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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十七話

 俺の手の中にあったヘルマンの両手矛が、まるで、寡黙だった主人のように音をたてずにポリゴン片となって砕け散っていく……その主人も、このように死んでいってしまったのだろうか。

 その気になれば、システムメニューから《フレンドの一覧》を選ぶことによって、そこに表示されている人物の名前の色がグレーであるかそうでないかを確認するだけで、ヘルマンや姿が見えないアリシャとリディアの存命を確認することが出来るのだが……俺には、システムを表示させる右手を動かすことが出来なかった。

 怖くて
 恐くて
 恐ろしくて
 怖ろしくて

「Hey.どうした? 仲間のvengeanceをするところじゃないのか?」

 目の前の包丁を持った死神が、とても楽しそうに笑いかけてくるのを見て、本能的に……クラウドもヘルマンも、本当に死んでいってしまったのだと認識せざるを得なかった。

 ならば、この死神に対してやることは一つしかない。

「抜刀術《十六夜》!」

 一足飛びでボンチョ姿の死神……いや、死神などという曖昧な存在で呼ぶのは止めておこう。
あのドクロ仮面の言葉を借りるならば、《レッドプレイヤー》のPohに対して即座に飛び込み、反応する前にその胴体へと抜刀術《十六夜》を叩き込んだ。

 絶対に不可避のタイミングで放った、高速の抜刀術《十六夜だったが、俺の行動を全て読んでいたかのように、Pohはやすやすと避けて見せた。

 目の前の包丁を持った死神が、とても楽しそうに笑いかけてくるのを見て、本能的に……クラウドもヘルマンも、本当に死んでいってしまったのだと認識せざるを得なかった。

 ならば、この死神に対してやることは一つしかない。

「抜刀術《十六夜》!」

 一足飛びでボンチョ姿の死神……いや、死神などという曖昧な存在で呼ぶのは止めておこう。
あのドクロ仮面の言葉を借りるならば、《レッドプレイヤー》のPohに対して即座に飛び込み、反応する前にその胴体へと抜刀術《十六夜》を叩き込んだ。

 絶対に不可避のタイミングで放った、高速の抜刀術《十六夜だったが、俺の行動を全て読んでいたかのように、Pohはやすやすと避けて見せた。

「シャァァァッ!」

 Pohによる、鋭い叫びと共に俺の首筋へと放たれた包丁が俺の首をかっ斬る前に、なんとかしゃがんで第一撃を避けるものの、そのままの勢いで振り下ろされた包丁に、肩が深く斬り込まれてしまう。

「くっ……!」

 肩に深く刺さる包丁によって、俺の視界の隅に移るHPゲージがどんどん減っていき、これ以上減らされるわけにはいかない、と日本刀《旋風》に力を込めたものの、俺が日本刀《旋風》を振るう前に既にPohは俺から距離をとっていた。

 ――強い。

 ギルド《COLORS》に入る前は第一層の人里離れた場所にいて、入った後はアリシャの指揮のもとパーティープレイしかしていなかったため、そもそも一対一の対人戦に慣れていないというのもあるが、今、目の前にいるPohというプレイヤーは、第一層で自分を助けてくれたキリトのような凄腕のプレイヤーであり……間違いなく、今まで戦った敵の中で一番の強敵だった。

 今のまま自分一人、正攻法で戦っていては遅からず負けることになるだろう、と自ずと直感が告げているが、だからといって、クラウドにヘルマンの仇を目の前にしてただでやられるわけにはいかない……いくら凄腕であろうとも、こちらにはまだ隠し玉が存在している……!

 すなわち、このゲームのプレイヤーの挙動には本来は存在しないであろう、俺のシステム外スキル……《縮地》。
初動からトップスピードで移動し、相手の死角に潜り込むことで、相手からは『消えた』と誤認させることも可能な高速移動術であり、初見で反応される確率は0パーセントに近い……筈なのだが、どうしてだか自分にも解らないが、言いようにない悪寒が襲っていて、俺に《縮地》の使用を少し躊躇わせていた。

「来ないんならコッチから行くぜ?」

 Pohも俺が何かしようとしていることを察したのだろう、モンスターなど比にならないほどの速さで、俺の胴体部分に接近し、日本刀《旋風》が苦手な零距離での乱舞を展開してきた。

