| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十四話 消える魔球その七


「ほらね」
「うう・・・・・・」
 こうなってはフランツも黙るしかなかった。
「まあいい、次だ。うおおおおおおおおおおおおおっ!」
 また気合を込めて投げ込む。それもボールだった。
 三球目も四球目も。結局この勝負はフォアボールとなったのであった。
「よし、あたしの勝ちだな」
「くっ、何故こんな」
「あんた、スピードとノビだけを考えていただろ」
「ああ」
 フランツはロザリーの言葉に答えた。
「だからさ。コントロールを考えていなかったからなんだ」
「コントロールか」
「そういうことさ。最初の一球でこりゃ振っても無駄だしまさかと思ってな」
「勘がいいな」
「ジュリア程じゃないけれどね。まあこれであたしの勝ちだね」
「くっ」
「それじゃあね。悪いけれど一塁に行かせてもらうよ」
「この勝負、預けておいてやる」
 フランツは述べた。だが目は死んではいない。
「しかし!」
 彼はまたしても叫ぶ。
「この試合、負けはしない!後は誰にも打たせない!」
「おおっ」
 この気迫にはクラスメイト達も驚きであった。
「行くぞ!後は絶つ!」
 彼はその言葉通りにした。結果としてロザリー以後のランナーは許さずその試合は時間の関係でその回で終った。結果として引き分けに終わったのであった。
「終わったか」
「何か凄い試合だったな」
 観戦していたクラスメイト達は口々に述べる。
「特にフランツがな」
「あいつってやっぱり凄いんだな」
 何だかんだでそのボールと気合は驚異的であった。
「あれだけのボールはプロでもそうはないな」
「そうだな。それはな」
「頭さえよければなあ」
 そんな話をしながらグラウンドを後にしていく。野球部もソフト部もそれぞれの部室へと引き揚げて帰り仕度に入った。
 部室を出て校門をくぐろうとするフランツとタムタム。そこへ一人の少女が姿を現わした。
「よお」
「よおって御前」
 見ればロザリーであった。私服に着替えてすっきりとした顔をしている。どうやらシャワーを浴びた後らしい。
「一緒に帰らないか」
 もう夜になっている。星空の下でそう提案してきた。
「一緒にか」
「三人でさ。嫌ならいいけれどよ」
「いや、それは別に」
 フランツはそれを断ろうとはしなかった。
「俺はまあ構わないが」
「タムタムはどうだい?」
「俺も」
 彼も断る理由はなかった。
「じゃあさ。ラーメンでも食べに行く?」
「ラーメンか」
「どうかな」
「悪くはないな」
 タムタムがそれに答えた。
「何か冷えるしな」
「じゃあそれで決まりね。行こっ」
「御前だけかよ」
「ナンも一緒だよ」
「おっ」
「お待たせ」
 ナンは馬に乗ってやって来た。颯爽としているがかなり違和感があった。街中に馬である。かなり妙であった。
「御前、馬かよ」
「だってこれでいつも学校来てるから」
 ナンは答えた。
「当然じゃない」
「当然か?」
「私にとってはね」
「まあそうだけれどよ」
 ナンはモンゴル人である。モンゴル人は今でも馬を足としている。それならば馬での登下校も当然であった。
「ただな」
「何?」
「それでラーメン屋に行くのか」
 タムタムはそれが気にかかっているのだ。
「そうだけれど」
「まあいいか」
 タムタムとしても釈然としないがそれを言ってもどうにもなるものでもない。頷くことにした。
「それでな」
「ええ」
「その馬大丈夫だよな」
「スーホーはいい馬よ」
「お、その馬はスーホーっていうのか」
 フランツがそれを聞いて言う。
「そうよ。賢そうな顔をしてるでしょ」
「そうだな。いい顔をしている」
「あんたより賢そうだね」
 ロザリーがこう突っ込んできた。
「おい、ロザリー」
 フランツはそれにすぐに抗議する。
「俺が馬鹿だっていうのか」
「ああ」
 ロザリーは平然として答えた。
「この前のテストも追試まみれだったんだろ?」
「俺には追試なんて何の意味もない」
 彼は言う。
「俺は野球さえできればいいんだ」
「それじゃあせめて最低限のサイン位は覚えて欲しいものだ」
 タムタムはそれを聞いてポツリと言う。
「全く」
「タムタム、御前まで」
「まっ、それはいいさ。言っても仕方がないよ」
「言い出したのは御前だろ?」
「悪い悪い。それじゃあラーメンを食べにな」
「行きましょ」
 ナンは馬の手綱を引きながら言う。
「早く行かないと身体が冷えるわ」
「そうだな。じゃあフランツ行こう」
「ああ。それで店は何処だ?」
「西京飯店でどうだい」
 ロザリーはそう提案してきた。
「あそこは美味いし量も多いしな」
「悪くないな」
 タムタムがそれに頷く。
「じゃあ俺はそこでいい」
「俺は大蒜ラーメン大盛りだ」
 フランツが食べるものも決まった。
「それでまた気合を入れるぞ」
「試合終わってもかい」
「だからだ!」
 いつもの熱血モードになった。
「エネルギー補給だ。食うぞ!」
「全く。食べるのにも熱くなって。まあいっか」
「行こう」
「ああ」
 四人はそのままラーメン屋に向かった。夜の星空の下を歩いて行く。そしてラーメンを堪能するのであった。勝負の後の身体を安らげる為に。


消える魔球   完


                  2006・11・4
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