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エターナルトラベラー

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番外 A’s編

 
前書き
たまには無双話が書きたくて書き上げましたA’s編です。
映画を見て高まったやる気を一気にぶつけて書き上げたものであって、それ以上の意味はありません。
しかし、一度見ただけなので、すでにうろ覚え。雰囲気だけで書いてるので、あまり突っ込まないでください…
いつものごとく世界転移は深く考えてはダメですっ!スルーしてくださいっ!
番外編なのでやりたい放題しています。
テンプレ、ご都合主義が多く含まれます。その点に注意してお読みいただけるようお願いします。
ネタバレ要素も若干含みますが…ほとんど無いかな? 

 


目の前に私のリンカーコアが浮いている。

だれか…助けて…

私は動かない体を精一杯動かそうと試みるも、指一本動かなかった。

おねがい…私の友達を…なのはを助けて…

だれか…

今にもまぶたが閉じそうになった時、目の前に誰かが降り立った。

誰だろう?

それを確認するよりもはやく私は意識を失った。




「え?何?どういう状況?」

わたし、ナノハ・ジェラートは混乱していた。

今日も普通の一日のはずだった。

朝食を食べて、シャワーを浴びて、さて新しい一日が始まる。

そう思っていたとき…

(もう一度会いたい…我が主に会いたい…どうか…どうか…)

「え?」

そんな声が聞こえたかと思ったら、次の瞬間、わたしはデバイスを構えこちらをにらみ付けるシグナムさんの前に居た。

状況を顧みても、さっぱり分からない。

とりあえず分かっている事は、剣を向けているシグナムさんと、倒れている昔の姿のフェイトちゃんだ。

「貴様は…その子の守護獣か?」

「え?わたしは誰かの守護獣になった覚えはないんだけど?」

と言うか、人間をやめた覚えはありません。

あ、今のわたしは猫耳と猫尻尾がついてるか。

「とりあえず、剣をしまってくれませんか?」

「それは出来ん相談だ」

えー?

「貴様のリンカーコアも蒐集させてもらう」

レヴァンティンを片手で振り上げると、魔法陣が展開される。

や、やる気まんまんみたいです…

「はあああああぁああぁあぁぁぁっ!」

気合と共に踏み込んできてレヴァンティンを振り下ろすシグナムさん。

『プロテクション』

ガキンっ

「っ!」

シグナムさんはわたしのバリアが割れない事を悟ると距離を取った。

「なかなか硬いな…」

『スタンバイレディ・セットアップ』

「ありがとう、レイジングハート」

「ほう、ベルカ式か。それにその格好…騎士か…」

「ええっと…わたしも状況が分からないので、ここは退いてくれると助かるのですが」

「先ほども言ったが、それは出来ん相談だっ!」

うわー…話が通じないよう…

それに思いっきりわたしを襲うつもりみたいだ。

襲われたって事は自己防衛しても良いってことだよね?

と、とりあえずこう言った場合魔力ダメージでノックアウトさせとけばいいのかな?

わたしの後ろにはフェイトちゃんも居ることだし、場所を移さないと。

わたしは飛行魔法を行使して空中に浮くと、シグナムさんもこちらについてくる。

完全にこちらをロックオンしているようだ。

わたし狙われるようなことをした覚えは無いんだけど…

地表を盗み見るとフェイトちゃんの他に撃墜されている昔のわたしの姿も見える。

ますますもって状況が分からないよ!?

と、取り合えず、目の前の事からかな?

この状況を何とかしないとっ!

『アクセルシューター』

「シュートっ!」

誘導性皆無にしてのスフィアをシグナムさんに放つ。

とは言え、直線砲撃だったので当然バリアに防がれる。

しかし、目くらましには十分だった。

すぐさま方向を転換して…

よし、死角に入った。

シグナムさんは純粋な剣一本の騎士。

レヴァンティンがいくつも形態を持っているとは言え、基本的に振り回すものだ。

だから、けっして近づかれないように一定以上の距離をとってちくちくと。

ま、まあ、わたしも少しばかり卑怯かなぁとは思うけれど、いきなり襲ってきたのだからいいよね?

四方八方からスフィアがシグナムさんを襲う。

死角に入りつつ何度も攻撃と、弾幕を張り続ける。

爆煙でこちらの視界も遮断されるが、円を使える私には関係ない。

相手の動きは手にとるように感じることが出来る。

シグナムさんもわたしの砲撃から予想をつけて攻撃してくるのだけれど、すでにそこにはわたしは居ない。

当然シグナムさんは全体バリアを張るよね。

バリア系の防御魔法はピンポイントのシールド系よりは薄いのが常識。

だから、それを待っていた。

『ディバインバスター・シフトバリアブレイク』

バリア貫通能力に重点を置いてのディバインバスター。

受けきれるものなら受けてみてっ!

「ディバイーーーーーンバスターーーーー」

ゴウッ

わたしの砲撃魔法がシグナムさんを襲う。

「なっ!」

パリンッ

拮抗は一瞬。

バリアを貫通し、シグナムさんをわたしの砲撃が包み込んだ。

プシューーーーーッ

余剰魔力が排出される。

よしっ!撃墜!

「こぉんのおおおおおおっ!よくもシグナムおぉぉぉぉぉおおおっ!」

ええっ!

今度はヴィータちゃんなのっ!?

「アイゼンっ!」

『エクスプロズィオーン』

ガシャンと言う音の後に薬きょうが排出される。

「ラケーーーテン、ハンマーーーーーーー」

ジェット噴射で加速した速度も上乗せしてのハンマーによる一撃。

「レイジングハートっ!」

『ロードカートリッジ、プロテクション』

ガシュガシュ

二発のカートリッジをロードしてのプロテクションはヴィータちゃんの攻撃をしっかりと受け止めることが出来た。

「かっ…かてぇっ!」

もうっ!こっちも問答無用なの!?

わたしは右手に魔力を放出させて乱回転。

ヴィータちゃんは振り下ろした姿勢のため、次の攻防の先手はわたしにある。

プロテクションをこすって振り下ろされたグラーフアイゼンの反動で死に体のヴィータちゃんめがけてわたしは右手を突き出した。

「螺旋丸バージョン魔力っ!」

「なっ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!」

螺旋丸が直撃して吹っ飛んでいったヴィータちゃん。

さて、これで騒ぎは納まったかと思えば、一瞬にしてあたりを閃光が包んだ。

なっ!めくらまし!?

わたしは油断なく円を広げる。

「……逃げた…かな?」

光がやむとシグナムさんの姿もヴィータちゃんのすがたも無くなっていた。

「あ、そうだ。フェイトちゃんと昔のわたしを治療しないと」

チラッと見ただけだけど、外傷が見えたからね。

結界が解除される前に回収しとかないとやばいよね。







フェイトちゃんと昔のわたしを回収して人通りの少ない路地裏へと向かう。

取り合えず、回復魔法をかけなくちゃ。

両者とも外傷が結構あるしね。

それにしても何でこんな事に?

目の前に居るのが昔のわたしならばタイムスリップかな?

いや、そうじゃない。

わたしがフェイトちゃんと出会ったときはすでにこの形のバリアジャケットだった。

と言う事はわたしが経験した過去とは別の世界だと言うことだ。

時空間移動となると帰るのが面倒なんだけど…

「フェイトさーーーんっ!なのはさーーーーーんっ!」

割と近くで二人を呼ぶ声が聞こえた。

こ、これはっ!ここにこのまま居るのはアレなのでは!?

と、取り合えず、逃げるっ!

面倒に巻き込まれる前にわたしは逃げ出した。


夜の街をきょろきょろ風景を眺めて歩く。

たまにわたしをチラ見する人も居るけどどういう事?

あ、尻尾と耳を隠すのを忘れていた。

だけど、別段なにか言われるわけじゃないからコスプレか何かだと思っているんだろうな。

今着ている服もこのあたりの服装とは意匠が違うしね。

夜の繁華街をビルの屋上から見下ろす。

きらめくネオン。色とりどりに発光する看板。

看板の文字を見ると日本語だった。

街頭モニタに映るキャスターが今日のニュースを日本語で伝えている。

「海鳴…だよね?」

『間違いないかと』

わたしのつぶやきにレイジングハートが律儀に返してくれた。

「あの姿、そして今日の日付。うーん、パラレルかなぁ…」

アオさん達…どこかに転生しているのかな?