「このッ!」

 負けじと日本刀《旋風》を振りかぶった俺ではあったが、自分たちが使っている武器の零距離での相性上、徐々にPohの方に圧され始めてしまい、もはや俺のHPゲージがオレンジの域にまで達しているほどであった。

 ――もはや四の五の行っている場合では全くない。

 システムのアシストがあったとしても、人が行っている以上は乱撃と乱撃との間には、寸暇と呼ばれるような一瞬の隙が、必ずどこかに存在するものであり、Pohのその隙を突き、なんとか一呼吸置ける距離までバックステップをとる。

「……《縮地》!」

 一呼吸置ける距離と言っても、いったん離れて休憩するためとかそういうことでは全くなく、《縮地》による移動の為である。
未だに連続では二回しか不可な為に、これでこの戦闘中の《縮地》の使用回数は半分となってしまったわけだが、この一回でPohのHPゲージを全損させる……とまではいかなくとも、奴の包丁、もしくは包丁を持った腕を使用不能に出来ればお釣りが来る。

「vanish……!?」

 英語で呟かれたためにPohが何を言っているかは解らないが、俺が目の前でいきなり消えた(ように見えた)せいで、混乱しているというのは解る。

「もらったあッ!」

 俺が《縮地》によって移動した地点は、Pohが右手に持っている包丁を破壊するために右側面という場所であった。

 これで絶対に包丁、もしくは包丁を持っている右手を行動不能に出来ると、日本刀《旋風》を振るいながら確信した……のだが、Pohは俺の予測を遥かに超える、それこそ人間には似つかわしくない本能的な動作で、俺の日本刀《旋風》をその手に持った包丁で正確にガードしていた。

 このアインクラッドにおいては、自身は多用しているものの、本来は武器破壊というのは狙っていないとほぼ不可能なことだと設定されている。
何故なら、自身が使う武器の強度や、相手が使う武器の強度、武器の耐久力、そして武器破壊のために当てる場所など様々なことがかみ合ってきてしまうからだ。

 Pohの人間離れした反応によるガードで、俺の狙いだった武器破壊、あるいは利き手にダメージを与えるという目論見は、二つとも失敗してしまい、ただ《縮地》の使用が無駄になっただけで終わってしまった。

「武器破壊、か……an exampleを見せてやるよ」

 ニヤリと口の端を吊り上げるように笑ったPohは、まずはガードした俺の日本刀《旋風》を切り上げた後に即座に体制を整え、今度はこちらの番だとばかりに包丁を俺めがけて斬りはなった。

 だが、奴が体制を整える隙があるということは、当然俺にもその体制を整える隙があるということとなり、Pohの包丁と俺の間に滑りこませるように日本刀《旋風》を入れることによって、何とかその凶刃を受け止める。

 ……待てよ? さっきアイツは、英語で何て言った……?

 先程言っていたのはそう難しい単語ではなく、日本刀《旋風》で包丁を受け止めながら脳内で日本語に翻訳する……そして、この攻撃を日本刀《旋風》で受け止めることこそが一番の下策であることを悟った。

 先程Pohは、『武器破壊の例えを見せてやる』といった意味の言葉を言った……その言葉はハッタリでも何でもない純然たる事実であり、Pohの攻撃を防いだ筈の俺の愛剣、日本刀《旋風》は――中ほどから、叩ききられていた。

 鍛冶スキルのおかげとはいっても、第一層から抜け出すために自らが打った日本刀が、今まで日本刀であったことの方が嘘であるかのように、もはやただの鉄となってしまった銀色の刀身は地面に突き刺さり、俺の手の中に残された柄の部分と共に、ポリゴン片となって消滅した。

 そして日本刀《旋風》が折られたということは、ガードに使っていた物が無くなったということであり、必然的にPohの包丁は、日本刀《旋風》だけでは飽きたらず俺の身体を深く切り裂いた。

「……ぐぁぁっ!」

 Pohの包丁に切り裂かれたことで傷口となったであろう場所を抑えながら、情けなく悲鳴を上げてしまう俺はナメられているのか、Pohは何故かトドメを刺さずに、悶えていて隙だらけの俺に追撃もせずに包丁の腹で肩をポンポンと叩いていた。

「必ず発生するはずのlighteffectがないswordskill……消えたと思ったらいきなり俺のbehindに現れる……何をどうやったか知らないが、なかなかにinterestingだったぜ?」

