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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第50話 地味にストレス爆発で剣を作ります

 こんにちは。ギルバートです。まさか2年間の砂漠緑化運動で、ディーネとアナスタシアにここまで差を付けられるとは思いませんでした。余りの事態に泣きそうになったのは仕方が無いと思います。

 しかし……それよりも泣きたい事態が待っていました。

 ここまで話せば、大概の人は「またシルフィアが暴走したか……」と察していただけると思います。しかし、今回はそれが起こりませんでした。むしろ落ち込んでいる父上と母上を、フォローをする羽目になってしまったのです。

 原因は父上と母上が、模擬戦でディーネに負けてしまった事です。

 もちろん対等な勝負ではありません。15歳の小娘と闘うのに、それなりのハンデを2人とも背負っていました。(注 領軍の中には同じ条件でも父上と母上に勝る者は多くない)それでも父上と母上はかなりのショックだった様です。仮にもトリステイン王国トップクラスの衛士だったのですから、ある程度ショックなのは仕方が無いでしょう。

 しかし……2人のモチベーションが落ちた分の仕事が、私にまわって来るのは違うと思う。

「ギルバート様。次はこちらの書類に目を通しサインをお願いします」

 そう言いながらオーギュストが持って来たのは追加書類の山です。私は大きくため息を吐くと、書類の山に取り掛かりました。

(良い機会だから父上と母上には少し休んでもらいましょう。そう考えなければ、とてもやっていられません)

 そう自分に言い聞かせ仕事に集中したいのですが、残念ながらそろそろ邪魔者が来る頃です。

「ギル!!」

 来ました。

「ディーネ。何事ですか?」

 そこで初めて書類から目を放すと、ディーネの不満いっぱいの顔が目に入りました。用件は言われなくとも分かっています。

「私の固有武器は……」

「もう作ったでしょう」

 言い終わる前に反論すると、ディーネに思いっきり不満そうな顔をされました。ディーネに渡してあるのは、心金にチタン合金を側金と刃金にタングステン・ベリリウム合金を使ったバスタードソードです。その性能は、以前父上と母上に作った武器よりも遥かに高いです。しかしそれで納得してくれない訳があるのです。それは今回渡したバスタードソードが、玩具に思える物を見られてしまったからです。現段階で青焼き図の状態なのですが、完成すれば後世で伝説の武具扱いされそうな代物です。どんな物かと言うと……

 心金にチタン合金、刃金にタングステン・ベリリウム合金、側金にミスリルを使用したバスタードソード。(鍛剣)
 最後にチタンで全体を薄くコーティングして、皮膜処理を施す。(日の光で七色に光ります)
 更にエルフとの接触を機にインテリジェンスソード化を計画。(付与するのは魔法吸収能力)
 吸収した魔法や持ち主の魔力を、鞘や柄に埋め込んだ宝石に貯蔵する機構を搭載。
 鞘に術式を刻みこみ、貯蔵した魔力を使って発動する事が可能。
 鞘に刻み込む術式は、《帰還》《障壁》《癒し》の三つ。
 デザイン(と言うか性能)はまんま運命のエクスカリバー(鞘付き)。

 現状でクリアできていない問題は、鍛造方法だけだったりします。当然と言えば当然ですが、オリジナルほど反則的な性能はありません。光る斬撃は飛びませんし、《癒し》と《障壁》もラインクラスの出力が限界です。……その代わり剣と鞘をまとめて持ち主の所へ転移させる《帰還》を追加しました。

 正直に言います。悪乗りしました。こんなトンデモ武装では、世間様にお見せできません。純粋に“ディーネに似合いそう”と言う訳で設計しましたが、実際に作る時は性能を削らなければなりませんね。……自重は大切ですよ。

 この完成図と予想スペックを記した紙を、ディーネに見られていたのです。その所為でバスタードソードを渡した瞬間、物凄く不思議そうな顔をされてしまいました。(喜んでくれると思ったのに)それから紆余曲折あって、鍛造技術の確立まで待ってもらう様に約束しましたが、この様子では待ちきれない様です。と言うか、私も自分の固有武器製作の為に早く研究を進めたいのです。それでも……

「研究より領の仕事が優先です。早く固有武器が欲しいなら、父上と母上を早く復帰させて私の研究時間を確保して下さい」

 自分に言い聞かせるように言いました。これにはディーネも言い返せない様です。

「分かったら早くお願いします」

 しかしディーネは、その場から動こうとはしませんでした。こういう態度を取った時は、何があったか大体想像できます。

「……まさか」

「坊ちゃまのご想像通りかと思います」

 横からオーギュストに肯定されてしまいました。

 ……こいつ。下手に慰めようとして追い打ち掛けやがったな。

「だ だって、仕方が無いじゃないですか……」

 必死に弁明するディーネを攻めても仕方が無いでしょう。状況を楽観視して、原因のディーネを行かせた私にも非はあります。かと言って、アナスタシアやジョゼットでは同様に追い打ちをかけるだけですし……それは私も変わらないでしょう。かと言って、ヴァリエール公爵やモンモランシ伯等の友人達に(ディーネに負けた事を)知られれば、本格的に引き籠りかねません。

