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銀河転生伝説

作者:使徒
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第25話 ランテマリオ星域会戦


宇宙暦799年/帝国暦490年1月20日。
フェザーンに進駐したアドルフの元にナトルプ上級大将がイゼルローン要塞を落としたとの報告が入った。
また、その日アドルフがフェザーンを進発するのと入れ違いに後続のゼークト、ガーシュイン両提督の艦隊が到着。
両艦隊はここで一時の休養の後に同盟領への侵攻作戦に加わることになっている。

同時に、元自治領主付き首席補佐官であり帝国駐在の高等弁務官であるニコラス・ボルテックが故国の土を踏んだ。
原作とは違い、帝国とルビンスキーの間に協力関係が出来上がっているため、彼が代理総督に任じられることは無かったが。


* * *


1月30日、帝国遠征軍はポレヴィト星域において合流した。
ゼークト、ガーシュインの両艦隊を後続参加させ、ガイエスブルク要塞(※移動する補給基地として使用されている)を守備するシュタインメッツ艦隊を含めたその総数は26万隻。
空前の大艦隊である。

「フェザーンで得た情報によれば、このポレヴィト星域からランテマリオ星域にかけては有人惑星が存在しないらしい。そろそろ同盟で民衆の不安が高まりつつある頃だろうから、それ抑えるためにも近日中に攻勢をかけてくる可能性は高い。これに対し、我が軍は『双頭の蛇』の陣形で挑むこととする」

アドルフは一度声を切ると、再度話出す。

「第一陣はミッターマイヤー、第二陣リーガン、第三陣ハウサー、第四陣シュムーデ、第五陣ミュラー、中央の第六陣は俺が、第七陣メックリンガー、第八陣ワーレン、第九陣ソーディン、第十陣メルカッツ、第十一陣ロイエンタール。ゼークト、ガーシュインは予備兵力として戦局に応じて戦線参加。シドー、ファーレンハイト、ケンプ、レンネンカンプは別動隊として敵の後方を遮断する。これら各艦隊間の連携がこの作戦の鍵となる。そこで通信を確保するため三重のプロテクトを掛けるが、万が一に備えて伝令用のシャトルも用意する。あと何か……あ、そうだった、シュタインメッツはガイエスブルクの守備に専念せよ。ええと……何か質問は?」

原作の丸パクリ(?)であるこの作戦に異議を唱える者は誰もいなかった。
ラインハルト様様である。

「では、全軍に一時の休憩を与える。解散」


<アドルフ>

さ~て、決戦の前に部屋でエロゲでもするぞー。

「閣下」

「ん?」

おお、女の子じゃないか。
歳は……16歳ぐらいか?
しかもカワイイ。

それにしても何でこんな所に……ああ、従卒か。

「閣下、あ…あの……今度の戦い、どうかお勝ちください」

そう言ってくれるのは嬉しいね~。
ここは宇宙艦隊司令長官としてカッコ良いところ見せとかんとな。

「名を聞いておこうか」

「はい、アロマ・クロイランと申します」

「そうか、良い名だな」

「あ、あう……その、えっと」

「勝利を願ってくれた君のために私は勝とう。だから君は生きて帰って家族に伝えるんだ。アドルフ・フォン・ハプスブルクをランテマリオの戦いで勝たせたのは自分だと」

「……はい!」

よし、これで俺への好感度は大幅にうpしたに違いない。
将来が楽しみだ。
いずれ彼女を俺の嫁とするためにも、この戦いは負けられんな。


* * *


宇宙暦799年/帝国暦490年2月7日。
進撃する同盟軍に帝国軍の位置に関する情報が最初にもたらされたのは12時40分のことであった。

「帝国軍、ランテマリオ星域に侵入しつつあり!」

「総数、15万隻以上。11個艦隊が縦列に展開しつつ第二惑星の軌道をかすめる形で同星域を通過する模様」

「凄まじい大軍ですな……。帝国軍の陣形から見て、その狙いは『双頭の蛇』ではありませんか? だとすれば中央突破を図るのは敵の思う壺、危険が大き過ぎると小官には思われます」