とりあえず、確認しなければならないのはアオさん達の所在かな。

海鳴に居るかな?

過去のわたしが撃墜されちゃっているから、わたしの家の近くには今は近寄るのは危険な気もするけど、遠くから確認するくらいなら大丈夫だよね?

結果。

アオさん達の家があった所には別の家族が住んでいました。

って事は自力帰還って事になるよね。

「わたしが転移した時間、場所を特定するのにどのくらい掛かると思う?」

転生を繰り返すと、こう言った事にもちゃんと対処の方法を見つけちゃうわけで。

帰還の方法を確立しているから今のわたしはそれほど悲壮感は無いのでした。

『お答えしかねます』

「だよねー。って事は、それまでどうやって過ごすかが問題になってくるね。わたし、流石に日本円は持ってないよ」

『私の格納領域に幾つかの宝石が収納されています』

「だけど、ここあたりだと身分証明が出来ないと売り払うことが難しいよ」

身分証明無しで買い取ってくれるブラックなところを探さないとかなぁ…

今のわたしが高町の家に助けを求めるのもねぇ…

ううぅ…やりたくないけど、最終的には窃盗かなぁ…

「とりあえず、そろそろほとぼりも冷めただろうし、これ以上時間を掛けるとブイを流せなくなっちゃうかもしれないから、急いで最初の所にもどろうか」

『了解しました』

どんな転移であれ、空間や時間をつなげるのだからその隔てるものの間をどれだけ狭めようが、そこには当然道が出来る。

その痕跡を見つけ、魔力で出来たブイを流せば、流れをさかのぼり、元の場所を特定できる。

特定できれば後は力技で何とかなる。

伊達に長生きしてないよっ!

ただ、ブイが流れてたどり着くまでに少々時間が掛かるけれど。

その間、なんとか生活しないとね。



深夜になり、人影もなくなった頃、わたしは自分が出現した場所へと戻ってきていた。

「よし、準備は完了。レイジングハート、後よろしくー」

『了解しました』

まず、見つけ出したわたしが通ってきたであろう空間に亀裂を入れて探査用のブイを空間内に流しいれる。

その後、亀裂を修復し、ブイが流れ着くのを待つ。

さて、やる事は終わったし、この後どうするかなと思案していると、突然辺りの色が反転する。

『封時型の結界です』

「うん」

誰かな?こんな事をしたのは。

すると、空中から1人の男の子が飛行魔法をつかって降りてきた。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。先ほど、この場でリンカーコアを略奪すると言う事件が起きた。そんな場で魔法を行使していたあなたに事情をお聞きしたいのだが」

はぁー。

管理局員もバカじゃないんだから、現場は張るよね。

これ以上時間を掛けると帰還のための痕跡が探し出せない可能性があったから仕方なかったけれど、やっぱり見つかっちゃったか。

「えっと…ここでですか?」

季節は冬、ここは結構寒いのですが。

「そ、そうだな…出来れば次元航行艦アースラまでご同行いただきたいのだが」

「それはちょっと…」

わたしの知っているクロノ君ならばいきなり逮捕だとか、監禁だとか、理不尽な事は言わないのだけれど、ここはパラレル。出来れば遠慮したい。

そう答えると、突然通信ウィンドウが開いた。

『クロノ執務官、彼女の話を聞くのにこの街にある私の家をお貸しするわ』

「かあさっ…艦長。今は休暇中のはずです、よろしいのですか?」

『私も彼女にお礼が言いたいから』

お礼…と言うことは、フェイトちゃんたちのデバイスに少なからずわたしの姿が記録されちゃってたのか。

クロノ君は少しの間逡巡し、こちらに向き直った。

「君はそれでかまわないか」

戦艦に連れて行かれるよりは逃げやすいし、いいかな?

「はい」

「それじゃ、付いてきてくれ」







案内されたのは海鳴の街にある高層マンションの一室。

出迎えてくれたのはリンディ提督1人だ。

「いらっしゃい。ようこそおいでくださいました」

「はい」

通された先でソファを進められ、出された緑茶と、砂糖とクリーム。

………どうしろと言う事でしょうか?

入れろって事かな?

だけど、無理っ!わたしには無理っ!

取り合えず、出された湯のみを一口。

なぜかリンディ提督にしゅんとされました。

入れないの?みたいな顔をされても入れませんからっ!

美味しいのにと言いつつ、大量の角砂糖を投入するリンディ提督。

うわーっ…女のわたしでもあんなに入れたのは飲めないよぉ…

「ご挨拶が遅れましてすみません。リンディ・ハラオウンと申します」

「ジェラートです」

「今日はなのはさんとフェイトさんの二人を助けてくれたようで。本当にありがとうございます。治療もしていただいてみたいで、お陰で二人とも明日にでも退院できそうだわ」

「それは良かったです」

それでも入院するくらいの事件だったんだね。

「すまない、よろしいか」

そう言ってクロノ君が話題を変える。

「二人を助けてくれた事はボクも感謝している。しかし、君はどうしてあの場にいたんだ?調べた結果どの管理世界にも渡航申請は出ていない。となると、不正渡航と言う事になって、君を逮捕しなければならない事態になり得るのだが…」

ふむ。

「わたしもどうしてあの場所に居たのか分からないんです」

「どう言う事だ?」

「朝起きて、気が付いたらあの場所に。
いきなりこちらを一方的に襲ってきたので少々抵抗しましたが」

「あれが少々なのかどうかは今は議論している場ではないとして」

そんなだったかな?

「そうなると、一度本局の方まで来てもらってから君の居た世界に送り返すと言う事になるが」

「ごめんなさい。お断りさせてください」

「なぜだっ!?」

「まず、認識の違いを埋めさせてください」

「認識の違い?」

と、リンディ提督。

「確かにわたしはここが自分が居た世界ではないと認識しています。しかし、あなた達がわたしが居た世界に送り返せるとは到底思えない」

「あら、どうしてかしら?」

「その世界がここらからとても遠い世界であるからです」

この次元には無いし、階層どころか、時間も違うからね。

「君は魔導師だろう?ならば、管理内世界の住人ではないのか?」

「管理局や管理内世界と言う言葉をわたしは知らないのですが…」

わたし個人としては知っているのだけれど、フロニャルドの人としては知らない。

「それはおかしいだろう。魔導技術は管理内世界の技術だ」

クロノ君が反論する。

「そうなのですか?あなた達の言葉から察するにあなた達もこの世界とは別の世界の人間。と言う事は、長い時間を掛けて技術が流出したと言う可能性もありますね?」

「な!?」

「確かに、あなたが行使した魔法陣はベルカ式の物。古代ベルカが栄えたのは数百年も昔、可能性としてはあるわね」

冷静に分析したリンディ提督。

実際は近代ベルカ式なんだけどね。

「と言う事は、君は管理外世界…あー、ボク達と交流の無い世界の出身と言う事か?」

「そうですね。管理局と言う組織は聞いた事はありませんし」

「そうか…だが、それと送れないという事はイコールじゃない。世界名を教えてくれれば送り届ける事もかのうだと思うのだが」

うん、やっぱりクロノ君はやさしいね。…いや、この場合職務に忠実なだけかな?

「それはわたしの個人的な理由によりお話できません」

「…はぁ、となると、君の扱いに対してこちらがどう言う対処をすればよいのかが分からなくなる」

クロノ君がため息をついてそうこぼした。

「ここがあなた達が管理する世界であるのならば、わたしの身柄はあなた達の判断に委ねられると思うのですが、ここは?」

管理外だと知ってるんだけど、確認は重要。

「ボク達の認識では管理外第97世界だ」

「つまり、管轄外と言う事ですね。わたしの出身世界も含めて」

「君の言い分をすべて信じればそう言う事になる」

すこしとげとげしく答えたクロノ君。

「それで、あなたはご自分の世界には帰れるのかしら?」

リンディ提督がわたしに問いかけた。

「少し時間が掛かりますが、大丈夫です」

「そう。
それまで管理局本局に厄介になると言うのはどうでしょう?」

「ごめんなさい。この場所を離れると帰還できる可能性がかなり減るんです」

「そうなの…あなたにここで生活できるだけのお金は持っているのかしら」

「いいえ…」

それが問題なんだって。

衣食住がどうしても足りてないんだってっ!

