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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第二十四話 海の上の激闘   ★

 アースラに滞在をし始めて十日目。

 俺となのは、ユーノは俺の部屋で待機している。

 この十日間の収穫としては悪くない。
 俺達が回収したジュエルシードは三つ。
 それ以外に管理局側が発見しながらもフェイトに先を越されて、回収されたのが二つ。
 残りは六つ。
 逆にフェイトの母親の事についてはまだ情報が見つかってないらしく、こちらは停滞している。

 だが気になるのがジュエルシードの回収である。
 俺達の三つ、フェイトの二つ、共に俺達がアースラに滞在して初めの六日間で発見されている。

「妙だな」
「妙?」

 俺のつぶやきにユーノが首を傾げ、なのはも不思議そうにしている。

「管理局の整った設備を使ってわずか六日で五つのジュエルシードが見つかった。
 だがそれ以降四日経つのにジュエルシードが一つも発見されていない。
 となると捜索の前提が間違ってる可能性があるかもな」
「捜索の前提って、海鳴市に落ちたジュエルシードっていう前提のこと?」

 俺の言葉にすぐに反応したユーノの言葉に頷く。

「まあ、可能性としては海沿いの街だから海の中だろうが、最悪海鳴より離れた場所にあることも考えられる」
「そうなっちゃうとすぐには難しいよね」

 なのはにとってはジュエルシードの回収はフェイトと向かい合う事が出来る可能性がある場でもある。
 だが実際には全然会う事が出来ていないのだから、なのはにとってもストレスだろう。

 さっさと見つけてもらいたいものだ。

 その時

「エマージェンシー!! 捜索域の海上にて大型の魔力反応を感知!!」

 警報と共に放送が流れる。
 フェイトが来たか? それともジュエルシードが動き出したか?

「いくぞ!」
「「うん!」」

 なのはとユーノと共にブリッジに入るとモニターにはとんでもない光景が映し出されていた。

 天に伸びる青き光。
 その光が纏うは水の竜巻。
 さらに凄まじい風が吹いているのか海は大荒れ、画像も多少乱れている。

 恐らくは街でのジュエルシードを発動させたのと同じやり方だろう。
 あの時も魔力を辺りに流して無理やり発動させていた。
 だが今回は一つではなく六つ。
 いくらフェイトが優秀といっても無理だ。

「あの、私急いで現場に」
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」

 なのはの言葉に冷静に言い放つクロノ。
 確かに下手に手を出すよりも自滅するのを待った方が今回の場合は確実だろう。
 仮に封印できたとしてもその時のフェイトは確実に疲弊している。
 そうなれば捕縛はたやすい。

「クロノ執務官に同意見ですか? リンディ・ハラオウン提督」
「……ええ、私達は手を出しません」

 悔しそうに、だがしっかりと答えるリンディ提督。
 提督である前に母親である彼女にとっては子供があのような死地にいることはつらいのだろう。
 もっとも俺達が従う義理はない。

「では我々はこれよりしばし別行動をとります」
「なっ!! それはどういう事だ!」
「契約時に伝えたはずだ。ジュエルシード以上に優先すべき相手がいると。
 それにアレだけの魔力が暴走していたら海鳴の霊脈に影響を与えかねない。
 魔術師として、管理者としてそれは見逃せないのでね」

 踵を返し、転送ポートに向かう。

「だがどうやって行く気だ? 転送ポートは使わせないぞ」
「ユーノ、転送ポートは操作できるか?」
「うん。大丈夫」

 クロノの言葉は聞きながし、ユーノはしっかりと俺の質問に頷いた。
 そして、呆然としているなのはと向かい合う。

「……いいのかな?」
「フェイトにとってもなのはの力が必要だ。
 それとも、なのはは行きたくないか?」
「ううん。行きたい!」

 なのはの言葉に頷き、共に転送ポートに乗り込む。

「待て!!」
「ユーノ!」
「うん!」

 光に包まれて、俺となのははあの黒雲のさらに上に転送された。




side リンディ

 案の定というかやっぱり動いたわね。
 士郎君は

「クロノ、準備だけはしておきなさい」

 クロノ、私の息子に向かって感情を抑えて命令する。
 ここでの準備は士郎君達が失敗した時のジュエルシードの封印とフェイトさんの捕縛の事を意味する。

「士郎達はいいのですか?」
「契約違反ではないし、ジュエルシードを封印しないと海鳴に被害が出るのは事実よ。
 なら海鳴を領地とする士郎君が動かないはずがないわ」

 まだブリッジにいたユーノ君が少し驚いた表情をしたけど静かに頭を下げた。
 そして、ユーノさん自身も転送の準備をして海上に向かった。

「ふう」

 士郎君達を咎めることなく、さらにユーノ君の転送まで止める事をしなかった。
 だけどこれでいい。

 契約違反ではないとの言葉もただの誤魔化しにすぎない。
 士郎君も口では海鳴の事を言っていたけど本音ではフェイトさんが心配なだけ。
 だけど私は動く事は出来ない。
 だからせめて彼の事を信じましょう。




