| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六章 贖罪の炎赤石
  第四話 迫り来る脅威

 
前書き
士郎 「……どうしよう」
ルイズ「何がよ?」
士郎 「何がじゃないだろ何がだ。お前の父親のことだ……あんなとこ見られてしまって」
ルイズ「何のこと?」
士郎 「お前……本当に覚えていないのか?」
ルイズ「……シエスタたちなら大分慣れてきたんだけど……ね」
士郎 「ん? 何か言ったか?」
ルイズ「何でもないわよ……」
士郎 「しかしどうするかな……」
ルイズ「無視しておけばいいのよ。父さまが何を言ってもわたしがシロウから離れることなんてありえないんだし」
士郎 「ルイズ……お前……」
ルイズ「……シロウ……」
士郎 「やっぱり意識があったな」
ルイズ「あ、魔法学院が見えてきたわよ」
士郎 「おいルイズ無視するんじゃない。こっちを向けこっちを!」

 先に言っておきます……今回本編に士郎たちは出てきません。

 それでは、本編始まります。
 

 
 アルビオンの首都ロンディニウム。その南方に建つハヴィランド宮殿のホールでは、トリステインとの戦争に対する会議が行われていた。眩いばかりの輝きに満ちる白が満ちるホールの中心に設置された巨大な一枚の岩板の円卓の周りには、アルビオンの閣僚や将軍、そして彼らの王であるクロムウェルが座っている。
 会議は紛糾していた。
 トリステインとゲルマニアの連合軍が迫る中、有効的な対策が決まらないからだ。
 「艦隊の数が多すぎる!」「このままでは持ちこたえられんぞ!」「どうするつもりだ!」閣僚や将軍が血走った目で口々に声を上げる。荒れる会議の中、クロムウェルは立ち上がると、落ち着いた声で諭すように声を掛けた。

「落ち着きなさい。大丈夫です、考えはある」
「「「おおっ!」」」

 一斉にクロムウェルに視線が集まり、どよめく声がホールに響く。

「それで、その考えとは?」
「連合軍は、このアルビオンを攻めるため全軍を動員するが、それが出来るのはガリアが中立声明を発表したから……だが」

 クロムウェルはそこで一旦言葉を切ると、背後に建つシェフィールドに視線だけを向ける。シェフィールドはクロムウェルと視線が交わると小さく頷いてみせた。

「そもそもその中立が偽りだったとしたら……どうなる?」

 ざわりとホールが再度ざわめく。
 ガリアの中立が嘘だという言葉に会議に座る者の顔が明るくなり、自分たちの勝利を確信した言葉を
口にする。悲観的な言葉に満ちていた空間に、今度は楽観的な言葉が満ち始めた。そんな中、一人の男が未だ立ったままのクロムウェルに質問をかける。

「ガリアを味方につけるとは、一体どのような魔法を使われたのですか? やはりそれも『虚無』と何か関係が」

 向けられる視線と言葉に、クロムウェルはにっこりと笑みをひとつ返す。

「高度な外交機密なので内容は話せないが、これは信じてもいい情報だ」
「ふむ……そうですか」

 自信に満ち溢れたクロムウェルの様子に男、ホーキンスは目を伏せて考え込む。
 ガリアが味方にいるとなれば、例えアルビオンに連合軍が上陸したとしても、ガリアが二国の背後を脅かせば連合軍は撤退を余儀なくされる。ならばこの戦、我らが負ける道理はない……か。

「わかりました。それでは――」

 ホーキンスは重々しく頷くと立ち上がった。それにつられるように、円卓に座る将軍たちも立ち上がり、クロムウェルに向け一斉に敬礼をする。クロムウェルが将軍たちに向け鷹揚に頷くと、将軍たちは自分たちが指揮する軍の下へと歩き出した。








 会議が終わり、クロムウェルはシェフィールを伴って執務室に戻っていた。
 執務室を照らす魔法の光の光量は少なく、広い執務室の端にまで届いていない。明かりが乏しい部屋の中を進み、広々とした部屋に置かれた、かつて王が腰を下ろしていた椅子にクロムウェルは腰掛ける。座り心地を確かめるように軽く体を動かした後、椅子の背もたれに深く座り直したクロムウェルは、隣に立つシェフィールに顔を向けず声を上げた。

