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Fate/stay night -the last fencer-

作者:Vanargandr
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第一部
出会いし運命の少女
  運命の夜 ─舞い降りる奇跡─

 それは既に、肉食獣の捕食行為だった。

 人型の化け物が暗闇に躍らせる鉄杭を、ただ必死に避け続ける。

 自身の肉体強化。拳や関節部の硬化。
 身体機動の加速までしてようやく防衛するのがやっとだ。

「ぐッ、はぁっ、はぁ……っ」

 腕を掠めただけなのに、血が流れ落ちる。

 襲われるがまま僅かな抵抗すら出来ていない現状は戦闘などではない。
 俺と相手との性能差がありすぎて、戦闘として成立させる事自体が不可能だ。

 これと遭遇してから十数分、何もしなかったわけではない。

 いくつかの攻性魔術を撃ち込んでみた。
 行使可能な属性全て、干渉魔術すら試してみたものの、全てが悉く無為に終わる。

 避けられたとか防がれたとか、そういう話じゃない。

 この相手には、何故かどんな魔術も届かないのだ。

 触れる寸前に全ての魔術が霧消し、こちらはただ魔力を消費しただけ。
 どういう原理でそのような現象が起こっているのかは解らないが、今相対しているこの相手には一工程、三小節以下の魔術は無効化される。

 となると二節詠唱魔術も無効化されると想定して、三節詠唱から成る儀礼呪法か大魔術の発動が必要になってくるが…………
 生憎と道具も事前準備もなしに、そんなものをポンポンと発動することなど出来ない。

 威力だけなら魔術特性によって大魔術レベルにも跳ね上がるのだが、それではこの相手には通用しないことがわかっている。



 俺の魔術特性は「共振」という珍しいものだ。
 通常、魔術回路は魔力を通す擬似神経のことであるが、俺のそれは特殊な構造になっていて、魔力の共振回路として機能する。

 一度通した魔力を放出せずに再度循環させ、その流動の中で固有振動を誘発。
 回路内で振動する魔力を爆発的に増幅、増大することで、相乗作用を得て魔力を放出。

 50の魔力を使用した場合、凡そ200弱の魔力を生み出すことが出来る。
 消耗する魔力はそのままに、本来の数倍の魔力を放出することが可能なのだ。
 
 出力の限界はあるため無限に増幅できるわけではないが、俺はこの魔術特性のおかげで魔力切れとはほぼ無縁だ。



 その共振を利用して威力を引き上げた魔術を相手にぶつけたのだが、通常時の魔術も共振で魔力増幅(ブースト)した魔術も全く効く様子が見られない。

 それはつまり、相手がこちらの魔術を無効化している条件は、単純な威力による判定ではないということ。
 普通の魔術を大魔術レベルに威力だけを引き上げても、魔術として元々働きかける意味合いが異なるため、魔術を通すことがないのだろう。

「シッ……はあ!!」

 場所を変えながら逃げ回る。少しずつだが傷を負い、血が失われていく。
 だがそんなことに頓着している余裕はない。流れるものは流れてしまえ。

 指先から光弾を放ち、闇の中で光の反射を見つけ、鉄杭の軌道を読みながら回避する。
 眼帯をしているせいで目眩ましも何もなく、どうせ無効化されるならと光弾射出の魔術を乱射した際に、偶然発見した鉄杭の回避方法だ。
 この夜闇の中では視認の難しい速度で飛んでくる鉄杭だが、あらかじめ飛んでくる方向が分かっていれば避けることは容易である。

 躱し切れないものは蹴りで攻撃を逸らす。
 靴自体に強化を施しているし、靴底に硬化も施しているため、相手の鉄杭を弾くだけならまだ保つだろう。
 一つ注意しなければならないのは、鉄杭に付随する鎖に足を絡め取られた場合、その時点で決着がついてしまうこと。

 決着とは即ち、黒守黎慈の絶命だ。

 而して、解せないのは相手の目的である。
 俺を殺すことが目的ならば、この化け物はいつでも俺を殺すことができるはずだ。
 獲物をいたぶるような真似をせず、鉄杭を飛ばしながら掴みかかるなり格闘を挑んでくるなりすれば、俺は対処し切れずに敗北する。

