星河の覇皇
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第一部第二章 銀河の群星その四
そこでも功を挙げ彼の名は軍だけでなく世の者にも知られることとなった。そして彼は少将で軍を退き連合の議員に立候補した。
一回落選したが二回目で当選した。彼は軍で身に着けた積極的な行動力と果断な判断力を発揮し連合議会の中でも知られるようになった。政府内の要職を歴任するようになりそして遂には大統領にまでなった。
この時六十五歳、年齢を感じさせぬ若々しい顔立ちをした筋骨隆々の黒人の巨人でありその短く刈られた髪はまるで若者のそれである。
「ようこそ、八条大臣。お待ちしておりましたぞ」
彼は満面に笑みを称えて八条に対して挨拶をした。
「いえ、こちらこそ。お招きして頂き恐悦至極です」
八条はそれに対し畏まった態度でいささか形式的な挨拶を返した。そしてキロモトの方へ歩み寄る。
二人は握手をした。キロモトはそれを終えると八条に席に座るよう薦めた。
「これはどうも」
八条はそれに従いキロモトに続き豪奢な椅子に腰を下ろした。見れば椅子だけではない。この部屋の中も白を基調とした豪奢な装飾で飾られている。
「どうでした、ここまでの旅は」
キロモトはまずここまでの旅順について尋ねてきた。
「旅といいましても。我が国からこの地球まではすぐ側ですし」
「おっと、そうでしたな」
キロモトはそれを聞くと顔を崩して笑った。
口を大きく広げて笑う。豪快な笑いだ。
「では話を変えるとしましょう」
彼は笑い終えるとニコリと笑って八条に対して言った。
「はい」
八条は態度をあらためた。そして再び畏まった。
それからは日本の軍事関係に対する要望であった。一言で言うならば連合の治安の為にもっと貢献して欲しいというものであった。
「それはお約束します」
そのことは総理からも言われていた。彼は快くそう言った。
「貴国にそう言って頂くと有り難いですな」
キロモトは笑顔でそう言った。体制が整えられてきているとはいえ連合の権力基盤はまだ脆弱である。こうした大国の支持がやはり必要である。
「そして・・・・・・」
彼は話を続けた。後は連合及び銀河の平和と友好の発展を支持するといったこれもまたありたきりな宣言で締めくくられる普通の会談となった。
こうして会談は終わった。八条は宿舎に帰り休息をとった。明日は明日で仕事がある。連合の要人達との会合があるのだ。
「さてと」
シャワーを浴びた彼はガウンを羽織りベッドに向かおうとした。その時鏡の前に置いていた携帯が鳴った。
「!?」
見れば大統領からである。一体何事であろうか。
「今後の会談の打ち合わせか」
彼は首を傾げてそう言いながら携帯を手に取った。
「はい、八条です」
彼は電話に出た。すると大統領の声がした。
「こんばんは、閣下。実は早急にお話したいことがありまして」
声が普段よりも真摯なものとなっている。
「なんでしょうか」
八条は尋ねた。勘が彼に警告していた。
「今からそちらにお伺いしてよろしいでしょうか」
「いえ、それは」
八条はそれをやんわりと拒絶した。
「閣下は大事なお身体です。何かあっては大変なことになります。私がお伺いしましょう」
「そうですか。それではお願いします」
彼はそう言うと電話を切った。八条は携帯を直すと背広に着替えた。
「さて、一体何の用件か」
彼は着替え終えるとホテルの扉を開けた。そこは私服の警備員達がいた。
「済まない、今から大統領官邸に戻る。何人かついてきてくれないか」
「わかりました」
その中から二人やって来た。彼等の中でも特に腕の立つ者達である。
八条はこっそりとホテルを出た。従業員達にも気付かれることなく裏口から出てそれからタクシーを拾って官邸に向かった。
「わかりました」
運転手はそれに応えるとタクシーを官邸に向かわせた。十分程して到着した。
タクシーを降りた。そして官邸に入る。
「お待ちしておりました」
見れば警護兵は大統領が常に側に置いている者達だ。そして大統領の首席補佐官が彼を出迎えた。それだけ見てもかなりの用心をしていることがわかる。
補佐官に案内され官邸に入る。そして大統領の私室に案内された。
「よろしいのですか?」
八条は補佐官に尋ねた。幾ら何でも大統領の私室に入ることは躊躇いがあった。
「はい、大統領からの直接の指示ですから」
補佐官はそう答えた。彼はその言葉を聞いて警戒をさらに強めた。
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