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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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集結準備

 日本、東京都小笠原諸島、硫黄島分屯基地。
 この島は第2次世界大戦以降、島全体が自衛隊の基地とされており、民間人がいないことと周囲が何も無い海上という立地上、ISが登場した10年前から積極的にIS用の設備が増設されてきた。現在では国内随一を誇る自衛隊IS訓練場であり、島全体にも軍事衛星処理が施されている。
 更には自衛隊最南端の基地であるため太平洋に対する最前線であり、国内のIS操縦者の中でも腕利きの者が配備されている。
 時刻は既に昼時。真夏の太陽が滑走路のアスファルトを熱して陽炎が現れていた。

 そして滑走路脇に隣接している宿舎の一室。他の部屋と比べてかなり豪華に作られているその一室はIS操縦者専用のものである。
 窓辺で外からの風を取り入れていた少女がぼやく。

「あつい、むしろ暑いより熱い……」

 鮮やかな黒いショートカットの髪に、あまり凹凸の無い身体はパッと見男と見間違われるほどで、口調も男っぽいがれっきとした女の子だ。江本(えもと)(ひびき)、それが彼女の名前だ。

「心頭滅却すれば火もまた涼し」

 ソファーに座っている少女、上杉(うえすぎ) 千歳(ちとせ)は長い髪を右手でかき上げながらニッコリと笑顔を向けて見せた。響とは対照的に小柄とは言え歳相応に成長している部分は成長している。

「そりゃキミがこの部屋唯一のバケツに水入れて足を突っ込んでいるからだろ………それからそろそろ交換してくれないか?」

「お断り」

「用意したのはボクだぞ?」

「提案したのもジャンケンで勝ったのも私」

 響がソファーから動く気のない千歳を見て額に青筋を浮かべる。
 2人とも白いTシャツにハーフパンツと言う非常にラフな格好で、Tシャツの方は自分達の汗で完全に下着のラインが浮かび上がってしまっているがそんなことは気にしていない。何しろここはIS操縦者専用の部屋であり、即ち女性専用の部屋なのだ。
 そんな所に入ってくる男性はいないし、いたとしたらその人は殺されても文句は言えない。

「ていうか……」

「はい?」

「何でこんな真夏にクーラー壊れるんだ……」

「さあ?」

 響の言葉に千歳は心底不思議そうに首を傾げた。
 そう、つい今朝からこの部屋のクーラーは暑い風しか送り出さなくなり、今2人は真昼の太陽と襲い掛かる気温を凌ごうと必死になっているのだ。まさか壊れるなんて思ってないのだから扇風機なんて無いし、このご時世だ。部屋の中には団扇でさえありはしない。
 聞こえるのは自衛隊員の訓練の声、戦闘機や輸送機、ヘリといったものの駆動音。これだけでも十分暑苦しいのに駄目押しとばかりに夏の風物詩のセミの大合唱だ。これで暑くないと言う奴はいないだろうと言うほど暑いし苦しい。
 遂30分前に冷蔵庫から出した麦茶入りの二ℓペットボトルは既に空で、机の上に転がっている。
 ここまでしているのだから他の場所に行けば良さそうなものだが、残念なことに2人には上層部から既に自室待機命令が出てしまっている。こういう時は基本的に緊急時で、いつもなら1時間もすれば何かしらのお呼びが掛かるのだが、既にその命令から4時間が経過している。いつもなら面倒な命令だが、今は運悪く長くなってしまっていた。ISなら防護フィールドのおかげで暑さなど関係ないというのにこんな時に部屋への待機なんてサウナで待っているのと変わらない。

「響? 頼みが」

「何か嫌な予感しかしないけど言ってみ」

「アイスを」

「却下だバカヤロウ。てかそんなもんあるなら食べてるよ」

「むう…」

 代表候補生であり、自衛隊基地にいる以上その上層部の命令は絶対だ。故に2人はこの部屋を離れることは出来ない……が、暑さは我慢できない。となれば薄着をするしかなく、2人は結構ギリギリのところまでシャツを捲り上げている。
 それから更に30分が経過し……