 結論。放っておくのが一番だった。

 やっちゃいました。まあ、やっちゃったものは仕方がありませんね。反省です。

「とりあえず。ディーネ」

「何ですか?」

「固有武器はしばらくお預けです。ついでに先日渡したバスタードソードが気に入らないなら回収します」

「ッ!? ギルの……ギルのバカァァ――――!!」

 うん。元気に走って行きましたね。あれなら大丈夫そうです。

「……坊ちゃん」

「別に苛めてるわけじゃありませんよ。先日作ったバスタードソードも、必死に作った一振りだってだけですよ」

 それなのに次の武器ばかり急かされては、多少なりともイラッと来るのは仕方が無いと思います。

 私の意図をくみ取ったのか、オーギュストは何も言いませんでした。

(助かります)

 心の中で感謝を述べつつ、私は書類仕事に戻りました。



 父上と母上が本調子に戻るまで1週間かかりました。

 前半は本当に落ち込んでいたみたいですが、後半は楽する為に落ち込んだふりをしていたみたいです。腹の立つ事実ですが、この2年間私の手伝いが一切無く苦労したみたいなので、我慢する事にしました。

 ……警告はしておくけど。

 本当は綺麗に流したいのですが、ここで警告を怠ると後で際限なく仕事が舞い込む事になりかねませんから。

 まあ、それは置いておくとして、私は私がやらなければならない事を片づけて行くしかありません。

 一つ目は、ミスリルやタングステンの鍛造方法の確立です。と言っても、今更引き下がれないと言うのが本音ですね。何だかんだ言って、今更ディーネに「出来ません」とは言い辛いです。……前途は多難です。

 二つ目は原作への介入です。ガリアの事前介入が失敗に終わってしまったので、こちらは土壇場で何とかするしかありません。だからせめて、アルビオンの方は事前介入を成功させたいです。ガリア、アルビオン共に失敗は出来ませんが、特にシャジャルが過去の真相を知っている可能性が高いので、アルビオンの方は失敗が許されません。原作最大の謎を解明するチャンスが、一気に遠のく事になるからです。

 マジックアイテムの方は、仕様を伝えてマリヴォンヌに丸投げしてあるので大丈夫ですし、新魔法開発はカトレアに押し付けました♪(カトレアがすごく良い笑顔になったので、速攻で逃げ出したのは内緒です。即捕まりましたが……)

 他は私が立ち上げた産業の監督等がありますが、人に任せられるようになったので大した事は無いでしょう。ネフテスの砂漠緑化の方も私が居なくても大丈夫な段階まで進みました。物資調達のついでに行った行商が、かなり儲かっていたので惜しい気もします。忙しくてネフテスに行けなくなるのも、ビターシャルに手紙で伝えておかなければなりません。(ティアにお使いを頼みましょう)

 まあ、こんな所でしょうか? 努力するしかありませんね。

 ……妹に負けたままじゃいられないので、本格的に訓練もしないと。鬱になりそうです。



 何の成果も出せずに、3か月も過ぎちゃいました♪

 実を言うと加工方法(アイディア)が浮かばずに、ひたすら訓練ばっかりしていたのが真相だったりします。おかげ様で最近のディーネの視線が、冷たいったらありゃしませんよ。この状態では、気分転換にカトレアとデートも出来ません。……本当に泣きたいです。

 まあ、アイディアが浮かんだら浮かんだで、トライ&エラーの実験地獄に突入するのですが……

 コンッコンッ

 そんな事を考えると、部屋にノックの音が響きました。

「坊ちゃん」

 オーギュストか。

「入れ」

「失礼します」

 入って来たオーギュストを見て私は(あれっ)と思いました。心なしか戸惑いの様な物を感じるのです。

「何かあったのですか?」

「そ その。坊ちゃんにお客様が……」

 オーギュストから見てとれるのは、一言で言えば“困惑”でしょうか? 嫌な予感はしないので、大した事ではないと思いたいのです。

「客? 名は?」

「ビターシャルという男性の方とルクシャナと言う女性の方です。一応、坊ちゃんのサインが入った面会状を持っていたのですが……」

 ナンデスト?

 オーギュストから面会状を受け取ると、確かに私が何時でも会える様にビターシャルに渡した物です。

 しかし、その2人は砂漠緑化で忙しくここに来る暇などないはずです。偽物にしても2人の名を知っているのは、ドリュアス領でもカトレアくらいしか居ません。一瞬私の頭の中に、鉄血団結党が刺客の可能性が浮びましたが、それならばもっとやりようがあるはずです。

(参ったな。だけど、こんな紙切れならいくらでも盗む事も出来るし、一応用心に越した事は無いか)

 そう思い念話でティアを呼び出すと……

「ギル」

 余計なカトレア(おまけ)まで来てしまいました。

「ムッ……誰がおまけよ。レンも連れて来てあげたのに」

「ごめんなさい。でも、護衛対象を増やしてどうするのですか?(思考を読まないでほしい)」

「却下。それよりそこまで着いて行かないわよ。私は隣室で待機しているから、安全が確認されたら呼んでちょうだい」

 安全性を考え譲歩している様に見えますが、何かあったら現場に突入して来る気満々ですね。カトレアの目が“これ以上の譲歩はしない”と語っています。これはもう危険が無い事を祈るしかありません。