 そう言いながら、Pohは俺の首元へと、その手に持った死神の鎌と見間違うような凶刃を移動させ、いつでも俺を殺せるような態勢へと移行した。

 予備の日本刀がアイテムストレージに無いわけではないものの、メインで使っていた日本刀《旋風》より切れ味が優れているわけがなく、そもそも敵を目の前にしたこの状況で、アイテムストレージからアイテムを取りだすことなど、クラウドのような《クイックチェンジ》のスキルをマスターしていないと到底不可能な話だ。

 ならば、あまり自信は無いが武器を使わない徒手空拳による格闘戦……いや、俺には戦闘用スキルである《体術》スキルは使用不可能であるし、慣れないシステム外スキルを駆使しても、Pohの包丁さばきの前には太刀打ちできはしないだろう。

 目の前の死神から放たれる、絶対的な『死』のイメージを回避するためのアイデアが頭の中で次々と現れ……その数だけ頭の中から消えていくこととなった。

 それもその筈であり、今のこの状況を将棋で例えるのであれば、もう詰んでいるのだから。

「It`s show ti……ッ!?」

 包丁を油断なく俺に向かって構えたまま、また何事か英語で言おうとしていたPohが突如として後方に跳んでいき、包丁の射程距離圏外へと大幅に遠ざかった。

 Pohが警戒して引き下がったのは、俺とPohの間を空を切り裂くかのように飛ぶ銀色の円刀……そして、俺自身も背後へと引っ張られていた。

「ショウキ、大丈夫!?」

 俺を背後へと引っ張ってくれていたのは、俺たちのギルド《COLORS》のリーダーたるアリシャ……彼女もどこかでオレンジプレイヤーと戦っていたのだろうか、いつもより服が煤けているようにも見えた。

「アリシャ、今までどこに……?」

「ショウキが行った後、また別のオレンジプレイヤーが来てて、わたしとリディアはそっちの方に行ってたのよ! で、ヘルマンは?」

 ギルド《COLORS》のギルドマスターたる彼女もまた俺と同じように、自分たちの中で最強のメンバーはヘルマンであると理解し、全幅の信頼を寄せていたのだろう。
だが、確証は無いものの、結果としてヘルマンはPohに敗れて死んでしまった確率が高い……未だにヘルマンの死についての考察が、こうしてボヤケてしまっているのは、まだ自分がヘルマンが敗れて死んでしまったことを認めていないからであろう。

 認めたくない気持ちが邪魔をして、俺はアリシャからの質問に言葉を発することは出来ずに、首を振ることで答えるしか出来なかった。

「う、嘘……まさか、ヘルマンが……」

「きゃっ!」

 アリシャが言葉を最後まで発し終わる前に、俺たちが話し込んでしまっていた間にPohの足止めをしてくれていた……更に言うと、先程Pohにチャクラムを放ってくれた……リディアが包丁にてダメージを受けて俺たちの場所へと後退してきた。

「Hey.もうfinishかよ?」

 包丁の腹で肩を叩く動作は癖なのか、ポンポンと叩きながらPohは俺たちの下へ近づいてきていた。

 戦闘要員であったクラウドとヘルマンは……今はおらず、俺は日本刀《旋風》が折られてしまったために戦闘不能、アリシャは元々戦闘要員ではなく、リディアは今やられたことで証明されたように、《チャクラム》と《体術》という特殊な武器種的にPohの相手は難しい。

「来ないなら……コッチから行かせてもらおうか」

 対抗手段を考える隙を与えてやるような義理はPohにあるはずがなく、無慈悲にもその凶刃が、またも俺たちに振り下ろされることとなった……アリシャを、標的にして。

「……ショウキ!」

「くっ……アリシャ!?」

 標的にされたアリシャの行動は、Pohの包丁から身をかわすことではなく、横にいた俺に当たらないように俺を突き飛ばして俺が包丁に当たらないようにし、自身はPohの包丁の前で一瞬の隙を立ち止まってしまう。

「……バカ野郎ッ!」

 アリシャを庇ってその華奢な身体を突き飛ばすか、それともアイテムストレージから予備の日本刀を取りだしてPohに斬りかかるか、それとも……と、考えあぐねている間にもアリシャへと死神の凶刃は迫っており、悠長に考えている暇はないと考えることにし、アリシャを突き飛ばしにかかった……が、先約がいた。

