| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第六十三話 ピーターの妹その五


「紹介して頂けるのでしたら」
「いいんだ」
「はい。私も彼氏が欲しいと思っていましたし」
 相変わらずあっけらかんとした様子で言うティンであった。
「紹介して頂けるのでしたら」
「そうなんだ」
「はい。それでお兄ちゃん」
 ティンは今度は兄に顔を向けて声をかけた。
「その人って誰なの?」
「僕とは違うクラスの人だけれど」
「私達の同じクラスなんだけれどね」
 彼にかわってウェンディが言ってきた。ティンはそれを受けて彼女に顔を向けるのであった。
「知っているかしら。カムイっていうの」
「カムイさんですか」
「知ってるのかしら」
「いえ」
 ウェンディのその言葉には首を横に振った。
「どんな人ですか?」
「馬鹿ね」
 ウェンディの言葉は一言であった。
「一言で言うと馬鹿ね」
「そうなんですか。馬鹿ですか」
「おい、ウェンディ」
 アルフレドが今のウェンディの言葉に突っ込みを入れる。
「幾ら何でもいきなりそれはないだろう」
「そうは言っても本当のことじゃない」
 しかしそれでもウェンディは言うのであった。しかも平気な顔で。
「カムイが馬鹿なのは」
「それはそうだが」
「いいから任せておいて」
 右目でウィンクしてアルフレドに告げる。
「いいわね」
「自信があるんだな」
「勿論」
 やはり言葉に曇りはない。見事なまでに。
「だから安心していていいわよ」
「わかった。それじゃあ」
「ええ。それでね」
 あらためてティンに向き直り話を続けるのであった。
「馬鹿でまあかなり勘違いな行動もしょっちゅうだけれど」
「はい」
「一途よ」
 ここでにこりと笑ってみせる。その笑顔は少なくとも百万テラの価値があるものだった。ピーターも大好きな笑顔であるが今はそれはティンに向けられていた。
「一人に決めたらもう他には目がいかないから」
「浮気はしないんですか」
「それも絶対にね」
 念を押してみせる。これもまた彼女の話術であった。
「絶対ですか」
「そう、絶対」
 さらに念を押す。
「多情だけれど一人に決めたらその娘だけだから」
「わかりました」
 ティンも笑顔でその言葉に頷いた。
「いい人なんですね」
「悪い奴じゃないのは確かよ」
 ウェンディはそれも保障する。
「むしろいい奴ね」
「あれで結構クラスメイト思いだしね」
「そうそう」
 蝉玉とビアンカも言う。彼女達でティンを乗せていた。
「どうかしら、彼は」
 ウェンディはここでカムイを薦めてきた。
「悪い話じゃないと思うけれど」
「そうですね」
 ティンはおっとりとした調子で彼女に言葉を返してきた。
「一度御会いしたいですね」
「会うのね」
「はい」
 にこりと笑ってウェンディに告げた。
「それで御願いできますか?」
「ええ、わかったわ」
 ウェンディもまたにこりと笑って彼女に答える。
「それでね。いいわ」
「御願いします」
 ティンはあらためて一礼する。
「そういうことで」
「じゃあ決まりね」
 ウェンディは話が決まったことを確信して笑った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