「分かりました。安全が確認され次第呼びます」

 私は元々“万が一を考えての用心だから”と、自分に言い聞かせてから了承しました。そして客室へ向かおうとした所で……

「あっ!!」

 カトレアが声を上げたのです。

「如何したのですか?」

「私が使用人の格好をして、お茶を出しに行けば良いんじゃない?」

 ……なるほど。そう言う事ですか。私とカトレアなら《共鳴》で視界と思考を共有できます。客が本当にビターシャルとルクシャナなら、そのまま私が出て行けば良いですし、違うならカトレアを下げてしまえば良い。2人の名を名乗った以上相手は精霊使い(エルフ)である事は確定なので、相手が敵ならティアやレンでは正体がばれて戦闘になる可能性が高いです。しかしカトレアなら、その心配はありません。何よりカトレアの人を見る力なら、相手の敵意を読み取る事が出来るでしょう。

 ですが、出来ればカトレアにはそんな事をしてほしくないです。どうやって説得しましょうか?

「ティア。邸内の精霊達に何か異変はありますか?」

「精霊達に介入された様子は無いのじゃ。大精霊達の後ろ盾もあるので、支配権を奪われる事もなかろう」

 ん? それなら相手が精霊使い(エルフ)でも、精霊魔法による攻撃は無いと見て良さそうですね。ならば万が一の時でも、カトレア1人で十分に制圧できる事になります。……制止出来そうな理由が無くなってしまいました。

「そうですね。その作戦なら、お茶……それと、相手がエルフならフルーツも用意させた方が良いかな?(って、待て。それなら最初からティアとレンを連れて、4人で一緒に行った方が良いじゃないですか)」

「ちょっと用意して来るわね!! 部屋で着替えて来るわ!!」

「あっ!! カトレア!! ちょっと、ま……」

 行っちゃいました。メイド服なんて着る事ないのに。

 ……

 …………

 あれから5分位で、カトレアが戻って来ました。恰好はドリュアス家指定の女性用給仕(メイド)服です。

「何故そんなに早いのですか?」

 カトレアの部屋まで急いでも2分かかります。つまりメイド服を用意して着替えるまで、1分もかかっていない計算になります。それでは着替えられるかどうかもあやしい。つまりメイド服はあらかじめ……。

「そんな事如何でも良いじゃない。それより、どう似合う? ご主人さま♪」

 少し屈んで胸を強調するポーズを取るカトレア。私はメイドスキーではありませんが、ちょっとグラッと来ました。ハルケギニア(こちら)に来て、メイド慣れしていなければ危なかったかもしれません。

 二へッ

 カトレアが私を見て笑いました。どうやらコスプレは有効と思われた様です。そして次のネタを考え始めた様です。

「ここは和服で攻めるべきかしら? なら、腹黒割烹着? いや、折角天然のピンクブロンドがあるんだし、種の歌姫みたいに和服ドレスとか? ……なら下手にコスプレにこだわる事ないか。それに染め布が必要ね」

 口からダダ漏れてるし。と言うか、やばいです。私のクリティカルな部分を的確について来ます。

「それは面白そうじゃ。吾も着てみたいのう」

「主も満更でもなさそうじゃしのう」

 そしてティアとレンを、味方につけられてしまいました。このまま誘惑に負けて手を出したら、男としての人生が終わってしまいます。突っ込まれる感覚は、絶対に知りたくありません。ここは話を切り上げねば……

「コスプレして遊ばないでください。それより全員で客室に行きますよ。鉄血団結党の関係者の可能性もあるので、不意打ちにはくれぐれも注意して下さい」

「……あれ?」

 あれ? じゃありません。ティアとレンも不満そうな顔をしているし、本当にもう勘弁して下さい。でも、染物は良いかな? 技術的に可能だろうし、十分な需要も見込めるので後で検討してみましょう。場合によっては、カトレアに丸投げすれば良いし。

 私はカトレアを放置し、客間へと移動すると用心しながらドアを開けます。そこには私の良く知るビターシャルとルクシャナが居ました。最も、耳だけは人間と同じ形に化けていますが。

「お久しぶり……と言うには、まだそんなに時間が経っていませんね」

「そうだな。この手紙を受け取ってから、私もこんなに早く再会する事になるとは思わなかったぞ」

 ビターシャルが取り出したのは、ネフテスに行けない事を綴った手紙です。それにやけに疲れた顔をしています。一方のルクシャナは、どっかのおのぼりさん状態です。キョロキョロと周りを見回し、目を輝かせているのは如何かと思います。多分ビターシャルに無理矢理ついて来たのでしょう。

 私はそんな事を考えながら席に着きました。ティアとレンがソファーの左右に飛乗り、カトレアは私の後ろに控える様に立ちます。……この姿だけ見ると、本当に使用人(メイド)にしか見えません。それとルクシャナの視線が、カトレアの一部分に固定されているのは気付かない事にします。

「それで今日来てくれたのは、調査結果を伝えに来てくれた。……と、考えてよろしいのでしょうか?」

 この時期に私の所に来る“唯一の心当たり”を聞いてみましたが、ビターシャルはすまなそうに首を横に振ります。その様子から察するに、厄介事っぽいですね。

(鉄血団結党の生き残りが、徒党を組んで家に攻めて来る。とかだったりしたら如何しよう?)