さて、一見黙っているようだけど、おそらく裏でクロノ君と念話で会話しているんだろうな。

仏頂面で目を閉じているクロノ君の眉毛が少し動いているし。

「それじゃこうしましょう。あなたが帰るまで私の家に泊まるって言うのは」

「良いんですか?」

「二人を助けてもらったしね。それに私達にも事情があるのよ」

そう言って語られたのは今回のリンカーコア略奪事件。

つまりリンカーコアを所持しているわたしは、また襲われる可能性が高いと言う事だった。

一箇所にリンカーコア所持者が集まってくれたほうが事件に対応しやすいとの事らしい。

もろもろの話を聞いてわたしはリンディ提督に厄介になる事に決めた。

「あの、少ないかもしれませんが」

そう言ってわたしはレイジングハートの中から宝石を少量取り出してリンディさんに渡した。

「あら、これは?」

「わたしじゃ換金できませんし、滞在中の迷惑料も含めてお納めください」

「管理局員としては受け取る事は出来ないわ」

「そうなのですか?」

わたしの滞在費なのだけれど…

「だから、私が代理で換金して、そのお金は全部あなたにお返しするって事でいいかしら」

なるほど、賄賂と取られかねない行動は起こせないと言う事かな。

「……おねがいします」

ぺこりとわたしは頭を下げた。


その後、クロノ君はアースラに戻り、わたしは一部屋を与えられた。

ゲスト用の部屋らしいが、本当はクロノ君のために用意したんじゃないかな?

時間を見れば深夜の二時。

朝起きて、気が付いたら夜だったけれど、時差ボケをなくすために寝ようかな。

おやすみなさーい。

帰れる目処も付いたし、衣食住も確保できた。

若干の不安もあるが、わたしは存外図太かったようで、すぐに寝入る事ができたのだった。


コンコンコン

部屋のドアがノックされる。

「うみゅ…」

えっと…ここは…

「ジェラートさん、起きてますか?朝ごはん、出来たのですが」

扉の向こうからリンディ提督の声が聞こえた。

そっか、ここは…

そこまで思い出してわたしは返事を返す。

「あ、はい。今行きます」

もそもそと起きるてリビングへ。

リビングにはリンディ提督とフェイトちゃんとアルフさんがすでにスタンバイ。わたしが来るのを待っていた。

勧められるままに席に座ると、まずは紹介にあずかった。

「こちらジェラートさん。昨日から家にしばらく泊まる事になったの」

「ジェラートです。しばらくの間厄介になると思いますが、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げる。

「フェイト・テスタロッサです。あの、昨日は助けていただいてありがとうございました」

テスタロッサ…ね。

「アルフだよ。フェイトとなのはを助けてくれて、本当に感謝しているよ」

フェイトちゃんとアルフさんが感謝の意を述べた。

気を失っていたようだけど、リンディ提督にでも聞いたかな?

「はい、どういたまして」

助けたと言うよりも、わたしも襲われたと言ったほうが正しいんだけどね。

「それじゃ、お礼の言葉も済んだところで、朝食にしましょう」

リンディさんのその言葉で朝食が開始される。

パンとサラダ、後はベーコンエッグと言った洋風の朝食だった。

フェイトちゃんが学校があると家を出ると、わたしもリンディ提督と一緒にお買い物だ。

一応耳と尻尾は消して行きましたよ?

宝石を換金してもらって、そのお金で下着に服、日用品なんかを買いあさる。

そのままお昼はカフェでいただいて、夕飯はわたしが作る事になりました。

住居を提供してくれる彼女達へのほんの少しの恩返しだ。

わたしはこれでも料理には自信があるのです。

日本、中華、フランス料理にお菓子まで何でも来いだ。

異世界の料理だって作れるよ。

材料を買ってマンションに戻り、取り合えず買って来た下着と服に尻尾穴を開ける。

「ただいま帰りました」

「おじゃましまーす」

玄関から元気な声が二つ聞こえる。

「フェイト、おかえり」

ちっちゃい子犬フォームのアルフが、フェイトと学校帰りに寄ったなのはちゃんを出迎えた。

「ただいまアルフ。…それで、ジェラートさん、居る?」

「うん、いるよー」

アルフがちょこちょこ走りながらわたしの所へと二人を案内する。

「あの、はじめまして、高町なのはです」

「ジェラートです」

「…昨日は助けていただいたようで、本当にありがとうございました」

「はい」

まあわたしも助けられたらお礼くらいは言いにくるよね。

「あの、何をやっているのですか?」

フェイトちゃんが尋ねた。

「洋服に尻尾穴を開けているの。やっぱり穴が開いてないと変な感じがするからね」

裁縫道具でちくちくと縫い合わせて完成です。

「あの、その耳って本物なんですよね?誰かの使い魔とかですか?」

「なのはちゃん。誰かの使い魔になった覚えは無いよ。生まれた時から付いていたんだよ」

フロニャルドでは地球に居る動物の特徴をもつ人間が普通だ。

毛深かったりはしないけれど、なにかしらの耳と尻尾、人によっては角まである。

わたしの場合は猫だ。

「へぇ~、そうなんですか」

そうなんだよー。

「よし、穴を開け終わったからシャワー借りたいんだけど、良いかな?」

昨日から入浴してないんだよね。

「あ、はい。こっちです」

フェイトちゃんに案内されて浴室へ。

「ふいー、さっぱりした」

入浴を済ませて戻ってくるとフェイトちゃんとなのはちゃんが、すこし広いつくりのベランダでなにやら木製の棒を持って戦ってました。

え?何を言っているか分からない?

それでも見たまんまを言ったんだよ?

バシッ

ガンッ

バシッ

二人は幾度と無く打ち合い、回避し、棒を振るっている。

二人はわたしの姿をみとめると打ち合いをやめた。

「ジェラートさん、見てたんですか」

と、フェイトちゃん。

「うん。なに?二人ともチャンバラ?」

「ちがいますっ!戦闘訓練ですっ!」

わたしの言葉が少し気に障ったのか、少し声を張り上げて反論するなのはちゃん。

えー?

戦闘訓練って物はもっと…

「あなたには何に見えたんですか?」

「チャンバラごっこかなぁと…」

「そんな訳無いじゃないですかっ!」

お、怒らないでよ~。







さて、どうしてこうなったのでしょう?

目の前には棒を持ったなのはちゃんとフェイトちゃん。

対峙するのは棒を持たされたわたし。

真剣にやっていた二人をけなすつもりは無かったのだけど、認識の違いと言うやつで、わたしにはそれはごっこ遊びにしか見えなかった。

それをぽろっともらしたら、だったらあなたが稽古をつけてくださいと言う流れになり、気が付いたら棒を持たされていたのでした。

「まずは私から…行きますっ!」

まずは先手で棒を振り上げたフェイトちゃん。

二・三合と打ち合うと、少し力を込めて切り払い、吹き飛ばした。

「やーーーっ!」

今度はなのはちゃんの番。

一生懸命に振り下ろされる棒。

その一撃一撃には気迫がこもってなくも無いように感じる。

うーん…過去のわたしなのだけど、想像以上に…

「よわい…」

「え?」

ひょいっと棒を絡ませて棒を弾き飛ばすと、くるくる回って後方へと弾き飛ばされた棒。

自分達が何をしてもわたしには傷一つ付かないと悟ると二人はがむしゃらに棒を振るってきた。

時には二人でフェイントを使っての攻撃なんかもあった。

「はぁ…はぁ…」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

二人とも息も絶え絶え。

「も、もうだめ~」
「うにゃぁ~」

あらら、目を回して倒れちゃった。

こんな所じゃ風邪を引くからソファにでも寝かせておいて、わたしは夕ご飯の支度をしますかね。


パン粉を牛乳でうるかして、炒めたたまねぎ、コショウ、ナツメグなんかを入れて隠し味に摩り下ろしたニンニク、ケチャップ、赤ワインを入れると最後は合いびき肉を入れてぐにぐにと混ぜる。

