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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第二十六話 ラミアの謎

                第二十六話 ラミアの謎
結局タケルは今回もマーグを取り戻すことはできなかった。仲間達は落胆する彼を何とか慰めながらゼダンに帰った。しかしそれでも彼は塞ぎ込んだままであった。
「タケルはどうだ?」
「駄目だ」
サンシローにリーが答えて首を横に振る。
「落ち込んだままだ、あのままな」
「そうか。仕方ないか」
「そうですね」
サンシローの言葉にブンタが頷く。
「折角これでお兄さんが戻ると思っていたんですから」
「皆で無理矢理引っ張り込むか?」
ヤマガタケは何となしにこう提案してきた。
「説得がこうも効果がないんだったらよ」
「いや、効果はある」
しかしサコンがそれを訂正させる。
「確実にな」
「そうなのか?」
「ああ、それは間違いない」
彼はピートにもこう述べる。
「だが。まだ効果がはっきりと出ていないだけだ」
「そうなのか」
「何度も説得していくしかない」
彼はこうも言う。
「何度でもな」
「けれどそれも」
ここでミドリが危惧した顔で述べる。
「あのロゼという副官がいるから」
「あのアマ」
ケーンが怒気を含んだ声を出してきた。
「何だかんだで邪魔しやがって。許せねえ」
「そうだそうだ」
タップも言う。
「あいつのせいでこんなに苦労しているんだ。今度会ったら容赦しねえぞ」
「だが向こうも必死なんだよな」
ライトが少し首を捻った。
「だから。そう簡単にはいかないぞ」
「それに」
今度はダバが口を開いた。
「ロゼはバルマーの中でもとりわけ強力な超能力の持ち主。油断はできない」
「そうなのよねえ、だから余計に邪魔なのよ」
アムが腕を組み顔を顰めさせた。
「十二支族の一つギシン家の出身だったかしら」
「そうだ」
彼女の言葉にレッシィが頷く。
「ポセイダル家と並ぶ名門の一つだ」
「家柄の問題じゃないけれど地位に見合った力はあるわね」
「あの女が副官でいるということ自体が問題だが」
「そこにタケルさんのお兄さんの問題もあるから」
今度言ったのはアレンビーであった。
「ややこしいわね、本当に」
「まずはロゼを潰すか?」
宙がふとした感じで言う。
「それなら一気に」
「いや、それはどうかな」
だが万丈がそれに異議を呈する。
「駄目なのか?」
「それはオーソドックスでいいけれど何か引っ掛かるんだ」
「引っ掛かる!?」
「うん」
また宙に答える。
「あのロゼという副官も彼の洗脳に関わっているんじゃないかな」
「じゃああいつを潰すのは駄目なのかよ」
「少し待っていて欲しいんだ」
万丈が言いたいのはそれであった。
「どうも気になってね」
「そうなのか。しかしそれだと」
「ロゼも手強いのはわかっているさ」
万丈はまた言う。
「けれどね。彼のお兄さんを救う為には」
「あえてなのか」
「うん、それしかないと思う」
「それはわかったけれどよ」
それに応えてトッドが言ってきた。
「あいつを放っておいて戦うのは大変だぜ」
「そうよねえ。負担はかなりよ」
キーンもトッドの言葉に頷く。
「それはそれで仕方ないけれど」
「マーグを救い出す為にはな」
ニーはこう言った。
「それも仕方ないか」
「それにしてもだ」
バーンは顎に手をあてて考えに入った。
「どうにもおかしなものがあるな」
「おかしなもの?」
「うむ。あのマーグとやらを見ていると」
リムルに応えて述べる。
「洗脳されているのではないのか?あれは」
「洗脳ですか」
「そうだ。どうもそういう感じがする」
バーンはそう指摘する。
「どうにもな」
「そうかも知れないな」
ショウもバーンのその言葉に応えた。
「あの頑固さを見ていると」
「バルマーは洗脳が得意だったわね」
マーベルはそれを思い出した。
「そういえば」
「じゃあやっぱりそれかしら」
カナンはこう予想を立ててきた。
「そうなると」
「だったらまずいことになるぞ」
シラーは洗脳と聞いて顔を顰めさせた。
