八条学園騒動記
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第四十九話 スキャンダル学園その六
「うう、自分でもそう思うわ」
そしてナンシーの方でもそれは自覚していた。
「けれどね」
「まあ彼女は全然報われないけれどね」
「そうね。それでも私はね」
相変わらずの調子で言い返す。
「やっぱり。その」
「本当にね。皆の前じゃその姿は見せられないわね」
「見せたら死んじゃうわよ」
こうまで言う。
「絶対に」
「彼氏とは?」
「絶対に離れたくない」
ここで実際に彼の左腕に両手でしがみつく。
「何があっても」
「どっちかって言われたら?」
カトリは少し意地の悪い質問を仕掛けてきた。
「どっちなの?」
「それは決まってるわよ」
しがみついたままで言う。
「やっぱり。一緒にいたいのが絶対よ」
「やれやれ」
「まあ話はそれ位にしてさ」
マルティがようやく助け舟を出してきた。ナンシーの様子を見て楽しんでいたかというと実はそうである。ここはカトリと同じであった。
「食べない?」
「え、ええ」
ナンシーもその言葉にはっとして頷く。
「そうね。ホットケーキ」
「ああ、やっぱり知ってたのね」
カトリもそれを聞いて言う。
「ここのお店の名物料理」
「だから来たのよ」
ナンシーもそう答える。
「フルーツと生クリームがたっぷりのったホットケーキ」
「そう、それ」
カトリもその言葉に頷く。
「それ二人で食べる為にね。ねえ」
後輩君に顔を向けてにこりと笑う。
「二人でね」
「はい」
後輩君も笑顔で彼女に頷く。
「それで御願いします」
「そういうことで。席は」
「そこ、空いてるわよ」
カトリは自分達が座っている席の隣を手で指し示してきた。
「そこでいいわよね」
「ええ、席は何処でも」
彼女もそれに頷く。その後でまた後輩君に顔を向けて尋ねる。
「どうなの?私は何処でもいいけれど」
「先輩の好きな場所でいいですよ」
後輩君はにこりと笑って答える。
「何処でも」
「そうなの。それじゃあそこでね」
「はい」
そのまま二人でそこに座る。向かい側に座ってもやはりデレデレとしているナンシーであった。そんな彼女を見てマルティはまた言った。
「本当に楽しそうだね」
「最高よ」
今度はにこにことして答えてきた。
「二人でいるだけでね」
「全く」
カトリはその言葉を聞いて呆れたように溜息をつく。
「鼻の下伸びきってるわよ」
「えっ、嘘」
その言葉に慌てて我に返る。
「そんな筈は」
「嘘よ」
慌てふためくナンシーに対してくすりと笑って言うのだった。
「安心して。顔はしっかりとしてるから」
「もう、からかわないでよ」
「だって。あんまりデレデレしてるから」
そうナンシーに言い返す。
「意地悪したくもなるわよ」
「何でよ、それ」
「妬けるのよ」
くすりと笑って本音を出してきた。
「あんまり熱々だからね」
「それは私も。まあ」
また顔を真っ赤にして答える。眼鏡の奥の顔が普段とは全く違った女の子らしいものになっていて実に可愛らしい。
「それはわかっているけれど」
「けれどどうして一緒になったの?」
「それは秘密」
だがそれは言おうとはしない。
「秘密よ。いいわね」
必死な顔をして後輩君にも言う。
「絶対に」
「けれど先輩」
後輩君は不安げな顔で彼女に応えてきた。
「言わないと余計にからかわれますよ」
「そ、それでもよ」
また必死な顔になっていた。こうしてみれば実に表情豊かである。
「言わなきゃばれないから。いいわね」
「いいわねって相手の前で」
「それでもよ」
もうボロボロになっているがそれでも言い繕う。
「とにかく。内緒にしないと私困るから」
「わかったわよ。言わないから」
「ええ、御願い。それじゃあ」
にこやかな顔を後輩君に戻して言う。
「楽しみましょう」
「はい」
「しかしまあ」
カトリはそんな二人を見て今度は仕方ないな、といった微笑みを見せていた。
「私には無理だけれど。こんなのもいいわよね」
「そう思うよ」
マルティモ彼女の言葉に頷く。その横ではやはりナンシーが後輩君を相手にでれでれとした甘いムードの中に漂っていたのであった。
スキャンダル学園 完
2007・5・8
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