「響?」

「んー?」

 既に響の方は窓辺に寄りかかっている状態であり、千歳の端正な顔にも汗の粒が出来ている。バケツに張られた水は冷水から微温湯と変わらない温度へと変化しつつあった。

「扇いで」

「自分でやれっつの」

 2人のTシャツは既にその役目を果たしておらず、肌にぴったりと張り付いて透けてしまっている。当然下着は丸見えであるし、肌の色も見えるくらいに透けてしまっている。

「脱ぐ?」

「それが一番手っ取り早い気がしてきた」

 そう言って二人がTシャツに手を掛けた瞬間……何の前触れも無く扉が開いた。その瞬間に2人の少女の手が止まり……再び脱ぎだす。

「待たせたな……って何やってるお前ら……」

 入ってきたのは航空自衛隊の制服を身に着けた女性だ。歳は20歳ほどで、髪はおかっぱに近く少しだけ不揃え。仕官服で窮屈そうに締め付けている胸元が特に目立つ。

「榛名二尉……」

 響がその女性を見てそう呟きながら脱ぎかけたシャツを元に戻した。その顔にはやっと開放されると言う安堵感とこれから仕事だと言う苦痛が入り乱れていた。

「やっとですか舞子さん。待ちくたびれました。というわけでアイス下さい」

 千歳はそう言いながらゆっくりとソファーから立ち上がる。

「相変わらずだな貴様ら……そのまま滑走路10往復行ってみるか? 十分休んだろ」

「はい! 待ってました!」

「お仕事ですね。頑張ります」

 女性、榛名(はるな)舞子(まいこ)の一言で2人が飛び上がると目の前まで走ってきて敬礼をする。この人は冗談を言っているようで冗談じゃないことがある。前に代表候補の何人かが真冬に寒中水泳10kmなんてやらされたって話もある上、こんな真夏の数キロもある滑走路を10往復もしたら達成前に熱射病か脱水症状で確実に倒れる。しかもそれで回復したらまたやり直しだ。そんなことさせられるくらいなら今の暑さを我慢した方が2人ともマシなのだ。
 うむ、と舞子が頷くと千歳が座っていたソファーの前にあるもう一つのソファーに座って二人にも座るように促す。
 2人が座るのを待って舞子が小脇に抱えていたファイルを二人の前の机に広げた。

「これは?」

「まあ仕事内容についてだ」

「はあ……」

 2人がそのファイルの中の紙の一番上を捲る。そこには細かな文字がびっしりと敷き詰められており、2人は露骨に嫌な顔をしたが、ふと一番上の項目を見て目の色を変えた。

「榛名二尉……これって」

「もしかしますけど……」

 その2人の反応を見てから舞子はニヤリと妖しげに口の端を吊り上げた。

「2人とも私とともにそれに参加してもらう」

「や、やっぱりそうですよね……」

「面倒です……」

「上杉、滑走路行くか?」

「頑張ります」

 舞子の言葉に千歳が漏れた本音を引っ込める。

「あのー、ボク達だけですか? 他に参加者は? IS学園に更識もいるはずじゃあ」

「IS学園所属のあいつが使えるか。表向きとは言えIS学園に所属する生徒は国家機関との接触を禁じられているんだぞ? それに簪はまだ機体が完成していないしな」

「じゃあ私も参加しない」

「ほう……入学時期を自己の都合で勝手に辞退して食道楽していた奴からそんな言葉が出るとは……」

 舞子の額には青筋どころか笑顔が浮かんでいる。それはもう100人いたら100人がこの人は笑顔じゃないというほどの怖い方の笑顔だ。

「是非参加させてください」

 それを見た瞬間に千歳は腰を45度曲げて綺麗なお辞儀をして見せ、響は呆れたという風にため息をつく。
 現状は触らぬ神に祟りなし、腕もさることながら人の機微を読むのも代表候補生には必要だ。何せ国の代表になる可能性があるのだからそのくらいは出来る。
 とにかく今はこの部屋にもういたくない上に、そのためにも舞子に逆らうのも得策ではない。

「とにかく! 現時刻を持って江本 響、上杉 千歳の両名は硫黄島分屯基地での訓練を終了。1500に私とともに横須賀基地へ向かってもらう。準備しろ!」

「「はい!」」

「江本! 上杉がどっか行かないようにしっかり見張っておけ! なんなら力づくで押さえ込め!」

「は、はい!」

 それだけ言うと舞子は書類を置いて部屋を出て行った。部屋に残されたのは少女2人と夏の音、更には仕事の山である。

「むう……信頼無い……」

「自業自得だ」

 時、8月10日……期日まで残り、5日。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それで、そちらの状況は?」