 嫌な考えが頭に浮かびます。

「実は、こちらで少し不味い事になってな……」

 えっ!? まさか当たりとか?

「変な顔をするな。そちらに害が及ぶような話では無い」

 変な顔とは失敬な。いえ、今はそんな事を言っている時ではありませんね。

「そうですか。で、どの様な話なのですか?」

「我々ネフテスは、ドリュアス領との貿易を望んでいる」

「……具体的には?」

「我々が提供するのは、エルフ謹製のマジックアイテムだ。そして我々は、ドリュアス領で収穫される様々なフルーツを求めている」

 私が行商で卸していた商品の中で、フルーツ類は高い人気がありました。その供給がパタリと止まったのです。彼らの中でドリュアス領との貿易を望む声が出て来ても不思議ではありません。と言うか、察するに結構切羽詰まってるみたいですね。しかし……

「残念ながら、その話はお受けできません」

「!?」

「な なんで!? かなりの利益が出てるって言ってたじゃない!!」

 ビターシャルが絶句し、ルクシャナが悲鳴に近い声を上げました。その様子からすると、断られるとは思っていなかったみたいですね。と言うか、私は「どんだけフルーツに飢えているんだよ!!」と言う突っ込みを、口から出る寸前で呑みこみました。

「ええ。かなり大きな利益が出ていました。しかしそれは“相応のリスク”を背負っていたから出た利益でもあるのです。そのリスクとは、他の人間にエルフと交友を持っている事が知れれば、ドリュアス家は異端として裁かれると言う物です」

 私の言葉にビターシャルが頷き、ルクシャナが不服そうな顔をしました。

「以前は精霊達の依頼と言う事で、危険を冒してまでネフテスとの接触を図りました。そのついでと言っては何ですが、ばれない範囲で行商を行っていたにすぎません。それは調査の依頼も同様です」

「……貿易の利益だけでは、リスクを冒すだけの価値が無いと言う事か」

 理解が早くて助かります。それにエルフ謹製のマジックアイテムは、安全に捌ける量に限りがあります。出所を疑われれば、そこからエルフとの関係が露呈する事になりかねないからです。……つまりこちらには旨みが殆ど無いと言う事ですね。

「ですが、折角良い関係を築きつつあるのに、それを不意にするのは私達も本意ではありません」

 ビターシャルは難しい顔をしたままですが、ルクシャナは嬉しそうな表情をしています。私の左右と背後から2人……特にルクシャナに憐みの視線を向けているのは、気のせいと思いたいです。

「そこでそれを解決する案を考えました」

 私が笑顔でそう口にすると、何故かビターシャルの顔が引きつりました。……何故でしょう?

「ネックとなっているのは、ドリュアス家が負うべきリスクです。逆を言えば、そのリスクさえ何とか出来れば問題はありません。そこでダミーの商会を作ってしまうと言うのは如何でしょう?」

「商会?」

「はい。今あるリスクを、その商会に全て背負ってもらうのです」

 要するにトカゲのしっぽ切りですね。万が一発覚しても、マギ商会は食料品の取引をしていただけと言いはれます。他の問題(輸送方法等)は、エルフ側に解決してもらいましょう。

 ……魔法の道具袋? 貸しませんよ。精霊からの預かり物なのに、気軽に又貸し良くない。

「と言う訳で、商会の管理運営はビターシャルにお願いします」

 あっ!! ビターシャルが崩れ落ちました。

 ルクシャナが隣で慰め始めましたが、残念ながら君も他人事ではないのですよ。



 更に1か月の時間が過ぎました。原作3年前の年まで、半年を切ってしまいました。

 ビターシャルとルクシャナは、マギ商会に入れられて商会運営のイロハを叩きこま……教えられています。2人とも必死に頑張っている様ですが、ルクシャナはお目付役のカトレアに度々外に連れ出してもらっています。(ギリギリまで追い込んでもらっているハズなのに、良く体力が持つなと感心してしまいます)好奇心いっぱいのルクシャナの面倒は大変らしく、夜に愚痴を盛大に聞かされる羽目になりました。

 原作への介入は芳しくありません。

 アルビオンはモード大公のガードが堅過ぎる所為で、全然接触できる(すき)が無いのです。そんななか“一部貴族派と神官達が、急に親しくなり暗躍している”と言う情報が出て来ました。これからの動向には、十分な注意が必要ですね。

 ガリアの方も後継者問題が激化し始めていて、下手に介入しようとすれば外交問題になりかねません。以前の塩取引の一件で、多くの中立派と一部元シャルル派がアンチ・シャルル派へ転向し、それがそのままジョゼフ派に味方している様です。……状況の変化が今後にどう影響するか、不安でたまりません。

 私の研究は、魔法の方は順調に進んでいるのですが、鍛造の方は相変わらずお手上げ状態です。

 ……心労ばかり増えている様な気がするのは、気のせいでしょうか? いえ、気のせいではありませんね。

 そんな状況ですので、最近訓練と言う名のストレス解消を始めてしまいました。(現実逃避とも言う)内容は《錬金》で作った人形を切りまくると言う物です。最初は《錬金》で作った土人形を鉄の刀で切っていたのですが、段々とより切りごたえが良い物を……より切れる刀を……と、エスカレートしてしまったのです。少し前にはタングステン刀(ディーネの物より良い品)を持って、大木伐採の手伝いに出かける様になっていました。