「……悪いけどこの子は……やらせないわよ」

 顔に笑顔を貼りつかせたチャクラム使い、リディアである。
アリシャの代わりに包丁をその身に受け止めると共に、チャクラム使いには必須である《体術》スキルの一撃を、それもかなり密着しないと放てないような強力な上位スキルをPohの腹に直撃させ、かなり遠くへ吹き飛ばした。

 包丁が自らを斬った隙をついた、まさに肉を斬らせて骨を断つという技だったのだが……元々HPゲージを減らしていたリディアにとってはそれどころでは済むわけがなく、命を斬らせて骨を断つ、と言った方が正しかった。

 その証拠に、リディアのHPゲージはもはや、レッドゾーンを下回っている……消滅するのは、時間の問題だった。

「リディア……ッ!」

「ふふ……アリシャにショウキ。アナタたちは生き残りなさい。それがお姉さんからの最期の遺――」

 パリン、あまりにもあっけない音をたてて、今話の際まで最期まで笑顔だったギルド《COLORS》の姉が砕け散っていった。

 死んだ跡には何も残らず、ただただ虚空となった場所を眺めていた俺に、近づいてきたアリシャから震える手で光る結晶を手渡された。

「《転移結晶》よ……アイツが来る前に、逃げよう。リディアの遺言、護らなくっちゃ」

「……そうだな。場所は《ラーベルク》で良いか?」

 本音を言えば、クラウドにヘルマン、リディアたち三人の仇を取ってから……つまり、Pohを倒してから帰りたかったものの、アリシャを死なせるわけにはいかないし、そもそも今の状況では俺もただの犬死にだろう……そう判断した俺の確認の言葉にアリシャはコクリと頷き、自らも用意した結晶を手に持った。

「急ぎましょ、速くしないとアイツが来る!」

「ああ……転移! 《ラーベルク》!」

 確かに急がなければならない時ではあるが、いつになく急いでいるアリシャに急かされ、慌てて《転移結晶》を起動させ、身体中が転移のライトエフェクトに包まれていった。

 周囲も俺の身体と共に明るく照らされ、月明かりぐらいしかなかった為に今まで暗かった場所が少し、そのライトエフェクトで照らされ……そして、気づいた。

 アリシャがその手に握っている結晶の色は、濃い緑色をしており、俺が使った青色の《転移結晶》とは違っていたことに。
それもその筈であり、緑色の結晶はいわゆる《解毒結晶》……麻痺毒などを治すために使われる結晶であり、そもそも《転移結晶》とは全く違ったものなのだから。

 そして俺は――アリシャの意図を悟ってしまった。
自らを犠牲にし、残り一つしかない《転移結晶》を俺に使わせて俺を脱出させる……そういう意図を。

「えへへ……」

 アリシャはもう一度太陽のようにニコリと笑うと、どこかに走りだしていった。

「アリ――」

 その後ろ姿に声をかける間もなく、無慈悲にも一度発動した転移結晶の発動は止まらず、俺の視界を全て光が包んでいった。



「――ッ!」

 もう夜も深かったために、人通りも全くなく寂れた商店街のような様相を呈していた街角……第十九層《ラーベルク》の主街区に転移することに成功したが、こんなところでモタモタしている場合ではない、速くアリシャのところへ戻らなくては――!

 そんな時に俺の視界の端に、馬小屋のような建築物が目に留まる。
そこはNPCが経営する厩舎であり、騎乗用の馬や運搬用の牛などを借りることが出来る場所だった。

 ただし、乗りこなすには実際の馬に乗る時のようにテクニックを要求されるらしく……実際乗ってみていたクラウドが振り落とされているのをこの目で見ており……しかも、料金がかなり高いというあまりプレイヤーには人気がない代物だ。