「なにをつくってるのー?」

ちびアルフさんが足元まで来て鼻をヒクヒクさせている。

「ハンバーグをつくってるの」

「わー、ハンバーグっ!だいすき」

えっと…アルフさんはたまねぎ大丈夫だったよね。久遠ちゃんも普通に食べてたし。

うちのアルフさんは大丈夫だったけど、一応聞いておこう。

「アルフさんってたまねぎ大丈夫?」

「そのまんま丸かじりはさすがにむりだよー」

そう言えば、そもそもアルフさんはこの世界の生物ですらなかったね。

「大丈夫、ハンバーグにちょっと入ってるだけだから」

ガチャ

「ただいまー。ごめんなさいね。夕ご飯をお願いしちゃって」

ハンバーグをこね終えると所用ですこし出ていたリンディ提督が帰ってきた。

「いえ、部屋を貸してもらっているのです。これくらいは任せてください」

「そう?ごめんなさいね」

「それよりも、なのはちゃんを起こしてください。疲れて眠っちゃっているので、そろそろいい時間ですし、親御さんも心配します」

「あら、本当ね。ぐっすり眠っているようだからそっとしときましょう。親御さんには私から連絡しておくわ。夕ご飯、なのはちゃんの分もあるかしら?」

「多めに作ったので大丈夫です」

ハンバーグを焼く前に付け合せのサラダを作り、ポテトやコーンを炒めて準備完了。

「うみゅ…いいにおい」

「…いい香りがする」

香ばしいバターの香りでどうやら二人が起きたようだ。

まだ眠いのか、涙をためた目をその手で擦っている。

「あ、まだハンバーグは焼けてないから、手を洗ってきなさいね」

気絶したからそのままソファに寝かしつけたからね。

「はっ、もうこんな時間。わたし急いで帰らなきゃっ!」

寝起きからのタイムラグを経てどうやらなのはちゃんが時間を確認したようで、すこしあわてている。

「大丈夫よ、なのはさん。わたしがご両親に今日はこちらで夕ご飯を食べさせてから送っていきますと伝えておいたから」

「そうなんですか?」

「はい」

リンディ提督がなのはちゃんにそう説明した。

「それじゃ、ご夕飯に御呼ばれさせていただきますね」

連絡が行っているならと、リンディさんの好意にあずかる事にしたらしい。

「とは言っても、夕ご飯を作ってくれたのは私じゃないんだけれど」

「え?それじゃ誰が…」

「わたしですよー」

キッチンでハンバーグを丸めているわたしが目に付かなかったのかな?

「え?大丈夫なんですか?ジェラートさんって別の世界の出身なんですよね?一体どんな料理がでてくるのやら」

ちょ!?何失礼な事を考えてるのかな?なのはちゃんは。

「普通のハンバーグだよ」

「ハンバーグ?」







皆そろっての夕食。

アルフさんの分は専用の食器に盛り付けてテーブルの下へ。

人間の姿をとれば一緒に食事できるのだけど、本人がそれが良いって言うならばべつに良いかな?

「おいしい…」

「本当だ、すごく美味しいです」

最初のつぶやきがなのはちゃん、満面の笑みを浮かべて褒めてくれたのがフェイトちゃんだ。

「…ほんと、美味しいわ…」

リンディ提督はなぜか「負けた」っていう感じの表情を浮かべている。

「ジェラートさんて何者!?戦闘技術は高いし魔法でもわたし達が敵わなかったあの人たちを1人で退け、さらにはこんな美味しい料理まで…」

なのはちゃんが驚いた。

「ふっふっふー。日々、努力。なのはちゃんもちゃんとお料理の勉強をしないと素敵な旦那さんをゲット出来ないで将来泣くことになるかもね」

「むぅ…その考え方は古いです」

むくれるなのはちゃん。

その後、楽しく夕飯は進み、なのはちゃんはリンディ提督に送られていった。

さて、夕飯後わたしは与えられた部屋で腰を下ろすと、レイジングハートに話しかけた。

「レイジングハート。この状況ってアレだよね」

『はい。闇の書事件と推察されます』

「だよねー。…うーん、どういう展開の事件だったっけ?」

『私達が直接関わった時のデータは役にたたないかと』

だよねぇ、たしか記憶もだいぶ劣化しているけれど、アオさんが念能力でばーっとして解決っ!見たいな感じだった。

『それとは別に、マスターが出演されたVRアニメがあります。どちらかと言えばそちらに近い状況です』

あー。あったなぁ。

アオさんに頼まれてつい出演を了承してしまった映画の事だ。

この時撮った映画。

ずっと後になってアオさんが起こるかもしれなかった可能性の一つだと教えてくれた。

自分が生まれたせいでかなり歪んでしまったけれどと謝られたが、わたしはむしろ感謝していた。

だって、アオさんが生まれなかったって事は、わたしと出会えなかったと言う事じゃない?

それはとてもさびしい。

「それのデータを今も持ってる?」

『はい。記録されています』

「それじゃ、視覚再生じゃなくて脳内再生でよろしく」

『了解しました』

モニタを出現させるのはリンディ提督達に知られる可能性があるのでリンカーコアを通して脳内での再生。


関連ありと思われて再生された無印とA’s編の二本を見終わるとすでに日付が変わっていた。

改めてみた映画はすごくはずかしかったけれど、お陰で結構今の状況を整理できたと思う。

「レイジングハート、どのくらいこの映画の通りに行くと思う?」

『お答えしかねます。マスターが関わった事で確実に変化が起こるでしょう』

「だよね…」

すでにシグナムさんとヴィータちゃんを打ち破っているのだ。

彼女らがどう言った行動に出るのか、検討が付かない。

いや、この物語の通りであれば良いのだが…

「しかし、未来は可能性の数だけ存在する。悪いほうに変化しなければ良いんだけど…」

どうしたものか…







やばいです。

確実にわたしが関わった事での変化が現れています。

封時結界内に閉じ込められてしまったわたし。

おそらく結界維持はシャマルさんで、のこりの3人が総攻撃でわたしを沈めに来ています。

その日、わたしは日用品の買い足しに商店街まで出かけていました。

そんな時いきなり反転する街並み。

気が付いたらがっちりと結界内に捕獲され、シグナムさん、ヴィータちゃん、ザフィーラさんに襲われる展開に。

「わたし、あなた達に何かしたぁ?襲われるような事をした覚えは無いんだけどっ!見逃してくれないかな?」

飛行魔法で飛び回り、アクセルシューターでけん制。

しかし、ザフィーラさんの前に一発も通らない。

「貴様に恨みは無い。これはこちらの勝手な事情だ。…しかし、どうしてもやらねばならぬ事はあるっ!」

そうシグナムさんが表情を険しくしながら言った。

言ってる事はカッコいいのですが…襲われてる方にしてみればたまったものじゃないのです。

「レヴァンティンっ!」

『エクスプロズィオーン』

シグナムさんがカートリッジで強化したデバイスをシュランゲフォルムに変えてわたしを取り囲むように操った。

「行くぜっアイゼンっ!」

『エクスプロズィオーン』

わたしをシグナムさんがレヴァンティンで取り囲んだ上からヴィータちゃんがギガントフォルムで巨大化したグラーフアイゼンを振り下ろす。

「ギガントシュラーーーークっ!」

バリア…は流石に耐えられない。

ならば迎え撃つまでっ!