「洗脳を解くのは簡単なことじゃない」
「どうしろっていうんだ?それじゃあ」
ジョナサンがそれを聞いて問う。
「このままにするつもりはないんだろう?皆」
「当たり前だよ、それは」
ヒメがそれに応える形で言う。
「あのままタケルさんのお兄さんをそのままにしておくなんて」
「できない話だ」
ヒギンスもそれは同じである。
「エリカさんの時と同じことだ」
「じゃあ洗脳を解くしかない」
クインシィの答えは出て来た。
「それしかないな」
「だったら俺達が出来ることは」
勇が導き出した答えは。
「タケルの援護をして彼が洗脳を解くことを期待するだけだな」
「そうだな」
「それしかないな」
ナンガとラッセが述べた。
「結局のところは」
「タケル次第か」
「タケルさんなら絶対にやってくれます」
カントの言葉は普段の彼らしくなかった。
「何があっても」
「そうだな」
それにナッキィも頷く。
「あの人は。どうしても応援したくなる。見ていて一緒に力になりたいと思う」
「そこがお兄ちゃんと同じなのよ」
ナナの言葉は正鵠を得ていた。
「必死にお兄さんを救い出そうとしているのが。お兄ちゃんと一緒だから」
「あいつには負けた」
京四郎がふとした感じで述べる。
「そして今度のあいつにもな。あそこまで一途だとな」
「一途な方はそれだけで素晴らしいです」
ルリがポツリと述べた。
「ですから皆さん一矢さんもタケルさんも応援したくなるのです」
「ハッピーエンドで終わらせてやるさ」
リョーコの考えはこうであった。
「何があってもな」
「そうですよね。悲しい結末なんてここまで来たら」
ヒカルもそのリョーコと同じ意見である。
「あってはなりませんよ」
「そういうこと」
イズミが珍しくまともに話している。
「ハッピーエンド以外は認められない」
「だからです。皆さん」
メグミも言う。
「気合入れて行きましょう。タケルさんの為に」
「あそこまで一途な子を見てると。私達まで頑張らなくちゃってなるわよ」
ハルカは少し照れ臭そうに笑っている。
「どうにもね」
「タケルさんは素晴らしい方です」
ルリはタケルも応援していた。
「そうした方の願いは。必ず適えられないと」
「そうだな」
その言葉に京四郎が頷く。
「だからこそ。やるか」
「ええ」176
「絶対に」
彼等は今それを誓い合う。タケルの為に力を出すことを決めたのであった。
その彼等のところに。また一報入って来た。それは。
「えっ!?」
「また!?」
敵襲であった。皆それを聞いて驚きの声をあげる。
「それで今度の敵は!?」
「バルマー!?それとも」
「いや、どうやら違うようだ」
ヘンケンが彼等にそう述べる。
「何か得体の知れない奴等だ」
「得体の知れない!?」
「どういうことですか、それは」
「兵器がバラバラなのだ」
ナタルがいぶかしむ彼等に述べる。
「連邦軍のものもあればゲストのものもある。バルマーのものまでな」
「何なんですか、それ」
命がそれを聞いて目をしばたかせた。
「何か混成軍ですけれど」
「だからだ。余計にわからないんだ」
ヘンケンは命にも述べる。
「何者かさえもな」
「彼等は今ソロモン付近にいる」
ナタルは彼等にまた言う。
「すぐにそちらに向かう」
「敵の正体がわからなくてもですか」
「そうだ。仕方がない」
そうノイマンに答えるナタルであった。
「ここは」
「やれやれってところだな」
アルフレドはそれを聞いてわざとぼやいてみせた。
「また新手の敵か?」
「だとしたら何なのかしら」
フレイにもわかりかねていた。
「今度は」
「異次元から来た奴とかか?」
キースはあてずっぽうに述べた。
「ひょっとしたら」
「まさかそれはないんじゃないですか?」
ボーマンがそれを否定する。
「幾ら何でも」
「いや、バイストンウェルとかセフィーロがあるからな」
しかしアルフレドがここで言う。
「可能性はあるぞ」
「そうですか」
「ああ。とにかく敵は混成軍なんだな」
「はい」
ナタルがアルフレドに答えた。
「それは間違いありません」
「わかった。ならそれはそれでやり方がある」
「どうするんですか?」
フレイがアルフレドに問うた。