 いたぶることそのものが目的か?
 だがもしも狩りに愉悦を見出しているのなら、こんな無機質な表情のままで機械的に行動しているのは不可解すぎる。
 分かっているのは自分では到底敵わない化け物であり、相手がどういうつもりであっても現状での俺の生殺与奪は彼女の手にあるということだ。

「くそ、はぁっ、はぁっ…………え?」

 200手以上は凌いだだろう後、二つの牙が作り出す嵐は止んでいた。
 鉄杭が風を切る音、鎖の擦れる鈍い音がなくなり、夜の静寂が場を満たす。

 蛇が獲物をじっと観察するように、彼女は俺を見つめている。
 いや、眼帯をしているので眼は確認できないのだが、確実に彼女は俺のことを見据えていると感じ取れる。
 凡そ三十分ぶりに止まることを許された俺は、緊張感と警戒はそのままに少しずつ呼吸を整えていた。

 先ほどからの出血は酷くはないが、放置していい傷でもない。
 しかし今はまだ、血は流すままにしておく。

 またいつ動き出すか分からない。
 一挙手一投足を見逃さぬよう、俯瞰で相手を捉える。

 数分か、もしくは数十秒だったか。

 気付けば鉄杭は手元から消え、そのことに疑問を覚えた瞬間────



「がっ!?」



 ────俺は数メートル離れた場所まで蹴り飛ばされていた。

 地面を滑りながらその勢いを利用して後ろに飛び起きる。
 着地とともに前を見れば、俺を追撃せんと地を駆ける紫の大蛇。

「チィッ!!」

 怯むことなく、俺は応戦した。
 何故素手での格闘に移行したのかは知らないが、こちらにとっては好都合。
 武器もない状態で延々と中距離から痛めつけられるくらいなら殴り合いの方がまだマシだ。

 問題なのは、化け物じみた彼女の膂力だ。
 頭蓋を吹き飛ばしかねない威力、急所にもらえば即行動不能に陥るだろう。

 それさえも踏まえて、まだ格闘戦の方が勝機はある。

 まがりなりにも、俺は武術を修めてきた人間だ。
 どうやら彼女の格闘術は武道ではなく、本能に任せたただの暴力。

 型もなにもないその攻撃を。

 躱し、捌き、いなし、受け流す。

 時折打ち込む攻撃に怯みもしない彼女に勝機などまるで見えないが、まだ絶望し諦めるには早すぎる。
 
 逆転の布石は既に打ってある。
 最初にして最期の策は、もう少しで完成だ。
 成功確率がとんでもなく低い一か八かの賭けになるが、ここにいたってはそんな賭けも悪くない。

 どうせここを凌げなければ、俺に明日はないのだから。

 故に、あとは俺が今の状態で持ちこたえられるか。
 残った布石を打ち、策を完成させられるかに掛かっている。

(呼吸も乱さずに余裕かましやがって……)

 先ほどから続く攻防も、俺が防戦一方だ。
 それでも鉄杭攻めのときに比べれば戦闘の体裁は保っているほうで、正直遊ばれている感が否めない。

 一定のリズムで続く攻撃。

 俺がその呼吸に慣れ始めてしまった頃に、彼女の攻撃が急激に速度を上げた。
 一瞬無防備になってしまった胴体を見逃さず、蛇がその身を捻転させながら牙のような蹴りを穿つ────!