「……メンヌヴィル君」

 独り言のような呟きは、広い執務室に広がり切る前に消えてしまい、答えるものはいないかに思えたが、

「随分と待たされましたな」

 部屋の隅、光が届かない暗闇の中から、ぞろりと這い出るように現れた男がそれに答えた。
 ゆっくりと忍び寄るように現れた男は、白髪と顔に刻まれた皺から歳の頃は四十をいくつか超えたぐらいの男。服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体は、男が戦う者であることを伝えていた。アルビオンの王の前にいるにもかかわらず、男に緊張した様子は見られない。身を包む衣服も、礼装には程遠いラフな格好をしている。体を覆うマントと腰に下げられている杖から、男がメイジであることをわかった。
 クロムウェルの前で立ち止まった男の顔を、魔法の明かりが照らし出す。
 魔法の明かりにより露わにされた男の顔には、顔の左半分を覆うように広がる火傷の跡がある。
 男は口を裂くような笑みを浮かべると、クロムウェルに問いかけた。

「それで、あなたはオレに何をさせるつもりなんだ?」 
「なに、君ならば簡単なことだ」

 口元だけで笑う男に、微かに引きつった笑みを返したクロムウェルは、隣に立つシェフィールに視線を向けた。シェフィールが小さく頷くのを見たクロムウェルは、顎に手をあて撫でながら、世間話をするような軽い調子でメンヌヴィルに依頼の内容を伝える。

「魔法学院……君にはそこを占領してもらいたいのだ」








 雲一つなく晴れ渡った空の下、アウストリの広場にあるベンチの上に、キュルケとタバサは隣り合って座っていた。今は休み時間であり、本来ならば、多くの生徒たちで賑わっている時間帯にもかかわらず、視界には数人の女生徒の姿しかない。
 まるで通夜のような静けさの中、キュルケはベンチに深く座り込みながら、隣に座るタバサに顔を向けずポツリと呟く。

「……寂しいものね」
「……」

 タバサは何時もどおり開いた本を黙々と読んでいる。返事が返ってこないことに対し、キュルケは特に何も言わない。ただ、気だるそうに真っ青に晴れ渡る空を仰ぐと、眩しげに目を細めた。

「戦争……か……本当に……嫌ね……」
「…………」

 アウストリの広場が閑散としているのには理由があった。間もなく始まる戦争で、士官不足に悩む王軍に、男子生徒のほとんどが志願したためである。その中には、キュルケの知り合いも多く含まれていた。
 男子生徒の姿が消えたことや、戦争が始まる不安に、学園に残った女子生徒たちは、戦争に赴いた恋人や友人のことを思い、段々と暗くなっていく。今ではもう、まるで学園全体でお葬式が行われているようだ。
 キュルケは早く学園から消えた赤い男のことと、その主人のことを思い、小さく溜め息をはいた。

「……シロウもやっぱり戦争にいったのかしら? ……でも、ルイズが戦争に行くことは反対していたみたいだし……はぁ……一体どこにいったのよ……」
「…………公爵家」
「え?」

 顔を両手で覆い嘆くキュルケに、タバサが本から顔を上げずにポツリと呟いた。顔から手を離し、タバサに顔を向けるキュルケに、タバサは本から顔を上げず口を開く。

「三日前の朝。ラ・ヴァリエール公爵の家紋が記された馬車を見た者がいる」
「……ルイズの実家……それは……色んな意味でヤバイ……かな?」

 何が? とタバサは尋ねない。ただ、本から顔を上げ、ホンの少しの間だけ目を閉じ、開くと同時にキュルケに顔を向けるとともに首を傾げ、

「自業……自得?」

 一言呟く。

「……そうとも……言うわね……」

 キュルケの顔に浮かんでいた悲しげな表情が小さな笑みに変わる。それは、苦笑いとも言われるものだ。口元に浮かぶ歪んだ笑みを、片手で揉みほぐしながらキュルケは再度空を見上げる。