 いや。幹の直径1m位の樹を、気合一閃居合で叩き斬ると気持ち良いのですよ。森の開拓の手伝いにもなりますし、亜人(私が居る時に襲撃を受けた)を前で調子に乗って「これより我は修羅に入る!! 神官と会えば神官を斬り!! 亜人と会えば亜人を斬る!! 情を捨てよ!! ただ一駆けに敵を屠れ!!」と、どっかの歌舞伎者みたいに叫んで敵中に突っ込んだら、後で父上に呼び出し食らって休む様に説教されちゃいました♪(ちなみに怪我はしていません。と言うか怪我をしていたら、母上どころかカトレアまで出て来て精神的に去勢されます。そんなドジは踏みませんよ)

 それ自体は良いのですが、父上からストップがかかり開拓の手伝いには出られなくなってしまいました。

 ……と言う訳で、本邸の庭に戻って、また土人形や藁人形を切る事になるのですが、それだとちょっと物足りなく感じ始めたので、金属製の人形にも手を出しました。《錬金》で作った金属人形ですが、もったいないので残骸は純度調整しインゴットにして売り払っています。

 ちなみに最初は上手く斬鉄する事が出来ず、多くの刀をダメにしてしまいました。……最終的にタングステン・ベリリウム合金製の超極薄刀に進化しました。《硬化》と《固定化》を重ね掛けして補強してありますが、それが無いと簡単に折れたり曲がったりしまう程薄い刀身は、切る事のみに特化し鉄もスパスパ切れる力作だったりします。むこう側が透けて見えませんが、何処の完全変体刀だと突っ込みたくなる刀です。(そう言う訳で、柄や鞘のデザインはパクリました)

 最近は鬱憤のたまり具合も凄いので、新たに5体の鉄人形を《錬金》で作り出しました。何でそんなに鬱憤が溜まってるの?って思うかもしれませんが、母上にこのストレス解消を知られてしまったのです。ここまで聞けば、何があるのか予想は出来るでしょう。母上に見つかる度に、《錬金》で金属人形を作り続ける羽目になるのです。(母上が一発で斬鉄をして見せた時は、かなり凹みました)

「ギルバート」

 そんな私に父上が声をかけて来ました。何時の間に庭に出て来たのでしょうか?

「はい。父上。何かあったのですか? って、聞くまでもありませんね」

「すまんな。シルフィアの話を聞いて、どうしても気になってな」

 そう口にしながらも、父上の目線は私が持っている刀を追っています。

「父上も好きですね。これは薄さと軽さ……そして何より切れ味を追求した刀です。脆いので実戦ではとても使えませんが、切る事に関してはこの通りですよ」

 そう言いながら、私は《錬金》した鉄人形を両断しました。……やっぱり、斬鉄って素晴らしいです。

 父上の方を振り返ると、目を輝かせながらこちら……もとい、私の刀を見ています。父上なら母上の時の様に《錬金》で鉄人形を作り続ける様な事は無いですし、母上が簡単に出来たので技量の心配もないでしょう。

「使ってみますか?」

「良いのか?」

「父上の技量なら心配ないと思いますが、刀身が脆いから注意して下さい」

 そう言って刀を渡すと、私が作った鉄人形を切り倒し始めました。直ぐに残りの人形は無くなり、父上は《錬金》で新しい人形を作りだして続きを始めます。……物凄く楽しそうですね。気持ちは良く分かりますが。

 ……20体位切り倒したでしょうか? ようやく満足して父上が戻って来ました。

「ギルバート。素晴らしい剣だな」

 えらくご満悦ですね。でも……

「母上にも言いましたが、その剣は作りませんよ」

「分かっている。私だけに作ったら、シルフィアがへそを曲げるからな」

 母上にこの刀を渡すと、試し切り用の鉄人形を作る為に、貴重なライン以上の土メイジを振り分ける話が出て来ます。そんな余裕は家に無いので、返って母上のフラストレーションをためる事になりかねません。切る物を探しに行くのはドリュアス家の仕事量的に、取り寄せたり作るのは予算的に不可能です。

 それになんだか続きをする気分じゃ無くなりました。

「……さて、後片付けでもしますか」

「そうだな」

 父上が同意すると後片付けを始めます。

「この場の土を使いすぎましたね」

 土を《錬金》で鉄に変えてしまったので、私が訓練したこの一角は窪んでしまっています。それに私がこのストレス解消(くんれん)を始めてから、マギ商会の鉄が供給過多気味になっているので、この場にある残骸を純度調整して出すと怒られかねません。

「土に戻しましょうか」

「そうだな」

 2人で魔法を解除し、鉄を土に戻して行きます。そして、私の方が人形の数が少なかった所為でしょう。父上より早くこの作業が終わりました。

「父上。こちらは終わりました」

「私は後3……いや2体だ。直ぐに終わる」

 私は父上の作業が終わるのを黙って見ていました。

(……あれ?)