「う、ぐ!」

 刹那の判断。
 腹に強化と硬化、対物障壁に耐圧障壁を集中、さらに自ら後ろへ跳ぶことで衝撃を緩和させる。

 体勢の立て直しも体軸の制御も出来ず、背中から地面に落ちる。
 腹と背中の痛みも呼吸困難さえも無視して、俺は敵手の存在に気を配る。

「へっ……必殺の一撃が決まって浸ってんのか?」

 蹴りを放った体勢からゆっくりと身体を戻し、こちらを見据える。
 相も変わらず余裕の素振りだが、残念ながらこっちの手札は揃っちまってんだよ。

 俺は胸内から己が聖遺物、光のアミュレットを取り出した。





Blood lust(我が血を欲せ)
「ッ!?」





 奴も今までとは違う詠唱に気付くももう遅い。

 既に発動した呪血の縛鎖に囚われた彼女は、この詠唱が終わるまでは抜け出せない。
 最悪のケースはこの魔術発動時に同時発動する呪血縛鎖さえも消されることだったが、どうやらコレは無効化できなかったらしい。

 血に濡れた手でアミュレットを強く握り締め、黒守の最大魔術……聖遺物を触媒にした概念魔術の詠唱を始める。

Blood alliance(血の盟約を果たせ)

 この場所には霊脈が走っている。
 というより、冬木市自体にいくつかの霊脈が存在しているのだ。

 それを知っていたからこその作戦である。

know Name wise(其は我が名を識るもの)

 ここに至るまでに流した多量の血液。
 公園の中央部を囲むように外円点に六箇所、内円点に六箇所の、自身の血で作り上げた魔力溜まりを解放する。
 
set grave Origins Name(ならばその真名を世界に刻め)

 六芒星、ヘキサグラムを象る、己が血で描いた魔血方陣。
 儀礼呪法など比較にもならない、聖遺物に秘められた概念魔術の極大解放。

Lugh, bestow bless……(陽神よ、汝が光賜らば……)
 Lugh, eternal zero……(我その至宝、久遠の鎖に繋ぎ止めん……)

 ここで局面を打開できなければ、俺にはもう本当に打つ手がない。



 黒守に伝わりし600年の秘奥よ──────

 ──────ここに奇跡を起こしてくれ。



 おまえが600年もの間、黒守を見守ってきたというのなら。

 一度くらい、俺のことだって、助けてくれてもいいだろう?





Falias Liath Fail(北に運命の石を),

 Findias Claiomh Solais(東に白銀の剣を).

 Gorias Ibur Brionac(西に灼熱の槍を),

 Murias Dagda(南に再生の大釜を)





 違う。俺は俺の力で生き抜く。

 自分自身の手で奇跡を起こしてみせる。

 おまえはその手助けをしてくれりゃあいい。

 さあ──────それじゃあ始めようか。





Tuatha De Danann Mystic Diviner(我が系譜はダーナの御霊を汲む者なり)!!」

 詠唱終了と同時に、極光が公園を覆った。
 魔術を発動させた俺自身目を開けていられないくらいの強烈な閃光。

 儀式完了によって呪縛が解かれたあいつは、この光に警戒して一気に距離を取った。

「ど、どうなった……?」

 秘められた概念を解放する黒守の魔術。
 攻性魔術が発動したか? 防護魔術が備わったのか?

 何であろうと頼むから、俺を救うものであってくれ。

「……………………」

 光の中心部を睨み続ける大蛇。
 徐々に閃光は収まっていき、周囲が淡い灯光に包まれだす。





 そうして、その光の中から現れたものは。

 紫紺の外套を身に纏う、儚げな銀色の少女だった。





「へ……?」

 俺自身、驚きを隠せない。
 感じられる気配からして、彼女はあの紫蛇の人型と同種の存在だ。

 概念魔術のはずが、俺は召喚術でも発動したのか?

 だが召喚術であれば、自身より下位のモノを呼び出すだけのはず。
 明らかにアレは、俺の魔術師としてのキャパシティを優に超えた存在だ。

「ねえ、貴方」
「あ、え?」
「貴方、私のマスターかしら」
「え……っと、たぶん……」
「本当に?」
「はい……おそらく……きっと……そう、だといいなぁ……なんて」

 突然襲われたあたりから蓄積していた混乱がピークに達した。
 しどろもどろな受け答えは最早謎であり、少女も要領を得ないといったふうだ。

 だってさあ、どうしろっていうの?