「まあ、シロウのことだし。死ぬことはないと思うけど」
「……」
「……帰ってこられるかしら」
「…………」

 キュルケは誰に言うでもなく呟く。隣に座るタバサに問いかけたわけではない。ただ、自然に口元から溢れただけ。返事など期待していなかった。
 そんな問いに、

「まっ、大丈夫でしょ」
「えっ?」

 応える者がいた。
 後ろから唐突にかけられた声に、慌てて振り返ったキュルケの前には、

「そこいい?」

 長い緑色の髪を持つ、メガネを掛けた美しい女性が、キュルケの隣りを指差しながら立っていた。

「……ミス・ロングビル」
「食堂がガラガラでね。あんなところで食事してたら気が滅入ってしまうよ」

 ロングビルはキュルケの返事を待たず、驚き目を見開くキュルケの隣に座る。手に持っていた包みを膝の上に置くと、いそいそと開いていく。

「なんで外で食べようと思ってね。コック長に頼んでサンドイッチを作ってもらったのさ」

 聞いてもいないのに、ここに来るまでの経緯を説明をするロングビル。包みの中から取り出したサンドイッチをパクつきながら、隣に座るキュルケに視線だけを向ける。

「もぐもぐ……ん、ごく……で、シロウが帰ってこられるかってことだけど」
「え? あ、その」

 あっと言う間に一つのサンドイッチを胃の中に収めたロングビルが、懐から取り出したハンカチで口元を拭きながらキュルケに話しかける。キュルケは唐突に現れたロングビルに対する動揺が完全に収まってはいないが、それでもロングビルの言葉に耳を傾けた。
 キュルケに顔を向けず、新たなサンドイッチに手を伸ばしながら、ロングビルは話しを続ける。

「ま、そりゃ大丈夫でしょ。戦争に参加するにしてもしないにせよ。公爵家に居るのは色々と不味そうだしねぇ……主にシロウが」
「そうだけど……帰って来れるの? シロウたちが帰りたくても、公爵が帰さないと決めれば、早々帰れるとは」
「普通は……っん、もぐもぐ……っんく……ね」

 キュルケの話しを聞きながら、ロングビルはもぐもぐとサンドイッチを咀嚼する。最初と同じようにあっと言う間にサンドイッチを飲み込むと、膝の上に置いた包みに一緒に入れていた水筒とカップを取り出す。紅茶をカップに注ぎ込むと、サンドイッチでぱさつき始めた口の中を潤し始める。ゴクリと喉を二、三度鳴らすと、手に持ったカップを膝の上に下ろす。

「でも、シロウだからねえ」
「……そう、言われると……まあ、確かに、そう、かしら」

 公爵が例えルイズたちを魔法学院に帰さないようとしたとしても、ルイズを、シロウを止められるとは思えなかった。シロウと対峙したことがあるからこそわかる。彼は、シロウは桁が違うと。
 実戦は数える程しか経験はないけど、それでもわかることはある。対峙した際に感じたあの圧迫感。全身に鳥肌が立つ感覚。
 シロウとまともに相対できる者がいたとしたら、それは多分、噂に聞く烈風カリンぐらいだろう。
 キュルケがロングビルの言葉に小さく何度も頷いていると、何時の間にか包みの中にあったサンドイッチを全て食べてしまっていたロングビルが、口元をハンカチで拭きながら苦い声で呟いた。

「あたしとしては、シロウが帰ってこられるかどうかよりも気になることがあるんだけどね」
「何それ?」
「ルイズには上に二人姉がいるそうなんだけど……シロウのことだから、何時の間にか誑し込んでそうで……」
「うっ……それは……否定できないわね」

 二人の間に沈黙が満ちる。 
 脳裏には笑いながら頭を掻く士郎の姿が浮かぶ。
 士郎の何気ない行動が、結果として女を誑かす。
 そういうところが士郎にはある。
 厄介なところは、本人にその気がまったくないというところだ。

「帰ったら説教だね」  
「ええ、色々と用意しておくわ」

 にこりと笑い合う二人の横で、タバサが本に視線を落としながら、

「……ご愁傷様」

 ポツリと呟いた。







 ロングビルと今後のことを話し合った後、キュルケはロングビルと別れ、タバサと一緒に散歩をしていた。行き先は特にない。ただ何となくぷらぷらと歩いていただけの二人は、気がつけば火の塔の近くまで来ていた。特に火の塔の近くに特に何かあるという訳もなく、引き返そうとした二人だが、金属を叩くような耳慣れない音に足を止めた。誘われるように音が聞こえる方向に歩き出した二人の目に、ゼロ戦に取り付いて整備を行っているコルベールの姿が映り込む。
 その姿は、まるで男の子がお気に入りの玩具で遊んでいいるように見えた。心底楽しげな顔で、ゼロ戦を調べて回るコルベールに向かって、キュルケが声を掛ける。