「うむ。おそらく……いや、疑いなく貴官の言うとおりだ。だが、もはや他に採るべき戦法が無い。敵の陣形を逆用して中央を突破し、各個に撃破するしかあるまい」

「っ……おっしゃる通りです」

同盟軍は、宇宙艦隊司令長官ビュコック元帥を総司令官として、第一艦隊パエッタ中将、第十二艦隊スプレイン中将、第十四艦隊モートン中将、第十五艦隊カールセン中将の4人の提督がそれぞれの艦隊を指揮し、その戦力は4個艦隊52000隻。
内訳は、第一艦隊15000隻、第十二艦隊12000隻、第十四艦隊10000隻、第十五艦隊10000隻、そして総司令部に5000隻である。

帝国軍の艦隊は、

中央にシュムーデ、ミュラー、ハプスブルク、メックリンガー、ワーレン艦隊。
右翼にミッターマイヤー、リーガン、ハウサー、艦隊。
左翼にソーディン、メルカッツ、ロイエンタール艦隊。
予備兵力としてゼークト、ガーシュイン艦隊。

と、その数19万隻超。
また、別動隊としてシドー、ファーレンハイト、ケンプ、レンネンカンプの4個艦隊55000隻が存在する。

そして戦術としては、本体は双頭の蛇の陣形をとり、シドー上級大将率いる別動隊は繞回して敵の背後を遮断することになっている。

この作戦は、ビッテンフェルトがいないことで原作同様にはいかないことに気付いたアドルフが、第二次ティアマト会戦を参考にして立案したものである。
要するに、別動隊が背後をとることで同盟軍を恒星ランテマリオ近くまで後退させず、潮流ができるのを防ごうということなのだが、ヤン・ウェンリーが来る前に片づけてしまいたい――つまり早期決戦で終わらせたいという思惑もある。

普段であれば、凡人たるハプスブルク元帥――それでも数々の戦いを経験しているので並の将帥以上の能力はある――が超一流の将帥たちを前にして自ら作戦を立案することは皆無なのだが、今回は正面兵力だけでも敵の3倍以上。
予備兵力30000と別動隊55000を合わせれば、その数は同盟軍の5倍近くにまでなる。

これだけの差があれば下手な小細工は逆に自分達の首を絞めることにしかならず、兵力差を活かした力押しをベースにしつつ作戦を練るのが最も効果的といえるだろう。
提督たちが特に何も言わずに作戦を了承したのも、そこらへんが大きい。

「敵艦隊まで5.2光秒」

「思ったより胴体部の布陣が厚いですな」

帝国軍の中央部はかなりの厚みがある。
もちろん、それはチキンなハプスブルク元帥が自身の戦死を恐れて胴体部を厚くしたためであった。

「中央突破が不可能とは思いませんが、突破できても損害はかなりのものになるでしょう。それに、突破に少しでも手間取ると予備兵力で補強される上、時間が掛かり過ぎると左右両翼に包囲される危険が大きくなります」

「ワシもそれを考えておったところじゃ。むしろ敵に先制させ、引きつけながらその攻撃を受け流しておいて左右両翼のいずれかに回り込む方が各個撃破しやすいかもしれん。じゃが……さすがにあの数、あの長さじゃ。それも成功の可能性は薄いの」

「味方が砲撃を開始しました」

「何!?」

「まだ命令は下っていないぞ!」

「閣下」

「混成艦隊の弱みが出たか……止むを得ん、当初予定通りこのまま中央突破を図る。全艦攻撃開始!」

ランテマリオ星域の会戦が、開始された。

同盟軍は中央突破を図るべく帝国軍中央に攻勢を掛けるが、帝国軍中央の艦艇数はハプスブルク艦隊とその両隣に限っても約5万隻。
同盟軍の全軍とほぼ互角の数であり、突破は容易ではない。

また、帝国軍中央も守りに徹したため、結果として同盟軍の中央突破は失敗に終わった。
仮にではあるが、この同盟軍艦隊にウランフやビッテンフェルト、グエン・バン・ヒューのような猛将がいれば突破も叶ったかもしれない。
だが、それは言っても詮無きことである。

「左右両翼から敵の他の艦隊が接近してきます!」

「閣下!」

「遂に双頭の蛇が動きました。二つの鎌首をもたげて」

「敵の最右翼は『疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)』の異名を持つウォルフガング・ミッターマイヤー提督じゃな。なればこそ、双頭の蛇がこちらに噛み付くのにタイムラグが出るじゃろう」