「ん、貴方とパスが繋がってる……選定されし者の令呪(あかし)はないみたいだけど、貴方がマスターで間違いないようね」
「あれ……ほんとだ」

 確かに彼女の言うとおり、俺と彼女との間にラインがある。

 ということはつまり、俺たちは何らかの契約関係にあるということだ。
 さっきまで俺を襲っていたヤツと彼女は同種の存在だが、彼女からは黒い方のとは違い、良くないモノの気配は微塵も感じられない。

 契約のこともあるし、状況次第では彼女は自分の味方ではないのか?

「あなたは……セイバーですか?」
「っ!?」

 黒装束の女が喋るのを初めて聞いた衝撃に息が詰まる。
 俺を襲っていたときの印象の声ではなく、見た目通りの静かな声だ。

 それに、セイバー? 聞きなれない単語だ。
 剣? 騎士? 銀の少女の正体に関するものだろうか。

「さあ、なんでしょうね」

 少女は返答を濁す。
 答えるのは不利益なことなのだろうか。

 情報整理、状況整理、色々必要なことがありすぎてついていけん。

「いいでしょう。確認するまでです」
「あら、お相手してくださるの?」

 黒装束の女がどこからか、再びあの鉄杭を取り出す。

 得物を取り出し、俺の時には一切感じなかった殺気を向けられているというのに。
 少女はいつまでも徒手空拳のまま、涼しげな顔で黒装束の女を見続けている。

 埒が明かぬと判断したか、黒装束の女は俺の時の数倍の速度で鉄杭を飛来させた。



 第三者の視点から見えているからこそ分かる。



 アレは無理だ。
 今から武器を構えるのでは遅すぎるし、素手で迎撃できるものでもない。

 全てがスローモーションになって見える。
 停滞していく時の中で、俺は串刺しになる少女の姿を幻視し、そして────

「ッ!?」
「今、何かしたかしら?」

 鉄杭が甲高い音を立てて弾かれる、その音で現実に引き戻された。

「………………」

 黒装束の女の驚きはもっともだ。
 傍目に見ていた俺でさえも何が起こったのかわからなかったのだから、攻撃を仕掛けた本人である彼女の困惑は俺よりも上だろう。

 少女の手には、銀光。

「何か、持ってる?」

 何かを覆い隠すように揺らめく光が、少女の手から伸びている。
 不可視の武装を持っているのか。ならば先の一撃を防いだのはそれで?

 正確なことはわからないが、未だ少女が謎に満ちた存在であることに変わりはなかった。

「その握り方……剣ですか」
「さあね、そこは想像に任せるわ。女は秘密が多いのよ」
「戯言を。ですが新たなサーヴァントが出現したのなら、今夜はここで引きましょう」

 黒装束の女が離脱する。かなりの速度で駆けていく。
 それに追従するように、追撃のためか銀の少女も駆けていった。

「え、ちょ、待てよ!」

 公園に敷いていた防音と認識阻害の結界を解く。

 こちらとしては尋常じゃないくらい消耗してるんだが、このまま放置というわけにも行かないだろう。
 傷口の組織閉鎖と共に治癒魔術を掛け、追いつけるとも思えない彼女らを追いかけることにした。










「ちぇ、逃げられちゃったか」

 新都から町に入ったところで、少女は黒装束の女を見失った。
 純粋な素の速度で負けているため、距離を離されてから気配を断たれたのだ。

 マスターも置いてきたし、どうしようかと思考する。

「……────」
(迎えに行ったほうが良いだろうか? いやしかし、自分のマスターであるならそれくらいはどうにかしてもらわないと)
「…………──」
(そうだ。むしろ迎えに来るぐらいの度量がなくてどうするのだ。仮にも自分を呼び出した魔術師なのだから、泣き言なんて聞きません)
「………………」
(そうだなー、散歩でもしてようかなー。現代の情報は刷り込まれてるし、いくつか不可思議な点はあるけど、それは今のところは保留ということで)