 イギリス、ロンドン

『IS配備特殊部隊のISと監督役として私が同行する。我が国はVTシステムの一件があるからな。自由には動けんさ』

 ヴィクトリアの目の前の二つのディスプレイにはドイツのロベルティーネとイタリアのフィオナの顔が映し出されている。今は5回目の秘密裏の会議だ。3人ともこの内容は誰にも聞かせないし喋らない。ただし決まったことはEUの総意としてそれぞれの国の代表に話を通す。
 つまりはここがEUの方針を実質的に決める場なのである。

『こっちは一応何隻か出せるらしいぞ。まあ参加する操縦者は私とユリアだけだけど』

 利用するのは国際連合安全保障理事会決議1540。略称UNSCR1540と呼ばれる大量破壊兵器拡散抑止のための方策を定める決議だ。元々核兵器や生物兵器などの大量破壊、殺害兵器の拡散抑止の為に定められて物で、ISが世界に公表されるや否やIS条約についで改訂がなされた。
 ISの暴走なんてものを許せば核兵器以上の脅威が世界に晒されることを大いにアピールできる。
 それこそ米国が相手であろうと、だ。だがそれはEU全体にも返しで言われることではあるだろうが…

「まあこの際参加人数はいいの。どうせイギリスだってIS操縦者は私を含めて3人よ。しかも私は参加できないし……今重要なのは参加国の数よ。問題があろうとなかろうと……いえ、むしろ当事者だからこそフランスもドイツも参加させるからそのつもりで」

 だがそれも数が揃わなければ意味がない。超大国であるが故にEU全体が一丸とならなければならないのだからこれがまた難しい。EU内部でさえ様々なIS企業が切磋琢磨し、競争し消え行く時勢だ。そんな中外部に対して攻勢をかけるのが如何に難しいと言うのはこの場の全員が理解している。
 しかし米国からの追求がある以上、攻撃されているのに仕返さない国は無い。ただ滅びるのを待つのは暗愚のすることだ。
 ヴィクトリアは残念そうに肩をすくめる。今回は委員会からのお達しで『ブリュンヒルデ』としての参加だ。こんな状況でもEU贔屓は一切出来ず、仲介役に徹することになるだろう。
 そのことを考えると自分の立場で世界大会優勝をしたのは間違いだったかもしれない。何せ決勝戦が不戦勝でさえなければ、ヴィクトリア自身前優勝者(千冬)に勝てた気はしないのである。

『そんなことは言われずとも分かっている。では期日どおり、向こうで』

『あいあい、向こうでな』

「ええ、向こうで」

 その言葉で通信が切れ、部屋の中を一瞬だけ静寂が包む。その静寂を待っていたかのように正面の扉からノック音が響き、ティーセットを持ったジェーンが入ってきた。

「お疲れ様です」

 ジェーンはそのままヴィクトリアの横につくと紅茶を入れて静かに差し出す。

「ありがとう。セシリアは?」

「現在実家の方で溜まった仕事を片付けているとのことです」

「はあ、また一人で背負い込むんだから」

「あれの性分は変わらないものかと」

 そういうと2人は同じようにため息をついてしまう。
 プライドが高いのは貴族の名誉を守るためでもあるけれど、もう少し頼ってほしいのが姉のように接してきたヴィクトリアとジェーンの気持ちだったりする。
 事実彼女の両親が亡くなったときもヴィクトリアはセシリアが一人で切り盛りできるようになるまでは後見人になり、ジェーンはISに関する知識を教えていた。

「そうね。ジェーン、当然貴方にも着いてきてもらうわよ。セシリアにもそう伝えて」

「はい。あ、それと例の福音時のアラクネの件ですが……」

 その言葉で姉の様な笑顔を浮かべていた2人の表情と空気が真面目なものへと変わる。

「やはりあの組織がかかわっている可能性が大きいそうです」

 ジェーンは若干18にして、IS学園を卒業した実力からイギリス情報局秘密情報部、通称MI6に所属している。その情報は確かなものといえる。少なくとも外部(米国)からもたらされるものよりは確実である。
 ヴィクトリアはその言葉を聞くと少しだけ背もたれに寄りかかってため息をつく。