「大玉螺旋丸」

自分の身長ほどになった螺旋丸でギガントシュラークを迎え撃つわたし。

「おおおおおおおっ!」
「あああああああっ!」

「なにぃっ!?」

なんとかヴィータちゃんの攻撃を跳ね上げる事に成功した。

しかし、油断は出来ない。

すぐに私を逃すまいと取り囲んでいたレヴァンティンが狭まる。

脱出できる隙間を縫ってその包囲網から脱出。

地上に降り立ち、足で地面を削りながら勢いを殺し反転。

シグナムさん達を見上げ、次の行動に移ろうと、再び飛行魔法を使う。

しかし…

「え…?」

わたしの胸部からリンカーコアを抜くように突き出された一つの腕。

『蒐集』

「な!?」

さすがにこの展開はあの映画には無かった…

「あ、ああ…」

急激にわたしの体を脱力感が襲う。

これは…やばいかな…

その時、結界内部に転送されてきた二人の少女。

「おそい…よ?二人とも…」

フェイトちゃんとなのはちゃんは進化したデバイスを片手にわたしを助けようとするが、シグナムさんとヴィータちゃんに阻まれる。

二人が来たという事は、周りには管理局員が詰めているはずだ。

そうこうしている間にわたしの蒐集も終わり…

閃光が結界内を埋め尽くす。

逃げた…かな。

「ジェラートさんっ!?大丈夫ですか!?」

「す、すぐに救護班を!」

心配するなのはちゃんとフェイトちゃん。

だけど…

「ごめん…もう、限界みたい…」

「ジェラートさんっ!」
「し、しっかりしてください」

わたしの言葉にその表情を蒼白にそめる。

それを見ながらわたしは意識を手放し…

そして…

ぽわんっ

「へ?」
「え?」

煙と共に影分身が消滅した。







ドタドタドタ

バタンッ

勢い良くマンションの扉が開かれる。

「「ジェラートさんっ!?」」

入ってきて早々わたしの名前を叫ぶなのはちゃんとフェイトちゃん。

「どうしたの?二人とも」

「ああああ、あのっ!ど、どうやってわたし達にメールを!?」

「さっき、私達の前で消えてなくなったのはいったい!?」

すごい剣幕で問い詰める二人。

帰ってきた影分身で状況を把握した後にレイジングハートに無事だとメールを入れてもらったのだけど。

「ああ、あれはわたしの偽者だよ」

「「に、偽者!?」」

「そう。リンカーコアの略奪は1人に対して一回しか行われないんだよね?」

部外者であるわたしには闇の書関連の深い事は教えてもらえてないが、表層の事は警告と共に教えられた。

「そう聞きました」

と、フェイトちゃん。

「だったら、一回襲われれば安心ってことでしょ?」

「理屈ではそうなりますけど、あれは?」

なのはちゃんはまだ納得して無いみたい。

「うーん。わたしの10分の1の力を込めた分身ってとこかな?」

本来は均等に割り振る影分身の術。これを、込めるエネルギーを可変させる事が可能になった事には研鑽の日々の成果だね。

わたしも結構ながく生きてるからね。

「「ぶ、分身!?」」

大事の前の小事。

本当は蒐集されないのが良いのだけれど、それだといつまでも付け狙われるからね。

そうすれば大きく物語は変化するはずだ。

どうにか最小限にとどめようと画策したのが今回の件。

いくらも力のない影分身をおとりとして蒐集させれば二度は蒐集されない。

つまり、蒐集速度の影響を最小限にとどめる事が可能だろうと踏んだのだ。

込める魔力やオーラが少ないために大技の連発は出来ずに、本体と同じように見せるのにはなかなか苦戦したんだけどね。

…まぁ、襲ってくるのが、二人が本局にデバイス達を取りにもどるこのタイミングだとは思わなかったけれど。

さて、どうやら本格的に動き始めたヴォルケンリッターに、リンディ提督がついに自ら休養を返上し、アースラに戻るそうだ。

わたしは忙しくなりそうなリンディ提督の代わりに家事全般を引き受けることになりました。

とりあえず、毎日のお弁当は私の役目です。

それとなのはちゃんとフェイトちゃんの練習相手。

なんか、棒でのチャンバラの末、なぜか練習を見てくれるようにせがまれるようになったわたし。

放課後帰ってきた二人はわたしを裏山まで連れ出し、結界を張ると、それぞれの待機状態のデバイスを取り出した。

「わたし達、まだ新しくなったレイジングハート達の機能に慣れていないんです」

「だから…練習相手になっていただけませんか?」

なっていただけませんかって…すでに強制だよね?