side 士郎

 まったくユーノの奴、転送しろとは言ったがこんな上空とは聞いてないぞ。
 いや、ジュエルシードが発動し魔力が満ちたあそこには転位自体が難しいと考えるべきか。

 それにしたってなのはまだしも俺は空を飛べない事を忘れてないだろうな。
 まあ、手段はあるんだが

「なのは、行けるな?」
「うん。行くよ、レイジングハート!」

 この上空から地上に落ちていっているというのになのはには何の迷いも怯えもない。

「―――風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に」

 なのはが軽やかにでもしっかりとした声で詠う。

「―――不屈の心はこの胸に!」

 初めて聞く、なのはの詩。
 その詩はなのはの覚悟の証のように力強い。

「―――レイジングハート、セーット・アーップ!」
「Stand by……ready!」

 その詩声に応え、強く光輝く赤い宝石。

 なのはとレイジングハート、この二人なら大丈夫だ。

 ここはなのはとレイジングハートの舞台。

 そして、その舞台のパートナーは俺ではない。

 フェイトとバルディッシュ、彼女達が相応しい。

 ならば俺のすることは決まっている。
 二人の舞台を邪魔する相手を阻むだけ。

 レイジングハートを持ち、いつもの服に身を包んだなのはの落下スピードは格段に緩やかになる。
 それに合わせ、俺も足場を用意する。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 外套から取り出すように投影するのはプライウェン。
 セイバー、アーサー王が持っていた盾にして船だ。
 盾に乗り、なのはと並び、ゆっくりと降りる。

 雲を抜け、荒れた海上に出る。

 ジュエルシードを発動させた影響だろう。
 今にも消えてしまいそうな弱々しい光を放つ鎌を持ち、俺達の登場に困惑しているフェイト。
 それにジュエルシードの雷に体を拘束されているアルフ。
 それぞれの状況を確認し

「―――投影、開始(トレース・オン)

 左手には使い慣れた弓の子供バージョンを、右手には赤き猟犬を外套から取り出すように投影し握る。
 そして、いつもの動作で猟犬を弓に番える。

「アルフはこちらで助け出す。援護も俺が引き受ける」
「うん。行ってくるね」
「ああ、いってこい」

 しっかりと頷き、フェイトの方に一直線に空を翔けるなのは
 さて、俺もしっかりと役目を果たすとしよう。

 しかしこの欠点だけはどうにもならんな。
 身体の痛みに内心ため息を吐く。

 俺が足場として使っているプライウェンは空中での足場としては便利がいいし、対魔・対呪防御は高い。
 だがプライウェンは聖マリアが描かれた『聖盾』という事が問題なのだ。

 死徒である俺と聖楯であるプライウェン。
 つまりは乗っている間、常に痛みというよりダメージがあるという事。
 
 単純に飛ぶなら他の手がない事もないのだが、こうして空で静止して援護する足場という意味ではプライウェンの方が便利が良い。

 さて余分な思考もここまでだ。

 紅き猟犬の標的は三つ。
 アルフを縛る雷。
 俺達の登場で固まってしまっているフェイトを縛ろうと迫る雷。
 そして、竜巻の周囲に集まってきている雷の群。

 正直宝具を使うのは見せすぎなのかもしれない。
 だが、今回の行動を力ずくで止める事をしなかった時空管理局へ借りを返すという意味でも見せてやろう。

 魔力を溜めたのは十五秒ほど、舞台の幕を引くのには不十分だが、脇役にはこれで十分だ。

「―――往け、赤原猟犬(フルンティング)

 猟犬は放たれ、渾身の魔力を込めた時に比べれば遅いが、それでも音速を超え翔ける。

 音速で翔ける猟犬はアルフを縛る雷を薙ぎ払い、フェイトに迫る雷を撃ち抜き、集まっている雷の中央に突き刺さる。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 俺の言葉と共に猟犬は爆風で雷を霧散させた。

「士郎、なんで」

 俺のそばに来て不思議そうな顔をしているアルフ。
 だが、いまは時間が惜しい。
 それにもう一人も追いついたようだしな。

「士郎、お待たせ」
「丁度いいタイミングだ。
 アルフ、説明は後だ。今はアレを止めるぞ」

 俺の言葉にじっと俺を見つめるアルフ。
 俺はアルフから目を逸らさない。
 そして、静かに頷いた。

「ユーノ、アルフ、二人はあの竜巻をどうにかしてこれ以上好きに動かせるな」
「完全には無理だよ」
「問題ない。要は二人の邪魔をさせなければいい。
 俺はなのはとフェイトの邪魔をする雷を撃ち払う」