「今まで大人しかったものね……EU各国に警戒を厳にするようにと」

「既に」

「そう、それからセシリアには伝えないでいいわ。あの子に余計な心労を加えさせたくないから」

 姉2人としては妹分に余計な負担を掛けたくないのが本音だが、セシリアがイギリスの将来を担うBT兵器適合率最優秀者というのもまた事実だ。彼女には未完成のBT兵器を完成形に持っていくという使命が第一。それ以外は今の彼女が知る必要はない。
 それを理解しているジェーンはヴィクトリアの言葉に一度だけ頷く。

「了解しました」

「それから今回は『リヴァイブ』を使うから用意をお願い」

 ヴィクトリアの言葉にジェーンが不思議そうに顔を傾げる。

「は、はあ。『ゼフィルス』はよろしいのですか?」

 ジェーンの言葉にヴィクトリアは首を振る。
 『サイレント・ゼフィルス』。イギリスが開発したBT兵器搭載型の『ブルー・ティアーズ』の試作強化機体であり、攻撃ビットの他にシールドアンブレラという防御ビットを採用した攻防優れる最新鋭機体である。トライアル段階であるため未だに情報開示はされておらず、現在は工房でヴィクトリアがデータ収集を兼ねて半専用機として使っているが後にセシリアが受領予定のISだ。

「この現状で新鋭機体なんて出して見なさい。あっという間に世界から吊るし上げられるわ。今回の目的はあくまで米国への牽制なんだから。ウチの最新鋭はセシリアとジェーンのIS。そういうことよ」

「は、ではそのように伝えます」

「うん、よろしくね」

 ジェーンがそれを伝えるために部屋を出るのを確認してからヴィクトリアはため息をつく。

「そう、それに使いこなせない機体を出してもね……」

 8月15日まで、あと5日。場所は……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あのさ」

 『ジョージ・ワシントンⅡ』甲板上には2人の代表候補生の姿がある。その一人のエリスが声を発した。

「何だ」

 もう一人の代表候補、ジーナが少し苛立ったように答える。

「なんでウチラが直接?」

「知るか。そんなもん上に聞け」

 今日だけで既に5回目の質問にジーナはぶっきらぼうに答える。
 米国の参加が許されたISはたった6機。後見人で国家代表のイーリス・コーリングが乗艦しているが、基本的にはオブサーバーであり部隊運用に口出しは出来ない。それがエリスには不満でならないのだ。

「何言ってるのよ。軍用ISの開発については代表候補レベルじゃ説明できないでしょ。少しは考えなさいよ」

 その2人の問答に今しがた艦橋から出てきたソフィアが呆れたように声を掛けた。そのトゲのある言葉にエリスが右手の拳を握らせながら引きつらせた笑顔を向ける。

「おい、喧嘩売ってるのか? 喧嘩売ってるだろ。おい、表出ろ」

「表も何もここは甲板だアホ」

 ジーナの揚げ足を取った言葉にエリスが顔を向けるが、ジーナは明後日の方向を向いて軽い口笛を吹いている。

「喧嘩は止めなさいよ」

「うっさい優等生」

「何よ」

「何だ」

 喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが代表候補生レベルともなるとそうは言っていられない。が、それを止められるのはこの場にいない。何せ3人が3人とも一騎当千の猛者だ。下手に止めようものなら甲板から海に投げ込まれても文句は言えない。そのため甲板要員の船員達は遠くから嵐が過ぎ去るのを見ていることしか出来ない。

「おい、何してんだテメエら」

 今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気を止めたのは、乱暴な女性の声だった。
 その声に3人の姿勢が直立不動になる。