解放する気はなさそうだ。

わたしはため息をひとつ。

「はぁ…あんまり遅くなると夕ご飯の準備が遅れるんだからね?」

「「あ、ありがとうございます」」

そう言うと二人は手にした愛機を起動する。

「レイジングハート・エクセリオン」

「バルディッシュ・アサルト」

「「セーットアップ」」

『『スタンバイレディ・セットアップ』』

展開される二人のバリアジャケット。

手にしたデバイスにはカートリッジシステムが組み込まれている。

「それじゃ、わたし達も行こうか」

『スタンバイレディ・セットアップ』

桜色の竜鱗の甲冑が展開する。

デバイスは槍型のインテリジェンス、その刃先の付け根にはリボルバー式のカートリッジシステムが搭載されている。

「…フェイトちゃん、あれって…」

「うん…ベルカ式カートリッジシステム…」

わたしの手に現れたレイジングハートを見て二人は驚愕した。

「レイジングハート達についているカートリッジシステムは研究用に開発された最新型だって聞いたんだけど」

「うん、そのはずだよ。…だけど、ジェラートさんのあれはもっと洗練された感じがするね…」

クルクルクル

シュッ

レイジングハートを握り締める。

「それじゃ、コンビ変化、行くよ?」

『了解しました』

「変化っ!」

ぽわんっ

赤い髪のポニーテール。バリアジャケットにはスリットが入っていて扇情的な形状。

右手には西洋剣を思わせるデバイスがある。

「なっ!?その姿は…」

「シグナム…」

驚く二人。

「時間も無いし、二人まとめてかかっておいで」

「むかっ!フェイトちゃんっ!」

「うん、なのは。あれが見かけだけの物なのか分からないけど、全力で行こう」

「うんっ!」

わたしの挑発に二人は全力全開だ。

「バルディッシュ」

『クレッセントフォーム』

フェイトちゃんのデバイスが変形する。

ガシュッ

さらにカートリッジをロードして薬きょうが排出し、魔力刃が形成される。

「はああああああっ!」

気合一閃。

気迫と共にバルディッシュが振り下ろされるそれをわたしはレイジングハートで受けた。

ギィンっ

鈍い音が響き渡る。

「速度、威力共にまぁ、及第点かな?」

なかなか重たい一撃だった。

一瞬のつばぜり合いの後、剣を引くと、勢いを殺しきれずにフェイトちゃんはそのままつんのめるようにして交差する。

「え?」

その無防備な後姿にわたしはレイジングハートを横一文字に振るう。

バリアジャケットは抜かない程度の斬撃。

「くっ…」

『ディフェンサー』

バルディッシュが気を利かせて防御魔法を展開したようだ。

「フェイトちゃんっ!レイジングハート」

『ロードカートリッジ・アクセルシューター』

「シュートっ!」

(かさ)増しされた魔力も上乗せされて、大量に展開されたスフィア、その数15。

それが弧を描くようにわたしに迫る。

わたしは飛行魔法を発動させると、ヒュンっと地面を蹴って空に飛び上がりそのスフィアをかわす。

しかし、追尾型のために直ぐに方向転換。わたしを追いかけてくる。

追尾型のセオリー。

それは…

わたしはすぐになのはちゃんの方へと飛んでいく。

正面になのはちゃん、後ろにはアクセルシューター。

「はあああああっ!」

レイジングハートの切っ先を左下から右上へと切り上げる。

「わ、わわわわわっ」

『プロテクション』

わたしの攻撃はなのはちゃんの張ったプロテクションに阻まれるが、その瞬間にわたしは切り上げた反動も利用して上空へと方向転換。

わたしの直ぐ後ろに迫っていたアクセルシューターは突然のわたしの回避についてこれず…

ドドドドーーーーンっ

「きゃーーーーっ…」

追尾型でロックオンがはずせないならば、何かにぶつけてしまうのが一番。

バリアでもいいし、建物でもいい、それが今回はなのはちゃん自身だっただけ。

後ろに回りこんだわたしはそのまま体を回転させながら斬撃を繰り出す。

「なのはーーーっ!」

繰り出した攻撃はすかさず援護に入ったフェイトちゃんがインターセプト。

クレッセントフォームのバルディッシュに阻まれる。

「くっ」

「フェイトちゃんっ!」

なんとか間に合ったと、わたしとのつばぜり合いに全力を注いでいるフェイトちゃん。

わたしは切り合いを避けて距離を取る。

すかさずとなのはちゃんがアクセルシューターで追撃する。

わたしは剣を鞘に戻した。

「レイジングハートっ!」

『ロードカートリッジ』

長い時間を生きたわたしは、先天性の人に比べれば若干のタイムラグがあるが、魔力変換する術を身につけている。

今回はその魔力を炎熱に変換し、圧縮した魔力を上乗せして鞘から抜き放つ。

「飛竜一閃」

「ええっ!?」
「それはっシグナムのっ!?」

鞭状連結刃と化した刀身がアクセルシューターを切り払い、さらに二人を襲う。

たまらす回避する二人だが、剣先をなのはちゃんに向けて追尾させ、連結部分でフェイトちゃんを囲むように攻撃する。

『アクセルシューター』

「シュートっ!」

逃げながらもわたしに向かってスフィアを打ち出すなのはちゃん。

だけど、甘い。

わたしはシュランゲフォルムを操って、私に届く前にすべて打ち落とす。

「わぁーうわぁー、わーー」

すこし情けない声を出しながら避けていくなのはちゃん。

「なのはっ!…くっ」

このままでは連結刃がなのはに届くと悟ったフェイトちゃんは、少しの隙間を縫うようにこちらに向かって飛翔する。

連結刃をいなすよりも本体をどうにかしなければと思ったのだろう。

途中、薄い装甲をさらに薄くして速度を増したフェイトちゃんは、一瞬後にはふさがれている隙をのがさずに翔ける。

たまらずわたしはなのはちゃんの追撃をやめ、刃をもどした。

一見順調にかわしているように見えるフェイトちゃん。だけど…

「フェイトちゃんっ!」

遠くから見ていたために気がついたなのはちゃんが叫ぶ。

「四方から襲い掛かる連結刃。かわせるかな?」

右手に持った柄を引き絞れば、縮み行くようにフェイトちゃんを取り囲んだ連結刃が襲い掛かる。

「くっ!」

あせるフェイトちゃん。

「レイジングハートっ!」

『バスターカノンモード』

レイジングハートの形状が、より鋭さを増し、砲撃に特化したフォルムへと変わる。

『ディバンバスター』

「シュートっ!」

「ありがとう、なのは」

フェイトちゃんを掠めるようにしてはなたれたそれは、わたしの連結刃を弾き飛ばし、フェイトちゃんに道を作った。

「はああああぁぁぁぁぁぁあああっ!」

飛行速度も威力に上乗せしてのフェイトちゃんの一撃。

わたしの右手の連結刃はまだ戻ってこない。

長い射程故にすばやく動かす事には向かない形態なのだ。

しかし…

ガインッ

「なっ!?」

私は左手で残った鞘を掴み、フェイトちゃんの攻撃を受けた。

「くっ!」

止められれば右手の連結刃での攻撃が戻ってくると思ったフェイトちゃんはすぐに離脱にかかる。

「アクセルシューター、シュートっ!」

なのはちゃんの援護。

それを連結刃を渦を巻くように前方に展開して防御。

その隙にフェイトちゃんは離脱。

ガシャガシャ、ガチャンッ

連結刃が解除され、普通の刀剣に戻る。

「シュートっ!」

もう一度なのはちゃんのシューター。

「クレッセントセイバー」

反対側からはフェイトちゃんのクレッセンドセイバーが飛んでくる。

アクセルシューターと回転しながら飛ばされた魔力刃に退路が制限される。

『レストリクトロック』

「おっ!?うまいっ!」

わたしの四肢を拘束するバインド。

『感心している場合じゃありません』

「そうだったね」

なのはちゃんとフェイトちゃんは、左右からわたしを挟みこみ、それぞれ砲撃体制に入る。

「レイジングハート、カートリッジロード」

『ロードカートリッジ、ディバインバスター』

「バルディッシュ、カートリッジロード」

『ロードカートリッジ、サンダーレイジ』


「ディバイーーーーーンバスターーーーーっ」
「サンダーーーーーレーーーーイジっ」

飛んでくる二本の閃光。

「レイジングハート。バインドブレイク、行けるよね?」

『お任せください』

そして着弾。

閃光が当たりを埋め尽くす。

「はぁ…はぁ…これは流石にやったよね?」

「はぁ…たぶん」

『マスターっ!』
『サーっ!』

「っ!?」
「これはっ!?」

二人の体を鎖を象ったバインドが縛り上げる。

「「きゃーーーーーっ!」」

そのまま振り回されるように空中へと放り上げられて…

「うにゃ…」
「きゃっ」

ぺちんと言う音を立てて二人はぶつかったかと思うと、さらに強固なバインドで固定された。

「やったかな?って思ったときほど油断しちゃだめだよ?じゃないと、手痛い反撃を受ける事になるから」

わたしは手に持った剣と鞘を連結させる。

『ロードカートリッジ』

カシュカシュ

二発のロード音。

『ボーゲンフォルム』

さらにカートリッジをロードし、矢を生成する。

「っなのは!」

「うん、フェイトちゃん!」

二人は私の前に防御魔法を展開する。

しかし、こちらの準備は万端。

即席の防御で受けきれるほどやわな攻撃ではない。

わたしは弦を引き絞る。

「行ってっ!貫いてっ!」

『シュツルムファルケン』

わたしの手を離れたその攻撃は音速もかくやと言った速度で飛来し、彼女達が展開したバリアをことごとく粉砕する。

そして爆発。

ドゴーーン

「にゅー…」
「きゅう…」

目を回した二人を浮遊魔法で受け止める。

「目立った外傷は無いみたい。ただ気絶しているだけだね」

『そのようです』

「さて、それじゃ訓練も終わり。夕ご飯の支度があるから、転移魔法で一気に家まで帰ろうか」

『了解しました』

その後、転移魔法陣を形成し、転移。

無事に家まで着くと、ソファに二人を寝かせ、わたしは夕ご飯の支度へと向かった。


わたしにぼろ負けしたなのはちゃんとフェイトちゃんは翌日からコンビネーション技の特訓に入ったようだ。

どうにかして二対一でもわたしを倒したいようだったけど、まだまだ負けてあげる訳にはいきません。

どうやらボコボコにしたりなかったようなので、ヴィータちゃんに変化して、グラーフアイゼンぽいレイジングハートでボコボコにしてあげました。

夕飯時に頭にたんこぶが出来ていた二人を心配するリンディ提督と、それに対して絶対に口をわらない二人が微笑ましかったのは内緒です。


さて、時間が経つのは早いもので、今日は12月24日。

クリスマスイブ。

あの後は特にわたしは襲われる事も無く、平和な日々をすごしていた。

今日は友達の知り合いのお見舞いに行くために少し帰りが遅くなるって言ってたので、おそらく決戦は今夜。

わたしは完全に出遅れていた。

いや、言い訳をするならば、流したブイからの往信が夕暮れ間際にあり、帰還地点の割り出しにレイジングハートのレスポンスをすべて振らなければならなかったし、それに時間がかかったのだけれど。

これを後回しにする訳にもいかなかったの。

だって、予想通りならば、これからここら辺り一体は何かと騒がしくなりそうで、最悪、帰還地点割り出しを失敗してしまう可能性もあったのだから。

襲ってくる余波を防御しながら解析し、帰還ポイントを割り出してから急行すると、すでに闇の書からナハトヴァールが分離されていた。

フェイトちゃんとはやてちゃん、ヴォルケンリッターの面々は健在。

ナハトヴァールは分離済み。

これは望み得る最高の状況?

「遅れました」

飛行魔法を駆使してナハトヴァールの暴走をどうにかしようと集まった彼らのそばまで飛んだ。

「ジェラートさんっ!」

わたしに気がついて、笑顔で迎えてくれたなのはちゃん。

「あ、てめーーっ!今のその魔力量、あの時ぜってー何か小細工しただろうっ!」

ヴィータちゃんがわたしの姿を見て吠えた。

「あははー」

「どちら様や?」

はやてちゃんが周りに問いかけた。

「ジェラートさん。ちょっと前にわたし達を助けてくれたの」

「って事は、私の家族がご迷惑をかけたゆうことやね?」

はやてのその言葉にばつが悪くなるヴォルケンリッターの面々。

「ごめんなさい。おねーさんにご迷惑をかけたみたいで」

ぺこりとはやてちゃんが頭を下げる。

「いいのいいの。とくに怪我を負ったわけじゃないし」

「ほんまかー?」

「うん」

「んっうんっ」

咳払いでクロノ君が注目を集める。

「それで、君は何をしに来たんだ?」

「あー、そうだった。近距離攻撃から大威力攻撃まで、何でもござれのこのわたし。戦力として使ってみる気はないですか?」

「ジェラートさん、手伝ってくれるんですか?」

フェイトちゃんがどこか安心したような表情で言った。

「うん」

クロノ君は少し険しい表情で思案した後に言葉を発した。

「民間人の手を借りるのは管理局員としては認められないのだが、目の前の暴走体…あれを破壊する確率は少しでも上げておきたい」

あのまま暴走体を破壊できなければこの星が破壊されちゃうからね。

大事の前の小事と言う事だ。

わたしはこそっとレイジングハートに問いかける。

「どうかな?」

『予想よりもバリアが強固なようです。これはマスターを蒐集した事が原因かと』

「やっぱりか」

帰る手段を手に入れたわたしが今ここに居る理由。

自分が関わった事でおこった事を何とかするために。

「……始まるね」

殻が割れるように中から異形の怪物が現れる。

蜘蛛のようであり、甲殻類のようでもある。その上半身には女性上半身のような形をとっており、その醜悪な手足と共に、とてもおどろおどろしい。

アレの破壊方法はクロノ君が提供してくれた。

叩いて壊して、露出させた中のコアを宇宙空間に転移。

最後はアルカンシェルで蒸発と言うのが手はずらしい。

各自役割を確認すると散開する。

まずはなのはちゃんとヴィータちゃん。

この二人で二枚の防御魔法を破壊する。

次はフェイトちゃんとシグナムさん。

これで四枚。

本来ならば存在しなかったであろう五枚目。

これがわたしの役目。

「ジェラートさんっ!」

シャマルさんからの号令。

「はーいっ!」

ナハトヴァールからの攻撃はアルフさん達が止めてくれている。

ならばっ!