「そのやり方って」
「まあ任せておけ」
彼はその豪快な笑みでフレイに応えた。
「俺のやり方でいけば今回は問題がないからな」
「そうですか。何か」
「少なくとも実戦経験はあるぜ」
キースが笑ってフレイに述べる。
「それを信じていこうぜ」
「そうですね。それじゃあ」
以前と比べてかなり素直になっているフレイであった。
「出撃ですね」
「ああ。それにしてもバジルール少尉」
「はい!?」
ナタルに言われて顔を彼女に向ける。
「何ですか?」
「最近何かシン=アスカ大尉と仲がいいそうだな」
「あいつとですか?」
あいつと言ったところに二人の関係が出ていた。ついでに顔も歪んでいた。
「何でそうなるんですか?」
「違うのか?」
「全然違います」
少しムキになってそれを否定する。
「それはステラちゃんじゃないんですか?」
「そうだったか?噂だが」
ナタルはそう前置きしてからフレイにまた言う。
「何でも朝彼と下着姿で一緒に寝ていたそうだが」
「そ、それは」
それを言われたフレイの顔が真っ赤になった。
「お互い下着のままで随分驚いたそうだな」
「あいつが黄色いトランクスだった時ですよね」
「おい、今の言葉は」
「まずいでしょ」
サブロウタとメグミが思わず突っ込みを入れる。
「下着のことまで知ってるってことは」
「つまり」
「あの時は酔っていて」
「酔っていてそうなったのか?」
ナタルはそれを聞いてこう考えた。
「だとしたらやっぱり」
「シ、シンとは別に」
答える顔がさらに赤くなる。
「何もないです。これは本当ですから」
「では何故下着姿で一緒に寝ていたのだ?」
ナタルが聞くのはそこであった。
「しかもステラ少尉と三人だったそうだが」
「は、はい」
「事実かよ!」
「シン君も隅に置けないわね」
サブロウタとメグミはそれを聞いて驚きを隠せない。
「それは本当ですけれど」
「別に男女交際はいいが」
ナタルは咳払いをしてから述べる。完全に誤解している。
「それはだな、やはり健全にだな」
「だから何もありません」
フレイは必死にそう主張する。
「あの時は皆で飲んでよい潰れてザコ寝してでしたから」
「そうだったのか」
「そうです」
フレイはそう主張する。
「本当に何もなかったんですから」
「だったらいいのだがな」
「はい」
何とかナタルにもわかってもらえた。
「だが。酒もいいが程々にな」
「わかりました」
「では総員出撃だ」
話はそちらに移った。
「その謎の敵に向かう。いいな」
「了解」
「それじゃあ」
当然ながらフレイも参加する。彼女はその中でとりあえず真相がわからなかったことにほっと胸を撫で下ろすのだった。彼女だけが知っている、シンも知らない真相に。
(まさかねえ)
アークエンジェルの格納庫の中で心の中で呟く。
(シンともねえ。なったなんてやっぱり)
真相は藪の中だ。だがそれはフレイだけが知っている真実であった。彼女はその秘密を抱いたままアカツキに乗り込み出撃するのであった。
「何だありゃ」
敵軍を見て最初に声をあげたのは柿崎であった。
「ゼントラーディやメルトランディのもあるな」
「オーラバトラーもあるよ」
チャムも言う。
「他にはヘビーメタルにモビルスーツ」
「戦闘獣までいるのか」
ダバと鉄也も言った。見れば本当に混成軍であった。
「節操がねえのか?」
「そうみたいね」
レトラーデは霧生の言葉に頷いた。
「何だか」
「それにしてもこれは酷いな」
フォッカーはあらためて述べる。
「何でもかんでもか」
「ふむ」
ラミアは今目の前にいる敵を見て呟く。
「予定通りだ。戦力の拡充は上手くいっている」
「ラミア」
その彼女にアクセルが声をかける。
「わかっているな」
「当然だ」
ラミアも彼の言葉に応える。
「時機が来れば、だな」
「動くぞ」
「わかった」
二人は極秘にそう話をしている。彼等は何かを知っているようだった。
ロンド=ベルはそのままソロモン付近に布陣している。ソロモンをバックに彼等と戦うつもりであった。
「守りはいいな」
アルフレドはまずはそれを確認した。
「それならだ。いいか!」
「はい!」
そうして全員に声をかける。