 父上の作業を見ていると、何か引っかかる物を感じました。そして最後の一体が土へと還り、ゆっくりと崩れて行きます。私はその姿を、瞬きもせずに見つめ続けました。

「父上。試してみたい事があるのですが、協力してくれませんか?」

「ん? 良いぞ」

 先程父上から返してもらった刀の《硬化》と《固定化》を解除します。そしてその刀を父上に渡すと……

「その刀を鉄に《錬金》してみてください」

「何故だ? 流石にそれは惜しいのだが」

「お願いします」

 私がキッパリと言い切ると、父上は頷いてくれました。

「分かった。《錬金》」

 父上の魔法が発動して、タングステン・ベリリウム合金製の刀がただの鉄の刀へと変わりました。

「ありがとうございます。《錬金》」

 私は簡易金床とハンマーを作りだし、刀の腹にハンマーを思い切り振りおろしました。

「うっ うわぁ も、もったいない」

 父上が五月蠅いです。しかし私の予想通り、見事に折れ曲がりました。続いて私の苦手は火系統の魔法を使い刀を真っ赤に加熱すると、刀身の先から3割程の位置で叩き折り刀身の真っ赤な所を重ねハンマーで打ちます。やっている事は刀の製造工程の折り返し作業と同じですが、これはあくまで実験です。そして五月蠅い父上を無視して、淡々と作業を進めると直ぐに終了しました。

「父上。先程かけた《錬金》を解除して下さい」

「ギルバート。なんて事を……」

「父上!!」

「ッ!? わ わかった」

 父上が《錬金》を解除すると、刀は私が加工したままの形で鉄からタングステン・ベリリウム合金へと戻ります。ディテクトマジック《探知》で確認しても、材質の変化等の不備は確認されませんでした。

「良し。突破口が見えた!!」

 置いてけぼりの父上を放置し、私は喜々として鍛冶場へと駆け込みました。



 2週間程鍛冶場にお籠りいたしました。

 カトレアが何度か連れ出しに来たらしいのですが、集中していて全く気付きませんでした。と言うか、今は放っておいてほしいです。……後で怖いけど。

 籠っている間に色々な事を確認しました。

 先ず確認したのが、どの様な物質も《錬金》で加工鉄化(かこうてっか)(加工の為に一時的に鉄に《錬金》する事)すれば加工出来るかです。

 ……結果は、加工可能でした。あらゆる金属が加工……鍛造可能で、木材まで鍛造出来たのは流石に驚きました。(折り返した所が年輪みたいになる)肝心の魔法金属ですが、ミスリルやコルシノ鋼も鍛造可能です。ただし、難点は魔法金属を加工鉄化すると、精神力がバカみたいに消費する事です。

 次に確認したのが加工限界です。物理的に何処まで加工可能なのかです。

 ……折ったり穴をあけたりと言った破壊実験は、滞りなく元の材質へ戻る事が確認されました。温度は真っ赤に熱しても大丈夫ですが、完全にとけてしまうと駄目でした。低温や急激な温度変化は大丈夫な様です。

 次は時間的制約が何処まであるかを確認しました。

 ……時間的制約はありませんでした(あくまで現状の1週間のみ)が、戻せるのは一回前の《錬金》だけでした。つまり加工鉄化した後に形を変える《錬金》を使うと、もう元に戻せなくなると言う事です。

 最後に別の金属を加工鉄化して、重ねて折り返し鍛練すると如何なるか確認します。

 ……私が行った実験では、負荷をかけても分解するような事態に陥りませんでした。念の為に鍛造可能な金属同士で、加工鉄化を使った物と使わなかった物を強度実験で比べてみましたが、加工鉄化を使った物の方が強度は上でした。(これは嬉しい情報です)

 ここまでが私が《錬金》で加工鉄化を使った場合の結果です。しかし驚いた事に別の人が《錬金》を使うと、この結果が変わってしまうのです。父上を例にすると、ミスリルやコルシノ鋼の加工鉄化自体は可能でしたが、精神力の消費は私よりも更にひどい事になっていました。また、別金属を加工鉄化して折り返し鍛練をしても直ぐに分解してしまいます。逆に完全に鋳溶かしても簡単に戻す事が出来ましたし、過去数回の《錬金》まで遡って解除する事が出来ました。

 結論。結果は個人の魔法理論によりかなり左右される。

 碌に睡眠もとらずに、この2週間私は何をやっていたのでしょうか? 泣きたいです。

 しかも、この結果を知ったカトレアが……忘れよう。

 最近ただでさえストレスがたまっていたのに、碌に眠る事も出来ずこの散々な結果です。しかもカトレアによる追撃。……HAHAHAHA。切れちゃいました♪

 ……このストレス。如何してくれよう。

 父上。ビターシャル。ルクシャナ。サムソン。パスカル。ポール。ついでにティア。

 以上の方を呼び出しです♪



---- SIDE アズロック ----

 ギルバートから呼び出されて、鍛冶場に着くとそこには既に人が集まっていた。

「待たせたか?」

「いえ、2分前です。ですが、全員そろいましたね」

 実に良い笑顔でギルバートが答えた。……何故だろう? 鳥肌が立ったのだが。

「今日集まってもらったのは、私が設計した剣を作るのが目的です。その剣を使うのは私の姉であるディーネであり、彼女の身を守る為の武具です。一切の妥協無く最高の剣を作り上げる事を、ここに誓います」