「輝力開放」

わたしの後ろに紋章が浮かび上がる。

「超超大玉螺旋丸」

半径十メートルはあろうかと言う巨大な螺旋丸を力の限りたたきつけた。

AAAAAAAAaaaaaaaaaaaa

バリアを砕き、さらにその本体をえぐる。

AAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAA

ナハトヴァールの悲鳴。

「次っ!」

見上げたわたしを皆はぽかんとした顔で出迎えた。

「な、なあ?ジェラートさんおったら私らいらんのとちゃう?」

「わたしも少し、そんな気がしてきた」

「私も…」

あ、あれ?

「と、とりあえず、私の番やね?リインフォースっ!」

『お任せを』

詠唱をつむぎ、石化の魔法をぶち当てる。

「ミストルティン」

次はクロノ君の番だ。

待機状態を解除したデュランダルは、まだ魔法行使していないのにあたりの気温を下げている。

「凍てつけっ!」

『エターナルコフィン』

バキバキバキ

そんな音と共に海水すら凍っている。

さて、後一押しっ!

『スターライトブレイカー』

『プラズマザンバーブレイカー』

なのはちゃん、フェイトちゃんが魔法を発動準備にかかり、はやてちゃんが詠唱を開始する。

「さて、わたしはこれを見届けたら帰るから、先にお別れを言っておくね」

集束を開始した3人のそばまで行ってお別れの挨拶をする。

「え?帰る手段がみつかったんですか?」

そうなのはちゃんが問いかけた。

「うん」

「寂しくなります」

しんみりとした表情のフェイトちゃん。

「もうあのハンバーグが食べられないなんて…」

「そ、そこなの?フェイトちゃん!?」

なのはちゃんが突っ込んだ。

わたしも少しずっこけそうになる。

「さて、ここで問題です」

「な、なんですか?」
「何でしょうか?」

「わたしの名前はなんて言うでしょう?」

去るわたしの最後のいたずら。

「え?」

「それは…」

「ジェラートさん…ですよね?」

フェイトちゃんが答えた。

それにいたずらっぽくうなずくと力強く宣言する。

「ナノハ・ジェラートと愛機レイジングハート。最後にドでかいのっ、いっきまーーすっ!」

『スターライトブレイカー』

ヒュンヒュンとあたりの魔力素を食らい尽くしていく。

「「えええええええええっ!?」」

「ふふっ」

大混乱のなのはちゃんとフェイトちゃんに少ししてやったりと笑う。

カートリッジはフルロード。

「ほらほら、ボケっとしていない」

「で、でもでもっ!ねえっ?フェイトちゃん」

ショックな出来事を見たようでなのはちゃんがフェイトちゃんにすがる。

「すごく…大きいです」

「フェイトちゃんそれアウトやっ!」

たまらずはやてちゃんがつっこんだ。

「うーうー…でもでもぉ…」

わたしの頭上にはなのはちゃんの集束したスターライトブレイカーの3倍はあるそれが集束されている。

「ほら、三人ともっ!」

「なのはっ!」

「うーうー…分かったよフェイトちゃん…」

発動準備が整ったところで四人でタイミングを合わせる。

「「スターライトォ…」」

「プラズマザンバー」

「ラグナロク」

「「「「ブレイカーーーーーーーーー」」」」

気合と共に振り下ろされた四人の魔法はナハトヴァールを跡形も無く消し飛ばす。

「なんてインチキっ!?」

そんなクロノ君の声が聞こえた気がしたけれど、気のせいだよね?

わたしはその閃光が終息しないうちに転移魔法でその場から姿を消した。

頭上を見上げれば宇宙空間でどうやら無事に決着がついたようだった。







12月25日 クリスマス

今、小高い公園でリインフォースさんを送る儀式が行われている。

見送るのはなのはちゃんとフェイトちゃんの二人とヴォルケンリッターの面々。

わたしはその上空に陣取り、儀式を見守っている。

途中、はやてちゃんの乱入もあったが、リインフォースさんの決意はゆらがず、そのまま光の粒子になって空へと還る。

その粒子を集めているわたし。

分解されたリインフォースさんの光の粒子が集まり、半径二十センチほどの球形を形作る。

パンっ

両手を叩きつけると、手の中には一センチほどにまで小さくなった光の塊があった。

「それをどうするのかしら?」

背後から聞こえてきた声に振り返ると、リンディ提督がそこにいた。

「わたしがここに呼ばれたのって、たぶんこの子が呼んだからだと思います」

あの時聞こえた声。

それはたぶんリインフォースさんの声だったように思う。

「それで?」

「今はこの子を助けてあげる事は出来ないけれど、元居た場所に帰れば可能だと思うんです…だから」

「私達管理局が見逃すと思うの?」

確かに彼女は遠からず暴走するからと自ら死を選んだけれど。

「見逃してくれませんかね?」

「戦っても、今の戦力じゃあなたに勝てる見込みは無いわね…」

「見逃してくれるんですね」

「いいえ、会話で時間稼ぎをしているだけよ。直ぐに増援を呼んで駆けつけるわ」

それでもリンディさん自らがやりあう気は無いらしい。

「そうですか」

「姿かたちは違っても、なのはさん…なのよね?」

「あはは。それは内緒です。彼女とわたしは別人ですよ」

アオさんに幼少期に出会えなかったわたしと出会えたわたし。

そう、彼女とわたしは別人だ。

「そろそろ行かないと」

「帰る手段が見つかったのだったわね」

「はい。なのでお別れです。レイジングハート」

『アクセルシューター』

辺りのサーチャーをすべて破壊した後ジャミングをかける。

「それじゃ、またいつか」

「ええ、元気でね。なのはさん」

一応この世界にマーカーを残しておこう。

何かの役に経つかも知れないし。

このマーカーの存在で、フロニャルドに帰った時に同じ世界だと気がついた時は驚いたものだ。

そんなこんなで、わたしはリンディ提督に見送られながら元の世界へと帰った。









永遠に目覚める事の無かったはずの意識が覚醒する。

私は主を守り、その存在を消滅させたはず。

目を開く。

「ここは…」

長き眠りだったようにも、一瞬だったようにも感じる。

「あ、ようやく目が覚めたんだ」

「あなたは?」

私の前に現れた猫耳をつけた女性。

彼女は…

「わたしはナノハ・ジェラート。ようこそフロニャルドへ」




おまけ

「あ、そう言えば、向こうの世界であずかったものが有ったんだ」

ここはミッドチルダにある高町家のリビング。

ヴィヴィオがおもむろにそう言えばと切り出した。

「え?なにかな?」

つい最近、ヴィヴィオは転移事故にあって、二週間行方不明の末、どこかの世界から送り返されてきたらしい。

らしいと言うのは、ヴィヴィオ達が管理局員の問いに何も答えないからだ。

「何か知り合い全員を集めて見てねって言われたんだけど…」

「そうなの?それで、それってどこにあるの?」

「クリスの記憶領域」

クリスと言うのはヴィヴィオのデバイス。正式名はセイクリッドハート。

本体はクリスタル型だが、その外装にウサギのぬいぐるみを纏っていてとても愛らしい。

「そうなんだ。知り合い全員って…どこまで呼べばいいの?」

「うーんと、実は伝言もあずかってきたんだ」

「なんて?」

「『六課に携わった人たちを呼んで皆で見てね!』だそうです…」

「え?なんで他世界の人が六課の事を?」

わたしはヴィヴィオを問い詰めたかったけれど、ヴィヴィオは苦笑いをしてかわしつつ、ついに口を割らなかった。


さて、奇跡的にみんなの休日が重なった日の夕方。

そんなに広くないリビングに総勢20を越える人数が集まった。

リビングの机は撤去して、ゴザを敷き詰める。

さながら地方の公民館で上映される映画のようだ。

「ねぇ、なのは。これから何が始まるの?」

そう問いかけてきたのはヴィヴィオとの会話の時には居なかったフェイトちゃんだ。

「わたしにも良く分からないの。ヴィヴィオが何か映像データを預かってきたって言ってたけれど」

「そうなんだ」

みんなが集まったところでヴィヴィオがクリスにファイルを再生してもらう。

映像が見やすいように電気を消すと、そこはもう映画館だ。

「それじゃ、クリス、おねがいね」

ぴっ!とかわいく敬礼した後に空中モニタに映し出す。

【幾千…幾万の………】

「あれ?この声って…」

スバルのつぶやき。

「なのは…さん?」

スバルの隣に居たティアナがそうあたりをつけた。

「え?ええっ!?」

何これ?