「敵の動きはバラバラだ。来た奴だけを狙え!」
「来た奴だけをですか」
「混成軍ってのはな、動きが纏まりにくいんだ」
彼が指摘するのはそこであった。
「だからそこを衝く。いいな」
「そういうことだったんですか」
「ああ、これでわかったか」
満足気な声でフレイに応える。
「俺の策が。これなら何の問題もねえ」
「そうですね」
ボーマンも彼の言葉に頷く。
「実質的に各個撃破ですしね」
「向こうが気付いていたら気付いていたらで」
「その時はどうします?」
キースが陽気に問う。
「考えがあるんですよね」
「纏めて相手をするだけだ」
策はかなり簡単であった。
「こっちにはそうした武器もたっぷりとあるしな」
「臨機応変ですか」
「そういうことだ。わかったな」
「はい」
フレイはあらためてアルフレドの言葉に頷いた。
「それなら」
「いいか、ただし突出はするな」
これは釘を刺す。
「そうしたら何の意味もねえからな、いいな」
「了解!」
「特にだ」
アルフレドはここでオルガ達を見て言う。
「御前等だ。いつもみてえに突撃なんかするんじゃねえぞ」
「何ィ!?それだと」
「意味がないじゃないか!」
「面白くない」
三人はそれを聞いて不平を漏らす。
「突撃して潰しまくって何ぼだろうが!」
「やられる前にやれって言うじゃない!」
「そんなのは戦いじゃない」
「あのな」
アルフレドは三人に呆れながらも言う。
「そうした戦い方もあるんだ。今までかなり戦ってきてそれがわからねえのか?」
「わからねえ」
「何、それ」
「知らない」
三人はそもそも理解するつもりもないようであった。それが彼等の口調からわかる。
「じゃあ死ぬか?御前等」
アルフレドの言葉も何の容赦もない。
「突っ込んで」
「いや、それはやっぱりな」
「僕達まだ若いし」
「音楽も聴けなくなる」
「わかったらそうしろ」
アルフレドはまた三人に言うのだった。
「わかったな、それじゃあな」
「ちっ、しょうがねえな」
「じゃあここは」
「我慢する」
「そうだよ。しかしそれにしても」
ここで彼はふと思うのだった。
「こいつ等も随分聞き分けがよくなったな」
「そうですか?」
ナタルがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「私はそうは思わないのですが」
「バジルール少佐」
アルフレドはそのナタルに対して笑いながら言ってきた。
「はい」
「そういうのも見ておくものだ」
こう言うのだった。
「男の繊細さもわかっておくものだぞ」
「男の・・・・・・ですか?」
そう言われてもわかっていないようであった。
「それは一体」
「ひょっとしてだ」
アルフレドは全くわかっていないナタルに対してまた言う。
「キスとかはまだか?」
「そ、そんなこと」
すぐに顔を真っ赤にさせて反論する。
「結婚してからです。それまでは絶対に」
「そうか。やっぱりな」
予想通りだったので特に驚いていないようである。
「そうだと思ったが。キースよ」
「はい」
「御前も苦労するな」
「あの、少佐」
ここでキースに話を振られて不満げなナタルであった。
「どうしてここでキースを・・・・・・あっ」
そしてまた失言をしてしまった。
「な、何でもありません」
「いや、今のでわかったぞ」
アルフレドも目を点にして呆れながら述べる。
「流石にな」
「うう・・・・・・」
「もっともずっと前から知っていたがな」
「あの、中佐」
キースが今のアルフレドの言葉に突っ込みを入れる。
「それを言ったらもう」
「わかりやすいんだ、少佐は」
ナタルをさして言う。
「嘘がつけないからな」
「それはそうですけれど」
キースもそれははっきりとわかっている。しかしだ。
「それでもそれを言ったら」
「どうしようもないか」
「そうです。本当に少佐はそういうのに弱いんですから」
「困ったことだな」
アルフレドはまたナタルを見て言う。
「純情可憐少女も」
「私は別に」
今まで言われ放題だったナタルが反撃に出て来た。
「大尉のことは」
「だからそれもわかってるんだよ」
アルフレドは目の前に来たリガードを倒しながらナタルに言う。話しながらも見事な操縦で敵のコクピットを撃ち抜いてみせた。