「こ、これはコーリング中佐!」

 3人が声の方へ振り返ると、そこには軍服の胸元を大きく開け肌を見せている女性が立っていた。噂のアメリカ国家代表の一人、イーリス・コーリングその人である。

「まさかこんな時期に喧嘩なんてしてんじゃねえだろうな」

「いえ! スキンシップです!」

「そうか。ならいいが……問題なんて起こしてみろ。あいつらより先にお前ら殺すぞ」

 イーリスはそれだけ言うとその場を去っていった。
 イーリスの言葉にジーナが釘を刺してこの話は打ち切りとなった。上官命令だ。従わないのは規律に反するのを全員が理解している。そもそも艦内の喧嘩もご法度なのだがそれは両者が口裏を合わせてしまえば良いだけの話で収まる場合が多い。しかし今回は上官からの直接命令である以上、命令は絶対だ。
 それ以前に、明らかに格上の相手に鬼のような形相で睨まれたら大抵の人は戦意を引っ込めるだろう。

「怖……」

「しょうがないよ。ファイルス代表を堕とした例の男は来ないんでしょ?」

 『銀の福音』のテストパイロットのナターシャ・ファイルスは現在本国で取調べを受けている真っ最中だ。国際IS委員会の招集といえども判決待ちの人物をこの場に呼べるはずも無く、代わりに国家代表を一人寄こすことになった。
 イーリスはナターシャの同期で親友でもあることもあり、当初この召集は福音事件の全関係者が集まると言うことで息巻いていたのだが、蓋を開けてみれば一番話題の張本人がいない。その時点でも満足いかないイーリスから見れば暴れることもできない今回のことも含めて全てが厄介ごと以外の何者でもないのだ。

「ああ、あの『ブリュンヒルデ』の弟だっけ?」

「仇取るって息巻いてたもんね」

「死んでないけどな」

 リーゼの言葉に他の2人が苦笑いする。
 その時、上空を一機の戦闘機が通過する音で3人がほぼ同時に空を見上げる。

「そういえば『ブリュンヒルデ』はIS学園で教員やってるから今回参加しないんだっけ?」

「『ブリュンヒルデ』は来るわよ。イギリスの、だけどね」

「ああ、そうだったか。つっても第1回も第2回も実質的にはチフユって日本人だろ? イギリスの『ブリュンヒルデ』はおまけでなったようなもんじゃねえか」

 イギリス出身者がこの場にいれば即エリスに殴りかかっても仕方のない暴言にリーゼとソフィアは苦笑いしか出ない。
 しばらく変な間が空いた後に、ソフィアがふと思い出したように言った。

「『ブリュンヒルデ』と言えばさっき聞いたのだけれど……ロシアの『女帝』が参加するらしいわよ」

「げ……」

「それ確かなの? ロシアはこの一件に何も関与してないのに?」

「艦長から聞いたからほぼ間違いないと思うけど……何も落ち度がないから参加するんじゃない? 好き勝手なこと言えるわ」

 ソフィアの言葉に他の二人の肩が明らかに落ちる。ロシアの『女帝』と言えばISの世界では知らない人の方が珍しい人物だ。相手の嫌がる戦い方を好むため嫌われているが、第1回モンド・グロッソ総合成績2位というISの扱いに置いては世界屈指の実力者。それが参加するというのだからアメリカ代表候補生の彼女らにとっては上司のイーリスと『女帝』の間に面倒なことが起きないことを祈るしかない。

「それにしてもこのタイミングなんてなあ……」

「『福音』の件もあるけどもう一つの方が大問題だ。今回の騒ぎで例の奴が出てきたら御の字ってことだろ」

「そうだね……」 

 エリスが空気を変えるために言ったその呟きにリーゼもソフィアも呟きのように答える。

亡国機業(ファントムタスク)……か」

 リーゼの言葉をまるで遮るように甲板上を一際激しい突風が吹きぬけた。

「舐めやがって……私が見つけたらぶっ潰してやる」

「居場所が分かった時点でコーリング中佐が殴りこんで終了でしょ」

「それを言うな……」

 エリスが空を見上げながらそう呟くと再び3人は軽く笑いあった。
 8月15日まであと5日。
 場所は太平洋、イギリス領、パプアニューギニア東、ソロモン諸島沖。
 
 

 
後書き
そして今回も3人オリジナルキャラクターが出ていますのでその紹介を。
日本
『榛名 舞子』【鶯宿梅様】
『上杉 千歳』【剣の舞姫様】
『江本 響』【カブトゼミ様】

以上の3名です。【】内は投稿してくれた方々です。

誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。  
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