しかしこれは連合に住む者なら誰でも知っているようなことだ。彼も自分で口にして何を言っているんだ、と思った。
「そして中央警察も設立された、もうそれで充分ではないかと」
キロモトは微笑みながらその話を聞いていた。
「はい」
八条は答えた。
「成程、確かに一理あります。今の我等の中ではそれが意見の主流でしょう」
「そうですね。我々はあくまで互いの主権や個性を尊重し合うということを何よりも重要視していますから」
連合の特徴の一つである。エウロパやマウリア、サハラ各国に比べてこの連合では個人主義的風潮が強い。自分のことは自分でせよ、相手の個性や考えにまで口を出すな。これは構成する各国の文化や風習の違いが凄い為にそうなったことである。大国も他の国のそうしたことには口出しはしなかった。何故なら彼等の中にも様々な風習や文化がありそれを言うととんだヤブヘビになるからだ。
「ですが私の考えは違います」
キロモトはニヤリ、と笑ってそう言った。
「連合の中で統一された軍を持つことは我々の団結をより強いものにします。そして治安や国防も考え易くなります」
「確かにそうですが」
「我々に敵がいないというのは誤りです。今は遭遇していませんが人類以外の知的生命体との遭遇も考えられます」
「はい」
これは誰もが一度は漫画やテレビ、本、ゲーム等で見ていた。攻撃的な侵略者。一千年以上も昔から変わらない他の知的生命体からの一方的な攻撃である。
「この宇宙は広い。我々の開拓地もさらに広くなります。そうすればさらに遭う可能性は高くなるでしょう」
それもまた以前より言われてきている。むしろ今まで遭遇しちえないこのことが奇跡なのだとも言われている。
「まだ遭ってもいない、という話は通用しません。遭ってからでは遅いのです」
「それはその通りですが」
八条は答えた。
「それにエウロパに対しても防衛は完璧ではありません」
キロモトは目を少し険しくさせて言った。
「といいますと!?」
八条はこの言葉には少し面食らった。エウロパとの唯一の国境であるブラウベルク回廊にはガンタース要塞群がある。これはガンタース星系の十五の惑星全てを要塞化したものでエウロパのニーベルング要塞群をも遥かに凌駕するものである。その強化は常に行なわれており陥落させることは不可能と言われている。
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