「隠さなくてもな」
「うう・・・・・・」
「ところで少佐」
ここでボーマンが言ってきた。
「何だ?」
「何かおかしいですよ」
そう彼に告げる。
「この敵は」
「そうだな」
アルフレドも今の撃墜でそれがわかっていた。
「こいつ等の動き、人間のものじゃないな」
「はい」
ボーマンが言いたいのはそれであった。
「これはむしろ」
「機械の動きだな」
アルフレドはそう述べた。
「どうやらこいつ等は」
「そうですね。自動操縦です」
ボーマンも言う。
「これは」
「あったらそれはそれで好都合だが」
癖がないからだ。自動操縦は彼等にしてみてば相手にしやすいのだ。
「この連中の正体がさらに気になるな」
「そうですね」
ボーマンもそれは同じだ。
「これは一体」
「おいボーマン」
アルフレドはボーマンに指示を出す。
「御前はそのまま広範囲攻撃に専念しろ」
「わかりました」
「キース、御前は今まで通り一撃離脱だ」
「了解」
キースもそれに頷く。
「俺が中央で戦う。イライジャ、全体のフォローを頼む」
「わかった」
イライジャも頷く。四人はフォーメーションを組み戦いはじめた。その横ではあの三人が珍しく命令を聞いて来る敵だけを相手にしていた。
「数が多いってのはいいことだぜ!」
「全く!」
「死ね」
待ってはいるが派手な攻撃は仕掛け続けていた。彼等はありったけの攻撃を今度はドライセン隊に浴びせていた。自動操縦では流石に彼等の相手にはなっていなかった。
ロウはその彼等のコントロールに当たっている。彼はその中でふと気付いた。
「おい」
そしてアークエンジェルに通信を入れるのだった。
「そっちは大丈夫か?」
「はい」
ミリアリアが彼に応える。
「今のところは」
「そうか。護衛は?」
「ラミアさんとアクセルさんです」
サイがロウに答える。
「ですから護衛も安心です」
「そうかな」
だがロウはそれには異論があるようだった。
「だったらいいがな」
「何かあるんですか?」
今度はカズイが彼に問うた。
「そんな口調ですけれど」
「いや、今回の二人だが」
ロウはもうそれに気付いていた。
「前線に出ていない。何故だ?」
「気のせいなんじゃないですか?」
トールも気付いてはいなかった。
「戦艦の護衛も大事ですよ」
「普通に考えればな」
ロウはそうトールにも答える。
「だが今回は。いつも選挙ク的に前線に出る二人が」
「出ないわね」
マリューもここで気付いた。
「それでアークエンジェルの側にいる」
「おかしいと思わないか」
「その通りだ」
ここで話にリーが入って来た。
「マリュー=ラミアス中佐」
「はい」
階級は同じだが歳や中佐になった時間はリーの方が先なのでマリューはここでは敬語を使った。
「あの二人には注意が必要だ」
「そうですか」
「そうだ。何かがある」
リーは剣呑な顔で彼女に告げた。
「アークエンジェルの周りにも気をつけておくように」
「わかりました。ですが」
「ですが。何だ」
「今のところ目立った動きはありません」
マリューはそのことにまずは安心していた。
「ですからさしあたっては」
「いや、それは甘い」
しかし彼はマリューの今の発言を否定する。
「何かあってからでは遅い」
「それはそうですが」
「ここはだな」
彼は少し考えた。それから決断を下したのであった。
「イェーガー大尉」
「私か」
ギリアムが彼の言葉に応えた。
「そうだ、アークエンジェルの護衛に向かってくれ」
「わかった。だが」
ここで彼はハガネについて言及する。
「そちらはいいのだな」
「何の心配もいらん」
リーは平然とこう言い放った。
「私が艦長をしている。それだけで充分だ」
「また随分と自信があるのだな」
「当然だ。そうでなければ今まで生き残ることはできん」
ここでも自信に満ちていた。ある意味リーらしかった。
「わかったらすぐに向かってくれ」
そのうえでまたギリアムに告げる。
「いいな、それで」
「わかった。それでは」
「そしてだ」
リーの声はここで小さく険しいものになった。
「あの二人はよく見ておくようにな」
「怪しいというのだな」