映像が映し出され、、3Dアニメがはじまると、一斉にみんなの視線がこちらを向いた。

「え?わたしこんなの知らない…」

何なのこの映像は!?

「『魔法少女リリカルなのは』?」

皆の視線が再び私に…

映し出されたのはわたしの幼少の頃の…海鳴に住んでいた頃のわたしの生活だ。

「あ、これユーノじゃねぇか」

ヴィータちゃんが画面のなかで黒い獣に吹っ飛ばされた栗色の少年を見て言った。

「たしかに僕だね」

ユーノくんが頷いた。

それはわたしが魔法と出会った時の話だ。

傷ついてフェレットになったユーノくんをわたしが動物病院に連れて行く。

その夜の暴走したジュエルシードを鎮めるために魔法少女になったわたし。

「なのはママ…かわいい…」

「にゃっにゃあーーー!?」

なぜか変身シーンが気合を入れて作られていて、一同食い入るように見ていた。

「そう言えばよう。ユーノのやつってこの頃なのはの家で厄介になってたんだよな?」

「そ、そうだよ?」

ヴィータちゃんの問いかけにユーノくんが肯定の答えを返した。

「って事はだ、なのは。お前、着替えはどうしてたんだ?」

「え?そりゃ自分の部屋で…あっ…」

そこまでわたしが口にした瞬間、皆の視線がユーノくんに集まった。

「ちゃっ!ちゃんと見ないように後ろ向いてたからっ!」

一生懸命弁明するユーノくん。

ごめんなさい。擁護はできないよ。

「私だ」

場面が変わり、フェイトちゃんが出てくる。

初めてフェイトちゃんとぶつかり合ったときだ。

あの後何回もぶつかって、それで仲良くなれたんだ。

「あ、僕だ」

アースラが初登場でクロノ君、エイミィさん、そしてリンディさんが登場。

「本当だ。ほらパパが出てるよー」

「パパー?」
「どれー?」

「ふふっあの背の小さくて黒い男の子だよ」

「子供の前で小さいって言うなよ…」

「いいじゃない、今じゃこんなに大きくなったんだから」

「エイミィ…」

そしてフェイトちゃんの悲しい過去。

その場面では皆瞳に涙を溜めていた。

「フェイトさん…」

「あんなつらい過去が…」

感化されたエリオとキャロがたまらず涙を流した。

そして…

【名前をよんで。まずはそれだけでいいの】

【なのは】

【うん】

画面の中で抱き合っているわたしとフェイトちゃん。

「わあああああああっ!」
「あわあわあわあわあわっ!」

「なのはママ、フェイトママ、うるさい…」

「あ、ごめんヴィヴィオ…」

「これはあれだな…」

「百合ですね」

ヴィータちゃんのつぶやきにシャマルさんが答えた。

「百合だね」

「うん、百合だ」

みんな、なんで納得してるの!?

「お二人の関係はこんな子供の時から…」

違うのっ!違うよっ?違うからね、ティアナ勘違いしないでっ!

そしてエンディング。

カッコいい歌だけど、歌ってるのはフェイトちゃんかな?

スタッフロールが流れる。

製作 SOS団

誰ですかっ!?SOS団ってっ!

「これってジュエルシード事件の事だよね?」

「おそらくそうでしょうね」

スバルの疑問にティアナが答えた。

「まぁ、なかなか面白かったんじゃねぇか?」

そう言ってヴィータちゃんが纏めた。

「あ、続きがあるみたいですよ」

皆が解散ムードに包まれる中、アインハルトさんがそう言って皆の注目を再びモニタに集めた。

冒頭の語りをしゃべる声。

この声は…

「これってリインと違うか?」

「リインですか?はやてちゃん」

そして始まった続きの映像。

「『魔法少女リリカルなのはA’s』?」

フェイトちゃんが海鳴に移住してきて…そして…

「わわわわあわああああ!」
「わあああああああっ!?」

抱き合っているわたしとフェイトちゃん。

「またですね」

「百合」

「もう慣れました」

え?もうその認識で固定なの!?

その後、ヴィータちゃんに襲われてリンカーコアを略奪されるわたし。

助けようと駆けつけて同じようにシグナムさんに打ち倒されたフェイトちゃん。

この後、彼女が…

「あれ?フェイトちゃん、これって少しおかしくない?」

「うん、なのは。私達が記憶しているものと少し違うよね…」

そしてその後の物語は彼女を抜いて進んでいく。

初代リインフォース。

彼女が天に還るシーンは皆泣いていた。

リイン自身は、ほとんど知らない彼女のお姉さん。この映像で彼女の事を初めて知る事が出来た部分も多いんじゃないかな。

そして映像は終了する。

「ティア、この話って闇の書事件だったよね?」

「スバルっ!皆分かっているからっ!」

めっ!とスバルをたしなめるティアナ。

すべてを見終わって、誰かが疑問を口にした。

「そう言えば、この映像。いったい誰が作ったんだ?」

「製作 SOS団って出てたッスよ?」

「そういう事じゃなくて、いったい何の為に寄越したのかって事だ」

【あ、あー。撮れてるかな?】

「皆、まだ映像は終わってないみたいですよ」

「あ、あれはっ!?ジェラートさん!?」

「なのはママ知ってるの!?」

「知ってるも何も…」

「闇の書事件にはもう1人関わっていた女性が居た」

シグナムさんのその告白に映像しか見ていない他の人たちが驚いた。

「それが、彼女だ」

【いきなりで驚いたかな?どうだった?わたし達が昔作った映画。中々だったでしょう?】

「ええ!?作ったのジェラートさん達なの!?」

【ふっふー。あわあわしている顔が目に浮かびます。してやったりって感じです】

くっ…まんまと策略にはまってしまったの…

【気づいたかな?この映像にはわたしが関わっていない事に】

それは事件に関わったわたし達ならば皆知っている。

【つまり、わたしが関わったあの事件には続きがあって。…まだ、時間が足りなくてうまく蘇生できてないんだけど】

「あらあら、もしかして…」

リンディさんは何かを知っているみたいだ。

【リインフォースの核のパーソナルデータは私が集めて持って帰ったの。アオさん達の協力もあって、多分もう少しで蘇生できると思う。…だから、リオちゃん達が夏休みになった時にでもきっとあわせてあげられると思う】

その言葉に一番衝撃を受けたのははやてちゃんとヴォルケンリッターの面々。

「ほ、ほんまか?ほんまにリインフォースに会えるんか!?」

「主はやて」
「はやて」
「はやてちゃん」

【なんか色々映像を見てもらったけれど、何が言いたいのかと言えばそう言う事だから。夏休みに会いに行くよーって事だけ。
…用件も伝えたから最後に…そう言えば、アレから14年経っているんだよね?なのはちゃんにフェイトちゃん。二人はわたしの名前を覚えてるのかな?】

そこで映像は終わった。

わたしとフェイトちゃんは顔をあわせた後…

「「ナノハ・ジェラートっ!」」

そう言って笑った。 
 

 
後書き
と言うわけで、なのは無双の話でした。あ、あれ?アオは?…彼が無双したのっていつが最後だっけ…最近だとリオが無双してたような…
次回はそろそろ本編ですかね…
今回のこれで気力を使い果たしたのでいつになるか分かりませんが… 
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