「良し……!」

 しかし、そんなことはもはや俺の頭の中にはなく、気だるげに店番をしていたNPCに叩きつけるようにコルを渡すと、とりあえず一番速そうな漆黒の馬に乗りこんだ。

「疾れぇッ!」

 店番NPCが厩舎の入り口を開けると同時に思いっきりムチを叩き、漆黒の馬はいななきながら一陣の風のようにフィールドへと駆け出した。


「どこだ……!?」

 今の自分ならば小虫一匹たりとも見逃すまい、と限界まで気を引き締めながらアリシャ、もしくはそれを追っているであろうPohの姿を捜す……が、影も形も見当たらない。

 万が一の最悪の事態の想像を頭から削除しながら、馬のスピードを更に上げようとしたその時、視界の端にシステムメッセージが移った……これは、メールか。

 こんな時にメールなど読んでいる暇などないと一瞬思ったが、差出人のプレイヤーの名前を見て一瞬で考えを変え、今まで散々走らせていた馬を急停止させる。

 今来たメールは、プレイヤーネーム《アリシャ》からのメールであった。

『いつだかの《カミツレの髪飾り》だけど、可愛かったから返すね、もったいないし! ギルド共用のストレージに入れておいたから! それと、カミツレの花言葉は『逆境に耐える』とか『逆境の中の活力』って意味何だって! ショウキが良く言ってる、『ナイスな展開じゃないか……!』と似てると思わない? ……じゃあね、ショウキ』

 ……という文面のメール。

 ――せっかくあげたっていうのに、もったいないから返すとはどういうことなんだ? それにお前に花言葉とか似合わないし、『じゃあね』って何だよ、まるでお別れみたいじゃないか……

 まさに今、アリシャにどのような危機が迫っているのかは想像がついてしまう……だが、脳はそれを認めない。
震える指でギルド共用のストレージから、アリシャが言ったように本当に入っていた《カミツレの髪飾り》を取りだした。

 そしてそれと同時に、開きっぱなしであったメッセージウィンドウのアリシャの名前の表示が――連絡不能を示す、灰色に変わった。

 いや、アリシャだけではなく……よせばいいのに、その震える指のままでフレンドの一覧を表示すると……クラウドも、ヘルマンも、リディアも、名前の表示がアリシャと同じように連絡不能……いや、この世界だけでなく現実世界においてもログアウト……死んだことを示す表示である灰色となっていた。

 それは即ち――ギルド《COLORS》の、俺以外の全滅を示していた。

「……嘘だろ……」

 走らせる気がない者など乗せる価値がないということか、漆黒の馬が茫然自失となっていた俺を振り落とし、そのまま主街区の方へ去っていってしまうが、それに構っている余裕など今の俺にあろう筈がない。

 《カミツレの髪飾り》を持ってそのまま地面に横たわり、一瞬夢なのではないかとも考えたが、俺は俺に現実逃避など認めさせてくれはしなかった。

 アリシャ。
俺たちギルド《COLORS》のリーダーであり、太陽のような笑顔で俺たちに指示をだしてくれた。

 ヘルマン。
無愛想を通りこして鉄面皮ではあったが、故に一番信用出来る人物だった。

 クラウド。
いつも騒いでいてうるさかったが、どんな状況でもうるさいというのは、このデスゲームで安心出来ることだった。

 リディア。
いつもアリシャの笑顔とは違った笑みを浮かべ、一歩離れて俺たちを見守ってくれた姉のような存在。

 ――彼ら、彼女らはもうこの世界にはいない――

「……ふざけるな……ふざけるなッ、馬鹿野郎ッ!」

 それは紛れもなく自分に向けての言葉だったが、自分の中で溜めることなど出来ず、叫ばずにはいられなかった。

「何が約束は必ず護る、だ……何がナイスな展開じゃないか、だ……!」

 自分の口癖とポリシーすら護れない弱い自分に、生命ある人間など護れるわけがない。

 ――その後意識を失うまで、俺の涙と贖罪と自戒は、止まることはなかった。
 
 

 
後書き
 これにて過去編、通称《走馬灯編》は終了となります……本来ならば、これ以降にあと一話ありましたが……駄目です、自分がもう限界です。

 この《走馬灯編》とギルド《COLORS》は、自分に色々と反省材料を与えてくれました。
絶望感が某ねっこ先生のように上手くいかなかったり、オリキャラの作り方・動かし方もまだまだだったり、ショウキを本編よりかなり弱くしようとしたのに結局まあまあの強さに落ち着いたり、ヒロインの名前が原作の《アリシャ・ルー》と被ったり、etc.etc.……

 特にアリシャ・ルーと名前が被ったのは致命的です……モチーフのキャラの名前と発音を似せたのが駄目だった……!

 それでは、クランクアップ……と言うのでしょうか? をしたギルド《COLORS》のメンバーに感謝を。

 ……クラウド以外、受け取ってくれそうにないなw
 
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