「貴官はどう思うか」
逆にギリアムに問う。
「長い間同じ部隊にいた貴官は」
「あえて言わないでおこう」
これは彼の配慮であった。
「それでいいか」
「構わん。それでわかる」
「よし。では今から行く」
「うむ、頼むぞ」
こうしてギリアムのゲシュペンストがアークエンジェルの護衛に回った。ラミアとアクセルは彼が来たのを見て目を顰めさせていたがそれは誰にもわからなかった。
「気付かれたか」
「いや、それはまだだな」
アクセルがラミアに応える。
「今のところはな」
「そうか」
「しかしだ」
だがここで彼は言う。
「勘付かれてはいるな」
「だとしたらまずいな」
ラミアは普段のおかしな口調はなかった。かなりクールであった。
「どうする?」
「芝居を続けるしかない」
アクセルの判断はこれであった。
「ここで下手に何かをすれば余計に怪しまれる」
「そうだな」
それはラミアもわかっていた。
「だとすれば今は」
「戦うふりはしておこう」
アクセルは言った。
「ふりだけだ。いいな」
「わかった」
ラミアもそれに頷く。
「だが撃墜するのは」
「止めておこう」
「それで行くか。幸い護衛だしな」
「護衛ならば何とでも説明がつくし芝居も容易だ」
彼等が今回護衛についた理由はそれであるようだった。
「それでいいな」
「うむ」
ラミアとアクセルはそのままアークエンジェルの周りについている。アークエンジェルの面々もギリアムもまずは二人を見た。そうして密かに話をする。
「やっぱりおかしい?」
「どうでしょうね」
サイとミリアリアが話をする。
「今見ただけじゃ何も」
「わからないわね」
「けれどさ、あれだよ」
トールは二人を見て言うのだった。
「何か敵を倒していないんじゃない?」
「そういえばそうだね」
カズイもそれに気付いた。
「見ればね。確かに」
「やっぱりおかしいわね」
マリューもロウやリーの言葉をここで頭の中にはっきりと入れた。
「これは」
「どうされますか、艦長」
ノイマンがここでマリューに問う。
「あの二人は」
「まあ待って」
マリューはここではノイマンを制した。
「軽はずみな行動はね」
「慎みますか」
「そういうこと。まだ判断材料が少な過ぎるわ」
マリューが動かない理由はこれであった。判断材料が少な過ぎて彼女も動けないのだ。
「だからね。今は見るだけにしましょう」
「わかりました」
ノイマンもマリューの今の言葉に頷いた。
「ではとりあえずは今は」
「それにしてもね」
マリューはそのうえでまた言うのだった。
「やっぱりおかしいわよね」
「おかしいですか」
「経歴がね」
マリューもそこを指摘する。
「幾ら何でも何もわからないっていうのはね」
「まあそうですね」
それはノイマンも頷くしかなかった。
「何者かさえわからないし」
「一応経歴はありますが」
「それ、全然あてにならないわよ」
流石に二人の今の経歴は誰も信じてはいない。8
「果たして。何者かしらね」
「やはり動きもおかしいですし」
ノイマンは二人の動きを見ていて言う。
「攻撃は致命傷にはしていませんね」
「ええ」
マリューもそれを見る。
「あの二人の技量ならそれも当然なのに」
「それもさりげなくね」
「はい。やはりおかしいかと」
「これまでの戦いでは少なくともなかったわ」
マリューは言う。
「全くね。だから余計に」
「おかしいと。この敵に何かあるようですね」
「けれどそこまではまだわからないわ」
マリューはその奇麗な眉を顰めさせた。
「また謎が出たということかしら」
「あの二人、どうするつもりか」
リーは剣呑な目でマリューに問うてきた。
「隔離するのが一番ではないのか?必要とあらば」
「それは待って下さい」
しかしマリューはリーを止める。
「それではかえって彼等を警戒させます」
「それもそうか。それでは」
「暫くは様子を見ましょう」
それがマリューの判断であった。
「今のところは。それで宜しいでしょうか」
「わかった」
リーはマリューの言葉を受けた。
「ではそれで行こう。しかしだ」
「しかし?」
「何か不穏な動きがあれば即座に処罰する」
リーの言葉は軍人のそれであった。
「それはいいな」
