| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九話 もてない苦しみその三


「それでね」
「ええ」
「何かうちの学校って色々な集まりがあるのね」
「まあ大きいからね」
 七美は彰子の言葉にそう返した。
「訳のわからない組織もあるわよ」
「そうなんだ」
「訳のわからない場所もあるしね」
「訳のわからない場所」
「ええ、例えばね」
 七美はそのうちの一つを説明しだした。
「誰もいないのに勝手に曲を奏でるピアノとか」
「ふうん」
「勝手に踊りだす標本の骸骨とかね。そういう話もあるわよ」
 何処の学校にも定番である。こうした話は他にも一杯ある。
「何か怖いわね」
「まあね。とにかくこの学校色々あるから」
「他にはあるかしら」
「嫉妬団もそうだし」
「今度こそあいつ等を倒す!」
 カムイは勝手に暗い炎を燃やし続けていた。
「何があっても不思議じゃないわよ」
「面白そうね」
 彰子はそれを聞いてまた言う。
「実際にどっか行ってみない?」
「骸骨見に?」
「ううんと、何処でもいいから」
 首を少し傾げてから述べる。
「楽しそうなところ」
「わかったわ。それじゃあ」
 七美はそれに応えて言った。
「今日の夜ね。行きましょう」
「うん」
 隣でカムイが燃えているのを無視して話をはじめた。こうして彰子と七美は夜の学校に二人で向かうのであった。
 その途中で褐色の肌の金髪の少女に出会った。目は青く少女めいた可愛らしい小柄な女の子である。フリフリのピンクの上着に青いズボンを穿いている。
「あら、彰子に七美じゃない」
「コゼットちゃん」
 彰子が最初に彼女に気付いた。続いて七美が。彼女の名はコゼット=ミナワサ。インドネシア人で彰子達のクラスメイトである。今のところは取り立てて変人という話はない。
「何処行くの?」
「今から学校にね。訳のわからない場所を見に」
「訳のわからない場所ね」
 コゼットはそれを聞いて考える顔をした。
「じゃあいい場所知ってるわよ」
「何処なの?」
「ええ、こっち」
 そう言って裏手の一つを指し示した。この学校はあまりにも広い為校門も複数存在するのである。
 コゼットが指し示したのはそのうちの一つであった。みればその門は厳重に閉ざされてしまっていた。
「閉まってるよ」
「そうね」
 コゼットは彰子の言葉に返した。
「どうしよう」
「じゃあ方法は一つしかないわね」
「そういうこと」
 コゼットは七美に対しては別の返事であった。どうやら何かと考えがあるらしい。
「それじゃあ彰子、行きましょう」
「行くって」
 彰子は七美の言葉にきょとんとした顔を見せてきた。
「どうやって?」
「どうやってって決まってるじゃない」
 七美は述べる。
「乗り越えるのよ」
「乗り越えるの」
「そういうこと、この校門をね」
「閉まっていれば乗り越えればいいのよ」
 七美とコゼットの答えは単純明快であった。実にわかりやすい。
「いい?」
「勿論」
「うん、まあ」
 七美と彰子の返事はそれぞれ異なっていた。そこに二人の心境の違いがあった。
 何はともあれ三人は壁を越えて学校の中に入った。昼はあんなに賑やかだった学校が見る影もなくしんと静まり返っている有様はえも言われぬものであった。
「それでさ」
 七美はその中でコゼットに問う。
「何処なの?」
「こっちよ」
 指差したのは体育館の方であった。体育館といっても幾つもあるがコゼットが指差したのは最も大きい第一体育館であった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