「なるほど、彼の並はずれた能力故の乱れを突く……というわけですな」

「うむ。全艦、先ずは左より迫りくる艦隊に集中砲火! しかる後に右の艦隊を叩く」

「はっ」

多数のビームとミサイルがミッターマイヤー艦隊に叩きつけられる。

「砲火が集中してきます。このままでは……」

「何!? ……ええい、全艦一時進撃中止」

激しい攻撃に、ミッターマイヤーは進撃を一端中止せねばならなくなった。

「敵右翼の進撃が止まりました」

「よし、全艦攻撃中止。次は右の艦隊だ、撃てぇ!」

今度は、ロイエンタール艦隊にビームとミサイルの群れが叩きつけられる。

「ぬぅ、やるな」

ロイエンタール艦隊も足止めを余儀なくされた。

「ほう、あの二人が止められるとは……だが、それも一時のことだ。ミッターマイヤーとロイエンタールに『次はタイミングを合わせて攻撃汁』と伝えろ。それと、こちらも艦隊を前進させ敵を攻撃せよ」

帝国軍中央の艦隊も前進を開始する。

「前方の敵艦隊、前進して攻撃してきます!」

「左右両翼の艦隊、再び接近してきます!」

流石に、三方向からの攻撃を捌くには同盟軍は兵力が不足していた。

「ここまでだな、密集しつつ第一惑星の軌道上まで後退せよ」

「て、敵の新手が後方へ回り込もうとしています! 数……55000!!」

「これは、不味いのう……別動隊が繞回して背後を襲う――ワシがまだ若かった頃、第二次ティアマト会戦で帝国軍が使用した手じゃ。あの時はブルース・アッシュビー元帥が上手く無効化してくれたのじゃが………」

そんな間にも、帝国軍の別動隊は後方を遮断して艦隊を展開させつつある。
正面と左右の敵艦隊に手一杯の同盟軍にこれを阻む術は無かった。

正面には敵中央本隊。左右には敵右翼艦隊と左翼艦隊が双頭の蛇のように展開し、背後には敵別動隊。

この状況を一言で表すなら『包囲』というのが適当であろう。

「よし、これで詰みだな。予備兵力のゼークト、ガーシュイン艦隊を投入し敵軍を崩壊へと追い込むんだ!」

ハプスブルク元帥は止めを刺すべく予備兵力を投入する。
ここに、同盟軍の命脈は断たれた…かに見えたが……。

「後方より敵の別動隊が来襲!」

「進撃中止、陣形を立て直して後背の敵に備えろ(ちっ、予想よりだいぶ早かったな。ヤンが来る前に片づけるつもりだったんだが……これもバタフライ効果か?)」

そう、それはイゼルローン要塞を放棄した後、疾駆してランテマリオ星域に駆け付けたヤン艦隊15000隻であった。

ヤン艦隊はただ駆け付けただけでなく、帝国軍の後方を遮断する動きを見せた。
これにより、『フェザーンへの道が断たれ本国へ帰れないのではないか』と考えた帝国軍の兵士たちは浮足立ってしまった。

「敵が混乱しています!」

「閣下、チャンスです。一挙に砲火を集中しておいて戦場を離脱しましょう」

「よし、反撃しつつ敵の包囲網を突破する。全艦、敵の薄い部分にありったけのビームとミサイルを叩きつけろ!!」

包囲網に穴が空き、同盟軍の突破を許してしまう。

これによって、尚も狼狽する帝国軍。だが……

「恐れるな! この期に及んで同盟の新規兵力が出てきたところで各個撃破するまでのことだ。数では此方が圧倒的に上回っている。奴らがフェザーン方面への道を閉ざそうとも、敵の数倍の兵力を以って叩きつぶせばよいだけのこと。万一、それが適わずともこのままハイネセンへ直進して同盟の死期を早めてやり、しかる後にイゼルローン回廊を通って帝国へ凱旋する。それで済む話だ」

アドルフの一喝によってその混乱は収まった。
もっとも、言った本人も内心は……(笑)

・・・・・

帝国軍が混乱を収めている内に同盟軍は撤退し、ランテマリオ星域の会戦は終了した。

その後、戦場を離脱した帝国軍は2.4光年を移動してガンダルヴァ恒星系へ移り、第二惑星ウルヴァシーを占領した。将来、全同盟領がその掌中に落ちたとき、ここが重要な軍事拠点となるはずであった。
 
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