「そうですね。その場合は致し方ないかと」
マリューも少し考えたがそれに同意した。
「時と場合によりますが」
「仕掛けて来るのなら今ではない」
リーはそう読んでいた。
「今ではな。だが」
「必ず仕掛けて来るというのですね」
「彼等がそうした者達であるならばな」
仮定だがそれは確信に近かった。
「確実にしてくる。その時を見極めるか」
「はい、それでは今は」
「気付かないふりをする」
リーの判断はこうであった。
「それで頼むぞ」
「わかりました」
「艦長」
「何かしら」
ここでカズイの言葉に顔を向ける。
「そろそろ敵の数が減ってきました」
「どれ位?」
「これまでの七十パーセント程度です」
「そう」
まずはそれを聞いて頷いた。
「それは撃墜された数ね」
「はい」
今度はミリアリアが答える。
「ダメージを受けている敵を入れると損害率は五割を超えます」
「そう、いい感じね」
まずはそれを聞いて満足する。
「それで敵の動きは?」
「これまでと同じです」
今度はサイが報告する。彼は将校となってからは実質的にアークエンジェルの参謀になっているのだ。これはなるべくしてなっていると言えるものである。
「やはり闇雲に向かって来ます」
「じゃあこれまで通りね」
マリューの方針は決まった。
「待って各個撃破していくわ。いいわね」
「了解」
「わかりました」
トールもそれに頷く。
「じゃあここは前には出ずに」
「ええ、それで御願い」
トールにも言う。
「前に出るよりも今は」
チラリとラミアとアクセルを見る。
「いいわね」
「そうですね」
ノイマンも他の面々もマリューの言うことはわかっていた。
「迂闊に出ずに」
「様子を見ると」
「そういうことよ。まあ今は何もないでしょうけれど」
それでも彼女は警戒を解かなかったのだ。
「それでもね」
「わかりました」
アークエンジェルのクルーはまだ敵を見ている。そうして様子を見るのであった。
戦い自体はロンド=ベルにとっては何でもないものであった。呆気ないまでに戦いは終わりに近付いていた。敵の数は減り既にその数は脅威ではなくなっていた。
「まだ来るのか?」
「そのようです」
クローディアがグローバルに答える。
「どうやら」
「ふむ、どうやら彼等は捨石か」
グローバルはそれを聞いてこう読んできた。
「どうやら」
「それでは艦長、ここは」
「うむ、全て倒すしかないな」
そういうことであった。敵が退かないのならそれしかなかった。
「このまま敵を待つ」
「はい」
それは変わらない。ソロモン近辺に布陣したままだ。
その状態で敵を迎え撃つ。敵は相変わらず突っ込むだけで何の芸もなかった。少なくともそれはロンド=ベルの相手にはなっていなかった。
戦いは遂に最後の一機まで撃墜して終わった。それ自体は何もなかった。
「しかしだ」
リーは戦いが終わってから艦橋で言う。
「やはりおかしかったな」
「また随分と歌がリ深い男だな」
「それならそれで結構だ」
そうブレスフィールドに返す。
「何かあってからでは遅いからな」
「だが備えはするのだろう?」
「当然だ」
またブレスフィールドに答える。
「いざとなれば。実力を行使する」
「何もなければどうするのだ?」
「その時はその時だ」
それはないだろうというのがリーの読みである。
「もっともそれはないだろうがな」
「そうか」
「やはり気になる」
リーはまた言う。
「あらたに出た今回の敵、そして二人のあの動き」
「話としては繋がるわよね」
「そうえ」
アカネの言葉にシホミが頷く。
「しっかりとね」
「けれども今は何も証拠が」
「証拠は何時か必ず出る」
リーはそれもまた確信していた。
「その時を待つだけだ」
「何か随分物騒になってきましたね」
ホリスはこれまでの話で肩をすくめさせる。
「どうにもこうにも」
「それでおっさん」
カズマがモニターに出てリーに問う。
「私はおっさんなどではない」
それに対するリーの返答はこうであった。
「まだ二十代だ」
「そうだったのかよ」
「そうだ。それで何だ?」
不機嫌な顔でカズマに問う。
「いや、あの二人のことだけれどさ」
「若しスパイか何かだったらどうされるんですか?」
