| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある星の力を使いし者

作者:wawa
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第46話

麻生は拳を握り、前にいるエリスとシェリーを睨みつける。

「恭介、俺も」

戦う、と上条が言おうとした時だった。

「二人とも離れろ!!」

不意に横合いから叫び声が上がった。
傷ついた警備員(アンチスキル)の一人が倒れたままライフルを掴むと、麻生と上条が何か行動を起こす前に小さな銃口が勢いよく火を噴いた。
おそらく麻生の不意打ちに近い攻撃に勢いでもついたのかエリスに銃弾を撃ち続ける。

「がっ!!」

いきなり脇腹に衝撃がきたと思ったら、次の瞬間には上条は地面に転がっていた。
横を見ると麻生の右足が上条の脇腹を蹴り飛ばしたようだ。

「何で俺を!?」

そう聞いた瞬間だった。
上条が立っていた所に銃弾が飛んできたのだ。
なぜ銃弾が飛んできたのかというと警備員(アンチスキル)が撃った弾丸は確かにエリスに当たっている。
だが、エリスの身体は鉄やコンクリートの寄せ集めだ。
それらはトン単位の重量を持つ壁に向かって弾を撃てばピンボールのように跳ね返るに決まっている。
おそらく麻生は上条のいる位置に跳ね返った弾丸が飛んでくると予想して、乱暴な方法だが上条を蹴り飛ばす事で上条を助けたのだ。

「撃つのを止めろ!!
 跳ね返りが当たったらどうする!?」

愛穂は叫び声をあげながらライフルを持っている警備員(アンチスキル)に言うが声が聞こえていないのか、一心不乱に銃を撃ち続けている。

(さて、どうする。)

一応、しゃがみながら作戦を考える麻生。
その時だった。
カツン、と唐突に麻生の後方から小さな足音が聞こえた。
連続する銃声の中でその弱々しい足音が確かに聞こえた。
麻生はしゃがみながら首を動かして後ろの方を見る。
上条も聞こえたのか同じように視線を後ろに向けていた。
非常灯の赤い光が照らし切れない通路の奥の闇から足音が響いてくる。
訓練された足音とは違い、頼りなくビクビクした足音だった。

「あ、あの・・・・」

その闇から聞こえたのは少女の声だった。
声の主のシルエットが浮かび上がってくる。
それは上条の見慣れた少女のものだった。
太股に届く長いストレートにゴムで束ねた髪が横から一房飛び出した、線の細いメガネをかけた風斬氷華が通路の真ん中に立っていた。

「馬鹿野郎!!
 何で白井を待ってなかった!?」

銃声が響き渡る中でも負けないような叫び声が地下街に響き渡る。
上条は無防備に立っている風斬の元へ駆け寄りたかったが、跳ね回る銃弾のせいで立ち上がる事もできない。
麻生は苛立っているような舌打ちをすると立ち上がって風斬の所に向かおうとしたが、視界の端で跳ね返った銃弾が愛穂の所に飛んでくるのが見えたので麻生は盾を具現化させ愛穂の前に立って銃弾を防ぐ。

「だって・・・・」

「良いから早く伏せろ!!」

「え?」

上条の叫び声に風斬がきょとんとした顔をした直後、ゴン!!と彼女の顔が大きく後ろへ跳ねた。

「あ?」

上条は思わず間の抜けた声をあげていた。
エリスの身体に当たって跳ね返ったライフル弾の一発が風斬の顔面に直撃したのだ。
いつの間にか銃声が止んでいて警備員(アンチスキル)は呆然とした様子で撃ち抜かれた少女を見ていて、愛穂は信じられないような表情を浮かべている。
シェリーは己のターゲットが突然目の前にやってきて、思わぬ形で自滅した急な展開に若干ながら眉をひそめていた。
風斬は大きくブリッジを描くように後方へ仰け反りそのまま何の抵抗もなく人形のように倒れ込んだ。
麻生は盾を乱暴に放り投げると風斬の所まで走る。

「風斬!!」

上条も慌てて立ち上がり風斬の側まで駆け寄った時、二人の足がビクンと止まった。
二人の顔が驚愕の一色で塗り潰されている。
風斬の傷は確かにひどかった、頭の右半分が根こそぎ吹き飛ばれているが二人が驚いているのはその傷を見て驚いている訳ではない。
頭の半分を吹き飛ばすほどの傷なのだがその中身はただの空洞だった。
肉も骨も脳髄も何もない、加えて風斬の傷口から一滴の血も流れていなかった。
そして空洞となっている頭部の中心点に磁石でも使ったような小さな物体が浮かんでいた。
それは肌色の三角柱で底は一辺が二センチ弱の正三角形で、高さは五センチ弱、その場に固定されたままひとりでにくるくると回転する小さな三角柱の側面には縦一ミリ横二ミリの長方形の物体がびっしりと収められている。

(これはあの時の・・・・)

麻生はこの三角柱に見覚えがあった。
それはおよそ二カ月前に幻想御手(レベルアッパー)事件で生み出された幻想猛獣(AIMバースト)の死の点を撃ち抜いた時に、一瞬だけ見えた物とよく似ていた。

