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八条学園騒動記

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第四十五話 終幕は穏やかにその四


 しかし彼の動きはあまりにも速い。まるで台風のようである。
「な、何よこれ」
 彼を追うメンバーの中の一人パレアナは思わず声をあげた。
「陸上の短距離選手並の速さよ」
「それだけじゃないわね」
 蝉玉も言う。
「この速さはちょっと有り得ないわ」
「そうだな」
 マチアがそれに頷く。
「この速さはちょっとな」
「追うのが大変だね」
 スターリングはその中でも少し呑気であった。
「これは」
「ええ、先回りする?」
「先回り?」
 一同も廊下を駆けている。その中で蝉玉はふと提案してきたのである。
「そう、先回りよ」
「けれどあいつの行く先わかるのか?」
「そうよ、問題はそれよ」
 マチアとパレアナがそれを指摘する。
「何処に行くかわからないと」
「とりあえず春香ちゃんのところだっていうのはわかってるけれど」
 問題は彼女が何処にいる加太。それがわからないとどうしようもない。言うまでもなく彼女達の誰もがそれをわかていない。それどころか洪童でさえそれがわかってはいないのだ。彼はただ勘に頼って暴走しているだけである。かなり滅茶苦茶である。
「彼女何処にいるのやら」
「部室ね」
 蝉玉はそう答えてきた。
「今放課後でしょ?」
「うん」
 スターリングが彼女に答える。
「そうだけれど」
「だからよ、間違いないわ」
 彼女は強い自信と共にスターリングだけでなく皆にも言う。
「あの娘真面目だから。放課後特に何もなければすぐに部室に向かうの」
「その部活は?」
 それがわかれば話は早い。だが問題はまだあった。
 部活が何処かである。それがわからないとどうしようもない。
「オペラ部よ」
 蝉玉は答えた。
「彼女そこのプリマドンナなの」
「そうだったのか」
 バイオリニストのマチアはそれを聞いて言ってきた。
「何か知らなかったな」
「何であんたが知らないのよ」
 蝉玉は呆れた顔で彼に問う。
「オペラ部とはオーケストラで関係深い筈なのに」
「いや、俺ソリストだから」
 マチアは功答えてきた。
「だからオペラ部とは組まないんだ。それでなんだ」
「そう。クラシックの世界も奥が深いのね」
「ああ、深いぜ」
 ニヤリと笑って彼女に答えてきた。
「それもかなりな」
「成程ね。とにかくオペラ部よ」
 蝉玉は再度場所を言ってきた。
「場所は歌劇場、間違いないわ」
「歌劇場」
「あそこか」
 皆そこがどこなのかすぐにわかった。あまりにも巨大な八条学園には劇場も複数ある。歌劇場はその中の一つであり八条学園歌劇場という。オペラの他にミュージカルや歌舞伎、京劇も行われたりする。なお歌劇場は他にも第二歌劇場や小劇場もある。
 八条学園歌劇場は巨大である。かつて地球のアメリカにあったメトロポリタン歌劇場にも匹敵する。それだけの巨大な歌劇場を学園内に置いておけるのはひとえに八条家の資産が莫大だからである。オペラ部はそこを拠点として活動しているのである。
 一同はその歌劇場に着いた。そしてまずは春香を探し出す。
「ちょっと、何よこの広さ」
 パレアナは歌劇場に入ってまずはこう言った。
「滅茶苦茶広いじゃない」
「席だけで何千席あるんだ」
「凄いだろ」
 それに応えてマチアが言ってきた。
「これだけの歌劇場があるのがこの学校なんだ」
「あらためて驚き」
 驚く他なかった。見れば皆かなり驚いている。
「学校の中にこんなのあるなんて」
「うちの学校ってつくづくスケールが大きいわね」
「とにかくここにいるわ」
 蝉玉はあらためて皆に言う。
「春香ちゃん、早く探しましょう」
「よし!」
 ここで同行していたギルバートが声をあげてきた。
「ならば主力は出入り口付近に展開」
 いきなり作戦指揮をはじめる。
「春香ちゃんは残るメンバーで保護しろ」
「残るメンバーは誰だ?」
「彰子君とビアンカ君だ」
 ギルバートはそう判断を下した。しかしその決定にはアルフレドが異議を申し出してきた。 
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