ミヒロもそこを聞くのであった。
「やっぱり。あれですか」
「当然だ」
リーの口調は何を今更といった感じであった。
「それならば容赦はしない」
「そうですか、やっぱり」
「何を悲しむ必要がある」
リーはミヒロの今の顔を見て言う。
「スパイならば放置はできん。それだけではないか」
「それはそうですけれど」
「ならそれだけだ。もっとも確証はまだないがな」
「最初から疑ってかかってるんだな」
「疑っているのではない」
またカズマに言い返す。
「確信している。証拠がないだけでな」
「そうなのかよ。相変わらずだな、あんたは」
「何とでも言うがいい。今は非常時だ」
戦争中でしかもまた新たな敵が出た。これは一理あった。
「本来ならが疑いがかけられた時点で終わりだ。それを覚えておけ」
「ふん、わかったさ」
納得しなかったがそう言い返すカズマだった。
「じゃあな。今からハガネに戻るぜ」
「貴官にも言っておく」
リーは険しい顔でカズマにまた言った。
「何だよ。今度は」
「あの二人におかしなところがあれば」
「ああ」
「撃て」
今度は一言であった。
「わかったな、いざとなれば」
「味方をかよ」
「わかっていないのか、スパイは敵だ」
リーはそこをまた言う。
「敵を撃たないのならば貴様も同じだ、いいな」
「わかったさ、その時はやってやるさ」
「わかればいい」
「だがよ」
カズマはこれからの言葉をどうしても言わざるを得なかった。
「それはあんたも同じだぜ、いいな」
「それは当然のことだ」
リーは自分のことを言われても平然とした顔であった。
「私がバルマーやゲストにつく筈がないがな」
「それは言えているな」
ブレスフィールドはこれには納得した顔になっていた。
「それだけはないな。幸か不幸か」
「それはどういう意味だ」
「何、言ったままさ」
平然とした顔でリーに言葉を返す。
「そのおかげでここにいるんだからな、わし等も」
「貴様等もいつか刑務所送りにしてやる」
リーはまだそれにこだわっていた。
「楽しみにしていろ」
「おお、別荘を提供してくれるのか」
だがブレスフィールドの方が一枚も二枚も上手であった。
「それは有り難い話だ」
「何なら縛り首でもいいのだぞ」
流石にそれはないがあえて言うのだった。
「どうだ、それで」
「それは遠慮しよう」
図太く言葉を返す。
「生憎だがな」
「ふん、まあいい」
埒が明かないと見てこれで話を打ち切った。
「まずは戻る。ゼダンだ」
「了解」
ホリスがそれに頷く。
「それじゃあこのままですね」
「うむ。しかしだ」
リーはふと何かに気付いた顔になった。
「ゼダンの施設も随分酷使しているな」
「それはそうですね」
ホリスもそれに同意する。
「私等戦ってばかりですし」
「そろそろ何処かに無理が出るかもな」
リーはそれを危惧していた。
「だとすればこちらの整備補給にも支障が出るが」
「整備班もそれで大忙しですぞ」
ショーンがモニターから答えてきた。
「実際のところ。ゼダンは不眠不休です」
「そうなんですよね。皆さん本当に大変で」
レフィーナも言う。
「どうしたものでしょう、こちらも」
「致し方あるまい」
だがそれに対するリーの返答は冷ややかとも受け取れるものであった。
「今はこういった状況だ。我々とて連日連夜の戦闘だ」
「ゼダンのスタッフの無理も当然というわけですな」
「その通りだ。今は無理をしなくてはならない時期だ」
また冷徹なまでに言う。
「しかしだ」
「それでも休息もまた必要ですか」
「その通りだ。機械もそうだが」
「今の状況ではそれも難しいですね」
レフィーナの顔が曇る。
「残念ですが」
「その通りだ。どうしたものか」
リーはあらためて顔を曇らせる。
「このままでは。何時かな」
問題が起こると考えていた。如何にゼダンといえど限界がある。彼はそれがよくわかっていた。わかっていたからこそこれからのことを憂いていたのだった。そしてその憂いはすぐに現実のものとなるのだった。

第二十六話完

2007・11・30
 
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