(あの時出てきた三角柱はボロボロの状態だった。
 だが、風斬のそれは完全な状態で出来ている。)

麻生が考えにふけっていると片目しかない風斬の目がぼんやりと開かれる。
彼女はゆっくりとした動作で上体だけ地面から起こした。

「あ・・れ?・・・・眼鏡はどこ、です・・・か?」

自分がメガネをかけていた辺りを指で触れようとして何かに気づいた。
一度、手を引っ込めると今度は恐る恐る自分の顔に指を近づけてその空洞の縁をゆっくりなぞる。

「な、に・・・これ・・・い、や・・・」

彼女の眼がすぐ側にある喫茶店のウィンドウを捉えていた。
そして自分の顔に気づきその顔から血の気が引いていく。

「いや・・ァ!な、に・・・これ!?」

風斬は髪を振り乱して思い切り叫ぶとガラスに映る自分の姿から逃げるように走り出す。
あろう事か巨大な石像、エリスのいる方向へと。
彼女の動きにシェリーはオイルパステルを横へ一閃する。
エリスは羽虫を振り払うかのように、裏拳気味の拳は腕と脇腹を巻き込むように直撃した。
前へ進んでいたはずの風斬の身体が真横へ吹き飛ぶ。
そのままノーバウンドで三メートル近く宙を舞うと華奢な身体は勢い良く支柱へと激突した。
そればかりか風斬の身体はピンボールのように跳ね跳び、柱を支点として「く」の字を描くような軌道でシェリーの足元に転がる。
エリスの一撃を受けた風斬の左腕は半ばから捻じ切れ、脇腹もまるで踏みつけられた菓子箱のように大きく形を変えてしまっている。
それでも風斬氷華の身体はもぞりと蠢いた。

「あ、あ、ア、ぁ、あああああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?」

あまりの絶叫に流石のシェリーも驚いたようだ。
風斬へ注意を向けるようにオイルパステルを構えようとしたが風斬が千切れた腕の中も空洞だと知ると
身体についた羽虫を払うかのように手足を振り回して通路の奥に広がる闇の中へと逃げるように走っていく。

「エリス。」

シェリーが呟いてオイルパステルの表面を軽く指先で叩くとエリスは近くの支柱を殴りつけるとガゴン!!、と地下街全体が揺らぎ天井がミシミシと音を立てる。
瞬間、ライフルを構える警備員(アンチスキル)の真上に建材が崩れ勢い良く降り注いだ。

「ふん、面白い。
 行くぞ、エリス。
 無様で滑稽な狐を狩りに出ましょう。」

上条や麻生、生き埋めになった警備員(アンチスキル)に目も向けずシェリーは、手の中のオイルパステルをくるくる回しながらエリスを操りつつ闇の奥へと引き返す。
おそらくは風斬を追う為に。
上条はじばらく呆然と立ち尽くしていたが隣の麻生はひとり呟いた。

「まさか、風斬が虚数学区なのか・・・」

そう誰に問い掛けているのでもなく麻生は呟いた。






天上から落ちてきた建材は意外に軽く、生き埋めにされた警備員(アンチスキル)も特に怪我はなかった。
周囲に倒れている警備員(アンチスキル)も負傷こそしているものの死者は出なかった。

「全くウチの事を心配したから駆け付けたのは嬉しいじゃん。
 けど、こんな危険な所まで駆けつける必要ないじゃん。」

「俺が来なかったら愛穂は最悪死んでいたかもしれないんだ。
 命の恩人にその態度はないだろう。」

うっ、と言って反論が出てこない。
麻生は小さく笑うと麻生は軽く愛穂の額にデコピンとする。

「いた!
 何すん・・・・あれ?」

麻生にデコピンをされるといつの間にか全身の痛みが無くなっていた。
そして愛穂のすぐ足元には消毒液や包帯などの応急処置の道具がたくさん置いてあった。

「それを使って他の人の手当てでもしてやれ。
 ああ、一つ言っておくけど俺の能力で治療するのはお前だけだからな。」

愛穂は少しだけ驚いた後、笑顔を浮かべながら麻生の頭を乱暴に撫でまわして他の警備員(アンチスキル)の手当てに向かう。
愛穂と入れ替わるように上条が近づいてきた。

「恭介。」

上条が麻生の名前を呼ぶと麻生は周りを見渡す。
周りの警備員(アンチスキル)は怪我の応急処置で忙しいのか麻生と上条の二人を気にかけている者はいない。
それを確認すると麻生は警備員(アンチスキル)達から離れていく。
ある程度離れると壁に背中を預けて言った。

「お前の疑問に答える前に風斬について知っている事を俺に教えてくれ。」

麻生がそう言うと上条は自分が風斬について知っている事を話す。
と言っても上条が知っている情報と言えば姫神から風斬が虚数学区・五行機関の正体を知る鍵という事、姫神が霧が丘学園という学校に通っていた時、風斬氷華という名前があったが姿を見た者は誰もいないなどそのくらい情報だ。
だが、それを聞いた麻生はなるほど、と呟いた。