「随分と楽しそうですわね」
「ん? ミス・ツェルプストーじゃないですか。どうかしたのですかこんなところに来るなんて?」

 キュルケの声に反応して振り返ったコルベールは、キュルケたちに向かって笑いかけた。
 軽く口の端を曲げた笑みをコルベールに返したキュルケは、視線をコルベールの後ろ、ゼロ戦に向ける。 

「特に用事があったというわけじゃないんですが……それ、確か『竜の羽衣』でしたわね?」 
「ゼロセンと言うらしいですよ。この前シロウくんからやっと好きに弄ってもいいとの許可が下りましてね。色々と調べていたんですが、全く驚きの連続ですよ!」

 キュルケの視線に沿うように顔を移動させたコルベールが、ゼロ戦を指差しながら声を上げる。
 興奮して声を荒げるコルベールに、キュルケは冷ややかな視線を向けた。

「だから、あなたは王軍に志願なさらなかったんですね」
「む……まあ、その通りだね」

 子供のようにはしゃいでいた様子を一変させ、悲しげに目を細め顔を背けるコルペールの様子に、キュルケは小さく溜め息をはいた。
 シロウがもしもの場合はコルベールを頼るように言っていたけど、この人の何に頼れって言うのよ……。
 迫りくる戦争から目を逸らし、逃げるように研究に没頭するコルベール。
 どんな系統よりも戦いに向く火の使い手が、戦いから目を逸らすとは情けない。

「……争いは嫌いでね」

 男として、教師として、自分が恥ずかしくないのだろうか?
 いつもなら、軽蔑の視線を向けて去るだけだが、士郎の言葉もある。さっさとここから離れたい気持ちをグッと押さえ込んだキュルケは、顔を上げないコルベールに向かって言葉を吐き捨てた。

「シロウがいざという時はミスタに頼れと言っていましたが、どうやらシロウの見たて違いのようですわね」  
「シロウくんが?」

 かけられた言葉に顔を上げたコルベールに背を向けたキュルケは、タバサを促して歩き出した。

「ミス・ツェルプストー!」

 声を掛けられ足を止めたキュルケは、振り返らずに返事を返す。

「何ですかミスタ?」
「……シロウくんがわたしを頼れと言ったのかい?」
「ええ」
「本当に?」
「はい」
「…………」

 コルベールが急に押し黙ると、キュルケはそのまま止めていた足を再度動かし始める。
 歩き出したキュルケたちを、今度はコルベールは止めなかった。
 キュルケたちの姿が見えなくなると、コルベールは背後のゼロ戦に寄りかかり、晴れ渡った空を見上げ、

「……こんなわたしが……頼りになると……君は言うのかい」

 溜め息混じりの自嘲をした。







 トリスタニアの宮殿には、東の宮の一角に王軍の資料庫がある。
 そこは王軍でも高い地位にいるものしか入ることが許されない、特別な場所であった。
 限られた者しか入ることが出来ない資料庫は、出入りする者が少ないことや古い資料が多いためか、埃臭さやカビ臭さが鼻につく。周囲を照らす明かりも、歩ける程度必要最小限の明かりしかない。
 そんな薄暗い資料庫の中に、柔らかな曲線を描く影が見えた。
 影の正体、それは、銃士隊の隊長であるアニエスであった。
 国を上げての戦争が迫る中、近衛である銃士隊の隊長がこんな場所に居るのには理由がある。アルビオンとの戦争の最高司令長官であるド・ポワチエ将軍がアニエスたち銃士隊の参戦を拒否したのだ。
 最近目覚しい活躍が目に付き、さらに女王の懐刀である銃士隊は、元帥を目指すド・ポワチエにとっては邪魔でしかない。そのため、『近衛は女王の護衛に専念されたい』と戦争への参加を拒否したのだ。
 これが上昇志向の貴族ならば、一波乱や二波乱はあっただろうが、名誉欲や地位にさほど興味がないアニエスにとっては別にそれは構わなかった。いや、それどころか都合がよかった。
 ……故郷の仇を見つけ出すのに。
 戦争に参加しなくてもいいということで、空いた時間を利用したアニエスは、資料室に二週間こもった結果である、とある資料に視線を下げていた。
 アニエスの手に持たれた資料の表紙には、『魔法研究所(アカデミー)実験小隊』と記されている。
 それがアニエスの村を滅ぼした部隊の名であった。
 微かに震える手で、一枚一枚ページを捲るアニエス。
 ページに落とす視線は、まるで刃物のように鋭い。
 資料の中には、アニエスの村を滅ぼした小隊の隊員の名が記されていた。村が滅ぼされ、随分と時間が経っているため、既に死んでいる者も多い。不意に、一定の間隔でページを捲られていた手が止まった。

