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星河の覇皇

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第十九部第三章 会議は変わりその十二


「そうでないと軍が成り立ちません」
「成り立ちませんか」
「そうですよ。他にも風土病にも気を着けていますが」
 これも重要である。もっともエウロパには風土病というものは連合と比べるとないに等しいが。連合は広大であり様々な病気が存在し、それが撲滅されるとまた別の病気が出る、という状況でもあるのだ。エボラやエイズを容易に撲滅出来る医術があるがそれでも全ての病原菌を撲滅することは不可能なのである。そもそも解決できない病気やワクチンが解決出来ない病原菌などというものも有り得ないのであるがその全てを解決するというのもまた無理な話だ。それは万能の能力ということであるが人間は万能の存在ではない。だからこれもまた無理なのだ。もっとも病原菌で人類が滅亡するなどというのは杞憂を通り越して異常な幻想であるが。 こうした幻想に取り憑かれて喚いている奇人変人はこの時代にも存在はしている。こうした奇人変人はそれこそ何時の時代のどの国にも存在している。当然であるが連合にもこの類の首領を展開している奇人変人が存在している。この奇人変人は他にも何とかとかいう訳のわからない予言者の言葉や他の知的生命体の存在や連合、人類を裏で操る秘密結社の存在等を必死に叫んでいる。そのうえで自分が弾圧され命が狙われていると主張しているのだが彼は何度も精神病院に入ったことがあるので誰も信じないのであるが。ただ彼の本は売れている。そうした本が売れるのもまた世の中である。
「エウロパはそんなのはないですね」
「むしろ我々の方が、ですね」
「そうですね」
 それは彼等自身も認識していた。連合とエウロパでは医療技術にもかなりの差がある。とりわけ細菌研究やその技術に関してはかなりの違いがある。それは惑星開拓と開発によるものが非常に大きい。惑星開拓や開発において新規の病原菌の発見とその脅威は付き物だからである。それに迅速かつ的確に対応する為に連合においてはその研究と技術が発達したのである。無論他の医療技術においてもそれは同じである。一つの技術だけが突出するということは長い目で見ればあまりない。医療においても同じことである。その結果として連合の医療技術はエウロパのそれをかなり凌駕してしまっているのである。一千年前は世界の医療をリードしそれを誇りとしていたエウロパも今ではその分野においても連合に大きく遅れを取ってしまっていた。千年以上前は彼等が考えもしなかった黒い肌の医学者達がそれこそ星よりも多くいる。そうした時代になってしまったのである。
「その面では羨ましい」
「ワクチン打ってきたのが杞憂でしたかね」
「いえ、そうでもないかと」
 だが八条はそれも否定した。
「違いますか」
「ウィルスというのは急に進化しますからね」
 これもまた本当のことである。中南米でのほんの皮膚病だった梅毒が人を腐らせて死に追いやる恐ろしい病になったのはヨーロッパ人の中でであった。この梅毒が瞬く間に全世界に広まり多くの者が命を落とした。鼻が腐って落ち、身体全体が腐り果てていく。特徴的なのはその紫色の斑点や瘡蓋である。かつてはこの瘡蓋から瘡病とも呼ばれた。吉原等ではこの病で命を落とすことが非常に多かったのは言うまでもないことである。二十世紀までこの病で命を落とす者は非常に多かった。一説によるとベートーベンの耳が聞こえなくなったのはこの病のせいだと言われている。中国清代の皇帝同治帝の死因もこれであるとされているが実際のところは眉唾であるとも言われているが。ハイネも梅毒で死にシューベルトもそうであると言われている。これもまた一説には、であるが。またアメリカ大陸で多くの原住民が死んだのはヨーロッパ人達が知らないうちに持ち込んだ菌によってであった。八条はこれも警戒して手を打っていたのである。
 
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