 あれは本音じゃ無いな。ギルバートの目に“自分は何処まで出来るのか?”と言う挑戦心の様な物が見て取れる。……あの様子では自重する気は全くもって無さそうだ。変な物を作りそうなら、私が身をていしてでも止める気で行かないとまずい。そうでないと、後で絶対に私の胃に穴があくと言い切れる。製作者の隠蔽と言う意味で……。

「ビターシャルとルクシャナは、インテリジェンスソードの中身を準備して下さい。器は残りのメンバーで作成します。付与する効果は魔法吸収能力です。変換吸収の出力は、なるべく高くしてください。お願いします」

 返事をすると足早に去って行く2人。たしかあの2人は、エルフだったな。精霊魔法で化けているらしいが、耳の形が我々と変わらないので人間と見分けがつかない。

「それとティア。ちょっと元の姿に戻ってください」

「何故じゃ?」

「良いから」

 ギルバートの奴は何をする気なのだ。やろうとしている事が、イマイチ良く分からない。

 ……私が首をひねっている内に、ギルバートの使い魔が《変化》の魔法を解き元の姿へと戻る。その巨大かつ優美な龍の姿は、先程の愛らしい黒猫の姿からは想像も出来ない。と言うか、何度見ても圧倒されるな。絶対に敵にはまわしたくない。

「ティア」

 ギルバートそう呟き、近づいて龍の脇腹を撫で始めた。

「あ 主」

 もどかしそうに身をよじる龍は、ちょっと可愛く見えたのは私の気のせいでは無いだろう。心なしかその場の空気がゆる……

 ベリッ!!

「ほんぎゃぁぁ――――!!」

 突然の音と共に、龍が空高く逃げて行った。何が起きたのだ!?

「さて、これで材料がそろいました。父上はこれを加工鉄化してください」

 そう言ってギルバートが差し出して来たのは、漆黒の鱗だった。間違いなく息子の使い魔である龍の物だ。

「鍛冶場の中に、ミスリル、チタン合金、タングステン・ベリリウム合金が纏めてありますので、それらも同様に加工鉄化して各溶鉱炉へお願いします。加工鉄化した鱗は3等分して、それぞれの溶鉱炉へ入れてください。インゴットが出来たら、一度加工鉄化を解いてください。私が掛け直します」

 淡々と説明するギルバートに、私は怒りを覚えた。

「ギルバート!! お前自分の使い魔に……」

「何か?」

 ゾワッ ゾワッ ゾワッ!!

「い いや、なんでもない」

 ギルバートと目があった瞬間、何も言えなくなってしまった。と言うか、普通に怖い。そこで初めて周りを見ると、全員が私を縋る様な目で見ている事に気付いた。そしてその期待が、諦めへと変わって行くのも分かった。

「説明を続けます」

 何なのだろう? この空気。ここはアウェーか? いや、ギルバート以外は全て味方なはずだ。アウェーとは言わないだろう。なのに何この劣勢感。ギルバートは淡々と説明を続けているが、息子相手に勝てる気がまるでしない。

 やがてギルバートの説明も終わり、作業を始めようとした時……

「ギル!! ティアを苛めるなんてどうしたの!?」

 おおっ。対ギルバート用の最終兵器(カトレア)が来た。私も含め、その場に居る人間に希望が見えた。これで何とかなる。

「ああ。カトレアですか。必要に迫られましてね。苛めた訳じゃありませんよ」

 笑顔で返すギルバート。だが返答になっていない。このままガツンと言ってやって……

「そう。なら仕方が無いわね。……あっ。それから私、実家に遊びに行って来るわね。ティアとレン。それに、ディーネ、アナスタシア、ジョゼットを連れて行きたいのだけど」

 カトレア嬢の顔が、思いっきり引き攣って見えるのは気のせいだろうか?

「問題ありませんよ。カリーヌ様によろしく伝えてください。それからルイズの事をよろしくお願いします」

「ええ。分かったわ」

 そう言うと、そそくさとその場を立ち去ってしまった。

 後にアナスタシアから聞いたのだが、カトレア嬢は「あの状態のギルとは、怖くて一瞬でも一緒に居たくないわ」と言っていたそうである。まったくもって同感なのだが、見捨てないでほしかった。

「さぁ、作業を始めますよ」

 ギルバートの号令と共に、作業を始める事となった。

 まあ、私は加工鉄化のみの担当なので、すぐに逃げられるのが唯一の救いか。サムソン、パスカル、ポールの3人には、心から同情する。

---- SIDE アズロック END ----



 とんでもない物を作ってしまいました。ティアの鱗追加と術式の大幅な見直し(鍛練方法が見つからず時間があったのでやった)で、当初の予定より強度2割、魔力伝導性(杖としての性能)3割、《障壁》と《癒し》の出力が2割増しです。まあ、作ってしまった物は仕方が無いですね。やれる事をやってスッキリしましたし、ここは反省しておきましょう。反省♪

 完成品を見たビターシャルとルクシャナの口から、魂がはみ出していたのは気のせいだと思いたいです。それからビターシャルに言いたいのですが、顔をあわせる度に「封印しよう」と詰め寄って来るのは止めて欲しいです。完成前に予想スペックを教えなかったのは正解ですね。