「恭介、何か分かったのか!?」

麻生は上条の顔に視線を向けて説明を始める。

「姫神が言っていた情報を聞いてようやく分かった。」

そう言って少しだけ間を開けて麻生は言った。

「まず、風斬の正体だがあれは人間じゃない。
 あれはAIM拡散力場でできたただの物理現象にすぎない。」

麻生の言葉を上条は理解できなかった。

「どういう事だよ!?
 風斬は人間じゃないって!?」

「順に説明してやるから落ち着け。」

麻生は興奮する上条を落ち着かせて説明を続ける。

「俺は風斬の頭の中にあった三角柱を見たのは今日が初めてじゃない。」

「え?」

「七月の半ばに俺は一万人もの能力者のAIM拡散力場が集まった存在、幻想猛獣(AIMバースト)というのを倒したことがある。
 その幻想猛獣(AIMバースト)の核の部分が風斬の頭の中にあった三角柱と形状は一緒だった。」

どうしてそんなものと戦ったのか疑問に思ったが今はそれを追及している時ではないと上条は麻生の説明を聞く。

「それにある科学者は虚数学区はAIM拡散力場の集合体だと言っていた。
 そして風斬の頭の中には同じ三角柱があった。
 これらの情報を照らし合わせると風斬は人間じゃなくAIM拡散力場で出来た物理現象だという事が説明できる。」

「待ってくれ。
 風斬はAIM拡散力場で出来たのだとしてもAIM拡散力場って能力者が無意識の内に放っている力なんだろ?
 それって目には見えない力なのにそれなのにあいつはさっきまでそこにいたんだぞ!!」

「確かにAIM拡散力場は機械で測らないと確認できないくらい微弱なものだ。
 だが、この学園都市には二三〇万人の能力者がいる。
 二三〇万人のAIM拡散力場を集めれば人一人くらいは創る事は出来る。
 現に一万人の能力者で不完全ながらも生物のようなモノが出来たしな。
 発火能力者(パイロキネシス)が体温、発電能力者(エレクトロマスター)が生体電気など一つ一つが人間が必要とする情報を、AIM拡散力場で補えば風斬という物理現象を起こす事が出来る。
 おそらく霧が丘で風斬の姿を見た者はいないというのはまだ風斬という存在が不安定だったんだろうな。
 だから姿が見えなかった・・・いや、違うな。
 そこにいるのに誰も見えなかったのかもしれないな。」

言い返せなかった。
麻生の言っている事は正しく聞こえ反論できる隙がない。
認めたくなかった。
さっきまでインデックスと遊んでいた風斬がAIM拡散力場出来た物理現象という事を。

「それでこれからどうする?」

「何がだよ。」

「さっきの事が正しいなら風斬はAIM拡散力場がある限り死なない。
 おそらくあの魔術師だけでは風斬を・・・いや虚数学区を破壊する事は出来ない。
 風斬は二三〇万人の能力者のAIM拡散力場の塊。
 下手をすればどの能力を扱う事ができるかもしれないし、あの魔術師よりかは余裕で強いかもしれないぞ。」

麻生の言葉を聞いた上条は一気に頭に血が上り麻生の胸ぐらを掴む。
だが、麻生の方は表情変える事無く言う。

「どうした、何を怒っている?」

「あいつを化け物みたいに言うな!」

「現にあいつは人間じゃない。
 人間という存在を形を作る情報を持った、ただの現象だ。
 それなのにどうしてお前は怒っている?」

確かに麻生の言っている事は正しい。
おそらくあのエリスがどれだけ殴ろうとも風斬は死なないだろう。
あの三角柱を破壊されてもいずれは復活するかもしれない。
そんな化け物のような存在の為に怒るなどおかしい。
だけど、風斬は苦しそうだった。
自分の正体を突きつけられてその事実を受け入れなくて、どうしていいのかも分からず闇の中へ逃げるしか道はなかった。
たった一人の少女。
そんな彼女を化け物だなんて上条は思えない。
そして見殺しにされても良い事なんて絶対にない。
そして彼女が消えても良い理由なんてどこにもない。
風斬はインデックスの最初の友達であり、上条の友達でもあるのだから。

「それでいいんだよ。」

「え・・・」

「お前は難しく考えすぎだ。
 風斬が人間とか人間じゃないとかそんなのどっちでもいいんだよ。」

麻生はそう言って胸ぐらを掴んでいる上条の手を解き、真っ直ぐ目を見て言った。

「大事なのはお前がどうするかだ。
 そうだろ、上条当麻。」

「・・・・ああ。
 分かっている、俺のやるべき事もどこへ行くのかもな。」

(はぁ~らしくない事を言ったな、俺)

上条に気づかれないように大きくため息を吐く麻生。
すると後ろから愛穂とその他の警備員(アンチスキル)がやってくるのが見えて小さく笑った。

「おい、当麻。
 今回は手伝ってやる、あいつにはまだ借りがあるからな。
 あと、お前みたいに風斬を助けたいと思う奴は結構いるみたいだぜ。」 
 

 
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