 よし、そうと決まればその辺からぶらぶらと──────

「ぜぇ……待ち、たまえよ……ぜぇ……」
「ひゃあ!?」

 後ろから肩を鷲掴みにする。
 かなり前から居たのだが、息切れが激しくて声を出せなかったのだ。

 少女は本当に気付いていなかったようで、可愛らしい声を上げていた。

「あ、マスター。いたの?」
「いたの、じゃねぇよ……仮にも、契約関係なら……その契約相手を、置いていく、んじゃねぇよ…………」
「だって……」

 よし、だいぶ息も整ってきた。

「ところで……マスターを置いて、どこに散歩に行こうというのかね?」
「え゛?」

 先ほどまで内心で考えていたであろうことを、ズバッと指摘してやる。

 不満そうな顔つきだったのが、見る間に気まずそうな表情に変わる。

「あの、なんで知ってるの?」
「ラインから精神感応でダダ漏れでしたが、何か?」

 追跡のためにラインから少女側に感知やら干渉やら仕掛けてたんだが、想像以上に面白いことになっていた。
 
 登場シーンからの雰囲気とは違い、意外と中身にギャップがあるこの少女。
 黒装束の女のやり取りと、少女の心の内から漏れていた情報を繋ぎ合わせて何とか現状理解に務める。

 サーヴァント。

 人間以上の存在で、自分の魔術師としてのキャパシティを越えた存在。
 この少女も俺を襲った黒装束の女も、そのサーヴァントというモノらしい。

 サーヴァントにはマスターとなる魔術師が居る。

 となるとあの黒装束の女はどこかの魔術師からの刺客だったのだろうか?
 セイバーという言葉に関しても、あれは幾人か居るサーヴァントに与えられる名のようなものか?

 あの黒いサーヴァントにも銀の少女にも、そうした呼び名があるのだろう。



 などと人が全力疾走しながら、一生懸命に状況把握に努めていたというのに!



「個人的には肩ではなく、そこから下の豊かな膨らみを鷲掴みにしてやっても良かったんだがね。
 そこはそれ、仏のような懐の広さで許してやろうともさ」
「は、はい」
「ただし三度目までだからな!」

 ここまで走らされた怨念を込めて言い放つ。

 正直まだまだ謎は多い。
 こんなことを言いつつも少女がその気になれば俺を数秒かからず殺せるだろうし、何故格下の存在である自分に従う意思を見せるのか?

 サーヴァントとは何なのか、何のために呼び出されているのか。
 襲ってきたサーヴァント、マスターとなる魔術師の存在、ここ最近街を包んでいた不穏な空気、学園に仕掛けられた結界。

 全ての答えを得られるかは分からないが、この少女から情報を引き出せるだけ引き出しておかないと、また今夜のような無様を晒す気がしてならない。

「なあ、あんた……」
「ん、マスター。ここから少し離れた場所にサーヴァントがいるわ」
「あ、え? はぁ!? まだあんな化けモンがいるってのか!?」
「気配は二つ……三つ? 何だか揺らいでる。マスターもそこに二人居るね」
「気配三つって……嘘だろ…………」

 これで合計五人か?
 まだ増えそうな気はするが、今はとりあえずどうするかを決めなくては。

 俺に報告したということは、そこに行けということだろう。
 最低でもその場所に赴いて様子を見るくらいはしないとならないか。

 逃げるのは簡単だ。けれどそれでは何も解決しない。

 少女は今は敵ではなく、俺と離れるつもりもないらしい。
 ならこの子から情報を聞き出すのはまた後でもいいだろう。
 先にサーヴァントが居るという場所に行って、可能な限りの情報収集を行うのが最善だ。

 俺も魔術による知覚領域を広げて、その場所を確認する。

「ふぅ────あ、れ? これって凛の気配か?」

 全てのサーヴァントとマスターが一箇所に居るわけではないようだが、かなり近い場所に集まってきている。

 その中の一つに、よく見知った気配を感じ取れたのだ。

「こりゃ、行くしかないか」
「そう、腑抜けたマスターじゃなくて嬉しいわ。それじゃあ、行きましょうか」




















 この長い夜は、まだ幕を下ろすことはない。

 そして。

 三人のマスターと三騎のサーヴァントが、運命の夜に邂逅する。 
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