「……破れて……いや、これは……破かれたのか」

 アニエスの手が止まった原因は、隊員の名が記されていたページの一番最後。部隊を率いていた隊長の名が記されていたと思われるページが破かれていたのだ。
 それも自然にではなく、明らかに人の手によって故意に破かれている。
 震える手で資料を閉じると、元にあった場所に戻す。
 震えを止めるためか、アニエスは両手で自身の胸元を掴むと、身体を丸めると共に込められるだけの力を込めた。震える身体を資料が収められている棚に寄りかけると、そのままズルズルと冷たい床に膝を着く。

「……ッ……ぅ」

 床に膝を着き、身体を丸め両手を自分の身体に回すアニエス。
 その姿は、まるで内側から飛び出してくる何かを押さえつけようとしているようにも見えた。
 そのまま暫らく時が過ぎ、のろのろと顔を上げたアニエスは、天井近くにぶら下がる一つの明かりに目をやる。いくら光量が少ないからといって、周りが暗い中、突然明かりの発生源を見上げるには、アニエスの目は暗がりに慣れ過ぎていた。光から逃げるように目を閉じると、瞼の裏に過去の記憶が走馬灯のように流れていく。

 アングル地方にある、海に面した村に家族と共に暮らしていた幼い時分。
 砂浜に倒れる、炎を閉じ込めたかのような大きな赤いルビーの指輪を嵌めた美しい女性。 
 ヴィットーリアと名乗ったその女性が、炎に巻かれる姿。
 家族を、村を赤黒く燃え上げる炎。
 自分を背負う、村を燃え滅ぼした男の火傷で引き攣れた醜い首筋。
 ゆっくりと瞼を開く。

 視線の先には、ゆらゆらと揺れる魔法の明かり。
 乱れる呼吸を整えるため、大きく息を吐き出す。 

「~っふ……は……ぁ……逃げられると……思っているのか……」

 ギリリと歯を食いしばった隙間から、ドロドロとした憎しみにまみれた声が漏れ出す。
 魔法の明かりに照らされギラギラと輝く瞳に奥に、赤黒い炎が燃えている。瞳の奥に燃え盛る炎は、故郷を、ダングルテールを滅ぼした者を尽く燃やし尽くすまで消えることはない。

「……私は……」

 アニエスは床に膝を着き頭を垂れた姿で声を震わす。
 それはまるで敬虔な信徒が神に祈るかのようであり。
 また、自身の身体の奥で燃え盛る復讐の炎に誓約するかのように、

「……貴様たちを……決して逃がしはしない」

 赤黒い復讐心で固められた硬い声で、

「……必ず……全員地獄に……叩き込んでやる……ッッ!!」

 誓った。



 
 

 
後書き
士郎  「……シエスタ……落ち着け」
シエスタ「ねえ士郎さん?」
士郎  「ちょっとそこで止まれ。目が怖い目が!!」
シエスタ「ミス・ヴァリエールとナニしたんですか?」
士郎  「な、ナニもしてないよ?」
シエスタ「顔を逸らしながら何言ってるんですか?」
士郎  「さ、さあ?」
シエスタ「家族の前でのプレイですか……わたしともやってみますか?」
士郎  「知ってるんじゃないか! って言うか何言ってんだ?!」
シエスタ「あら? ミス・ヴァリエールと出来てわたしとは出来ないんですか?」
士郎  「ッッ!!? なっ!? ななななんナニ言ってんだああああああああああ?!」
シエスタ「それじゃあ、このままタルブ村まで行きましょうか」
士郎  「いやああああああああああッ!! この子目が本気だあああああ!!」

 動き出す竜!! 向かう先はタルブ村!! 

 そこでナニをするつもりだシエスタ?!

 ナニをさせるつもりだシエスタ?!

 流石にそれはやばいだろシエスタ?!

 帰ってこい! シエスタアアアアアアああああああぁぁぁぁ!!!

 次回『視線の……快感』

 目覚めてはならない……それは……。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