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八条学園騒動記

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第九話 冷酷な笑みその三


「セドリック君の突っ込みは。委員長も止めるのね」
「まあ彰子ちゃんには助け舟かな」
「本人がそう思っていればね」
 プリシラは亮神にそう述べた。
「どういう意味だ、そりゃ」
「だって彰子ちゃんは」
 かなりのおっとりなのである。だから助け舟にもあまり気付かないことが多いのだ。このおっとりさはクラスでは文句なしの一番である。
「まあそれが彰子ちゃんの持ち味だけれどな」
「貴方の持ち味はそのお笑いへの情熱ね」
「悪いな、褒めてもらって」
「いいわ、本当のことだし」
「まあそっちはこれからもどんどん精進するさ」
「真面目にお笑いをやってるのね」
「何でも真面目にやらなきゃ駄目だろ」 
 意外にも真面目であった。
「そうじゃなきゃな。伸びたりしないさ」
「努力が必要、と」
「そういうことさ。そういえばよ」
「何かしら」
「彰子ちゃんってやっぱり努力してるのかな」
 彰子を見て囁く。
「何気に運動もスポーツもかなりのものだけれどさ」
「してると思うわ」
 プリシラは相変わらず素っ気無い様子だがそれに答えた。
「そうでなければ」
「そうだよな、けれど真剣にしてるとこと見たことないぜ」
 実際に彰子はぽやっとしていて何事にも上の空といった感じが強い少女である。自己主張もしないしのんびりしている。それでいて学校の成績もスポーツも優秀なのだ。それがわからないという者も多いのだ。
「何時の間に」
「誰も知らない間にでしょうね」
「そうなのかよ」
「ええ」
「ううん、俺は側に誰がいようと何時何処でもお笑いの勉強をするけれどな」
「それはそれでいいと思うわ」
「いいのか?」
「それが道なら」
「そうか、じゃあ精進していくぜ、これからも」
「他人の迷惑にならなければ」
「ああ、それは気をつけてるつもりだぜ」
 あくまでつもりだ。亮神は真剣になるあまりそれを忘れてしまうことが非常に多いのである。困ったところもある御仁なのである。
「一応はな」
「だといいけれど」
「朴君も周りが見えていれば完璧なんですけれどね」
「ぬっ、今度は俺か」 
 セドリックはにこやかな笑みと共に亮神のところにやって来た。
「困ったことです」
「ううむ」
「それでも努力は流石ですね」
 天然でフォローに入る。
「おお、そうか」
「もっと面白ければ完璧ですよ」
「ううう・・・・・・」
 そして天然で潰す。悪意のない連続コンボの前にさしもの亮神も為す術がなかった。セドリックのあまりもの見事な連続攻撃であった。
「そこも精進ですね」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「あの朴君を落ち込ませるなんて」
 プリシラはそんな彼を見て呟く。
「やるわね、リミニ君」
「それで彰子さん」
 落ち込んでいる亮神からはもう離れて今度は彰子であった。動きが速い。
「何?」
「その落語の本ですけれど」
「うん」
「今度僕にも貸して下さいね。何か面白そうです」
「うん、よかったらね」
 人のいい彰子はその言葉ににこりと笑って答えた。
「楽しんでね」
「はい」
 最後ににこやかな笑みが見えた。セドリックの微笑みは百万テラの価値があった。それ以上に毒舌は一億テラの価値があるが気付いていないのは本人だけであった。


冷酷な笑み   完


                 2006・10・6
 
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