 ちなみに剣に宿った人格は、落ち着いた感じの女性でした。

 そしていよいよディーネに手渡す時が来ました。

 風竜に化けたティアとレンが、ドリュアス家本邸裏に着陸します。

「ただ今戻りました」と、ディーネ。

「ギル。ただいま」と、これはカトレア。

「「兄様。ただいま」」と、アナスタシアとジョゼット。

 ティアとレンは人に聞かれるとまずいので、今はアイコンタクトのみで我慢です。(後で撫でてあげましょう)その全てに挨拶を返して行きます。父上や母上にも帰宅の挨拶をし、和やかな雰囲気のまま本邸に入ろうとしたところで切り出しました。

「ああ。ディーネ。例の剣は完成しましたよ」

 するとディーネは、荷物を放り出し私の胸倉をつかむと……

「何処にあるのですか?」

 目が血走っていて怖いよディーネ。

「鍛冶場の……」

 言い終わる前に引きずって行かれました。そして鍛冶場の壁に目的の物を発見すると、私を放り捨て剣の前に駆け寄ります。

「あぁ。夢にまで見た私の(つるぎ)が……」

 そして近くにあったナイフで指先を少し切ると、出て来た血を剣の柄の中に隠れた青い宝石にたらしました。これは事前に教えておいたこの剣のマスター登録の方法で、後は剣の銘を口頭で付ければ契約完了となります。

「私は貴方との出会いが楽しみで、すっと貴方の銘を考えていました」

 感無量と言った感じで呟くディーネを、私は嬉しさと寂しさが混在した製作者(ちちおや)の様な気分で見守っていました。

「貴方の銘はアロンダイトです!!」

「ちょっ」

「ディーネ!! それはダメです」

 剣の否定より先に、思わず私が叫んでしまいました。

「サー・ランスロットの愛剣の名前が不服だと言うのですか!?」

「過去の英霊達の愛剣から名前を貰うのも良いですが、もっと別の名前があるでしょう。エクスカリバーとか」

「……まって、私の人格は」

「なっ!! 最高の騎士であり“湖の騎士”の名を持つサー・ランスロット様の愛剣の名前の何処がいけないのですか!?」

「縁起が悪いじゃないですか。王を裏切ってしまった騎士の愛剣なんて」

「それはエクスカリバーも同じでしょう。妻を寝とられた上に息子に反逆され、最後には相打ちになった男の剣など……」

「女だから。って、だから待って……」

「誰が何と言おうと、この剣の銘はアロンダイトです。これは絶対に譲りません!!」

 ディーネが叫ぶと同時に、剣の宝石が光り契約が結ばれてしまいました。

「馬の名前!! しかもオスぅ――――!!」

 ひたすら無視されまくった剣……アロンダイト(女の子)は、悲痛な叫びを上げましたが私にはもうどうする事も出来ません。と言うか、その馬の事を何故知っているのですか?






 インテリジェンスソードに宿る人格が女と知ったディーネが切れて、思いっきり殴られてしまいました。理不尽です。

 ショックのあまりアロンダイトは、私やディーネと殆ど口を聞いてくれなくなりました。私には時間が解決してくれる事を祈るしかありません。ただ、最初に話した時は物静かな女性だったのに、今のアロンダイトは子供の様な印象を受けます。……幼児退行する程その銘が嫌だったのでしょうか? 時間がかかりそうです。

 この状況に、自室で頭を抱えていると……

 ドンドンドンドン

「ギルバート様!! 大変です!!」

 乱暴にドアがノックされました。声の主は間違いなくファビオですね。滅茶苦茶嫌な予感がします。

「何事ですか?」

 部屋のかぎを開けると、ファビオが中に転がり込んで来ました。

「ギルバート様!! 大変です!! 今通信用魔具から連絡があって、モード大公家が襲撃されたそうです!!」

「な 何だって!! 早すぎます!! 最低でもあと半年はあると思っていたのに……」

 園遊会が6~8月と予想されるので、ガリアやアルビオンの事件はそれ以降と予想していました。その様な大事件が起きていれば、園遊会どころではないからです。最低でも半年……長ければ1年は時間があると思っていました。

「如何しますか!?」

「現地へ飛びます。シャジャルとティファニアは、ロマリアを黙らせるのに必要な人材です。絶対に殺される訳には行きません」

「分かりました。こちらも直ぐに準備します」

 直ぐに着替えと荷物を準備し、ティアを呼び出しました。ここから先は時間との勝負です。

「坊ちゃま。大変です」

 部屋を出るとそこに、オーギュストが来ました。

「アルビオンの事は聞いています。緊急なので、父上と母上には……」

「違います。ガリアからの急報が届きました。オルレアン公が捕えられたそうです」

「なっ!!」

 アルビオンもそうですが、ガリアも動きが早すぎます。何でこんな事に…… 
 

 
後書き
デロデロデロデロデロデロデッテン
ドリュアス家のネーミングセンスは呪われています。

遅くなりました。
余りの遅さに書いていて泣きそうになりました。

うにうにのモチベーションが、下がり過ぎているので……
どうか皆様、感想と言う名の愛の手をよろしくお願いします。 
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