 俺の言葉にすぐに動きだす二人。
 その時

「士郎、あんたならあのジュエルシード一人でどうにか出来んじゃないの?」

 なんて事をアルフが聞いてきた。
 なかなかいい勘をしている。

「確かに出来るか、出来ないかという問いかけなら出来るだろうな。
 だが今回の舞台の主役は俺じゃない。
 脇役は脇役らしく、主役の二人の邪魔をするモノを阻めばいいさ。
 それにあの二人ならやれるだろうしな」

 これは俺の勘だが、ほぼ確信している。
 あの二人ならやり通せる。

 俺は二人を信じながら、新たな矢を持ち弓に番えた。




side なのは

 士郎君がアルフさんを助けてくれると言ってくれた。
 だから私はフェイトちゃんのところに向かって一直線に翔ける。
 だけどその時

「フェイトちゃん!!」

 フェイトちゃんに向かってアルフさんを拘束してるのと同じような雷が迫ってる。
 それに竜巻の周りにも雷がどんどん集まっていってる。
 このままじゃ。
 だけど次の瞬間、私の横を赤い閃光が駆け抜けていった。

「え?」

 赤い閃光はフェイトちゃんに迫る雷を砕いて、集まっている雷に向かって軌道を変える。
 そして、凄まじい爆発を起こして、雷を薙ぎ払っていた。

「……すごい」

 これをしたのが誰かなんてわかりきっている。
 そう、士郎君しかいない。
 圧倒的な威力。
 大丈夫。士郎君を信じて私は前に進むんだ。

「フェイトちゃん、手伝って!
 ジュエルシードを止めよう!」

 レイジングハートからフェイトちゃんのバルディッシュに向かって、光が伸びて、その光が吸い込まれる。

「Power charge」
「Supplying complete」

 バルディッシュの光の鎌が輝きを取り戻した。

「二人できっちり半分こ」

 驚いているフェイトちゃんにしっかりと頷いて見せる。
 ジュエルシードの方を向けば、ユーノ君とアルフさんが魔法で竜巻の動きを縛って、士郎君が私達に放たれる雷を弓矢で撃ち落としてくれてる。

「士郎君達とアルフさんが止めてくれてる。だから今のうち
 二人でせーの、で一気に封印!」
「Shooting mode.」

 士郎君達を信じて、なによりも来てくれるとフェイトちゃんを信じて、ジュエルシードに向かって真っすぐ飛ぶ。

 近づく私を阻もうとするいくつもの雷があるけどそれは次々と飛来する閃光によって薙ぎ払われる。
 すごい正確性。
 同じ事をしろと言われてもできる自信はない。

 それより正直色々気になる事があります。
 士郎君が握っているのはレイジングハートのようなデバイスじゃなくて弓。
 つまりは士郎君の腕前という事なんだけど弓ってあんな連射できるものだったかな?
 それに魔術師である士郎君の放つ矢が魔力を帯びているのはわかるけど……

「その矢が光にしか見えないってどうなんだろう」

 あまりの光景にそんな事を思ってしまいます。

 とにもかくにも、私は士郎君の矢に守られて十分に近づく事が出来た。

 魔法陣の上に降りて、フェイトちゃんの方を見る。
 するといつもの封印形態に変化するバルディッシュ。
 バルディッシュを見つめて、私を見つめてくるフェイトちゃんにウインクして見せる。

 私の事を信じてくれたのかは分からないけど高度を上げて、私のそばまで来るフェイトちゃん。

 うん。二人ならやれるよね。

「ディバインバスター、フルパワー……いけるね?」
「All right, my master.」

 私の声に力強く答えてくれるレイジングハート。
 私の渾身の魔力を込めていく。
 その隣でバルディッシュを振り上げるフェイトちゃん。

 その光景にこんな状況なのに笑みがこぼれてしまう。

「せーのっ!!」
「サンダー―――」
「ディバイン―――」

 ジュエルシードの竜巻に降り注ぐ、フェイトちゃんの雷
 レイジングハートに集束する魔力

「―――レイジ!!!」
「―――バスター!!!」

 さらに激しい雷と魔力砲がジュエルシードをしっかりと撃ち抜いた。

 そして、雲の切れ目から光が降り注いで、私とフェイトちゃんの間に浮かび上がる六つのジュエルシード。

 ジュエルシード越しにフェイトちゃんと向かい合う。

 その時ようやくわかった。

 なんでこんなにもフェイトちゃんのことが気になったのか。

 寂しそうな瞳が気になったのか。

 答えは簡単なことだった。

 そう、私は分け合いたいんだ。

 悲しい気持ちも、寂しい気持ちも一緒に分け合いたいんだ。

 私は

「友達になりたいんだ」



 この時、初めてフェイトちゃんに私の思いを伝えることができた。 
 

 
後書き
二週間お待たせしました。

なんとか更新出来た!

あともう一話いきます。 
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